従来型の求人では最盛期の労働力は確保できない
昼夜の寒暖差と標高の高さ、豊かな土壌と水を活かし、リンゴやブドウなどの果樹、レタスや白菜といった高原野菜の栽培が盛んな長野県。果樹と高原野菜では、求められる労働力の質も期間も異なるため、それぞれに向けた対策が迫られてきました。
「果樹は、摘果・摘粒や収穫のピーク時に数週間~1か月程度、集中的に多くの人手を必要とします。その労働力は主に地域人材で賄われてきましたが、従来通りの求人方法だけでは安定的に人材を確保することが難しくなっています。」(JA長野中央会 営農農政部/小口修弥さん)
サクランボや西洋なし(ラ・フランス)の生産で知られる山形県も、深刻な労働力不足の課題を抱えています。県の調べによると10年後の県内農業従事者数は今より約32%減少し、その高齢化率は76%に達すると見られ、労働力確保に向けた対応は喫緊の課題です。
「サクランボの収穫と出荷調整のピークとなる6月の労働力確保は毎年大きな課題でした。さまざまな取組を行っていますが、その中でもデイワークは1日単位で求人できるのでサクランボの収穫作業と親和性が高いですね。」(山形県農林水産部 農業経営・所得向上推進課 井上史崇さん)
80%を超える高いマッチング率を実現!新たな求人方法として地域の農家に浸透
実る時は一度に実り、多くの人手を必要とするのが果樹栽培の難しさ。全国有数の果樹生産量を誇る長野県、山形県では、労働力確保に向けた新たな対応策として、それぞれ令和2年度・3年度からデイワークの導入を始めました。以来、順調に登録農家数が増加し、求人を出す農家、求職者ともに利用者が拡大中です。
「2023年の実績では、231の農家が利用していました。延べ15,235人の募集に対し、12,683 人のマッチングが成立し、マッチング率は83%となっています。デイワークは、利用農家にとって欠かせないアプリとして浸透しています。」(小口さん)
農業の求人は、作業の進行状況や天候に左右されるため、状況に応じて柔軟に求人条件を設定できるデイワークは、農家のニーズにフィットしています。
「日替わりで知らない人がやって来て、その度に一から仕事を教えなければならないのが大変だという農家さんもいますし、デジタルデバイスに不慣れな人もいます。しかし、利用拡大が進んでいる地域は、求職者のリピート率が高く、着実にスキルも向上しています。単発の労働力確保だけでなく、産地の働き手の育成においても成果が出つつあると感じますね。」と、小口さんは期待を込めます。
一方、令和3年度から周知活動に力を入れて取り組んできた山形県においても、マッチング率が年々向上しています。
「年を追うごとにマッチング成立数が倍倍で増え、非常に好調です。最新の数値では、2024年3月22日時点で成立数が13,091件、マッチング率は89%でした。ほかのマッチングツールもありますが、デイワークは非常に成立率が高いですね。」」(井上さん)
山形県では、デイワーク求人の約3分の2が果樹作業となっており、最近では水稲や花き分野での利用も増加傾向にあります。
「農家を対象に行ったアンケート調査によると、登録はしているが求人を出したことがないという農家は年齢層が高く、活発に利用しているのは40〜50代の農家が多かったです。スマホやアプリの操作に対する抵抗感が関係しているのかもしれません。」(井上さん)
こうした現状を踏まえて、山形県ではデイワークのさらなる普及を図るためにJAのスマホ教室とタイアップした農業者向けの研修会を開催。スマホの基本的な使い方を学んだ後、デイワークアプリの登録から求人掲載までの使い方をていねいに説明する場を設けています。
活用上手な農家が実践する、「わかりやすい」「待たせない」「寄り添う」コミュニケーション
農家、求職者ともにユーザー数が急拡大している山形県では、求人を載せればすぐにマッチングが成立するという嬉しい状況が続いています。今後は、農家のユーザー数と利用率をさらに上げていくことが目標です。
「マッチング率の上昇に伴って農家と求職者のミスマッチが発生することもありますが、わかりやすい情報発信ができている農家は、ミスマッチが少ない印象です。実際に行う作業内容や作業手順などを明確に示すことが重要で、次年度からは作業動画や作業マニュアルも求人の段階から掲載し、初めて作業する人にもわかりやすい情報発信に努めていきます。」(井上さん)
一方、長野県では、求職者が仕事というよりも農業体験に近い感覚でやって来たケースもありました。
「そのような認識のずれが起きないように、本県でも動画での情報発信を行いたいと考えています。JAとしては農家と連携して研修会を実施するとともに、ガイドラインに沿って利用農家の意識の底上げにも努めていきます。」(小口さん)
中には、デイワークをきっかけに、働き手の囲い込みができている農家もあるのだとか…。
「チャット対応が早く、こまめにコミュニケーションをとっている農家は求職者の囲い込みができています。日給額の差ではなく、お茶の時間を設けるなどして求職者に寄り添ったコミュニケーションを心がけている農家が好まれている印象もありますね。」(小口さん)
天候や作業状況、応募者の経験値を見比べているうちに連絡がギリギリになり、求職者の心象を損なってしまっては本末転倒です。農家側が求職者の立場に寄り添った心がけが上手に活用するポイントのようです。
【取材協力】
JA長野中央会 営農農政部 営農支援センター
山形県農業労働力確保対策実施協議会(事務局:山形県農林水産部農業経営・所得向上推進課)
【労働力確保支援事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局
MAIL:roudouryoku@myfarm.co.jp
TEL:050-3333-9769