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人手不足時代に必要な経営とは 経営者が「外国人採用」「機械化」「組織運営」を語り尽くす!【酪農家座談会】

人手不足時代に必要な経営とは 経営者が「外国人採用」「機械化」「組織運営」を語り尽くす!【酪農家座談会】

人手不足時代にも応募者が集まる酪農家は何をしているのか。採用や定着、育成への工夫は何か、人手不足を補う機械化についてどのように考えているのか。マイナビ農業では酪農家4人に集まってもらい座談会を実施しました。異なる地域、異なる目線ながら、4人の酪農家に共通しているものとは何だったのでしょうか。

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【プロフィール】<五十音順>
■足立松吾さんプロフィール

株式会社SUNRISE CATTLE FARM 取締役
大学卒業後、愛知県の牧場での修業を経て家業の有限会社足立牧場に就職。2019年にSUNRISE CATTLE FARM(サンライズキャトルファーム)へ社名変更。従業員10人。搾乳・和牛・飼料・堆肥(たいひ)の4部門があり、約300頭の乳牛を飼育している。

■大山絵里華さんプロフィール

株式会社グランドワンファーム
約10年の美容師経験後、親族の牧場の手伝いを機に就農。グランドワンファームは従業員34人。ロータリーパーラーを2009年に導入したり、バイオガスプラントを自社で持ったりするなど、設備投資にも積極的。搾乳・哺乳・飼料・事務の4ユニット、約900頭の乳牛を飼育。

■俵良介さんプロフィール

有限会社エル・ファーム・サカキバラ 知多農場 農場長
エル・ファーム・サカキバラは知多農場(乳牛300頭、肉牛1300頭)、一富士農場(乳牛約500頭)の2農場。従業員53人(パート・実習生含む)。知多農場にて農場長を務める一方、妻とブランド牛を約60頭肥育。第16回知多牛枝肉共励会では最優秀賞を受賞。

■丸山純さんプロフィール

朝霧メイプルファーム有限会社 代表取締役社長
大学卒業後映像制作会社に勤務。牛に一切かかわらないまま父親の経営する牧場に就職。10年にわたる酪農修業を経て、現在は社長に就任。富士山と酪農の魅力を世界中に届けるべく、日々まい進中。著書に「こうすれば農場はもっとうまく回る」(Dairy Japan社)等。

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応募が集まる牧場がやっていること

酪農の仕事に何を求めているのか

丸山:朝霧メイプルファーム(静岡県富士宮市)は10年以上前から毎年、合同就職セミナーへ出展してきました。以前はブースの6席が常に満席でしたが、ここ数年、ちらほらとしか来なくなってしまって。

俵:エル・ファーム・サカキバラ(愛知県半田市)はセミナーに出てオープンに募集するというよりは、受け身の採用でした。それも「あれ、いつのまにか……」という感じで減っていって。今は採用活動に本腰を入れています。

足立:サンライズキャトルファーム(岐阜県高山市) でも、10数年ほど前はインターネット媒体に求人情報を出すとだいたいは応募が来ていました。ですが8年くらい前からリアクションが薄くなってきたイメージがあります。

大山:グランドワンファーム(北海道紋別郡)は、みなさんとは違って人材を選べた時期がなかったんですよ。「北海道で暮らしてみたい」という方に対して、酪農の仕事に興味を持ってもらって採用するという感じです。

丸山:酪農は一定数のコアなファンを持つ、ある意味で特殊な業界だと思うんですよ。大山さんのグランドワンファームの場合、さらに「北海道」という「場所」に対するファンが来るのですね。

大山:そうですね。都会でちょっと気持ちが乾いちゃった子たちが動物に癒されに来ます。最初は無表情だった子たちが3年目くらいには、涙を流しながら“推し牛”の分娩(ぶんべん)や出荷を見る。

丸山:牛と仲良くならないと、なかなか続かない仕事だと思うし「お金を稼ぐため」という人はほとんどいない印象ですよね。

採用でおこなっている工夫

丸山:朝霧メイプルファームは酪農の魅力に加えて、牧場の成長や変化にも可能性を感じてもらいたいと思っています。社内風土を言語化した「クレド」などで、自分たちが大切にしていることを明確にして、そこに共感してくれる人に来てもらっています。松吾君のところはどうですか?

足立:まず牛に愛情を持ってもらえることが一番重要かなと。別れの悲しさもあるので「愛情を持っても愛着を持つな」と話していますが。そこから先は人それぞれにやりがいを見いだしてもらうイメージで。SNS活用も意識しています。

丸山:僕ら3人は酪農主体ですけど、俵さんのエル・ファーム・サカキバラは乳肉複合で規模が大きい。その強みはどのように訴求していますか?

俵:例えば、うちでは自分で育てた肉が一定等級以上なら、6次化の一環で運営する焼肉店で食べられるチャンスがあるんですね。そういった面でのやりがいもアピールしながら複合的に伝えていますね。

丸山:人気のある牧場の採用活用を見ていると、いろんな取り組みを紹介して、そこに可能性を感じさせるアピールがうまいと思います。その点、グランドワンファームもアピールが上手だと思います。

大山:うちは「今いるメンバーが何をしたら面白いか」を毎年更新していくイメージです。だから採用活動で気をつけてることは「うそつかない、背伸びしない、いい格好しない」。そのまんまでの勝負を意識しているので、相手もオープンに話してもらっているのかなと思います。

外国人人材にも高度な技術を期待!

丸山:朝霧メイプルファームは以前から外国人人材を採用しています。以前の技能実習制度は原則3年で帰国する決まりだったので、私たちも割り切って搾乳作業と掃除作業の担い手として働いてもらっていたんですが、育成就労制度に変わって、5年ないしはずっと就職できるようにになりましたよね(※)。
なので外国人も育成していきたい、高度なこともやってもらえる環境にしていきたいと考えていて、社員間で使っているチャットツール「LINE WORKS(ラインワークス)」の内容を、翻訳機能を活用して共有をし始めました。
みなさんのところは、外国人人材の育成方針って変わりましたか?

足立:僕も同じく今までは3年という縛りから単純作業しか任せられていなかった。それがここにきて日本人の採用が難しいという流れもあり、外国人の方にも色々やってもらいたいと思っています。「こういう仕事をしたら?」などと話し合って、今は哺乳を任せ始めています。

俵:エル・ファーム・サカキバラも「日本人だから」「外国人だから」というのが、ほとんどなくなってきています。仕事をこなせる外国人のスタッフは、日本人レベル以上。最近は「プロフェッショナルを育てる」という気持ちで、どんどん仕事を任せている状況ですね。

大山:うちは外国人も日本人も、なんなら社長も全員等しく作業してます(笑)。ただ過去に、外国人スタッフが帰国後して、母国での仕事にやりがいが見いだせなくなっていることが分かったんです。私は帰国後のことまで考えていなかった。なので、今後は3年で帰国する実習生だけを採用しようと考えています。皆さんと逆行してますね。

丸山:たまに、外国人の待遇の問題がニュースで取り上げられるじゃないですか。言語道断というか。ブラックな環境で管理している会社には、人なんか来るわけがない。昔は「お金を稼ぎたい」というモチベーションで働きに来る人が多かったかもしれませんが、これからは「ちゃんとした環境で心身健康に働きたい」という思いになっていくと思います。
※特定技能制度では外国人の在留期間が通算最長5年の「特定技能1号」と、在留期限の上限がない「特定技能2号」がある。農業は2号の対象となっている。

丸山:一方で、今まで日本人がやっていたことを外国人もやるようになると、日本人スタッフに何を期待するかですよね。

足立:サンライズキャトルファームは、まず各部署に長を置いていこうと。今はすべての部署にいるわけでないので。日本人がなるのか外国人がなるのかは適材適所だと思いますが。

俵:うちも責任者クラスが育ってほしいんですが、現状は定着に課題があります。要は「若い人」か「ベテラン」という感じで中間層がちょっと薄い。

丸山:うちは逆にベテランがまだいないんですよ。だから俵さんのところにいるような“20年選手”はどうやって育てていったのかなと思って。

俵:たぶん変人なんだと思う(笑)。根っから牛が好きな人が多くて。そういう人が仕事のいろんな部分にやりがいを持って、結果的に長く勤める傾向にあると思います。

丸山:そういうベテランの人は本当に財産だと思う。そういう人がいれば、きっと共感する変人も出てくるかもしれないし。

俵:変人が変人を呼ぶ(笑)。

大山:高め合えるやつですね!(笑)。

社員のための評価制度とは?

丸山:酪農の仕事って評価するのが難しいと思いますが、皆さんのところでは、どうやって社員を評価してますか?

大山:うちは従業員への評価を手紙で伝えているんです。他の従業員たちからのコメントもびっしり手書きで書かれるんですよ。今日持ってきました!

丸山:すごい! 決まりごとっぽくなく、本当に手紙みたいですね。

大山:一回、コンサルタントを入れて面談をしてもらったんです。けど、スタッフからは「私たちの日頃を知らない外部の人から言われてもうれしくない」と言われて。ほめられても指摘されても、「ちゃんと自分を見てもらえていることがうれしい」って言いますね。

足立:「良い・悪い」もちゃんと見て評価してくれるということ自体がうれしいんですね。

大山:面談もプロに一回任せたことがありましたけど「知らない外部の人たちとは話したくない」と。評価は中立かもしれないけど「自分が所属する会社の人と話したい」と言われて、結局自分たちでやることになったんです。だから従業員同士の関わりは、家族みたいな雰囲気ですね。

足立:いくら手紙でも、ネガティブなことを書くのは抵抗があったりする中で、ここまでざっくばらんにやり取りができるのはすごく良い環境。

丸山:大山さんのもすごいけど、松吾君からも昔「従業員と必ず1カ月に1回話をしている」と聞いて、すごいなと思った。僕も最近、必ず1カ月に1回は面談を強制的にでも設定して、テーマも決めないで自由に話す。これも実は松吾君からまねをして

足立:僕はプライベートでも仕事で何でも、現場の作業中ではなかなか伝えづらいことを、まず言ってもらうみたいな雑談的にやっているだけですね。

俵:僕もそんなにしゃべるほうではないですが、飲み会は好きなんですよ。なので従業員同士で酒を飲みながらざっくばらんに色んな話をしていますね。

丸山:決まりきったやつだと本音って出ないですからね。

俵:今までも何かの拍子に「実は……」とポロっと出るパターンもあった。なので、自分もちょいちょい意識してしゃべるようにしていますね。

「人がいないから機械化」は間違い?

丸山:僕は、機械化には人手の補充と生産性向上という2種類の目的があると思っています。けれども今は「人が来てくれないからロボットを入れざるを得ない」という話も結構聞くんですよ。

大山:北海道はまさにそうですね。海外のまねをして機械化・大規模化したはいいけれど、上手く使いこなせないしメンテナンスも出来ない。うちもどうしようもなくなってる機械があって、毎月修繕費は見たくないです……。

俵:うちは肉牛もやっているのですが、肉牛は機械化が難しいですね。なので酪農でロボット搾乳を導入して、手が空いた人手を肉牛の仕事に充てて牛を見る目を養ってもらう、とかは可能性としてあると思います。

丸山:ロボット搾乳で「楽をしよう」「人手を減らそう」という目的だけの人はあまりうまくいってないと言いますよね。ネガティブな動機付けだけで機械化すると結構うまくいかない。

逆に、ポジティブな使い方はありだと思っています。うちは牛の状態を知るためのウェアラブルデバイスを使っていて、妊娠率の複雑な計算をしてくれるので、なくちゃ困るくらい頼っています。
フレッシュ群(分娩から3週間ほどの牛たち)の世話をあえて新人に任せて、“見る目”の補助的にデバイスを使っています。

足立:うちも同じデバイスを使っていて、いろんなデータの共有や、単純に牧場の成績表作りでも助かっていますね。外部の人といろいろとディスカッションする中でも役立ちます。

俵:エル・ファーム・サカキバラも、一富士農場では使っていますが、自分の知多農場ではまだ。

大山:グランドワンファームは反すうと活動量だけを見るシンプルなものをずっと使っていました。ただ更新されなくなったので、新しいのを探しています。あと、まわりでは削蹄の枠場がはやっていますね。あれは値段の割に元もほぼ取れるし、長く使える。

足立:悪いという話はあまり聞かないですよね。

丸山:今そこそこの規模だと、どこの農場でもありますよね。自分たちで蹄(つめ)をケアしてあげることがよいことだと浸透しつつある。そういう意味だと以前は専門的だったものが一般に降りてくるような機械に僕らは興味があるのかもしれないですね。

資材高騰で変わった価値観

丸山:ここ最近の資材高騰で、僕の中では価値観が変わってきたんですよ。今までは規模拡大がすべてだと思っていたんですが、不確実なことが起きる中で、やみくもに拡大するより安定のほうが大事かと思って。そこで経営の中で牛以外のことに注目するようになってきました。例えば、今までは餌代を減らすことに目がいきがちでしたが、これ以上下げると生産性が下がる限界まで来たと思っているので、機械の修繕費を減らそうと取り組んでいます。皆さんは何かされてますか?

足立:僕も機械の修理や更新は大きなコストだと思っています。そこを自分たちで直すというスタンスですよね。
他は、預託牧場で後継牛を自分のところで作り、牛の生産性を上げるような取り組みもしています。さらに牛乳に付加価値をつけるため動いています。

俵:無駄のない餌管理の徹底ですね。高い餌を使っても、余らせて捨てたのではお金を捨てるようなもの。うちの社長は、おが粉がちょろちょろと落ちているのを見ると「お金が飛んどる」と言うんです。しっかりシートをするとか、現場としては、本当に基本的なことを徹底しています。

大山:うちは3年前くらいにコストを切り詰められるだけ切り詰めて、みんなが苦しくなった。そこでちょっと緩め、これから先も続けられるコストカットを目指している最中です。

酪農の本来の形

大山:私は今、本来の酪農家に求められるものが求められてきているのかなと。健康な牛を大事に大事に育てて、なるべく牛乳も出してもらって。

足立:「長命連産」ですね。

大山:はい。今は苦しい時期で“ふるい”にかけられている感覚があります。それを必死に踏ん張って、生き残ろうとしているイメージですね。

丸山:酪農って定番のやり方が全然ない。牛のことでわからないことが多すぎるし、人の能力によるところが大きすぎる。だけど、それが面白さで、伸び代だと僕は思っていますね。今日の話ではみんなからネガティブな話が全然出てこなかった。みんなバラバラなことをやっていても「つらいこともあったけど前向きに発展していこう」という気持ちが芯にある。ポジティブで、やる気があってめちゃくちゃ元気もらえました。

俵:普段は同じ業界の人としゃべる機会が少ないので、今回こうやって全国の牧場さんと話ができて非常に充実した会でした。

足立:僕も本当に力をもらえて、有意義な会だったと思います。本当に楽しかったです。ありがとうございました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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