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センチュウとはどのような害虫? 生態や防除方法を農家が解説

鮫島 理央

ライター:

センチュウとはどのような害虫? 生態や防除方法を農家が解説

防除が難しい害虫の代表格であるセンチュウ。連作を続けていると、土壌中のセンチュウが増えることで奇形や枯死が起き、作物の減収につながるなどの被害が出てしまうこともあります。肉眼では見ることができないほど小さな害虫のため、被害に気づいた頃にはもう手遅れということも少なくありません。本記事ではセンチュウの生態や特徴、有効な駆除・予防方法である農薬散布や土壌消毒についても解説していきます。ぜひ本記事を参考に、適切な対処にお役立てください。

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センチュウの生態と特徴

よくセンチュウは防除が難しいと言われます。それもそのはず。センチュウの体長は最大でも1mm弱と小さく、肉眼ではチェックすることができません。そのため、気づいた頃にはセンチュウの被害が出てしまうというわけです。

センチュウは「線形動物門」に属する動物類の総称で、わかっているだけでも約2万種類の仲間がおり、動物界で最も繁殖している生き物です。

体は細いひも状であり、触手や足はありません。基本的に無色透明で小さく、肉眼で見ることは難しいでしょう。また、雌雄異体で有性生殖により繁殖しますが、種類によっては単為生殖をするものも確認されています。

繁殖力の高いセンチュウは、目に見えないだけで、土壌中に莫大(ばくだい)な数が生息しているのです。

センチュウが生息している場所

センチュウは世界中のありとあらゆるところに生息しています。
約2万種類もいるセンチュウたちですが、大きく二つのタイプに分類されていて、それぞれ寄り付く場所が異なります。

自活性センチュウ

有機物の分解物や細菌を餌にして生きるセンチュウです。
山や野原、畑や砂地、海や川などさまざまな場所に生息しています。

寄生性センチュウ

動物や植物に寄生して生きるセンチュウです。
基本的に農作物に害をなすのは、この寄生性センチュウです。

人体への影響は?

一般的に畑などの土壌に潜み、植物に寄生するセンチュウは、人体に悪い影響を与えることはありません。一方で、熱帯や亜熱帯地域では、糞線虫症(ふんせんちゅうしょう)という感染症がみられるようです。

糞線虫に寄生されることによってかかる病気で、まれに人から人にうつります。
原因は汚染された土壌に直接触った時に、糞線虫が皮膚を貫通して体内に入ることで、皮膚のかゆみ、赤み、下痢、腹痛のほか肺の異常が起こることもあります。

免疫機能が低下している場合は、治療を行わないと重症化し、最悪死亡することもあると言われています。

センチュウが発生しやすい作物を種類別に紹介

農作物に被害をもたらすセンチュウには、ネコブセンチュウとネグサレセンチュウの2種類があります。

ネコブセンチュウは多犯性で多くの作物に寄生し、「ねこぶ」という、根っこにコブ状の変質した細胞を形成します。根菜類では、身割れや大幅な減収などの被害をもたらします。

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一方ネグサレセンチュウは植物体内を移動しながら加害し、褐変や壊死(えし)、奇形を引き起こすことがあります。

ネコブセンチュウ

ネコブセンチュウが発生しやすい作物は次の通りです。

◯そ菜類
トマト、ナス、ピーマン、ホウレンソウ◯根菜類
ニンジン、サツマイモ
◯芋類
サツマイモ、ヤマノイモ、バレイショ◯花き類
シクラメン、カーネーション、バラなど

ミナミネグサレセンチュウ

ミナミネグサレセンチュウとは、九州など暖かい地域でよく見られるセンチュウです。発生しやすい作物としては、サトイモやコンニャク、バレイショなどが挙げられます。

キタネグサレセンチュウ

キタネグサレセンチュウとは、関東以北の涼しい地域でよく見られるセンチュウです。発生しやすい作物としては、ニンジンやゴボウ、大根、レタスなどが挙げられます。

センチュウの駆除におすすめの殺虫剤・農薬

センチュウは肉眼では確認しづらく、大量にいることから、手で捕まえたりすることはできません。殺虫剤や農薬を使って駆除や予防をすると良いでしょう。ここでは、おすすめの薬剤について、いくつか紹介していきます。

ネマトリンエース

ネマトリンエースは粒剤タイプの農薬で、畑にすき込んで使います。
殺虫効果はもちろん、センチュウが作物の根っこに侵入することを防いだり、センチュウの発育を抑制したりする予防効果もある便利な薬剤です。

適用作物も範囲が広いほか、ハダニやアザミウマ、コナジラミやアブラムシにも有効です。

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ラグビーMC粒剤

ネコブセンチュウや、ネグサレセンチュウ類に高い効果がある薬剤です。マイクロカプセル製剤で、ゆっくり時間をかけてカプセルが溶けるので、残効性も高く、栽培期間が長い作物にも向いています。

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NCS

NCSは液体タイプの薬剤で、土壌薫蒸剤の一種です。センチュウのほか、雑草や病気にも有効です。
土壌中で薬剤が蒸発し、ガスが放出されるので、耕作面積が広いプロ向けの薬剤です。

>>詳細はこちら

殺虫剤や農薬を使わずにセンチュウを駆除する方法

センチュウを駆除する方法は、殺虫剤や農薬だけではありません。
自然の力を利用して、センチュウが潜む土壌を丸ごと消毒してしまう方法もあるのです。
特殊な器具が必要な方法もあれば、ビニールマルチがあればできる方法もありますので、それぞれ解説します。

土壌消毒とは?

土壌に含まれる病原菌微生物や害虫、雑草の種子などを死滅させて除去したり無害化したりすることを土壌消毒といいます。

消毒の対象となる病害は、センチュウによる根こぶ病、細菌性の青枯病、軟腐病、菌類によって起こる立枯病、根腐病などがあります。この他にも土壌に潜む害虫や雑草種子を死滅させることで、さまざまな病害虫による被害を抑えることが可能です。

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熱水消毒

ボイラーなど専用の設備で作った高温の水蒸気を、パイプやホースなどを通して圃場(ほじょう)に流し込むという方式です。蒸気放出用のホースを畝に設置したり、皮膜シートや重しが必要になったりするなど、大規模な設備投資が必要なため、一般家庭には不向きです。

高温の水蒸気を用いて殺菌消毒を行うため、環境に優しく毒性などもありません。殺菌消毒効果のほか、土壌のリフレッシュ効果もあるといわれており、花や果実の大型化や増収の期待もできます。

太陽熱消毒

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太陽熱消毒は、特別な薬剤や機材が不要で、他の手法と比べると準備が簡単です。また農薬を使用しないため、住宅密集地や無農薬・減農薬栽培でも取り入れることができます。ただし、自然の気候を利用するため、夏の暑い時期にしか行えません。

畑全体にたっぷりと潅水(かんすい)し、上からビニールフィルムをかぶせます。地中の温度が55~60℃になるよう、2~3週間ほどフィルムで覆ったまま放置しましょう。この際、フィルムの隙間(すきま)から水が入り込まないよう注意してください。

その後、ビニールフィルムを取り除き、2~4日ほど太陽光に当てて土を乾燥させたら太陽熱消毒の完了です。

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米ぬかを土に混ぜる(土壌還元消毒)

土壌還元消毒は微生物の力を利用して、土壌中の消毒を行うという消毒方法です。化学農薬を使わないため、環境に配慮した方法といえます。ただし、還元中はドブのような悪臭がするため、住宅地など人口密集地では避けたほうが良いでしょう。

消毒を行う範囲を決めたら、米ぬかやフスマを1平方メートルあたり1kgを均一に散布し、耕運機などで深くすき込みます。次に、土が湿る程度に水をやります。畝を起こしたらビニールフィルムや透明マルチで全体を覆い、3~4週間放置しましょう。
フィルムを外した後は土をかき混ぜたりせず、そのまま植え付けを行ってください。

コンパニオンプランツを近くに植える

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コンパニオンプランツという、栽培作物と相性の良い野菜や花を近くに植えるのも良いでしょう。
例えばマリーゴールドは、ネコブセンチュウを抑制する効果があります。
センチュウの種類によってコンパニオンプランツの種類も変わるため、より効果的に抑制効果を求める場合は土壌中のセンチュウの種類を調べましょう。

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センチュウを抑制するために気を付けること

センチュウの被害を抑えるためには、まずセンチュウを外から持ち込まないことが大切です。センチュウが寄生した作物を持ち込まないのはもちろんのこと、農作業のあとは長靴の裏や、農具、車のタイヤなどに付着した土をしっかり洗い落としましょう。

また、連作をすると特定の種類のセンチュウが増えてしまいます。連作を避け、輪作を心がけましょう。

石灰窒素を利用して土壌改良と消毒をする方法もありますが、栽培する作物によってはつるボケや樹ボケの原因になります。一つの方法だけを多用せず、さまざまなやり方を組み合わせて防除を行いましょう。

連作しがちな家庭菜園では要注意

センチュウの数が増えてしまうと、奇形や減収など農作物に大きな被害がでてしまいます。また、防除をするにしても、農薬を散布したり、土壌消毒を行ったりと、労力と費用がかかってしまいます。

センチュウ対策の基本は、センチュウを増やさないこと。連作を避け、輪作を行いましょう。また、外から持ち込まないようにしたり、被害が出たらすぐに対処することも大切です。

センチュウ被害は農作物の各産地でも普通に起こっています。耕作面積が狭く、連作しがちな家庭菜園では特に注意して管理しなくてはなりません。本記事を参考にして、センチュウ対策を行ってくださいね。

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