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飲食店が長続きしない地域で、農家カフェ経営10期目を迎える女性農業経営社者

連載企画:農業女子が農業女子にインタビュー

飲食店が長続きしない地域で、農家カフェ経営10期目を迎える女性農業経営社者

農業女子プロジェクトメンバーでもある筆者が、活躍する農業女子にインタビューする企画の第一弾。家庭に、農業に心血を注ぐ女性農業者にスポットをあて、日々の生活や農業経営に奮闘する模様をお届けします。
今回は、鹿児島県南さつま市でラッキョウの栽培、加工、そしてカフェ経営と精力的に活動する小宮智子(こみや・ともこ)さんにお話をお聞きしました。本記事がご自身の農業経営を振り返り、よりよいものにしていくきっかけになれば幸いです。

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小宮智子さんプロフィール

プロフィール
約30年前、専業農家2代目のご主人と結婚。看護師として働きながら4人の子供を育てあげる。退職後はご主人とともにラッキョウ2.3ヘクタール、キュウリ7アール、コメ3アール、トマト3アール、初恋トマト4アールを栽培。ラッキョウピクルスやラッキョウドレッシングなど加工品の製造、販売も手掛ける。また、作物の魅力やおいしい食べ方を提案する農家カフェ「mojo-cafe357」も経営。令和元年より鹿児島農業女子プロジェクト参画。

地元のものが地元で買えないことに疑問を感じた

筆者:就農の経緯を教えてください。

小宮さん:専業農家の夫と結婚して、子育てをしながら看護師を続けていましたが、看護師の代わりはいても母親の代わりはいないと考え、家族の時間を大切にするため退職しました。退職後、ふと、地場の特産品が地域内で販売されていないことに疑問を持ちました。地域内で農産物が流通しなかった理由として、直売所がなく、販路はJAか市場の二択だったことが理由です。大量の農産物をさばくためには販売に手間をかけられません。地元の人においしいものがたくさんあることを知ってもらうために地域内で農産物を流通させたい、ラッキョウの観光農園を作りたい、農家民泊を始めたい、これらを実現するために就農しました。現在は農産物の栽培を行う小宮357ファーム、飲食・加工・小売りを担う加世田万世の二つの会社の経営をしています。

日本三大砂丘の一つ 吹上浜で栽培する「浜ラッキョウ」

ラッキョウ

筆者:現在栽培されているラッキョウについて教えてください。

小宮さん:私たちが暮らす南さつま市は、薩摩半島の西に位置します。吹上浜には吹上砂丘という砂丘があります。その砂地を生かし浜ラッキョウを栽培しています。大粒で食べ応えがあります。ミネラル豊富でシャキシャキとした食感が特徴です。

筆者:ラッキョウ栽培はどんなスケジュールで行われているのですか?

収穫の様子

小宮さん:9月ごろにラッキョウの種球を植え始め、一部を1月~2月ごろに若採りしてエシャレットとして出荷します。4月~6月は本格的な収穫期に入り、収穫した一部を選別して次のシーズンの種球とします。葉を切り落とす作業、種球の選別は全て手作業。収穫量は45トンにもなるのでなかなか大変な作業です。最近、作業台を新調して、腰の負担が少なくなりました。日々、改善点を見つけできることはすぐに取り掛かるようにしています。

筆者:主な出荷先はどこになりますか?

小宮さん:農協を通して関西に出荷しています。同時期の関西にはニンニク産地として有名な鳥取産のラッキョウも多く出回るため、少しでも早い時期に出荷するなどの工夫をしています。そして、実は九州にはあまり出回っていないので、九州をマーケットに考えるのも一つの手なのではないかと考えています。

収穫期の短いラッキョウを1年中食べてもらいたい

筆者:ラッキョウの加工品について教えてください。

小宮さん:経営するカフェの一角を使い、加工品を製造しています。塩漬けや甘酢漬け、ドレッシングなどを製造しています。ラッキョウが収穫できるのは2カ月間だけと、シーズンがとても短いので、1年中ラッキョウを食べて欲しいという思いで製造しています。加工品製造に限ったことではないですが、新しいことを始める時にはプレッシャーを感じます。農業収益の一部を投資するので、ちゃんとやらなきゃと思います。それでも失敗もつきもの。加工過程で、大量のラッキョウを無駄にしてしまったこともあります。その時はラッキョウに対しても本当に申し訳ない気持ちになりました。

作物の魅力を伝えるためのカフェ

カフェ「mojo-cafe357」内観

筆者:経営する農家カフェについて教えてください。

小宮さん:10年ほど前に、県立吹上海浜公園の一角に開業したのが「mojo-café357」です。
出荷できない農産物を使い、メニュー開発していこうと開業しました。他の農家の方からも規格外の野菜を仕入れることで、少しでも農家の役に立ちたいと考えています。気軽に立ち寄れる場所になればいいなと考え運営しています。万之瀬川と、サンセットブリッジを眺めることができ、夕日もとてもきれいに見える場所です。栽培する作物の食べ方や魅力を伝えたいと思いながらカフェの運営をしています。新鮮な野菜はもちろん、調味料も地元産のものにこだわっています。材料もすべて値上がりして大変な状況ですが、こだわりは捨てられません。

ちなみに「357」という数字ですが、3には開発、5には発展、7には飛躍という意味があると聞いたことがあります。一次産業である農業からさまざまなことが展開していくことを願い社名やカフェの名称に「357」をつけました。

カフェの目の前に架かるサンセットブリッジ

筆者:この場所で、以前も他の方が飲食店を経営されていたけれどなかなか長続きしなかったということをお聞きしています。もう少しで10年ということで、3年で閉業する飲食店が多い中、長い年月営業できている理由はありますか?

小宮さん:地域の方に対して商いをしているから長続きしているのかもしれません。一度きりの新規のお客様を大勢呼び込むのではなく、いつも顔を出してくれる常連のお客様が増えたらいいなと考えています。そんな思いが伝わっているのか、よく地元の方が来てくれます。料理を提供するだけではなく、人と人が出会いつながる場にもなっています。

この場所に来れば私に会えると思って足を運んでくれる方も。カウンター越しに、お客様が楽しく過ごしてくれているのがとてもうれしいです。私がやりたかったことはこういうコミニュティを作ることなんだと気づきました。カフェの内装は大工だった父が作ってくれました。そしてカフェにあるインテリアなどは常連さんからの贈り物もあります。私一人でつくった場所ではないからこそ、大切にしたいと考えています。

筆者:農業と飲食業では違った苦労もあるかと思うのですがどうでしょうか?

小宮さん:いいことなのですが、夏の繁忙期は忙しすぎてスタッフが疲れてしまうことも。スタッフにはカフェだけではなく、農業の方も仕事をしてもらうのですが、カフェよりも畑や出荷作業の方が自分のペースでできるからいいと言われることもありました。(カフェは)農業と違い、いつどれだけの人が来るなど予測できないこともありますから。

そしてスタッフを雇うことの大変さもあります。スタッフの人件費を捻出するために、自分はさらに働かないといけないことも。それでも雇用を生み出し、少しでも地域に貢献したいという思いは変わりません。

女性農業者として大変なこと

筆者:女性だから……ということはないかもしれませんが、大変だなと感じることはどんなことですか?

小宮さん:夫は畑で栽培するのが仕事。畑仕事が終わり、家に帰り晩酌をしている姿を見ると、こっちはまだ仕事が終わっていないよと思うこともあります。注文のやり取りや、出荷作業はもちろん、家に帰ると主婦として家の仕事も。大変だなとは思いますが、夫は夫で頑張ってくれているので仕方がありません。忙しいとか、疲れたとかもちろん思うのですが、それを苦と思うことはありません。どうやって乗り越えようかとワクワクします。

これからについて

筆者:長年農業や加工、カフェ運営と手広く手掛けてきた今、今後の展望などはありますか?

小宮さん:まだ少し先のことになりますが、事業継承を考えています。息子は現在、ネギの生産などを手掛ける会社を経営しており、夫も自分の仕事が落ち着いている時は息子の仕事を手伝っていこうと考えているようです。息子の考えで、土日は休みの農業経営をしたいというのがあるので、管理に手がかかるハウス栽培は行わない方針です。

トマトの栽培も今期でやめる予定です。カフェもそうですが、続けるということは大変なことです。必要に応じて何かをやめるという決断も必要だと感じています。そして就農当初から変わらないのが、農業を主軸に地域を盛り上げていきたいということ。これからも農業の可能性を伝え、活躍する農家が増えていけばいいと思います。

取材後記

今回取材を通して、これまでの活動、そして動いているからこその葛藤もお聞きすることができました。女性農業者である筆者も共感できる点がたくさんありました。また、先駆者としてさまざまな経験をされている小宮さんから気づきや学びも多くあり、農業者同士が交流することはそれぞれの農業経営にとって必要なことなのだと改めて感じました。今後も、さまざまなフィールドで活躍する女性農業者にお話をお聞きしていきたいと思います。

取材協力

株式会社加世田万世

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