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ブドウの木の剪定方法を農家が解説! 必要な道具や効果的なやり方を解説

鮫島 理央

ライター:

ブドウの木の剪定方法を農家が解説! 必要な道具や効果的なやり方を解説

老若男女問わず人気のフルーツであるブドウ。産地に行くと、大きな畑にブドウの木が延々と連なっていたり、ブドウの棚が広がっていたりと、個人で育てるのはなかなか難しいイメージが多いようです。ですが実は、ブドウは家庭菜園でも育てることができるんです。本記事では、ブドウ栽培における剪定(せんてい)に重点を置いて解説します。ブドウの剪定は、枝を切る位置や、残す枝の判断など、知識や経験がないと難しいと感じることもしばしば。なるべくわかりやすいように解説しますので、ぜひ本記事を参考にしてください。

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ブドウの剪定が必要な理由は?

ブドウの剪定が必要な理由は主に二つあります。
一つ目は、実のつきを良くするためです。剪定によって不要な枝を取り除くことで、全体に日が当たりやすくなり、育てたい枝に栄養を集中させることができます。こうすることで、実のつきが良く、おいしいブドウを収穫することが可能になります。

二つ目は、病害虫からの被害を防ぐためです。剪定によって風通しが良くなり、湿気がこもりにくくなるため、カビなどの病気や害虫からブドウを守ることができます。

ブドウの剪定時期

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ブドウの剪定を成功させるためには、タイミングが鍵を握ります。特に11月から1月の期間は、ブドウの剪定に最適な時期とされています。では、なぜこの時期が剪定に適しているのでしょうか?

ブドウは、11月から1月にかけて休眠期に入ります。この時期、樹液の流れが少なくなるため、剪定による樹液の流出を最小限に抑えることができます。樹液の過度な流出は、ブドウの木にとって大きなダメージです。ブドウの健康を守るためにも、冬の時期に剪定することが大切です。

他にも、冬になると葉が落ち、枝だけが残るので、ブドウの木の構造を確認しやすくなります。これにより、どの枝を残し、どの枝を切り取るべきかを正確に判断することができます。

冬の剪定は病気や害虫が隠れる枯れ枝や病気の枝を取り除く絶好の機会です。春に活動が活発になる病害虫のリスクを事前に減らすことができるのです。

雪が降る地域の場合

Vine grapes covered snow in garden. cloudy day

降雪地帯でのブドウ栽培では、冬の厳しい天候に備えて、降雪前にブドウの棚卸し(整理)を行うことが重要です。11月ごろの降雪前に行いましょう。

棚に誘引してあるブドウを切り離し、余計な枝を落としておきます。こうすることで、雪が降ったときに棚の上に積もらなくなるので、重みで棚が潰れてしまうのを防ぐことができます。

また、鉢植えやフェンス、支柱に誘引している場合も、同じように一旦外して枝の整理を行いましょう。

夏場 間引き剪定

The gardener prunes the grape leaves for faster ripening.

初夏に行う間引き剪定は、混み合いすぎた枝や葉っぱを整理するために行います。
枝が混んでしまうと、空気の通りが悪くなったり、日当たりが偏ってしまったりして、病害虫が発生しやすくなってしまいます。バランスを見ながら、伸びすぎた枝などを落としましょう。

ただし、冬以外に剪定を行うと、ブドウの木に与えるダメージが大きくなってしまいます。冬場にしっかり剪定を行い、間引き剪定は極力しないようにしましょう。

ブドウの剪定に必要なもの

Man prunes vines with secateurs..

ブドウの剪定に必要なものは次の通りです。

◯剪定バサミ(小さな枝に使用)
◯軍手
◯癒合剤(切り口の消毒と治癒の促進のために使用)

以下は、必要があれば後々購入しましょう。

◯刈り込みバサミ(高い位置の枝や固い枝に使用)
◯脚立(高い位置の剪定に使用)

剪定バサミ

枝を切るときは、ノコギリではなく剪定バサミを使います。
できるだけ切り口が奇麗になるように、切れ味の良いものを選びましょう。

太い枝や高い位置にある枝を切るときは、刈り込みばさみを使います。
シンプルな構造のもの、電動のものなど、さまざまなものがあります。

癒合剤

枝の切り口には、癒合剤を塗布しましょう。
癒合剤を塗ることで、雨水や雑菌の侵入を防ぎ、病気の感染予防になります。
農家の間では、トップジンMがよく使われています。

ブドウの剪定のコツ

ブドウの剪定をする際、気をつけたい点やコツをまとめました。
それぞれ詳しく解説していきます。

犠牲芽剪定とは?

ブドウの剪定には「短梢剪定」と「長梢剪定」の二つの主要な方法があり、「犠牲芽剪定」という技術も重要です。
犠牲芽剪定は、特定の芽を残して他の芽を切り落とす方法で、育てたい枝を短く切り詰める際、残したい芽の次の芽の位置で切ります。これにより、不要な芽を「犠牲にする」ことで、残した芽がより良い条件で成長するようにします。

切り口の保護をしよう

ブドウの木を剪定後、切り口を放置せずに癒合剤を塗布することが大切です。癒合剤は樹木の傷口を保護し、傷口の治りも早めてくれる、キズぐすりのようなものです。
癒合剤を塗布せずに放置すると病気や木が枯れる原因になることもあります。癒合剤を塗ると、切り口にカルスと呼ばれる保護組織を形成し、ダメージを軽減してくれます。

塗る際には切り口にたっぷりと塗り、しっかりとふたをするようにします。さまざまな癒合剤がありますが、トップジンMが入手しやすく、使いやすさも簡単でオススメです。適切な処置でブドウの木を健康に保ちましょう。

鉢植えと地植えの違い

ブドウは、鉢植えと地植えで仕立て方や剪定方法が異なります。
また、鉢植えの中でもさらに仕立て方が異なってきます。栽培スペースの広さや、ブドウを観賞用として楽しみたいのか、食用として楽しみたいのかによっても、やり方が異なりますので、植える前にどう育てたいのかをしっかり決めておきましょう。

ブドウ剪定の仕方

ブドウ剪定の仕方を、鉢植えの場合と、地植えの場合でそれぞれ解説していきます。
本記事では1年生苗を定植することを前提に解説しますので、ご注意ください。

鉢植えの場合

1年目

樹液が枝先に集まる前の、1月中に剪定を行います。
植え付け後、充実した枝を残し、貧弱な枝は切除します。地面から約30cmで一度枝を切り戻しましょう。残す枝の基部にある4芽くらいのところで剪定を行い、充実した芽から新梢が伸び、結実するようにします。

2年目

鉢植えのブドウの2年目に行う剪定は、樹形を整え、将来的に良質な果実を多く収穫するための基盤を作る重要な作業です。2年目の剪定では、ブドウの樹形を決定します。あんどん仕立てや平面仕立てなど、将来的にどのような形に育てたいかによって剪定方法が異なります。
あんどん仕立てでは1本の主枝を伸ばし、平面仕立てでは、幹から分岐した2本の主枝を残します。どちらのやり方で育てるか、事前に決めておきましょう。

あんどん仕立て

アサガオなどでよく使われるリング支柱を活用し、1年目は苗に沿わせるように1本の支柱を立て、つるを伸ばします。比較的コンパクトに育てることができ、鉢植え栽培に適しています。
あんどん仕立てをする際の手順は次の通りです。

1年目の春

幹に沿わせた支柱につるを誘引し、主枝を伸ばします。
主枝周りの細い枝はかき取り、伸びた主枝を上方向に誘引していきます。

1年目の冬

落葉後、鉢の3倍ほどの高さになるようあんどんの骨組みのような形に支柱を立てます。
支柱の中に幹を入れ、一番上のリングにつるで輪っかを作って2巻させます。
樹形がしっかり整うように麻ひもで誘引し、余ったつるは切り戻します。

2年目の春

新梢が出たら、元気なものを残して剪定します。
4月上旬に追肥します。

平面仕立て(垣根仕立て)

ブドウの栽培方法の一つで、支柱とワイヤーを使用して平面的な構造を作り、ブドウのつるを誘引していく方法です。この方法は、均等に日光が当たり、管理がしやすいため、家庭でのブドウ栽培に適しています。特に、フェンスの近くで育てる場合は、追加で支柱を立てる必要がなく、効率的に栽培できます。
平面仕立て(垣根仕立て)をする際の手順は次の通りです。

支柱を準備する

鉢の深さに合わせて、約1.5mの高さの支柱を2本用意します。

支柱を設置する

鉢の両端、縁ぎりぎりに支柱を挿します。

フェンスに取り付ける

庭のフェンスや、園芸用のフェンスのそばに鉢を置き、枝を誘引しましょう。誘引する際は、麻ひもなど柔らかい素材のものを使います。

地植えの場合

1年目

1年目の剪定は、ブドウの苗を植えてから最初の冬に行います。この時期の剪定の目的は、強健な主枝を育てることにあります。

剪定時期

1月頃が適切です。

方法

一番大きい枝(主枝)だけを残し、余分な枝を剪定します。これにより、育てたい枝に栄養を集中させることができます。
枝が1本の棒のようになるまで剪定し、木が強くなり、春の生長に向けて栄養を届けやすくします。主枝がまっすぐ伸びるように支柱で支えます。

2年目

2年目の剪定は、ブドウがより多くの実をつけるようにするための重要なステップです。
また、垣根仕立てにするか棚仕立てにするかによって、剪定方法が変わります。

剪定時期

1月頃が適切です。

方法

春から夏の生長期に、主枝と反対方向に伸びた枝を第二主枝として伸ばします。
1月の剪定時期には、この第二主枝周辺の枝を取り除きますが、主枝は必ず残してください。1年目同様、春の生長に向けて準備します。

垣根仕立て

地植えでも垣根仕立てで栽培することができます。
基本的な考え方は鉢植えと変わりませんが、次のような手順で行いましょう。

1年目の冬

支柱とワイヤーを使って垣根を作る。一番長い主枝を誘引し、他の枝は切り戻す。

2年目の夏

左右に1本ずつ主枝を誘引する。主枝から伸びた副枝を上に向かうように誘引する。

2年目の冬

真ん中に伸びた主枝2本を残し、他の枝を切り戻す。残した主枝は誘引する。

3年目の冬

2年目と同じように、中央の主枝2本を残して、他の枝を切り戻す。残した枝を誘引していく。

棚仕立て

ブドウの棚仕立ては、広いスペースと、棚のような形で支える大きな支柱が必要です。この方法では、ブドウの枝が屋根のように上に広がるように仕立てていきます。

1年目の夏

最も健康で元気な主枝を選び、それを真っ直ぐ上に向かって伸ばしていきます。棚の下50cm付近までの枝は、棚へと誘引します。それ以外の枝は下方に曲げて、10節目で切り戻します。

1年目の冬

棚に誘引した主枝を除く全ての枝を切り戻します。主枝の先端は約5分の1の長さで剪定します。

2年目の冬

主枝の反対方向に伸びる枝を、第2の主枝として選び、伸ばして誘引します。分岐した枝のうち、1m以内の部分は切り取ります。主枝と第2主枝から伸びる枝葉は、30〜50cmの間隔で間引き、左右に誘引していきます。

3年目以降の剪定

3年目以降のブドウ剪定は、実つきを良くするために重要な作業です。
この時期の剪定方法は品種によって異なり、主に短梢剪定と長梢剪定の2種類があります。初心者や鉢植えでの栽培には、比較的簡単な短梢剪定がオススメです。
しかし、品種によっては短梢剪定、長梢剪定のどちらかが向いていない場合があるため、ブドウの品種や植え付け方法に合わせて適切な剪定方法を選ぶ必要があります。

短梢剪定

短梢剪定とは、全ての枝から2〜3芽程度を残す剪定方法です。枝の判別が不要で、初心者向けとされています。

メリットは、初心者でも実施しやすく、枝の選定に迷うことが少ないことです。
デメリットは、品種が限られる場合があり、花や実の形が悪くなりやすいことです。また、実のつきが悪くなる可能性もあり、収穫までに時間がかかることがあります。

短梢剪定向きの品種は、シャインマスカットやマスカットベリーA、デラウェア、ナガノパープルなど。比較的成長が緩やかな品種が向いているといわれています。
もっとも向き不向きの話であって、巨峰などの品種でも不可能ではありません。

短梢剪定の方法

昨年育った枝の中から、芽の数が多いものを選び、細い枝や芽の少ない枝は根元から剪定します。
残した枝は、付け根から2〜3芽を残して、希望する次の芽の上で切り戻し(犠牲芽剪定をする)、切り口には癒合剤を塗ります。その後、枝の先端を支柱や柵に固定して樹形を整えます。

長梢剪定

長梢剪定とは、全ての枝から5〜10芽程度を残す剪定方法です。樹勢が落ち着いているため、実のつきが良く、見た目も美しいブドウを育てることができます。

メリットは品種に制限がなく、花や実の形が奇麗になりやすく、実のつきが良いことです。
デメリットは実のなりやすい枝を判別する必要があり、初心者には難しい場合があります。

長梢剪定向きの品種は、巨峰やピオーネなど。成長速度が早く、樹勢が強い品種が向いているといわれています。

長梢剪定の方法

まず、昨年育った枝の中から、勢いが良く、太さが直径10~20㎜ほどある枝を2~3本選んで残します。残した枝以外の枝は、根元から切り落としましょう。

次に、残した枝の付け根から、5~10芽程度を残して、その次の芽(それぞれ6~11個目の芽)で剪定します。切り口には癒合剤を塗っておきましょう。

剪定後の誘引

誘引は剪定と並んで、ブドウを育てる上で非常に重要な作業です。誘引を行う主な目的は、樹形を希望の形に整え、株への負担を軽減し、果実の重量や風圧で苗が倒れないようにすることです。また、枝や芽、果実に日光が均等に当たるようにし、花や果実が付きやすくする効果もあります。

誘引作業は、剪定を終えてから1~2カ月後が適しています。剪定後すぐに誘引作業を行うと、乾燥した枝やつるが折れてしまうリスクがあります。しかし、芽が出る前の時期に誘引しておかないと、樹形を整える目的が達成できません。そのため、剪定した1~2カ月後、つまり剪定後でかつ春を迎える前が誘引に適した時期です。

垣根仕立ての場合は、立てた支柱やフェンスに、枝をねじるようにして巻きつけて誘引します。
あんどん仕立ての場合は、3~4本の支柱を使って、鉢の中に柱を作るように立てます。
芽を上に向けるようにしながら枝を巻きつけていくと、光がよく当たり元気に育ちます。

切った枝を使って挿し木に挑戦

ブドウの挿し木は、健康的な枝から新しいブドウの木を育てる増やし方の一つです。
挿し木に適した時期は3月から4月の暖かい時期で、土の中の温度が20度以下にならない時期が理想的です。雨が長く続く時期は避け、晴れた日に行うと良いでしょう。

11月から12月の間にブドウの枝をカットして保存します。カビを防ぐため、水に濡らさないようビニール袋に入れて保存してください。
苗床にする鉢と土を用意します。鹿沼土と培養土を4:1の割合で混ぜて作るか、市販の挿し木用の土を使用します。
3月になったら、用意した枝を水につけて水分を吸わせた後、土に挿します。発根促進剤を切り口に塗ると、失敗しにくくなります。

ブドウの木の寿命は10~15年ほどといわれています。短梢剪定を繰り返していると、その分、木のエネルギーを使うため、寿命が早まってしまうことも。あらかじめ挿し木を使って苗木を作っておいても良いでしょう。

ただ、挿し木で作った木は、もとの木と同じような性質になります。病害虫が出てしまっているような場所や環境では、接ぎ木苗を作ったり、購入して植え付けたほうが良いでしょう。

放任せず、剪定をしっかりと!

ブドウは剪定せずに放置しておくと、太い枝や細い枝が複雑に絡み合ってしまい、おいしい実がつかなくなってしまいます。ボサボサになった状態から剪定をするのは大変ですし、切り落とす量が多いため、ブドウの木にとっても大きな負担です。放任せずに、しっかりと毎年の剪定作業を行いましょう。

本記事ではブドウの剪定について解説しました。ブドウは家庭菜園でも楽しく育てることのできるフルーツです。本記事や、ブドウの栽培記事を参考にして、おいしく楽しいブドウ栽培に挑戦してみてください。

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