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新著「日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―」こぼれ話 都道府県の農業秘話を大公開

山口 亮子

ライター:

新著「日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―」こぼれ話 都道府県の農業秘話を大公開

冬型の気圧配置といえば「西高東低」。農業はというと、東が盛んで西が低調な「東高西低」になっている。東京を擁する関東、その背後に控える東北、甲信越では農業が盛んだ。かたや西日本は、九州を例外として農業産出額が概して少ない。
こうした状況をまとめた、「日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―」(新潮新書)を今年1月に出版した。今回は、本書に載せきれなかったネタを大放出。山形県は知事が農業の素人だから、かえって農業が発展した? 輸出の都道府県ランキングを作れなかったのを筆者が悔やんでいたら、元官僚に作らなくてよかったと言われた怖い理由……などのこぼれ話を紹介していく。

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農業が強い関東、弱い関西

農家が手にする売上高を足し合わせた農業産出額は、地域ごとの生産動向を把握するのに便利な指標だ。最新の2022年について、都道府県の数字をランキングにしてみた。

順位 都道府県 農業産出額(億円) 順位 都道府県 農業産出額(億円)
1 北海道 12,919 25 広島県 1,289
2 鹿児島県 5,114 26 大分県 1,245
3 茨城県 4,409 27 愛媛県 1,232
4 千葉県 3,676 28 山梨県 1,164
5 熊本県 3,512 29 岐阜県 1,129
6 宮崎県 3,505 30 和歌山県 1,108
7 青森県 3,168 31 三重県 1,089
8 愛知県 3,114 32 高知県 1,073
9 栃木県 2,718 33 徳島県 931
10 長野県 2,708 34 沖縄県 890
11 岩手県 2,660 35 香川県 855
12 群馬県 2,473 36 鳥取県 745
13 山形県 2,394 37 京都府 699
14 新潟県 2,369 38 神奈川県 671
15 静岡県 2,132 39 山口県 665
16 福岡県 2,021 40 島根県 646
17 福島県 1,970 41 滋賀県 602
18 宮城県 1,737 42 富山県 568
19 秋田県 1,670 43 石川県 484
20 兵庫県 1,583 44 福井県 412
21 埼玉県 1,545 45 奈良県 390
22 岡山県 1,526 46 大阪府 307
23 長崎県 1,504 47 東京都 218
24 佐賀県 1,307

出典:農林水産省「生産農業所得統計 」

九州を例外として、上位では基本的に東日本、下位では西日本が分布している。なぜなのか。かいつまんでいうと、一大消費地である首都圏を擁する東日本の方が、園芸や畜産といった儲かる農業を発展させてきた。それに対して西日本は、九州をはじめ例外はあるものの、儲かりにくいコメの割合が高くなりがちだ。詳しくは、拙著をご覧いただきたい。

山形は知事が農業の素人だから農業が発展した?

書籍の取材を始めるまでは、都道府県の農政において最も重視される指標は、農業産出額だとばかり思っていた。ところが、取材するにつれ、多くの県はそうなっていないと気付く。

そもそも、農水省からして農業産出額を将来的にどのくらいにするか、示していない。農業産出額に限らず、業績の管理や評価をするために重要な指標となる「KPI(重要業績評価指標)」を示さず、実施した政策の効果を検証してこなかった。2014年以降は一部でKPIを示すようになったものの、わずかであり、達成できなくても反省しないという態度である。

国からしてこうなのに、産出額の目標を定め、実際に農業を成長させた県がある。山形県だ。その知事である吉村美栄子(よしむら・みえこ)さんといえば、2014年に特産品であるサクランボの被り物を頭に被って話題になり、知名度が一躍全国区になった人物だ。もともと農業に関しては明るくなかったようだが、その農政は決してパフォーマンス倒れのものではない。

2009年の知事就任を機に、減少傾向にある産出額を増やすと掲げ、販売力の強化と生産力の向上に注力してきた。就任から10年間で、農業産出額は2022億円から2480億円に増えた。全国で17位だったその順位は、12位まで高まった。農業が生んだ付加価値を示す「生産農業所得」は、604億円から1080億円まで8割近く伸びている。山形県によると、いずれも東北で1番の伸びとなっている。

2009~2018年の農業産出額や生産農業所得などの変遷(出典:山形県農林水産業活性化推進本部「第4次農林水産業元気創造戦略 令和3年3月」)

「つや姫」や「雪若丸」というブランド米の成功に加え、畜産や園芸が産出額を伸ばしてきた。事情通の関係者はこう話す。

「農政に対して素人の知事がいるということは、県職員にとっては怖いこと。知事から『これ、やれるでしょ?』と素朴な質問をされると、職員も『やらなきゃいけないな』という話になる」

少なくない県が、農水省の示す方針に追随する下請け的な存在になっている。「県の農政はそういうもの」という前提を持たない知事の登場で、山形は農業の成長株になったようだ。

輸出の都道府県ランキングを作れなくてよかった怖い理由

書籍の執筆に当たって、農業のさまざまなランキングを漁ってきた。目当ての統計が見当たらず、データベースから該当する結果を抽出して集計し、苦労して作ったのにボツにしたものもある。

農業の将来を見通す参考に作れないかと思ったのが、輸出額のランキングだ。国は農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、30年に5兆円にすると掲げている。輸出を拡大すれば、農家の所得向上につながるという触れ込みだ。

それならば、都道府県別の輸出額を集計して実態の把握に努めているのではないか。こう期待して農水省に問い合わせたところ、あっさり把握していないと言われてしまった。都道府県の一部は自主的に輸出額を公表しているものの、少数にとどまる。ランキングを作るのは結局、諦めた。

そのことを後日、元農水官僚に話したところ、苦笑しながらこう言われた。
「県ごとのランキングを載せると、自県は輸出額が低いからアンテナショップを海外に作ろうとか、商売として意味のないことをする県ばかり出てくる」

輸出が振るわないから海外にアンテナショップを出す。どう考えても費用対効果が釣り合わず、指摘されるまでそんな発想があろうとは思いもかけなかった。
考えてみれば、県で農産物の輸出をするとなると、なぜか知事がしゃしゃり出てきて、自ら産品を売り込む「トップセールス」をしがちだ。県名を書いた法被(はっぴ)を着て、のぼり旗を立てて、農産物や日本酒といった加工品を振る舞う写真や映像をよく見かける。

そんな一過性のイベントで輸出額を伸ばせるとは、当の県庁も考えていないだろう。とりあえず「やった感」を出すのが大切なのだ。それでいくと、輸出額が少ないからアンテナショップを出すという判断は、県庁にとって至極穏当な選択肢になるのかもしれない。

ランキングを作れなかったことは残念ではあったが、結果的に良かった……のかもしれない。

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