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国内でわずか0.12%しか生産されていない有機JAS米を生産。安心安全だけではない、消費者に愛される価値とは

国内でわずか0.12%しか生産されていない有機JAS米を生産。安心安全だけではない、消費者に愛される価値とは

北海道内有数の米どころ・深川市にある「有機農園たかしま農場」。米の食味を競うコンテスト「お米番付」第7回大会で優秀賞、「KIWAMI米コンテスト」では2022、2023年ともに金賞を受賞するなど、無農薬・無化学肥料でおいしい米を作る農家として知られている。国内の米の生産量のうち0.12%(2021年度)しかない有機JAS米の栽培方法や、味へのこだわりとは。たかしま農場代表の上島一也(たかしま・かずや)さんに話を聞いた。

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有機栽培への挑戦と消費者の関心の高まり

たかしま農場4代目の上島さん。10年ほどリハビリ療法士として勤務した後、6年前に妻とともに地元へ戻って就農

__現在の生産体制を教えてください。

約20ヘクタールの圃場で、ゆめぴりか、ふっくりんこ、ななつぼしといった品種を作っています。有機栽培のほか「減農薬・無化学肥料」、「無農薬・無化学肥料」の特別栽培米と慣行栽培も行っています。栽培した米は半分ほどを個人のお客様や飲食店さんへ販売し、残りの半分は農協へ出荷しています。

毎年2月末から動きはじめ、3月中旬ごろには苗床の除雪を行います。ハウスを使い、4月には種子を入手して育てはじめます。5月末から6月にかけての10日から2週間が田植えの時期で、繁忙期です。家族総出の上、いろいろな人に手伝ってもらっています。

__有機JAS認証米を始めた経緯は?

まず、先代である父が1995年から特別栽培米を始めました。まだ有機JAS認証の制度もなかった時代でしたが、毎日食べる米だからこそ、安心・安全で体にいいものを届けたいという思いからの挑戦でした。周囲で有機栽培に取り組む農家もほとんどいない中で試行錯誤しながら、2005年には有機JAS認証を取得。有機栽培にも取り組むようになりました。

人気の特別栽培米・ゆめぴりか

__個人のお客様はオンラインでの販売なのでしょうか。

自社HPからの直販のほか、食べチョクやポケマル、ふるさと納税にも出しています。一部は日本最北のサービスエリアとして知られる砂川ハイウェイオアシスでも販売しており、おかげさまで定期購入をしてくださるお客様も増えてきました。オンライン販売では全国各地へ簡単に届けられて便利ですが、昨年は収量に比べて購入希望が多く、再販希望のメッセージをいただいている状態です。
今後も個人のお客様に直販するほか、飲食店さんにも積極的に卸していきたいですね。たかしま農場の米の栽培方法や味を評価してくださるお客様へ直接販売できる手応えがありますし、感想をじかに聞けるのも励みになります。

ポイントは除草と土づくり。おいしさを追求したい

整然と並ぶ苗。雑草との闘いが始まっている

__米の有機栽培では、特に除草剤を使わず管理するのは大変ではないですか?

当初は除草に苦労したり害虫の被害を受けたりして、収穫量が半分ほどになってしまいました。有機栽培では除草が大きなカギになるので、効果的な除草(方法)をずっと模索しています。
もともと地元のおばあちゃんたちが除草のプロで、すごいスピードで雑草を取ってくれていました。10人以上で除草をしていましたが、担い手さんたちの高齢化もあり除草機を導入しました。4年ほど使って取り扱いにも慣れてきましたが、必ずしも手作業より収穫量が増えるというわけでもないのが難しいところですね。除草機で取りきれない分は手作業です。気温や水温が高いと雑草の生育も激しくなるので、雑草が増えないよう水管理も重視しています。

__除草という以前に、まず雑草を増やさないことが大切なのですね。

水管理や土づくりの工夫で雑草を増やさないことが、おいしい米を作るために重要だと考えています。特別栽培米、有機JAS米の安心・安全は当たり前という前提に立った上で、おいしさを追求したいです。

有機肥料を使う方が食味も良くなると感じていますが、化学肥料を使わない=必ずおいしい、というほど簡単ではないので、おいしい米のためにいろいろな取り組みをしています。土づくりを大切にしており、春の代かきは繰り返し4、5回ほど行います。わらの分解を進めてくれる好気性菌を増やすため、できるだけ多くの酸素を入れたいです。そのほか自然由来でいいものがあれば積極的に使いたいと考え、有機肥料のほか納豆菌なども活用しています。

温度管理の下で保管されている玄米

おいしさを保つため、収穫した米の管理にも注意しています。玄米の状態で低温貯蔵しておき、出荷のタイミングに合わせて精米しています。年間を通じて空調機器を使い、貯蔵庫の温度は17℃に保っています。

たかしま農場が目指す、持続可能な農業とは

稲刈りの風景。夕張山地を背に石狩平野が広がる

__近年、水田由来のメタンが問題視されていますが、SDGs・持続可能な農業を意識している点はありますか?

中干しの期間を長くすることでメタンの発生量も減るといわれています。中干しは通常7日間ほど行っていますが、10日間に延ばしてみようかと考えています。収穫量へ影響しない範囲で、温室効果ガスの発生を抑える取り組みをしていきたいですね。土づくりのための秋起こしも、環境にも稲の生育にもプラスになる工程だと思います。刈り取り後にわらをすきこんでおくと分解されやすくなるので、メタンも発生しづらく稲にもいい影響があります。

___環境にも米にもいい影響がある施策というのは理想的ですね。

これらに加えて、精米後に出る米ぬかの一部を、春や秋に田んぼにまく取り組みも行っています。米ぬかが栄養分となって微生物が増え、わらの分解が進んで土が軟らかくなります。米ぬかだけでなく雑穀の皮も栄養分が多いので、同じように活用できます。

___深川は寒暖差が大きく米づくりに適した土地と聞きますが、2023年の猛暑の影響はありましたか?

2023年は、夜も気温の高い状態が続きました。有機肥料を入れていると比較的温度変化に強いと感じていますが、北海道で作られている米は一般的に冷害に強く、高温には弱い品種です。石狩川の水を豊富に使える立地なので、かけ流しなどの高温対策をしました。今後も対策は必要だと考えています。土づくりを工夫し、栽培技術の向上でカバーしていきたいですね。

家族経営にこだわり、更なる品質向上を目指す

5月末から行う田植え。たくさんの人の手を借りて行っている

___今後の展望や将来の夢を教えてください。

リピーターのお客様も増え、ありがたいことに供給が追いつかないほどです。とはいえ、規模を拡大しすぎると、品質の維持が難しい。無理のない範囲で安定した収穫量を確保しながら、さらにおいしい米を作っていきたいです。一般のお客様のほか、米にこだわりのある飲食店さんにも選んでいただける米を作りたいですね。
また品種によって出来にバラつきがある年もあります。特にふっくりんこはまだまだ改善の余地があると感じるので、もっと技術を磨きたいです。ゆきさやかという品種も始める予定です。安心・安全をベースにおいしさを追求したいので、今後も継続して「お米番付」「KIWAMI米コンテスト」の受賞を目指します。

___規模を拡大して従業員を雇う計画などはないのでしょうか。

今の規模を維持し、品質を保つことが大切だと考えています。冬は農作業がないため常勤のスタッフを雇うのは難しいですし、基本的には家族だけで作業をしています。
人手が必要な田植えの時期は、友人知人はもちろん、農業を学ぶ学生さんや取引先の飲食店さん、自社サイトの制作をお願いしたWeb制作会社さんなど多くの人に助けてもらっています。大勢で作業をして、最後にはみんなでバーベキューをして楽しんでいます。翌年は新しい友達を連れてきてくれたりして自然にメンバーが増えていくので楽しいですし、本当にありがたいです。

___自然に人が集まるのは素晴らしいですね。

田植えを一般の方向けの農業体験や課外授業にしてはどうか、あるいは農閑期の田んぼでキャンプやスノーアクティビティができたら楽しいのでは、といった声もいただくので、農業にはまだまだいろいろな可能性があるのかもしれないと思います。農泊や農業体験などができたら楽しそうですし、米づくりや農業に広く関心を持ってもらえたらうれしいですね。

取材後記

「安心・安全は当たり前、おいしい米を作りたい」と笑顔で語る上島さん。環境にも米にも良い取り組みという観点から、持続可能な農業を行っている。たかしま農場で作られる米のファンや友人などとのつながりも深く、米や農業への関心が広がっていくきっかけとしても機能しているようだった。
昨今は米粉への注目度も増しており、おにぎりブームで全国的に米の専門店が増えているともいわれている。米にはさまざまなポテンシャルがあると感じた取材だった。

【取材協力・画像提供】
有機農園たかしま農場 

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