新人賞受賞の翌年、方針転換へ。コストを抑え展開する
熊本県球磨郡あさぎり町の片瀬農園は、片瀬さん、先代である父親、妻の真由美(まゆみ)さん、そして息子夫妻と1名の従業員による家族経営を中心とした農園だ。380アールの葉たばこと250アールの薬用植物「ミシマサイコ」を主軸に、コメやWCS(稲発酵粗飼料)を生産している。
平成11年、当時31歳だった片瀬さんは、いぐさとメロンを生産していた両親から農園を引き継ぐ形で就農。確かな経営手腕が評価され、同年に熊本県の農業コンクール新人王部門にて優賞を受賞した。
しかしその翌年には、いぐさ生産をやめ、全く別の「葉たばこ」を生産するという思い切った道を選んだ。
いぐさの需要低迷を考えての決断だったが、葉たばこの栽培方法の知識はほとんどなく、先輩生産者である農家に聞き込みに奔走したという。
初期費用も当然ながらかかってくる。
いぐさと葉たばこは全く別の生産方法であり、いぐさ生産から併用して使用できる設備は倉庫とトラクターぐらいしかなく、ほとんど全ての資材を新たに購入しなければならなかった。
そこで片瀬さんは、費用をなるべく抑えるために、必要な設備や農機具はインターネットのフリマサイトなどを駆使し、中古で購入した。
自らトラックを運転して島根県や埼玉県まで購入した機材を取りに行ったり、ビニールハウスを自ら組み立てたりして輸送費や工賃を抑えるなど、なるべく自分たちで行うよう工夫したという。
今でもその精神は基盤にあり、トラクターなどの整備もできる範囲で行っている。
行政やJAなどから情報を得て、助成金や補助制度を活用することも忘れない。
手間暇を惜しまず、自らの足を動かすことによってコストを抑え比較的短期間で資金を回収できるよう計らった。
契約栽培で収益を安定、試験的な栽培も行う
片瀬農園で生産する作物は、葉たばこや薬用植物、コメに至るまでほとんどが契約栽培だ。
JTや大手製薬会社と契約することで浮き沈みの少ない安定した収益を確立している。
その一方で、品質向上にも抜かりない。
片瀬農園では、ワラを主な原料に米ぬかや野草をブレンドし5年間熟成させたこだわりの野草堆肥(たいひ)を使用し、減化学肥料栽培にも取り組んでいる。
やはり何においても土作りは基本であり、土台をしっかりと整えておくことが大切だと片瀬さんは話してくれた。
こだわりの土作りは少々手間がかかるが、近隣の農家と提携しワラを譲り受けたり、大量に作ることでコストを抑えたりと出来る範囲のコスト削減を行う。
より価値が高いとされるミシマサイコの“原種”の栽培も数年にわたり試験的な栽培を行い、新たな経営の柱としての確立も目指している。
今後は生産量を増やすことを目標に、それに伴い必要となる人材確保のための法人化も視野に入れているそうだ。
農家を中心とした地域貢献
契約栽培にする事によって得られている恩恵は収益だけではないと片瀬さんは語ってくれた。
同じものを生産している農家同士といえば、少なからずライバル意識があり、技術などについて意見を交わすことはないという人も珍しくない。
しかし葉たばこ農家同士は、契約栽培が多いため結束が固く、仲間意識があるため、自主的に勉強会を開き、技術の向上などについても積極的に意見交換をしているのだという。
また、片瀬さんは現在、後継者育成にも力を注いでいる。
熊本県指導農業士としての認定も受けており、新規就農を目指す研修生や農業高校、農業大学の生徒らの受け入れも行っている。
集落営農生産組合の組合長も務め、経営するライスセンターは現在、40戸以上の農家から業務を受託している。
地域貢献のために片瀬さん自ら企画・開催している農業イベントもある。
地域のためになるならと、直近では自らの農園のコメの食べ放題などを企画した。
イベントは口コミなどで広がり、当日はなんと2000人以上の人が集まったという。
イベント開催後は、小学生の参加者から「ぼくも農家になりたい」と声が上がったこともあったという。農家が主催になることで、農家の特色を生かしたイベント運営になったと感じたという。
「地域が盛り上がるだけでなく未来への投資にもつながる。そういった活動に対してお金を使っていきたい」と片瀬さんは話してくれた。
徹底したコスト削減の一方で、使うべきところでしっかりと投資を行う。
そのバランス管理が成功の秘訣(ひけつ)なのかもしれないと筆者は感じた。