世界的な食料情勢の変化により、食料安全保障上のリスク増大が懸念される
近年は世界的な人口増加や新興国の経済成長などにより、食料の需要が増加している。一方、2022年は気候変動・異常気象の影響から作物の収穫量が減る国が多く、食料供給への大きな打撃となった。加えて、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略も影響を与えている。需給率の変動やウクライナ侵略など複数の要因により、食料や資材の価格高騰や輸出の停滞が続いたことで、日本の食料自給率の低さがより浮き彫りになった。
また、資材価格の高騰に対し、日本政府は予備費や補正予算を活用して補う施策を実施。飼料や肥料の多くが輸入に依存していることから、国産の飼料の利用拡大や扱う肥料の種類の増加が課題となっている。これにより、農産物・食品への価格転嫁は、今後避けられないことが予測できる。
今年は特に価格転嫁が顕著になった。同時に生産者が販売価格を値上げできる環境・体制を整えることが今求められている。これには、生産者と消費者の間での透明性の高いコミュニケーションが不可欠だ。価格転嫁の進め方一つをとっても、優れた解決策を見つけることが課題となるだろう。
農林水産物・食品の輸出額が過去最高を更新
2022年の農林水産物・食品の輸出額は前年に比べ14.3%増加し、1兆4148億円と過去最高を記録した。農産物の輸出が増加していることから、世界市場へ販路を広げることや、国内の生産力を高めることが必要であることがより明らかとなった。一方で国内市場は縮小傾向にある。日本政府は輸出額の目標を「2025年までに2兆円、2030年までに5兆円」と掲げている。この目標を達成するために、輸出促進法の改正や国内外での農産物の需要増加に対応できる体制づくりへの取り組みが急がれている。
海外への輸出が増えたことによる増益は日本農業に明るいニュースだが、国内市場の縮小は見逃せない。国内の消費者にも目を向けながら、農産物の品質向上やブランド化を進め、付加価値を高めることが重要だ。
みどりの食料システム戦略の実現に向けて「2030年目標」を設定
新たに設定された2030年目標の概要
取り組み分野 | 目標 |
---|---|
温室効果ガス削減 | ・農林水産業のCO2排出量10.6%削減 ・農林業機械・漁船の電化・水素化等技術の確立 (1)既に実用化されている化石燃料使用量削減に資する電動草刈機、自動操舵システムの普及率50%を実現 (2)林業機械の使用環境に応じた条件での技術実証又は実運転条件下でのプロトタイプ実証 (3)小型沿岸漁船による試験操業を実施 ・加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合50%を実現 |
環境保全 | ・化学農薬使用量(リスク換算)10%低減 ・化学肥料使用量20%低減 |
水産 | ・ニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人工種苗比13%実現 ・養魚飼料の64%を配合飼料給餌に転換 |
参考:農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書 概要」内「トピックス2 動き出した『みどりの食料システム戦略』」
いま日本政府は「みどりの食料システム戦略」を推進している。みどりの食料システム戦略とは、食料・農林水産業の生産力を向上させつつ、持続できる体制を確保することを目的とした政策だ。2050年までに化学肥料の使用量を30%減らすことや、化石燃料を使用しない園芸施設への完全移行などの目標が掲げられており、持続可能な農業を目指した政策が展開されている。これらの実現に向け、新たに「2030年目標」が設定された。2050年の目標に対する中間目標という位置付けである。みどりの食料システム戦略は環境への負荷を低減し、農業のスマート化を実現する足がかりだ。日本政府はこの政策を国民に広く知ってもらうことに加え、理解してもらう方針を強化することを決めた。それにより、国民全体の関心や意識の向上と農業への支持が得られることを期待している。
持続可能な農業への取り組みは、今後の農業を支えるうえで重要だ。環境保護と生産性の向上を両立させるための技術革新が求められる。引き続きロボットやAIなどを活用するスマート農業が現場で普及することがポイントにもなるだろう。
農業経営体数は5.4%減少、農業従事者の平均年齢は68.4歳に上昇。担い手の育成・確保は喫緊の課題
個人農家や農業法人などを含めた2022年の農業経営体数は前年に比べ5.4%減少し、全体で97万5000経営体であることが判明した。個人農家の数は減少したが団体経営ではほぼ横ばいで、そのうち株式会社や有限会社として営む法人経営の農家の数は1.9%増加している。また、農業従事者の平均年齢が68.4歳と上昇傾向にあることから、若年層の雇用獲得や新規就農促進が重要課題だ。新規就農者への支援策として、営農技術の習得や資金確保のサポートが進められている。また、女性が働きやすい環境整備も課題の一つ。農業従事者全体の約4割を占める女性が、家庭と仕事を両立できる労働環境が求められる。
若者や女性の新規雇用・就農を生むには、働きやすい環境づくりが不可欠だ。技術サポートや経済的支援だけでなく、ライフスタイルを尊重し、柔軟に働ける環境が農業にも求められる。新しい世代の農業従事者を育てるためにも、国はよりいっそう農業全体をサポートする必要があるだろう。
2022年に発生した自然災害による農林水産関係の被害額は2401億円
2022年は日本各地で大規模な自然災害が発生し、農作物や農地、農業用施設に甚大な被害が及んだ。特に福島県沖を震源とする地震に加え、大雨や台風などによる被害が広範囲であることから、気候変動の影響が顕著にあらわれていると言える。気候変動に対応できるように、たとえば高温に強い品種など、新たな適応技術の開発・導入が進められている。また、農業保険の加入を推進するなど、生産者自身が災害に備えるための対策も求められている。
自然災害による被害が年々深刻化するおそれがあることから、持続可能な生産技術の発展がますます重要になると思われる。生産者が個々に対応するのは難しく、国や自治体による支援が求められる。災害時に保険金が下りる収入保険・農業共済へ加入していない生産者は、自身を守るために加入を検討すべきだろう。
まとめ
2022年度農業白書では食料安全保障や輸出拡大、持続可能な農業への取り組み、気候変動への対応など、多岐にわたる課題と対策が示された。日本農業は経済を支える重要な産業であり、その持続を実現するには生産者・消費者・政府が一体となって協力していくことが必要だ。今後も政策の進展と現場の努力を注視しながら、当事者としての意識を持ち日本農業の動向に着目しよう。
参考:農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書」
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