みなべ町では早期発見に懸賞金1万円!
クビアカツヤカミキリはコウチュウ目カミキリムシ科に分類され、成虫で体長2~4センチ。中国、モンゴル、朝鮮半島、ベトナムなどに分布し、光沢のある黒い体と赤い胸部が特徴だ。卵から成虫になるまでは1~3年を要し、日本国内では約2年で成虫になる個体が多い。
その繁殖力、拡散能力はすさまじく、被害が極めて広がりやすい。全国有数のウメ産地であるみなべ町にあり、害虫防除の技術開発なども担当している和歌山県果樹試験場うめ研究所の研究員、裏垣翔野さんは次のように話す。
「クビアカツヤカミキリは産卵数が非常に多く、飼育下では1匹のメスの産卵数は平均350個、最大1000個以上の個体も確認されており、繁殖力が非常に高いんです。産卵場所は主に枝や幹の樹皮の割れ目などです。成虫の移動距離は年間2、3キロと推定されており、車などにとまって長距離を移動することも考えられます」
幼虫は、幹の表面から少し内側にある内樹皮の部分を食べて成長する。内樹皮は栄養分や水分を運ぶ役割を担っているため、幼虫が食害するとそこから先の枝が枯れるといった被害が見られる。被害を食い止めるためには、早期発見・早期防除が不可欠である。
全国のウメ生産量の約7割を占める和歌山県では2023年に、ウメの産地が多い県中部で被害が確認された。その県中部にあるみなべ町では、幸い現時点(2024年5月末)では、まだ被害は確認されていない。しかし同町の農家団体「みなべ町農業士会」は、早期発見を呼びかけるため、幼虫発見の目じるしとなる「フラス」を見つけたという通報に1万円の懸賞金を支払う対策をスタートさせた。フラスとは、幼虫が木の内部から押し出す排出物で、幼虫のふんに木くずが混ざったもの。フラスがあるということは、幼虫がいる証拠だ。駆除徹底のため、ウメだけでなく、庭木や公園のサクラなど町内の樹木全てを懸賞金の対象とした。フラスを対象にした懸賞金は全国的にも他に例を見ない。
幼虫を探す手がかりとなるフラスを探すコツ
フラスをきっかけにクビアカツヤカミキリの幼虫を見つけることができれば、その増殖を抑えることができる。まだ発見されていない地域でも、フラスがないかチェックすることが必要だろう。そこで、フラス発見のコツについて裏垣さんに聞いた。
まずは園地などをくまなく探すことが重要だが、いくつかポイントがある。
クビアカツヤカミキリの幼虫は根元から1.5メートルぐらいの主幹や主枝といった太い枝に侵入することが多いが、2メートルを超える高さや直径5センチ程度の枝にも注意が必要だ。その枝や幹に、うどん状またはミンチ状のフラスがついていれば幼虫がいると推定される。
「時間が経過すると雨風でフラスが風化する場合もあるので、うどん状やミンチ状になっていない場合もあります」(裏垣さん)
フラスが地面に落ちてしまっている場合もあるので注意が必要だ。フラスの確認しやすい時期は3月下旬から11月。表皮の亀裂から排出されたものや、株元にたまったものもある。疑わしきものを園地などで見つけたら、まず写真に撮って、袋に採取して地域の振興局農業水産振興課など市町村の窓口、またはJAに連絡してほしいとのこと。
被害防止対策
フラスを発見したら、その上の幹や枝の侵入孔を探し、太めの針金や千枚通し、マイナスドライバーなどでその中のフラスをかき出し、スプレー式の農薬を注入する。また、樹皮下を掘って幼虫を探し出して捕殺するほか、脱出を阻止するためのネットで幹を被覆する方法などがある。もちろん、成虫を発見した場合にはその場で捕殺する。
しかし、最も効果的で抜本的な方法は、被害に遭った木を切ってしまうことだ。この場合、さらに根も抜いて除去したあと、破砕したり焼却処分したりする必要がある。
これには費用がかかり農家の負担も大きいため、みなべ町では被害樹木の伐採、抜根で3万円の補助をする制度を設けている。さらに和歌山県にも伐採、抜根で3万円を補助する制度があり、町の補助と合わせると合計6万円が支給されることになる。
クビアカツヤカミキリがまだ確認されていないという地域はあるものの、未確認地域への侵入がいつあってもおかしくない。遠くまで飛び、多くの卵を産むという拡大要因を持っているだけに、被害の拡大防止には早期発見・早期防除が極めて重要である。果樹だけでなく、サクラも被害を受けている。なるべく多くの人が関心を持ってその発見の方法を共有することで、地域での被害を食い止めることにつながるだろう。この記事を読んだ皆さんも、フラスの発見など少しでも異変を感じたら、行政などに連絡してほしい。
画像提供:和歌山県果樹試験場うめ研究所