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国内最大級のイチゴ観光農園に聞く集客戦略。広告宣伝費換算数億円のメディア露出と営業手法

国内最大級のイチゴ観光農園に聞く集客戦略。広告宣伝費換算数億円のメディア露出と営業手法

新型コロナウイルスの影響のほか、高齢化や担い手不足などの影響で減少傾向にある日本の観光農園。農林水産省の調査によると、2019年に6000軒を超えていた観光農園の数は、2021年には5000軒を下回っています。そうした状況の中、2022年12月にイチゴ観光農園をオープンし、年間10万人を超える来場者数を誇るのが、茨城県常総市の「グランベリー大地」です。運営する有限会社大地で広報を担当する吉原陸(よしはら・りく)さんに、集客戦略やマーケティング方法などを聞きました。

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年間10万人を集める観光果樹園

2022年12月に茨城県常総市でオープンした、世にも珍しい浮遊したイチゴの摘み取り体験を楽しめる空中いちご園「グランベリー大地」。

リフト式イチゴ狩りが楽しめるのが特徴の空中いちご園で、栽培面積は約1.7ヘクタール、栽培本数は約19万本と、国内最大規模を誇ります。空中いちご園とはどのようなものかについては、後ほど詳しく紹介します。

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グランベリー大地提供

栽培品種は、メイン品種として「やよいひめ」「あまおとめ」。その他にも、いろいろなイチゴを食べ比べられるように「かおり野」「いばらキッス」「恋みのり」「スターナイト」「よしつぼ」「とちおとめ」といった計8種類を楽しむことができます。

また、昼だけでなく夜(土曜日限定)にもイチゴ狩りが楽しめることも特徴的です。従来、イチゴ栽培で導入されるライトは赤系の色が多いのですが、白色のLEDライトを導入していることで、夜でもイチゴの色を確認することができるといいます。夜のイチゴ狩りは7200本のLEDライトの装飾も相まって、幻想的な雰囲気を楽しめます

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夜のイチゴ狩りの様子

オープンした2023年シーズンは、年間来場者数が延べ10万人を超える人気ぶり。2024年シーズンも順調に推移しており、1日の平均来場者数は平日で約500人、土日祝日は約1000人を超える方がイチゴ狩りに訪れます。その他にも、イチゴをふんだんに使ったスイーツを味わえる、併設するカフェの利用者も多数います。

昼のイチゴ狩りは先着順で営業しているため、オープンと同時にその日の定員数が埋まってしまうことも少なくありません。実際、取材前に私がプライベートで日曜日に訪れた際は、到着が営業前の午前10時30分ごろでしたが、すでに数百人の行列ができており、イチゴ狩りの定員はいっぱいとなってしまい入ることができませんでした。

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このように、絶大な人気を集める空中いちご園とはどんなものなのでしょうか。
同社の歴史を交えて紹介していきます。

リフトを使ったイチゴ観光農園

グランベリー大地を運営する有限会社大地は元々、常総市で50年以上続くトマト農家でした。2001年から新規品目としてイチゴ栽培にも着手し始め、2009年からは観光農園としても動き出したといいます。2022年には、年間3万人が来場するイチゴ園にまで成長を遂げました。

更なる規模拡大のきっかけとなったのが、常総市のアグリサイエンスバレー構想(※)。地元企業が観光農園をできる事業体を募集していた中、同社の代表であり吉原さんの父でもある吉原将成(よしはら・まさしげ)さんが新しいことに挑戦したいと、手を上げたといいます。
※常総インターチェンジ周辺に位置する多数の地権者が所有する農地を集約して大区画化しながら、生産・加工・流通・販売まで一気通貫する事業施設を整備すること

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アグリサイエンスバレー構想では、常総インターチェンジを中心として、物流の拠点となる冷蔵庫を完備した施設や大規模園芸施設、観光農園などを集積し、農業と産業が融合する街づくりを目指している(常総市のホームページより一部引用)

「やるからには新しいことを」と方法を模索する中で目を付けたのが、関東初のリフト式イチゴ園でした。

リフト式であれば、好きな高さに調整できることもあり、お客さんはしゃがむ必要が無く、楽な姿勢でイチゴ狩りを楽しむことができます。リフトは空中に浮かんでおり地面に接していないため、掃除が簡単に行えることから、奇麗な空間を提供できるといいます。空中にイチゴがある空間での撮影が写真映えするといったことも人気の一つでしょう。

栽培の面で見ても、メリットは多いといいます。

栽培本数については従来、土耕や水耕栽培で通路を確保するためには10アールあたり苗の数は7000本とされてきましたが、同社では10アールあたり1万1000本を栽培しているといいます。リフト式イチゴ園では、イチゴの棚同士がどんなに近くても通路を確保することができるため、効率の良い栽培が可能なのだそう。

さらに、ハウスでは高いところほど温度が高くなるため、イチゴ棚を高い位置に移動できるリフト式は、従来よりも暖房代の節約にもなるといいます。

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栽培の様子

しかし、話を聞いてみるとリフト式のイチゴ栽培だけが集客につながったわけではないことが分かりました。グランベリー大地が行った集客戦略とはどのようなものなのでしょうか。

グランベリー大地の集客戦略とは

メディアでの露出

「とにかくいろいろなところへ売り込むためのメールを送りまくりました」(吉原さん)
2022年12月にオープンする2カ月前から動き始め、多くのメディアへリフト式イチゴ園がオープンすることを連絡したといいます。協力をお願いしていたPR会社とともにプレスリリースを作って配信したり、手動で各メディアのお問い合わせフォームなどから連絡を送ったりしたそうです。

珍しい栽培方法と規模の大きさが目を引き、オープンした2023年はテレビ取材が20件以上、ラジオで4件、雑誌や新聞で40件以上取り上げられ、WEBメディアでも250件以上に紹介されるなど、さまざまな媒体で取り上げられることに成功。PR会社が計算した各媒体での費用対効果は、広告宣伝費に換算すると数億円以上にも上るといいます。

SNSの利用

下妻市で行っていた観光農園時代からSNSでの顧客の獲得には動き出しており、同園のオープンタイミングでは約5000もの人がグランベリー大地のアカウントをフォローしていたといいます。

現在は、知り合いのSNSマーケティングをしている企業にアカウント運用を依頼しており、イチゴ狩りでの写真の撮り方やおいしいイチゴの見分け方、プレゼント企画など面白い企画も実施。順調にアカウントは伸び、Instagram(インスタグラム)では1万人を超えるフォロワ―を獲得できているといいます。

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グランベリー大地のインスタグラム

また、メディア掲載のほか、ユーチューバーにも「空中いちご園がオープンするので場所貸せます」といった連絡をし、露出を拡大していったといいます。

足での営業活動

「ネットやSNSといったオンラインでの集客にも力を入れましたが、足での営業活動にも力を入れました」(吉原さん)

例えば、バス旅行などを企画するツアー会社へ「グランベリー大地の利用をツアーに組みこんでもらえないか」と営業活動をしたといいます。このかいあって、現在は国内のバスだけでなく海外の旅行客が貸し切ったバスも訪れるといいます。

同社では「現状維持では衰退していく、毎年新しいことへ挑戦」といった意識を持っており、開業2年目になる今期からは、フォトスポットになる巨大イチゴのモニュメントの導入やドックランの併設、愛犬と楽しめるイチゴ狩りといったことに取り組んでいるそうです。

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グランベリー大地にあるイチゴのモニュメント

今回の取材を通して、グランベリー大地の顧客獲得戦略は、観光農園だけでなく加工品などの新商品や特徴ある野菜に関しても通ずる部分があると感じました。企業としては当たり前に行われるプレスリリースやメディアなどへの売り込みを、経営者でもある生産者がやらないのはもったいないです。

また、現状維持ではなく新しいことに取り組む大地の姿勢がメディアを呼び、お客を呼ぶことにつながっているのではないかと感じた取材でした。

取材協力

GRANBERRY DAICHI

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