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バイオダイナミック農法とは? 月との関係性や有機栽培との違いを解説

バイオダイナミック農法とは? 月との関係性や有機栽培との違いを解説

環境再生型農業という言葉を最近耳にするようになりましたが、今からちょうど100年前のドイツで、同じように近代農法によって劣化した大地を再生させる農法が提唱されていたことをご存じでしょうか。時代を先取りしていたその農法はバイオダイナミック農法と呼ばれています。日本ではほとんど知られていませんが、ドイツやスイスを中心に欧米では100年もの歴史ある農法であり、正式に登録されているだけでも世界各地で5000近い農園が実践しています。今回は京都大学在学中にバイオダイナミック農法をはじめとするオルタナティブな農法に触れてきた筆者が、この農法の理論や日本での事例などを紹介していきます。メリットやデメリットまで解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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バイオダイナミック農法とはどのような栽培方法?

バイオダイナミック農法とは「月や太陽など天体の動きから小さな虫の働きまで、自然界の全ての事象が関係し合い、農場という一つの生命体を作っているという考え方に基づく農法」です。

その始まりは、1924年にドイツで開催された「農業講座」に講師として招かれた哲学者ルドルフ・シュタイナーの講義だったといわれています。

シュタイナーは人智学という分野を切り開き20世紀の思想家に多大な影響を及ぼした人物ですが、この講義の中で彼は「農場を一つの生命体」として捉えることで、その中でのエネルギー・鉱物・植物・動物の全体的な相互関連について理解する必要があると主張しました。

農場は周囲の環境、つまり耕作地だけでなく草地や森林など、広くは天体とも関係し合っているため、それらとの適正なバランスを保つことによって滋養のある食物を作ることができるとし、社会が物質的な豊かさを求めるようになっていく中で、人間らしい精神性を取り戻すことの重要性を彼は説きました。その方法の一つが「地球を癒す農業」と彼が呼ぶバイオダイナミック農法だったのです。

近年注目されている再生型農業にも影響を与えた農法が、100年前から提唱されていたかと思うと驚きです。

バイオダイナミック農法と月の関係

バイオダイナミック農法では天体の働き、特に太陽と月のリズムの影響を重視しています。例えば、種まきや肥料の使用は、太陰暦や占星術に基づいた「農事暦」という暦に従って行われます。

農事暦は月の引力と潮の満ち引きの関係に基づいています。潮が満ちる時、植物や土にも水が満ちて植物の成長が早まるとされ、逆に潮が引いている時は植物の生育も緩やかになるとされます。また、ウミガメが満月と大潮が重なる時に産卵するなど、満月や新月には虫や動物の産卵・出産が多いといわれますが、ダイナミック農法でも月の満ち欠けは大事な要素とされています。

日本でも古くから、竹の伐採が新月の時に行われたり、種まきは満月の日に行われるというような農家の風習があったといいます。

この農事歴については、後ほど詳しく解説していきます。

新月から上限の月

大潮の時期(満月と新月の頃に大潮と言われています。)は月の引力が強くなります。新月から7〜15日目前後は植物の成長速度がピークより落ちるので、根元へ追肥する時期として最適だとされています。

満月

新月から15日前後に満月を迎えます。その後15日〜22日前後の期間は大潮から中潮の時期で、成長速度が急上昇します。そのため収穫に最適な時期だとされています。

下弦の月から新月

新月から22日〜1日ごろには小潮になり再び成長速度が緩やかになります。この時期は畑を休ませるために大事な期間です。

バイオダイナミック農法ならではの技術

バイオダイナミック農法には、植物や動物など自然界の存在が宇宙の霊的な力の影響を受けているというシュタイナーの思想に基づき、さまざまな特別技法が存在します。

その中でも独自の肥料である「調合剤」と、上でも触れた「農事暦」について解説していきます。

調合剤

バイオダイナミック農法では調合剤の使用が義務付けられており、例えば雌牛のふんや角、石英などケイ酸塩鉱物の粉、イラクサやスギナなどのハーブなど、さまざまな種類の調合剤があります。

全部で九つの調合剤は畑に散布することで土壌の活性化や微量元素の誘導、植物根の成長促進などの役割を果たします。それぞれの調合剤は宇宙にある惑星(土星、木星、金星など)に対応していて、それを天体の動きや季節に応じて適切に畑に入れることで宇宙的なエネルギーが大地に満たされ、環境が再生すると考えられています。

 

番号 調合剤 504 イラクサの腐葉土
500 雌牛のふん 505 オークの樹皮
501 ケイ酸塩鉱物の粉 506 タンポポの花
502 ノコギリソウの花 507 カノコソウの花
503 カモミールの花 508 スギナ

参考:生産者団体デメターのマニュアル

調合剤の使用頻度や、散布方法には決まりがあります。例えば代表的な調合剤である調合剤500は雌牛の角に新鮮な雌牛のふんを詰めたものですが、これは宇宙と動物のエネルギーを牛角の中の土にため込むためにまず秋から春にかけて土の中に埋められます。春になったら再度掘り返して団子状に丸めて保管し、使用する際には水で希釈して散布します。その際、かき混ぜ方や混ぜる時間も決められていて、そういった規則も全て、天体の働きや自然のことわりに従って決められているのです。

実は、シュタイナーが提唱した時代には調合剤を非科学的とする批判も多かったのですが、現代の生態学や微生物学、土壌学の分野での発見により、これらの調合剤が土壌を肥沃(ひよく)化させることも一部証明されてきています。

例えば牛糞を牛角に詰めて土に埋めるというのは、牛角内のふんを土壌微生物の力で発酵させる、という目的があると考えられています。

農事暦

前章の繰り返しになりますが、バイオダイナミック農法では太陽、月、惑星や星々といった天体の働きを使って農業をしていきます。そのために使うのが専用の農事暦(バイオダイナミックカレンダー)です。

月については上述した通りですが、他にもシュタイナーによれば、12星座に働く力に四つの要素(水、熱、土、光)があるとされます。それぞれの要素は植物の四つの部分(根、葉、実、花)と対応していて、その要素によってその日にどんな作業が適しているかわかります。

農事暦では、農作物ごとにその日の具体的な作業が示されているので、それを見ながら種まき、調合剤の散布、収穫などの農作業を進めることになります。

バイオダイナミック農法の品質認証について

バイオダイナミック農法を名乗るためには、生産者団体デメターが1946年に定めた認証の取得が必要です。これは品質認証のためにデメターが独自の基準を設けたもので、2015年時点で4950の農場が登録されています。

ちなみに有機農業の認証としては世界最古であり、また厳正な基準をクリアした農園のみが認証を得ることができる信頼性の高い基準と考えられています。

バイオダイナミック農法と他の農法の違い

バイオダイナミック農法は他の農法と比べて決まりごとが多く、畑でやって良いこととしてはいけないことが厳密に分かれているのが特徴です。

例えば、有機栽培は「化学肥料や化学農薬を使用しない」という意味合いで用いられることもありますが、有機肥料を入れるタイミングや量については、それぞれの農家次第になります。決まりごとが厳しいといわれる自然農法でもあくまで「無肥料・無農薬・不耕起・不投入・畝を立てない」などいくつかの原則を守る必要があるだけで、種まきのタイミングや収穫の時期などはその場に応じて決めて良いことになっています。

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一方でバイオダイナミック農法では「農場は一つの完全な生命体である」ことが目指されているため、種子や調合剤も含め全ての資源を農場で循環させることが基本となります。その上、調合剤の作り方やまき方、種まきのタイミングなども細かく決められています。

もちろん、外部から化学肥料や農薬を持ち込むことはもってのほかです。

バイオダイナミック農法のメリット・デメリット

ここでは、バイオダイナミック農法のメリットとデメリットをそれぞれ解説していきます。

メリット

最大のメリットとしては、環境を再生できることが挙げられます。100年前にシュタイナーが警鐘を鳴らした通り、現代では近代農法によって世界中の畑が激しく土壌劣化を起こしています。環境を再生し、土に本来のエネルギーを満たすにはどうしたら良いのかを考える方にとって、シュタイナーが発展させた理論や、それを用いて何千もの農園で繰り返されてきたトライ&エラーによる手法や知見の蓄積は、唯一無二のメリットといえます。

デメリット

一方で、高度に発展してきたからこそ、調合剤や農事暦など厳密な規則があり、それを直接個別の農場に適用することが困難という側面もあります。例えば、牛の角に牛ふんを詰める調合剤を使おうと思っても、必ずしも全ての農園に牛がいるわけではありません。

他にも「農場全体が一つの生命体である」という原則に従うためには、全ての農地が一つの場所にまとまっていて、しかも周りに森林などの自然状態の環境があることが想定されていますが、日本では農地が飛び地になっていることも多く、必ずしもシュタイナーが期待している条件ではありません。そのため、結局はその場所に合わせた応用が求められるというデメリットがあります。

またシュタイナーは科学に精通していた人物でしたが、同時に神秘主義的な傾向もありました。彼が提唱している理論にはスピリチュアルな要素も散りばめられており、必ずしも現代までの科学で証明しきれない内容も含みます。そのため理論を深く読み解くことが難解であることもデメリットの一つです。

バイオダイナミック農法で作られる主な製品

ここではバイオダイナミック農法で作られる製品をいくつか紹介します。

種子

ドイツでは育種、種子生産、流通においてバイオダイナミック農法が大きな役割をになっており、種子会社、研究所、種子生産を行う農家グループの中にはバイオダイナミック農法を実践しているところもあります。

ワイン

ワイン作りにバイオダイナミック農法を取り入れる醸造家も多くいます。ですが認証の基準が非常に厳格なため、生産年に応じてどのようにブドウを栽培するかを自由に選択できなくなる懸念があり、認証を取らない農家が多いのも現状です。

化粧品

スイスに本社を置くオーガニックコスメブランド「ヴェレダ」の商品は、バイオダイナミック農法で栽培された植物を原料としています。ファッション誌「VOGUE」はヴェレダ等のバイオダイナミック農法で栽培された植物を使った製品を「シュタイナーコスメ」と名付け、信頼できるオーガニックコスメの礎となっていると紹介しています。

日本におけるバイオダイナミック農法の事例

ここでは、日本のバイオダイナミック農法の取り組みについて紹介していきます。

バイオダイナミックファーム トカプチ

バイオダイナミックファーム トカプチは、北海道で4カ所370ヘクタールもの広さの畑でバイオダイナミック農法を取り入れた栽培を行っています。肥料などを他から持ち込まず、生産に必要な資源は全て農場でまかなっているほか、牛舎のすぐそばに工房を構え、ヨーグルトやチーズなどの乳製品加工も生産しています。

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ソフィア・ファーム・コミュニティー

ソフィア・ファーム・コミュニティーは、北海道でCSA(Community Supported Agriculture)という仕組みでバイオダイナミック農法を実践するコミュニティファームです。研修生やボランティアも世界中から受け入れています。

>>詳細はこちら

ぽっこわぱ耕文舎

ぽっこわぱ耕文舎は、阿蘇のふもとで30年以上前からバイオダイナミック農法にご夫婦で取り組んでいるという農園。5ヘクタールほどの農地を輪作体系で管理しており、緑肥などを使って永続的な循環型農業を実践しています。毎年、日本の気候に合わせた農事暦である「種まきカレンダー」も発行しています。

>>詳細はこちら

地球を癒し人を元気にする農業

この記事ではバイオダイナミック農法の特徴やメリット・デメリットなどについて解説しました。シュタイナーの考えについて、少し難しそうと感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は彼が伝えたいメッセージは「地球を癒し人を元気にする農業」を目指すというシンプルなことでした。

日本国内で実践している農園もありますので、少しでも興味を持った方は実際に畑に足を運んでみてはいかがでしょうか。より詳しく知りたいという方はバイオダイナミック農法の関連書籍も出ていますので、ぜひチェックしてみてください。

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