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不耕起栽培とは? メリット・デメリット、やり方を解説

不耕起栽培とは? メリット・デメリット、やり方を解説

「耕さない」という全く新しい農法「不耕起栽培」が近年注目を集めています。欧米や南米などを中心に世界的な広がりを見せているこの農法。日本でもたびたびメディアに取り上げられるなど、言葉を目にする機会は増えてきましたが、農法としてはほとんど普及しておらず、詳しい内容や具体的な実践方法については知らないという方も多いのではないでしょうか。この記事では、そんな不耕起栽培の概要と実際の栽培の流れについて解説していきます。最後まで読んでいただければ、不耕起栽培をご自身ですぐにでも始められるようになりますので、ぜひ参考にしてみてください。

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不耕起栽培とはどのような農法?

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不耕起栽培とは、文字どおり「田畑を耕さずに作物を栽培する農法」のことです。
20世紀のアメリカでは長い間大型機械によって農地が耕されてきましたが、そうやって繰り返し耕されることにより、健康な土壌に必要な土壌構造や保水性が失われ、砂漠のような土地になっていました。それを化学肥料と農薬に依存することでなんとか栽培していましたが、特にハリケーン地帯では農地の土壌侵食がいよいよ深刻化して農家を悩ませていました。そんな状況の中で解決法として登場したのが不耕起栽培でした。

これまで当たり前とされてきた「耕すこと」が実は畑の生態系を破壊し、その土地が本来持っている生産力を損ねることが研究でわかってきたのです。

また、これまでの耕す農業は地球温暖化の大きな要因とされてきましたが、不耕起栽培は大気中のCO2を減らし、地中に炭素を貯蔵できる農法であるという研究も発表され、期待が高まりました。

農家にとっては従来の農法から180度の大転換を求められることになりましたが、不耕起栽培による経済的なメリットが大きいことから現在では南北アメリカ、アフリカ、欧州と世界各地で拡大しています。

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不耕起栽培の三大原則

ここまで不耕起栽培とはどのようなものかを説明してきましたが、実際の農地で成功させるためには耕さないだけではうまくいきません。これを実践するためにはいくつかの大事な原則があります。

耕さない農業を成功させる秘訣(ひけつ)は、土壌生態系を豊かにすることにあり、そのために三つの原則があります。

  • 土をかき乱さない
  • 土を覆う(マルチングする)
  • 混植する(多様性を高める)

土をかき乱さない

第一の原則は、かく乱を最小限に抑えるというものです。耕さないとはいっても除草や種まき、苗植えなど、どうしても土に手を加える必要がある場合も。その際に気をつけたいのが、なるべく土壌へのダメージを最小限にしたいということです。苗を植える時には小さく穴を掘る、種まきの際には表面だけを刈り払いする、などの工夫をします。

土を覆う(マルチングする)

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第二の原則は畑を裸地にしないということです。刈り取った草や落ち葉など、有機物を畑に積んでおくか、あるいはカバークロップ(被覆作物)と呼ばれる地面を覆う植物を常に生やしておくことが重要です。土をむき出しにすると日射や風雨で土壌構造が破壊され、保水力や保養力が著しく低下します。逆にバイオマスを与えることで有機物が土壌生物・微生物のエサとなり豊かな土壌が育まれます。

混植する(多様性を高める)

第二の原則は混植です。一つの作物だけを植えるのではなく、複数の作物や雑草を一緒に生やすことで生物多様性が増して生態系が安定するといわれています。多様性は作物の病害虫への抵抗力を高め、農業をするうえで経済的な安定にもつながるというメリットがあります。また年間を通して作物を栽培し続けると自然と第二の原則も達成することができます。

不耕起栽培と自然農法の違いとは?

耕さない農法といえば自然農法ですが、不耕起栽培と何が違うのでしょうか。
実はあまり知られていませんが、不耕起栽培は自然農法の逆輸入であるといわれています。つまり、日本で生まれた自然農法がアメリカに渡り、自然農法から不耕起栽培が生まれて日本に戻ってきたということです。

自然農法の生みの親である福岡正信(ふくおか・まさのぶ)氏は、1947年に自然農法を始めましたが、その思想の中心には現代文明そのものに対する批判がありました。自然破壊の根本原因を、科学を絶対のものとして信じる科学信奉や、人間の知恵(人為)というものを絶対視する西洋哲学の中に見いだし、自然から乖離(かいり)してしまった人間の営みを再び自然農法を通して自然へとかえす必要があると、彼は説きました。

20世紀のアメリカは化学肥料や農薬による汚染、過度な森林伐採などあらゆる環境問題が表出していた時代です。福岡氏の痛烈な批判は、そういった大きな問題を解決する思想として一部の研究者や知識人に多大な影響を与えたといわれています。また、1970年代から80年代にかけて福岡氏はアフリカやインドで砂漠の緑化や農地の再生に成功しており、自然農法は世界的な認知を得ていました。

こうした背景の中で、自然農法という思想から実際的な方法論として抽出され、科学研究の現場から生まれてきたのが不耕起栽培でした。

このため、不耕起栽培は自然農法ほど厳しく資源の投入を制限したり畝を作ることを禁じたりするわけではありません。あくまでも、土壌劣化の一番の要因であった「耕起」を制限することを目指すもので、そういう意味で不耕起栽培は自然農法の一種といえます。

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不耕起栽培における雑草対策

不耕起栽培では雑草の対策が必要になります。アメリカの大規模農場では除草剤をまいている地域もありますが、これではせっかく育った土の中の根を全て枯らしてしまうというデメリットがあります。植物の根は菌類と共生関係を結んでいて、土壌の健康には欠かせない存在なので、できるだけ生きた根を土の中に残しておくことが重要です。

では、除草剤を使わずにどのように雑草を防除するのか。最も効果的な方法は草を積むことです。

雑草が生えてきたらそれを刈り取って(上述したように根はあえて抜かずに残す)そのまま地面にかぶせておいたり、落ち葉や刈り取ってきた草を草マルチとして畝にたっぷりのせたりします。そうすると地表まで届く光が遮断されるので雑草がはびこることを防げます。また不耕起栽培の第二原則にもあったように草マルチは土壌を守る役割も果たすことができるので、一石二鳥の方法です。

ただし夏場で雑草の勢いが強いときや、苗がまだ小さく雑草に負けそうな場合には、こまめに手で作物周辺の除草を行う必要があります。

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不耕起栽培のメリット

不耕起栽培にはいくつかメリットがあります。

劣化した土壌を再生できる

最も大きなメリットは劣化した土壌を再生できることであり、冒頭でも書きましたがこれこそ不耕起栽培が広まった理由です。畑を耕す→土が劣化する→肥料・農薬を入れる→保養力・保水力が失われる→土が固く締まる→耕すという負のスパイラルから抜け出し、逆に砂漠のような土壌を、団粒構造がしっかり形成されたふかふかの土へと再生することができるのが不耕起栽培の最大のメリットです。

経済効率性が良い

耕す農法は基本的にトラクターなど大型の機械の使用を前提としています。そのため機械の維持費や燃料代がかかります。ですが不耕起栽培の場合そういった大型の機械を導入する必要がないので、大幅なコストカットになります。また、肥料や農薬の使用を抑えることができるので、その分のコストも減らすことができます。
もちろん草を刈る、のせるといった労力は発生しますが、上記のコストと比較すると経済効率性が良いといわれています。

浸水性・保水性が向上する

耕している通常の畑の場合、雨の後は土がむき出しのところがぬかるんだり、水がたまったりすることがあります。ですが不耕起栽培の畑では浸水性が良くなり、また通路は雑草を生やしておくので雨の後でも基本的に作業ができないということがありません。
もちろん地形や土質によっては水はけが悪い農地もありますので、その場合は排水できる溝をきるなど工夫が必要になります。

乾燥がひどい夏場でも草マルチをしてある畝は保水性が高く、雨水のみでの栽培が可能な場合も。また、散水の頻度を格段に落とすことができます。

誰でも始めやすい

不耕起栽培では基本的に大型の機械の使用は避けます。大型の機械で土壌を圧着することによって土壌構造が壊れてしまうのを避けるためですが、結果としてそのおかげで誰でも始めやすいというメリットがあります。

大型機械の運転がある、あるいは耕す体力が必要という理由から、これまで農業の現場では男性中心的な考え方が浸透してきました。しかし、不耕起栽培であれば女性や子供、高齢の方、またグローバルサウスなどの経済的な制約がある地域でも、誰でも取り組むことができます。これが世界的に広がっている理由の一つでもあります。

炭素貯蔵量を増やせる

これまでの研究で農業が地球温暖化の大きな要因であることが分かってきました。それは農地を作るために森林が伐採されているからという理由と、もう一つ「耕すこと」が土壌中や地表のバイオマスを極端に減少させ、大気中にCO2を放出しているからという理由があります。

その点、不耕起栽培をしている農地ではバイオマスが増加し、大気のCO2を有機物へと変換して炭素を貯蔵できるというメリットがあります。

不耕起栽培のデメリット

たくさんのメリットがある不耕起栽培ですが、一方でいくつかデメリットもあります。

作物が取れ始めるまで時間がかかる

ひどく劣化している土壌の場合、いきなり不耕起栽培に転換すると収穫量が格段に下がる可能性があります。劣化した土壌中には有機物が極端に少なく、また養分を作り出す土壌生物がほとんど生息していないからです。そのため、不耕起栽培を始める際にあまりに劣化がひどい場合は、大量の植物残さを米ぬかなどと一緒に一度すき込んであげるなどの対策が必要になります。

雑草対策への労力がかかる

アメリカ式の大規模農場を除き不耕起栽培では基本的に除草剤を使用しないので、手作業で刈り取らなければいけません。例えば地下茎で繁殖する雑草などがはびこることがありますが、その場合も手作業で取り除いたり、刈り取ったりする必要が出てきます。また上述しましたが、作物によっては苗が小さい時には負けないようこまめに除草をする手間がかかります。

経営の転換が必要

不耕起栽培の原則として単作ではなく複数の作物を混植すること、そうでなくとも時期をずらしながら常に畑に複数のカバークロップを生やしておくことが挙げられています。これを実現するには単作で栽培してきたこれまでの経営方法とは異なった考え方をしていく必要があり、不耕起栽培への転換のハードルになる可能性があります。

日本で不耕起栽培されている作物

日本でもこれまでさまざまな形で不耕起栽培が実践されてきました。何十年も自然農法の一部として不耕起を実践されている方もいれば、不耕起栽培をここ数年で開始したという農園まで、さまざまな実践がなされています。

コメ(水稲)

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稲の不耕起栽培は、福岡氏から影響を受けたという岩澤信夫(いわさわ・のぶお)氏が第一人者といわれています。彼が提唱するのが不耕起移植栽培。耕さないこと、苗を移植することの二つを掛け合わせた栽培方法です。

ある年、冷害でほとんどの稲の生育が悪い中、なぜか田んぼの隅で苗づくりをしたまま放置されていた稲だけが元気に育ったことがあったといいます。唯一考えられる理由がその場所だけ「耕していない」だったことから不耕起栽培の研究が始まりました。

不耕起の田んぼを実践するための具体的な方法として、水苗代があります。通常より育苗期間を長く取り(そのために早い段階で水田か屋外の水苗代で育苗をして)、成苗になってから田植えをするということが重要です。育苗の途中で発生するさまざまな病気は水が媒介することによって抑えられ、丈夫な苗が育ちます。さらに冬季も水をはることで、多様な動植物のすみかになり生態系を安定させることができるといわれています。冬季湛水によりトロトロ藻と呼ばれる藻が1年を通して田んぼに発生するようになり、これが除草効果をもたらすことが分かっています。

野菜や穀物(畑作)

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畑作での不耕起栽培によって作業時間やコストが減少したという事例は数多くあります。
例えばジャガイモの不耕起栽培では、地面に直接ジャガイモを置いて、そこに草をかぶせるように積むだけで栽培が可能なので、耕運機を使う必要もなく、また掘り上げる際にも草をどけるだけで比較的簡単に栽培ができます。

麦やトウモロコシなどの穀類も不耕起栽培を実践しやすく、種まきのタイミングで一度表層の刈り払いだけをしておけば、種をまいた後はほとんど除草に入る必要もなく栽培が可能なので省力化できます。その他には大豆やインゲンなどの豆類、ネギ、カボチャなどのウリ類、小松菜などの葉物、ニンジンや大根などの根菜、トマトなどの果菜類など、あらゆる野菜で不耕起栽培の事例があります。できない野菜は無いといえるほどさまざまな品目を栽培することができます。

不耕起栽培の基本的な始め方

不耕起栽培の始め方はとてもシンプルですが、そのステップをいくつか解説していきます。

土作り

まず土の状態を確認します。カラスノエンドウ、ハコベ、オオイヌフグリなどの雑草が生えていれば早速栽培を始めて問題無い場合が多いです。一方、スギナなどイネ科の雑草が生えている場合は養分不足の可能性があります。

土を掘って確認することも可能で、表面から10cm付近までふかふかの土(団粒構造と呼ばれる粒状の土の状態)が見られれば土の状態はかなり良いです。逆にさらさらとした砂状の土や硬い粘土状の土がすぐに出てくる場合は改善する必要があります。

養分が不足している場合は、例えば天地返し(土の浅いところと深いところを混ぜるために耕すこと)をすると、浅い土に住む好気性細菌と深い土に住む嫌気性細菌が混ざり合い微生物活動が活性化するといわれています。

その際に生えている雑草をその場で刈り倒し、落ち葉や油かすなどの有機物が入手できれば畑に入れて耕すと、それらが微生物のエサになり発酵が進みます。特に米ぬかが良いとされています。

この過程は「土ごと発酵」と呼ばれています。

畝立て

土の状態がある程度改善されれば、次は畝を立てます。この畝は一度立てたらその後数年にわたり使い続けるので、不耕起栽培においてはとても重要な作業になります。

畝の幅と通路の幅は、そこに植えたい作物に合わせて調整して大丈夫ですが、畝の幅が狭くなりすぎて野菜が植えられない、あるいは広くなりすぎて真ん中まで手が届かない、といったことにならないようにしましょう。

種まき・定植

最後に種まき・定植をしていきます。不耕起栽培の原則に従い、なるべく土をかき乱さないようにしながら、種まきの場合は表層の刈り払いだけをする、定植の場合は苗を埋める穴だけを開けるようにします。

また、種まきの後は地面がむき出しになるのを避けるために好光性種子の場合は薄く、嫌光性種子の場合は厚く草を積んでおくとなお良いです。

まとめ

本記事では不耕起栽培について解説してきました。

日本では不耕起栽培の農地は全体の0.01%にも満たないといわれています。普段から見聞きしない分すぐには飲み込めないという方も多かったかもしれませんが、中身はいたってシンプルです。土をかき乱さない、常に草で覆う、そしていくつもの種類の植物を生やしておく、この三原則を守るだけで済みます。

記事の中でいくつか具体的な作物の例を紹介しました。少しでも興味を持っていただけた方はぜひ、不耕起栽培にトライしていただけるとうれしいです。

参考文献

不耕起でよみがえる(岩澤信夫著|創森社) 
土の中の文明史(デイビッド・モンゴメリー著、片岡夏実訳|築地書館)

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