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1個350円でも売り切れるリンゴ。きっかけはノウフクJASマーク、決め手は味

1個350円でも売り切れるリンゴ。きっかけはノウフクJASマーク、決め手は味

新規就農者にとって果樹は参入が難しい作目の一つだろう。植え付けから実がなるまで数年かかり、しかも栽培にも手間がかかる。その果樹栽培に農福連携で取り組み、さまざまな成果を上げている農業法人がある。全国の農福連携の取り組み事例を表彰する「ノウフク・アワード2023」のグランプリを受賞した株式会社ウィズファームだ。受賞理由はリンゴなどの果樹栽培を通じて高い工賃を実現したこと、そしてその実現を支えるノウフクJAS認証取得によるブランディングの成功だ。

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元公務員、地域に根差した仕事を求めて

株式会社ウィズファームの代表取締役を務める森下博紀(もりした・ひろき)さんは、1970年東京で生まれた。転勤族の父の仕事の関係で各地を転々とした後、祖母の暮らす長野県松川町に引っ越したのは中学3年生のとき。元は都会っ子だ。松川町に引っ越したときには「電車が1時間に1本しかなくて、電車に乗り損ねると必然的に遅刻になるということにカルチャーショックを受けた」と振り返る。
そのまま地元の高校を卒業後、松川町役場に就職。17年間公務員として働いた。財政関係の部署が長かったが、農政にも1年間携わった。その当時から、地域の農業の担い手が減少しつつあることを課題に感じていたという。

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森下博紀さん

30代半ばで、もっと地域に根差した仕事をしたいと役場を退職し、居酒屋を開店。そこにやって来た客との会話の中で、障害者が一生懸命頑張って働いても、月の工賃がごくわずかだということを知った。この状況を何とかできないかと思い、2011年に妻と共に株式会社ひだまりという福祉関連の会社を立ち上げ、翌年には就労継続支援A型事業所を開所した。

A型の事業所は、障害があっても適切な支援があれば雇用契約に基づく就労が可能な人に対し、就労の機会を提供する場所だ。一部例外はあるが、最低賃金は保証される。ひだまりでは当初、ほかの福祉事業所と同様に企業などが外注する軽作業などを請け負っていた。しかし、それではなかなか経営的には厳しかった。
「このままではいずれ潰れてしまうのではと思っていました。そこで、自社で何か仕事を作ることはできないかということで、もともと飲食店をやっていたこともあってラーメン店を開き、そこで利用者さんに働いてもらうことにしました」(森下さん)。2013年に開店した「麵屋やんちゃ」は、いまでも地元の人気店だ。ちなみに森下さんはかなりのラーメンマニアで、自身のSNSにあちこちのラーメンの写真が並ぶほど。その投稿からもラーメンの味へのこだわりが見て取れる。
麵屋やんちゃには評判の味を求めて来店する客が多く、来店して初めて障害のある人が働いている店だと気づくそう。「もちろん、接客のときに『あれ?』とびっくりされることはありますけど、結局『障害者とか健常者とか関係ないよね』という感じになります。人間みんな同じなので」(森下さん)

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麵屋やんちゃのラーメン

地域の人々のアドバイスに支えられて農業へ参入

森下さんの経営手腕と利用者たちの頑張りもあって、ラーメン店は軌道に乗った。しかし、これ1本だけでは心もとない。もう一つ収益の柱が欲しいと思ったときに、森下さんの頭に浮かんだのが農業だった。
「地域に目を向けたとき、松川町はリンゴ栽培が盛んなところだから、やっぱり農業だなと。公務員のころの経験から、農業の担い手不足が深刻なこともわかっていましたし。そこで行政に相談したら、これまでの会社とは別に農地所有適格法人を立ち上げたほうがいいとアドバイスをもらいました」(森下さん)
こうした経緯で、森下さんは2017年に株式会社ウィズファームを立ち上げ、同年に農地所有適格法人となった。

森下さんは行政からのアドバイスは素直に受けるタイプ。そのため、その後の手続きも極めてスムーズだった。その素直さは、土地の確保や栽培技術の習得にも表れる。
就農にあたっては、高齢のため離農する農家のリンゴ園を引き受ける形で4反(40アール)ほどの農地を確保した。前年まで収穫が行われていたリンゴの木は、すぐに収益につながった。さらに元の農園主や地元の農家、JAの部会など周りの人に教えを請い、栽培技術を身につけていった。

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森下さんとウィズファームのスタッフ、利用者の皆さん

リンゴは細かな作業が必要な品目だ。ウィズファームで働く利用者には知的障害のある人もおり、農作業の手順や意味の理解に時間がかかることも多い。一人一人に合った作業を割り振り、作業の手順を簡潔に説明する。利用者に説明が伝わらずうまくできなかったときには、こうしたほうが良いと丁寧に教える。そうやって利用者たちは農作業を会得し、働くことで自信を得ていく。

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リンゴにむらなく日光が当たるようにする「玉回し」の作業をする利用者

もちろん、そういうコミュニケーションには利用者とスタッフとの普段の関係がとても大切だ。「うちは利用者とスタッフの仲がすごくいいと思う」と森下さんは自慢げに話した。そんなスタッフの中には1人、元利用者がいるそうだ。

現在ウィズファームでは、リンゴだけでなくモモやブドウなど、難しいとされる果樹の種類を増やして栽培しているほか、ニンニクや季節の野菜なども栽培している。

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ニンニクの収穫作業の様子

ノウフクJASマークがリンゴのおいしさを知ってもらうきっかけに

栽培技術も次第に向上し、森下さんはウィズファームのリンゴの味に自信を持つようになった。しかし、収益化には苦労したという。
もともと農福連携に取り組んだのは、障害者の工賃を上げる取り組みをしたいとの思いからだったが、農作物を「高く売ること」は困難だった。「障害者が作ったものなら安く売って」と言われることすらあったという。
そこで森下さんは6次化で付加価値をつけようとリンゴジュースを作ったが、それも最初は売れない日々が続いた。

転機となったのは2019年、「ノウフクJAS」の誕生だ。正式名称は「障害者が生産行程に携わった食品の農林規格」。それまで障害者が農産物などを作ったことを表示する方法はなかったが、それが正式に規格として新たに制定されたのだ。
森下さんはこのノウフクJASをとってみてはという関係者からのアドバイスにも素直に従った。公務員時代に磨いた書類作成のスキルも後押しし、気が付けばウィズファームとひだまりは、他地域の2団体と共に「ノウフクJAS取得事業者第1号」になっていた。このことは地元でも評判になった。

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ノウフクJASシールが貼られたウィズファームのリンゴ

ノウフクJASの効果はすぐに表れた。東京にある長野県のアンテナショップで、ウィズファームのリンゴは1個350円ほどで売られているが、ノウフクJASのシールをきっかけに手に取る人が多く、入荷するとその日か、遅くとも次の日には売り切れてしまうのだそう。
「もちろんうちのリンゴの一番の良さはおいしさにあります。でも、食べてもらわなければおいしいとわかってもらえない。ノウフクJASシールはお客さんに手に取ってもらうきっかけになります」(森下さん)
今はリンゴの全生産量のうち約8割を青果で販売できているため、利益率も高くなり、その分工賃に反映できるようになった。現在、ウィズファームで働く利用者の工賃は月に4万円ほど。長野県の平均の約2.5倍だ。
残りの2割はリンゴジュースと、アップルパイ専門店への材料としての販売だ。埼玉県にある取引先では、ノウフクJASを取得してから値上げにも快く応じてくれたという。

自然体の農福連携

現在、ウィズファームの畑はどんどん広がっている。農地を引き受けてほしいという依頼は後を絶たないのだ。「地域での離農者が増える中で、障害のある人が農作業に携わることで農地を守ることができるならと、地域の人が期待してくれているんだと思います」(森下さん)
立ち上げ当初はあちこちに点在していた農地も、地域農業の将来を考える「人・農地プラン(現・地域計画)」で地域の中核農家となったことで集約も進み、以前より効率よく作業ができるようになった。田んぼも借りて作物を転換し、小麦の栽培も開始した。品種は長野県のオリジナル品種の「ハナチカラ」。これで中華麺を作り、「麵屋やんちゃ」で使いたいと思っているそうだ。

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ウィズファームの小麦畑(画像提供:ウィズファーム)

そして新たに昨年11月から挑戦しているのが「相談支援事業」だ。森下さんがこの事業に取り組む理由は、農福連携と関係がある。
現在、ウィズファームで農作業に携わる利用者は12人。まだ定員に余裕があるという。地域の農家には農福連携への理解が広がりつつあり、自治体も森下さんの活動に協力的だ。
一方で、福祉の側からの農福連携への理解はまだ進んでいないのだという。
「障害者に農業は体力的に無理だと思っている福祉関係者も多いんです。だから、地域の相談支援事業所に訪れた人に、うちのような農福連携に取り組む事業所を積極的に紹介しないこともあるんです」
しかし森下さんは、農業を通じて利用者たちが大きく成長するところもたくさん見てきた。今や利用者たちは地域にとって欠かせない農業従事者であると同時に、大切な地域の一員となっている。

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摘果作業の様子(画像提供:ウィズファーム)

だが森下さんは意外なことに「農福連携を強く意識しているわけではない」と話す。そこにはやはり「人は皆同じ」という気持ちがあるからだという。確かに農福連携を打ち出すことで利用者の工賃アップにつながるなど、利用者のメリットになる部分は活用しており、実績も上げている。しかし、農業自体はあくまで「自然体」なのだと語った。そんな自然体の農業には多様な人を受け入れる土壌があることを、ウィズファームの活動は示してくれている。これからさらに多くの人を受け入れ、地域の農業を支える存在になっていくことだろう。

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ウィズファームは全国のノウフクマルシェなどに出店している。写真は東京・上野公園での出店の様子(画像提供:ウィズファーム)

株式会社ウィズファーム
ノウフクWEB
日本基金ウェブサイト

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