沖縄・南大東島のサトウキビが原点
一次産業に特化してあらゆる課題解決の支援事業を展開するYUIME(ゆいめ)株式会社(以下、YUIME)。その前身は、沖縄に拠点を置きアプリやシステムのオフショア開発を主事業とするIT企業でした。農業人材支援事業に乗り出した発端は、沖縄県南大東島の製糖工場に立つ1本の煙突。
「そこに書かれた『さとうきびは島を守り島は国土を守る』というスローガンに突き動かされました。当時すでに行っていた製糖工場への人材派遣から撤退の意思を固めていましたが、この事業を継続しなければならないと思いました。」と、YUIME取締役の江城嘉一さんは11年前を振り返ります。
南大東島で始まって沖縄全島に広がったとされる本格的なサトウキビ生産は、現在も同島の主要産業です。かつては北海道・東北からの出稼ぎや縁故関係で収穫期の労働力を確保していましたが、そのルートは途絶え、深刻な人手不足で産業は存続の危機にさらされていました。島と運命を共にした江城さんらは、南大東島だけでなく沖縄全島へ農業人材派遣してスケールメリットを生むことで持続的な課題解決に取り組み、2013年の事業開始から7年かけてサトウキビでの人手不足は解消されました。
その実績で、2019年にYUIMEは日本初の国家戦略特区の特定機関(派遣会社)の認定を受け、農業分野への外国人材の派遣が可能になりました。同年に始まった特定技能制度で特定技能登録支援機関の認定を受け、各国からの外国人受け入れ、入管、人材開発、派遣をワンストップで行い、生産者の直接雇用を支援しています。
特定技能制度で農業分野の外国人材に注目
「世の中にはサトウキビ以外の作物が圧倒的に多く、産地では人手不足が原因で集落が消滅することさえあります。」と江城さん。2019年からは外国人材を中心に、沖縄のサトウキビと繁忙期が逆の北海道の畑作との産地リレーに取り組んできました。
派遣・外国人は期待できないという先入観から生産者の反発を受けながらも、粘り強く営業を続けた結果、道内の有力な大手農業生産法人で外国人材を起用する動きが起こり、定着が難しいとされる期間雇用にもかかわらず、労働力が安定化し始めています。
「農業人材派遣でのYUIMEの強みはリーダー層の輩出です。将来的に日本の農業現場や地域を支える人材の育成に重きを置いています。」(江城さん)
さらに、労務管理、人材育成、作業配分、コスト管理をYUIMEが請け負うことで、農業経営者が戦略的な業務に専念できる環境の創出にも尽力しています。そのために、自社の社員が農業生産法人へ出向することもあります。
アジアの人たちにおける日本の位置づけは変わっています。以前なら日本は稼げる国でしたが、昨今はオーストラリア、台湾、韓国がその対象です。日本には治安の良さやアニメ文化に魅力を感じている人が多いそうです。
「本気で農業をしたい人たちも注目しています。なぜなら、特定技能2号に相当するビザが発給されるのは、今のところ日本だけですから。」と江城さん。インドネシアなどの行政や送り出し機関と提携し、人材を面接するところからリーダーの育成に取り組んでいます。
特定技能外国人は、1号(在留資格5年以内)として実績を積み、リーダー職などの管理業務に携わることで2号への移行が可能になります。2号は在留期間が回数制限のない更新になり、家族を呼ぶことができるため、将来は地域農業の担い手や後継者にもなり得ます。
産地間連携で3,000人の農業リーダーをつくる
YUIMEでは現在500人の外国人材の登用を数年以内に3,000人まで押し上げる目標があります。達成に必要なのが産地間連携の拡充です。令和4年の農業労働力産地間連携等推進事業でその取り組みを加速させました。
ターゲットは、繁忙期の人手不足の課題がありながら、他の地域と連携する風土が醸成されていない地域。あえてYUIMEの基盤が弱い関東(千葉県など)、中部(富山県、石川県)、近畿(奈良県、和歌山県)、九州(鹿児島県離島)の4地域を選び、行政やJAへの提案を進めました。すでに産地間連携エリアとして実績と関係値があり、繁忙期が異なる北海道、沖縄、九州などを軸として新規産地と人材リレーをはかります。
「外国人材を受け入れる文化のない地域もありますが、人口減は止められません。産地や農業法人は将来の決断を下すときです。特定技能2号のビザは農業で長く日本に住むことができ、今では外国人が地域を選ぶようになっています。」(江城さん)
事業初年度は10月から3月にかけて、北海道から関東へ11人、中部へ11人、近畿へ2人、九州へ26人(いずれも延べ人数)が、露地野菜や果樹の産地をリレーしました。最初の一歩を踏み出すことができれば、特定技能外国人を雇用するメリットがわかるので翌年度の話に進展するとみられます。テスト導入から徐々に雇用人数を増やしていくスケール化もYUIMEが得意とするところです。
人手不足解消から人材戦略へ農業経営を後押し
「我々は農家の人事部みたいな存在です。」と江城さん。「農家さんが儲かっているとか、新卒を採用したという事例が出てくると嬉しいですね。」と事業へのモチベーションを語ります。
派遣先の農業生産法人のなかには、YUIMEの社員がブレーンとなって人材戦略を立てる事例もあります。さらに、内勤スタッフが、通訳、研修、移動のチケット手配などのサポートを行うことで外国人材の円滑な就労を実現しています。
実績として域内にも複数の派遣先があるので、職務に合わせた適材適所で人員を配置することができ、現場のOJTで人材育成もできます。人材は域外からU・I・Jターンおよび外国人材のリーダー層を集めているため、域内の人材確保に特化したマッチングアプリとの棲み分けができていることが特徴です。
大手農業生産法人やJA(選果場、部会での仲介)などへ、多くの人材を派遣できれば、そこを拠点に地域の小規模生産者にも展開することができます。通年の仕事がなくても産地リレーを活用することで、繁忙期の労働力の安定化はもちろん、外国人も含めた農業人材の確保・育成により地域の活性化につながります。
その基盤となるシステムをつくるYUIMEの取り組みは、持続的な発展を目指す産地や生産者にとって大いに参考になるでしょう。
【取材協力】
YUIME株式会社
【農業労働力産地間連携等推進事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局
MAIL:roudouryoku@myfarm.co.jp
TEL:050-3333-9769