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子育て世代の女性が安心して働ける職場づくりと看護師仕込みの人材育成術

子育て世代の女性が安心して働ける職場づくりと看護師仕込みの人材育成術

社会全体で深刻的な働き手不足が叫ばれる中、近年は女性が活躍できる社会が目指されるようになってきました。農業界でも、女性農業者の活躍を目にする機会は増えつつありますが、農林水産省がまとめたデータを見てみると農業従事者における女性の割合は、2015年の約43%から2020年は約43%と減少傾向にあるのが現状です。そうした中、看護師として女性が多い職場での経験を生かし、「女性が働きやすい職場」を体現するのが、徳島県にある株式会社カネイファーム取締役の矢野望美(やの・のぞみ)さんです。同氏と、夫で同社代表の矢野正英(やの・まさひで)さんにお話を伺いしました。

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葉物野菜の水耕栽培から農家レストラン運営まで

徳島県板野郡藍住町にある株式会社カネイファーム。同社ではフリルレタスを中心に、リーフレタス、サニーレタス、サンチュなどの葉物野菜を水耕栽培で生産しています。

メイン品目であるフリルレタスは、一般的なレタスである玉レタスよりも食感がしっかりとしているため、火を入れてもしなしなになりにくいといいます。また、葉先がギザギザしている見た目が特徴的で、お弁当を華やかにしてくれる脇役としての需要があるそうです。販売先の一つである生協ではリピーターも多く、年間で約150万パックを県内外に安定供給しています。

フリルレタス

また、自社農場で取れた野菜を振る舞う農家レストラン「農園直営旬感ダイニング アクリエ」の運営もしており、農家レストランと思えないようなおしゃれな外観とジビエのお肉をメインとしたフレンチ料理は、グルメサイトでも高評価を獲得しています。

農園直営旬感ダイニング アクリエ

代々続く梨農家から、葉物野菜へ切り替え

正英さんの実家は元々、地域で代々続く梨農家でした。しかし、父である先代からは「梨は長い目で見て下降していくと思う。自分で品目を考えておけ」と言われてきたといいます。

そこで、大学卒業後は国内の農業の現状を勉強しようと、農業資材の会社に約3年間勤務。ここでの業務を通じて、20年以上前にはほとんどやっている人がいなかった量販店との直接取引に勝機を見いだしたといいます。そこで梨のようにシーズンが決まっている品目では契約は取りづらいと考え、通年で栽培でき、常に在庫を持つことができる品目への切り替えを模索しました。

選択したのが、当時はあまり一般的ではなかった葉物野菜の水耕栽培。2005年にサラダほうれん草の生産を開始し、その後は300種類を超える品目を試験的に栽培しながら、現在の栽培形態に落ち着きました。フリルレタスなどを選んだ理由は、シーズンによって変化はあるものの60~90日で収穫できる栽培期間や、天候にも相場にも左右されないことによる安定的な収益性にあるといいます。

現在は徳島県をアボカドの産地とするために研究中

2010年ごろには看護師として働いていた望美さんも、事業拡大を進めるカネイファームに入社。従業員に子育て世代が多かったことから、女性が働きやすい職場づくりに力を入れていったといいます。具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか。

女性が働きやすい職場づくりとは

育児をしながらでも農業経営ができる環境づくり

女性経営者でもある取締役の望美さん自身も子育て世代になるので、まずは自身が子育てをしながら農業経営ができる環境づくりから着手しました。

例えば、従業員には各自、自分の担当した箇所の出荷状況や生育状況、定植率、廃棄率、責任者などをクラウド上に詳しく入力するようにしてもらったといいます。そうすると、望美さんの手元にあるタブレットへ自動的に送信され、自宅に居ながらハウスの状況を把握できるため、子育てをしながらでも指示出しをすることができるようになったといいます。

望美さんが持ち歩くタブレットへ届く生産状況

また、望美さんは看護師として働いていた経験を参考に、自分たちが現場にいなくても仕事が回るよう、人材の育成にも力を入れるようにしてきました。そのため、まずは生産や出荷、財務などを統括できるマネージャー、中間管理職にあたる主任、栽培や出荷のエキスパートであるリーダーといった役職を従業員に持たせるようにしたといいます。きちんとした役割を与えることは、一人一人に責任感を持たせることとなり、自然と自分で考えて行動したり、下の者へ指導をしたりできる人材へと成長していきました。

初めの頃は裁量権を託して業務を任せた分、作業効率や売り上げなどが従来よりも悪くなってしまったといいます。とはいえ、自分たちが現場に戻るようになってしまっては人材は成長しないし変われないと目をつぶり、従業員に任せ続けました。

数年後にはこの人材育成が功を奏す出来事も。望美さんが3人目の出産で現場から離れているタイミングに、正英さんにガンが見つかり入院したことがありましたが、問題なく会社はまわり続けたといいます。現在では、毎日あがってくるデータは見ますが、現場は任せることができるので、営業など会社の売り上げを伸ばすことや新規事業の方に注力することができているそうです。

作業状況が分かるデータ

仕事に人を合わせるのではなく、人に合わせた仕事を

「昔は、8時から17時の仕事に来れる人が働くといったように、仕事に人が合わせていました。しかし、それでは子供がいたら働くことができません。子供が熱でて急に休むこともあるのは仕方ないよね、というふうに一人一人に合わせて仕事も時間も各自で決めてもらっています」(望美さん)

急な休暇や早退が周囲から冷たい視線を浴びることが一般的だった頃から、カネイファームでは従業員一人一人と話をして、要望に合わせた出勤体系を取るようにしていました。子供の帰宅にあわせて退勤時間がそれぞれ異なるのは当たり前。従業員には「休んでも大丈夫だから、出勤した時は頑張ってね」と話し、子供の体調の事情などで急に休むことも互いに許容するといった職場の雰囲気づくりにも注力したといいます。

いち早く、こうした意識醸成を進められた背景には、望美さん自身が子育て世代という点もありますが、正英さんが目指していた、水耕栽培で実現する安定的な生産・供給といった農業のスタイルと相性が良かった点もあるといえるでしょう。1週間ごとの収穫量と必要出荷量をおおよそ予測することができるので、従業員の間で自主的に、いつ人が少ないからこの日に頑張ろうといったような会話が生まれ、欠品なく上手く納品ができているといいます。早く帰る分頑張ろうと、一人一人の仕事に対する集中力が上がり、生産性が高い状態で作業が進んでいます。

同社ではこのほか、産休・育休・家族休(子供や家族の行事ごとでの休み)の取得も推奨しており、これまでに5人が取得している実績があるといいます。

働きやすい職場を実現するために大切にしていることとは

「考え方は人それぞれです。実際、派手な事は一切していなくて要望や相談を聞いてそれを改善できるように努めてきただけです。その結果が現在の職場に生きているのだと思います」と望美さん。

ネットの普及などコミュニケーションを取る機会が減っている現代に、改めて話をするという部分を大切にし、働きやすくなるように改善を続けてきたといいます。

管理職待遇の従業員が産休と育休で長く現場を離れて戻ってきた時は、「これだけ休んでおいて、戻ってきて人の上に立っていいんですかね」と相談されたこともあったといいます。それでも望美さんは「社員であるあなたが率先して休むことでみんなが休めるようになるんだから気にすることないよ」と話をしたそうです。

こういったコミュニケーションが働きやすい職場づくりにつながっているのではないでしょうか。

取材中も、お二人の仲の良さが伝わってくる

取材の中で、お二人は矛と盾であるという話も出ました。実際、元営業マンで売り上げを上げるために動いたり、ビジネスチャンスを感じ取って新しいことに挑戦したりすることが得意な正英さんと、元看護師で社員の労務管理や商品の管理などを整理していくことが得意な望美さん、2人が夫婦であり経営陣としているからこそ、新しいことに挑戦しながらも、働きやすい職場と呼ばれるカネイファームが成り立っているのです。現在は、徳島県を新たなアボカドの産地とするために研究会を立ち上げたといいます。矢野さん夫婦の挑戦から目が離せません。

取材協力

株式会社カネイファーム

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