海外へ販路を広げるには
農林水産物・食品の輸出額が過去最高となった2023年。なかでも、国産牛などの畜産品の輸出額は計約1321億円と、2019年と比較して約2倍にまで伸びており、野菜や果実など青果物も計約671億円に上るなど、同年と比較して約225億円増えています。アメリカやシンガポール、台湾などへ出向いた際、現地のスーパーなどで日本のリンゴやイチゴなどが売られている光景を目にすることも少なくないでしょう。

農林水産物・食品の輸出額の推移。12年で輸出額が約3倍ほど増えているのがわかる
海外での需要の高さに目をつけ、近年は輸出に挑戦する生産者や企業も増えており、その中には人手が充足していない経営体も珍しくありません。
そこで近年、選択肢の一つとなっているのが、副業・兼業などの外部人材の活用です。
農林水産省が実施した食品の輸出に関わる企業アンケートでは、外部人材に任せたい業務として、戦略立案やブランディングといった上流業務から、生産管理や貿易関連の実務まで、さまざまなニーズが存在することがわかりました。

食品輸出への外部人材活用の意向に関するアンケート結果
また、農林⽔産省が副業や兼業を⾏っている⽅に実施した、興味・関⼼のある業務に関するアンケートでは、ほとんどの⽅が農業分野や地⽅創⽣の仕事に興味があると回答。特に輸出戦略⽴案や海外市場マーケティング、海外販路開拓といった業務の希望度が⾼い結果となりました。
そこで同省では、輸出を目指す生産者や企業と、さまざまな知識・経験を持った外部人材とのマッチングを図ろうと、「おいしい日本、届け隊 官民共創プロジェクト」を展開。2025年に2兆円、2030年に5兆円の輸出目標の達成に向けて、官民一体となって、輸出に関わるプレーヤーを増やしていく取り組みを進めています。
外部人材を受け入れた方の声
海外輸出に際して外部人材を受け入れた生産者、企業からは、喜びの声がいくつも聞こえました。
大吉農園
キャベツやケール、枝豆やカボチャなどを生産している当農園では今年度、台湾向けのカボチャ商談がまとまり、台湾向けの厳しい基準を満たしたカボチャの生産が必要になりました。カボチャの輸出は初の試みであったため、台湾向けカボチャの栽培マニュアル整備が必要でしたが、輸出規制の調査や情報整理などの調査・事務の人手が足りず、副業人材を募集してみることにしました。
結果として、貿易業務経験があり、関心高く学びながら対応いただけそうな熱意ある人材を採用することができ、販路開拓やマーケティングの課題分析、海外商談会対応などをお任せする予定です。今回の取り組みを通じて、今までになかった海外展開のアイデアを得たり、販路開拓の課題が浮き彫りになり、解決への道筋が見えたりしたことで、輸出事業計画策定にも繋がりました。
カクニ茶藤
国内の大手飲料メーカーのペットボトル茶飲料をOEM製造するほか、海外の大手コーヒーチェーンに抹茶などさまざまな緑茶製品を供給している当社では、近年の有機緑茶の需要の高まりを受け、アメリカのオーガニック認証を取得し、有機緑茶の海外輸出に力を入れております。
現在、生産体制を強化するために工場の増設及び新設備の導入を進めており、2024年3月頃から増産体制が整う予定。既存の海外営業社員は、既に海外からの受注対応で手一杯となっていたため、新規市場開拓に向けて海外営業を増員すべく、常勤できる人材を探しておりました。結果、英語が堪能で、茶業界への情熱が高い方に参画いただくことができ、とても嬉しく思っております。
専門的な知識が求められる茶業界では製造工程・ 商流へのキャッチアップが必要ですので、まずは簡単な作業を通じて、製造・仕入れ・商品開発の一連を学んでいただく予定です。
副業・兼業などの外部人材はどう募る?
農林水産省では同プロジェクトに参画する人材系企業を広く募っており、外部人材の紹介に力を入れる企業が徐々に増えてきています。
例えば、株式会社マイナビが運営するマッチングプラットフォーム「スキイキ」は、それぞれの専門スキルに精通した約4万人が登録しており、あらゆる職種・業界のプロと出会えます。輸出に関する案件にも力を入れており、生産者や企業にとって心強い味方になるでしょう。
このほか、人材を取り扱う多くの企業が同プロジェクトに参画しており、輸出に関する案件に力を入れていくとしています。

スキイキに登録している人材のデータ
また、農林水産省では輸出を意欲的に行いたい生産者などの輸出事業者をサポートする「農林水産物・食品輸出プロジェクト(GFP)」を実施しています。会員登録することで、海外の規制や市場情報などが学べるセミナーに参加して知見を広げることができるほか、専門家が無料で輸出の可能性をアドバイスしてくれるなど、さまざまなサービスを活用することができます。
日本の食を世界へ届けるための官民一体となった取り組みが今、広がりを見せています。