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「水管理」で収量が約2倍に! 驚異の14毛作ハウスを開発した「サイエンス農業」に迫る

「水管理」で収量が約2倍に! 驚異の14毛作ハウスを開発した「サイエンス農業」に迫る

高瀬貴文(たかせ・たかふみ)さん は、建築士から新規就農しコンサルタントとして株式会社果実堂に入社した異例の経歴の持ち主。科学的な分析をもとにした「サイエンス農業」と、飽くなき「改善」で農業の課題を解決してきた。農家が業務効率化を図るために必要な考え方は何か、するべきこととは。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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【プロフィール】
■高瀬貴文さんプロフィール

株式会社果実堂 代表取締役社長
大阪府出身。2001年に建築士として住友不動産に入社。2010年から果実堂の技術指導を行うコンサルティングを担当し、翌年入社。2015年6月、取締役 技術開発本部長 兼 栽培管理本部長・技師長に就任。2019年からは創設者から会社を受け継ぎ、代表取締役に就任。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

「変わり者」のうわさが出会いを呼ぶ

横山:今日は果実堂の高瀬さんにお話を伺います。

高瀬:果実堂の代表をやっています。高瀬と申します。僕は阪神・淡路大震災で「建物がない」「食べ物がない」という状況を目の当たりにして、衣食住の「食」「住」を仕事にしようと思いました。まずは建設会社に入って10年ほど建築士として働いた後、大分県で就農。その後、果実堂からコンサルティングを依頼されたことがきっかけで入社することになりました。

横山:果実堂と出会ったきっかけは何ですか?

高瀬:僕は「サイエンス農業」を意識していて、一つ一つの事象を科学しようと思っていました。特に、水管理。例えばキャベツやレタスなどの野菜は約90%が水分 なのに、水管理の技術は意外と確立されていないことに気づきました。そこで水管理を徹底的に科学しようと考えたんです。自分なりにずっと研究をしていたら「大分県に変わったやつがいる」とうわさが立って(笑)。熊本の果実堂創業者 の井出剛(いで・つよし)社長から「一度会いたい」と連絡をいただきました。

横山:水管理ですか。異業種から就農してすぐ「サイエンス農業」を意識するのは、ハードルが高かったのではないですか。

高瀬:建築と農業は近いところもあります。例えば建築では地盤を改良することがありますが、農業では肥料を使って土を改良します。だから僕の中では横展開のような意識でしたね。「食」に携わって15年、今では「住」よりも長くなりました。

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土壌水分量がわかる触診とは

高瀬:先ほど話した水管理は果実堂の推進力になりました。ホースで何分水をかけたら植物の生育が良くなるのかという試験を続けた結果、「触診」という方法を編み出したんですよ。土を手で握れば、その土壌水分量が誤差1%以内で分かるようになり、土質に合わせて水管理をする方法を確立しました。

横山:すごいですね!

高瀬:さらに僕はその方法をマニュアル化しています。誰でもできる農業をやらないと参入障壁はなくなりませんから、技術の平準化を徹底しています。

横山:具体的にはどうやっているんですか?

高瀬:僕らは「星取表」を作っています。縦軸が社員の名前、横軸がトラクター耕運やマルチシート張りなどの作業項目です。例えばトラクター耕運だと、星を1個取れたら「トラクターが操作できる」、2個取れたら「先輩と一緒であれば耕起できる」、3個取れたら「1人で判断して耕起できる」、4個取れたら「指導ができる」として、どの社員がどれぐらい技術を習得したかを見える化しています。いろんな指標を見える化することで、分がどの位置にいるかも分かり、みんなで切磋琢磨(せっさたくま)していける環境を作っています。

横山:指標を一つ一つ言葉にしていったんですね。

高瀬:他の法人さんからもよく相談を受けるんですよ。「A先輩はこう言ってたけど、B先輩はこう言う。私には分かりません」という人がいる。でも実際は、AさんもBさんも同じことを言っている。だけど言葉が違うから相手にちゃんと通じていない。だから僕らは言葉を合わせて、ていねいに教えることを重要視しています。そうすると技術の習得も早くなります。

週1回の改善会議で業務を効率化していく

横山:高瀬さんはたくさんの改善に取り組んできたと思います。

高瀬:僕はもともと「休める・稼げる農業」を意識していました。それを実現するには効率化しなければなりません。お金をかけずに、今1時間かかってるものをどうやったら10分にできるかを考えていました。前に改善項目を調べてみたら600項目ほどありましたが、今でも増えています。改善は、飽くなき闘いだなと思いますね。

横山:改善のポイントはどうやって見つけるんですか。

高瀬:まずはいろんな項目を社員から上げてもらって仕分けしていきます。その際に、「重要性」「緊急性」「解決可能性」で段階評価して、優先順位をつけながら改善に取り組みます。毎週月曜日は改善会議があって、約半数の社員がその会議に半日を費やしています。これはもう15年間続いていますね。ただ、行動しても結果をすぐ上げられるかというとそうではありません。地道に解決できるまでやっていきます。

横山:入社当初、そういう変化に反発はなかったのでしょうか。

高瀬:触診をやりだしたときは、「そんなこと分かるはずがない」って総スカンをくらったこともありました。それがなんで変わったかというと、成功体験なんですよ。触診をやったおかげで、年間6回転だったものが10回転までいって収量が上がったんです。ちゃんと科学的にやっていけば絶対道は開けると意識してやっていたので、諦めませんでした。

サイエンス農業が生み出した「高瀬式14回転ハウス 」

横山:果実堂の特徴でもある「高瀬式14回転ハウス」について教えてください。

高瀬式高機能ビニールハウスの仕組み

高瀬:うちってパイプハウスなんです。パイプハウスは建てやすいのがメリットですが、植物の環境工学的にはデメリットがあります。パイプハウスはサイド換気がほとんど。だから夏場は暖気を上にためてしまい、熱で植物がダメになってしまうこともあります。高瀬式は夏場にしっかり換気ができて、冬場は機密性を高く保てるような構造になっています。それによって夏場は収量がアップ、冬場も生育日数が短縮し、ベビーリーフを14回転(毛作)できるんです。

横山:すごい回転量ですね。

高瀬:有機栽培 でもあるので、びっくりされます。そういうことを一つ一つ科学していけば、農業はイノベーションの余地がめちゃめちゃあると確信しています。僕らはもともと農業に従事した人間ではなかったので、土地が広がらなかったんですよ。だから回転数をなるべく上げていかなければならないという背景がありました。

横山:まだ回転数は上がると思いますか。

高瀬:上がると思います。新しい技術やノウハウがどんどん世に出てきているので、それらを研究所で調査しながら、農場にフィードバックしています。また、どこで栽培しても再現性は変わりません。三重にあるグループ会社でも同じように栽培できます。台湾でも12年間ベビーリーフの栽培指導をしていますが、亜熱帯の地域でもどんどん拡大していますよ。

数値化で農業はもっと効率化できる

横山:今、高瀬さんが考える果実堂の課題は何ですか。

高瀬:技術者の創出ですね。指導できるような人間を増やしていきたいです。あとはDX。今まさに推進しているところです。例えば受発注に関わる業務推進センターというの部署があるのですが、そこを中心に今RPA(ロボットにより業務を自動化する仕組み) だけでも年間6000時間の業務が自動化されています。中には手書きの書類もありますが、それについては転記して、以降は自動化しています。

横山:高瀬さんから見て日本農業の課題は何だと思いますか。

高瀬:例えば僕らだったらOKR※やKPIなど、数字の指標を使って見える化することがまだまだできていません。そういう数値化が農業界に足りない部分かなと感じています。それができれば、さらに効率的な農業ができるはずです。

横山:農業に関わる方に向けて、メッセージをお願いします。

高瀬:僕は農業はすごくおもしろい産業だと思っていて、農業に一生携わっていきたいという気持ちは変わりません。各農家さんや農業法人さんは、きっと抱えている悩みがあるでしょう。それを共有できて一緒に解決できるようなことをやっていけば、もっともっと農業はおもしろくなると思います。そういう課題を見つけていくことが重要だと考えています。

※Objectives and Key Results(目標と主要な結果)。目標の設定・管理方法の一つで、従来の計画方法に比べて高い頻度で設定、追跡、再評価することが特徴。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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