酷暑を逆手に!農研機構に聞く「太陽熱土壌消毒」の効果的な利用方法とは

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酷暑を逆手に!農研機構に聞く「太陽熱土壌消毒」の効果的な利用方法とは

酷暑を逆手に!農研機構に聞く「太陽熱土壌消毒」の効果的な利用方法とは
最終更新日:2019年08月06日

太陽熱を利用する「土壌消毒」は、多くの生産者の方にとってなじみ深いはずです。近年、土壌消毒は病害虫防除以外にも大きな利点を持つことが明らかになってきました。農研機構 西日本農業研究センター 環境保全型野菜生産グループ上級研究員の伊藤陽子(いとう・ようこ)さんに、そのメリットと失敗しない方法を伺いました。

太陽熱利用土壌消毒とは?

太陽熱利用土壌消毒とは、太陽熱エネルギーにより地温が上昇することで、病原菌や雑草の種子などを死滅させる防除技術です。

「太陽熱消毒技術は昭和の終わり頃には確立していました。宮崎県などの高温地帯では、暑過ぎて栽培ができない夏のあいだに、ビニールハウスを閉め切って、気温と地温を上げて害虫や雑草を退治する『蒸し込み』をして、秋作の準備をしてきました」と、伊藤さんは話します。

太陽熱利用土壌消毒の目的

  1. 土中の雑草の種子を殺し、雑草が生えないようにする。
  2. 土中にいる害虫の卵、幼虫、さなぎを殺す。
    ※キスジノミハムシ、カブラヤガ(ネキリムシ)、カブラハバチ、ヨトウ類、ハモグリバエ類、センチュウ類(ネコブセンチュウ、根腐れセンチュウ等)
  3. 土中の病原菌を殺す。
    ※ナス半身萎凋病、ナス半枯れ病、ホウレンソウ苗立枯れ病、ウリ類つる割れ病、イチゴ萎黄病、トマト青枯れ病、根こぶ病等。

地上部に比べて土中の消毒は難しいのですが、最も効果があった農薬「臭化メチル」が、地球温暖化につながる温室効果ガスにあたるとして使用が禁止されたため、現在は主に土壌燻蒸(くんじょう)剤のクロルピクリンなどが消毒剤として使われています。

しかし、それらの農薬は土中の多様な良い微生物相を壊してしまったり、独特の臭いを発生させるため住宅地に隣接する畑では使用が難しいという側面を持ちます。また、有機栽培のニーズの高まりなどからも、代替手段として研究が進み、各地に広まっていったのが太陽熱利用土壌消毒でした。

太陽熱利用土壌消毒には、土壌の微生物相を残して消毒ができるほか、有機JAS認証の規定から逸脱しない栽培方法をとれる、農薬のコストを削減できる…などのメリットがあります。さらに近年では、作物が利用できない形で存在している窒素やリン酸を利用しやすい形態に変化させる「可給化」のはたらきも持つことが分かってきました。

農研機構の実験によると、太陽熱利用土壌消毒を行った後の圃場では、行う前よりも基肥量を約2割減らせることが分かりました。有機栽培、慣行栽培の双方で利用できる手段として注目されつつあります。

太陽熱利用土壌消毒の方法

伊藤さんに、太陽熱利用土壌消毒のコツを教えて頂きました。

適期:一年で最も暑い、梅雨明け(7月中・下旬)から9月上旬くらいまで。暖地では、近年高温になるゴールデンウィーク期間でも可能です。

期間:平均して3週間程度。地中の温度を55~60度以上に保てる産地であれば、2週間以上でOK。

①全体を耕起し、畝立てをする

全体を良く耕し、次作に合わせて畝立てをします。この時、石灰窒素を施用する(100キログラム/10アール相当)と、1~2℃の地温上昇が期待できます。

②灌水/湛水する

地中への熱の伝わりをよくするため、畑全体に十分な水を与えます。水はけの悪い土壌でも、圃場容水量以上を目標にしましょう。湛水する場合は、畝が沈む程度まで入れて下さい。

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④地表面をビニールで被覆する

十分に水をやった後、ビニールフィルムで地表面を被覆します。専用のフィルムもありますが、使い古したマルチなどのビニール材も使えます。使い古しを再利用する場合は破れ目をふさいでおきましょう。
※灌水・湛水設備によっては、ビニールをかぶせてから水を与えることも可能です。やりやすい方法を選んで下さい。

伊藤さん:「台風や豪雨で飛ばされてしまわないよう、重石をしっかりと置きましょう。おすすめは、畑の形に合わせて置ける水袋です。ここで、土を重りに使うのはNG。消毒前の土が残ってしまうと、全体が再度汚染されてしまいます。マルチの穴は必ずふさいで、できるだけ隙間を作らないようにぴったりと張りましょう。特にこの後説明する土壌還元消毒や生物的土壌消毒では、酸素が入ると効果が落ちてしまいます」

⑤ビニールを除去し、播種・定植を行う

晴天が続けば2週間程度、通常3週間で消毒期間が終わります。ビニールを除去し、2~4日ほど干します。農作業に支障がなく、かつ、土壌表面が固まりきらない程度の乾き具合を狙って播種、定植をして下さい。

※注意点 消毒後の耕転について

消毒後にロータリーなどを使って土を耕転する場合、掘り起こす深さに注意しましょう。

伊藤さん:「あまり深く掘り起こしてしまうと、太陽熱消毒で温度が十分に上昇しなかった中・深層で生き残った雑草の種や病原菌を作土層へ持ち上げてしまうことになります。できるだけ浅めに耕転するようにしましょう」

生物的土壌消毒とは?~緑肥・クズ野菜のすき込みで効果大

農研機構では、易分解性有機物を土中に混和させて灌水し、土壌を酸欠(還元)状態にすることで病原菌を減らす「土壌還元消毒」もおすすめしています。太陽熱利用土壌消毒の①の工程で、石灰窒素の代わりにふすまや米ぬかを1~2トン/10アール相当を混ぜ込むことで、消毒処理中に土壌を還元状態にすることで消毒効果を発揮します。

さらに近年、易分解性有機物の代わりに緑肥やクズ野菜をすき込む生物的土壌消毒という技術を開発しました。

裁断同時すき込み機で、カラシナをすき込んでいる様子=農研機構西日本農業研究センター綾部研究拠点(京都府綾部市)

伊藤さんの研究グループは、京都府船井郡の農家ハウスでカラシナを1カ月ほど栽培し、土壌にすき込んで灌水し、ビニール被覆をする生物的土壌消毒を行いました(処理期間は6月下旬から7月中旬の3週間)。

すると、同じ圃場の中でも消毒を行わなかった無処理の区画(=下記写真の最上)には、一面に雑草が生えたのに対し、何もすき込まずビニール被覆を行った太陽熱消毒の区画(中)では雑草の数は少なめでした。また、消毒時にカラシナのすき込みも行った生物的土壌消毒の区画(最下)では、ほとんど雑草は生えず、萎凋病も防除できました。

実験結果

ホウレンソウの圃場で行った実験の結果

1平方メートルあたりの出荷袋数を比べると、カラシナのすき込みを行った区画では、ビニール被覆のみを行った区画の約3倍量の収穫ができました(処理後1作目、8月中旬収穫)。ちなみに、カラシナをすき込んでも被覆をしなかった区画では、無処理と同程度の収穫量となったため、被覆をしないと効果がないことが分かりました。

また、山口県の農家のホウレンソウ圃場で、近隣のダイコン産地から出る規格外品や調整クズをすき込んで消毒を行ったところ、他の区画(クロルピクリンで処理をした区画、フスマをすき込んだ区画、無処理の区画)に比べて、収穫量が多かったという結果も出ています。カラシナもダイコンもアブラナ科の野菜という共通点を持ちます。

伊藤さんは、「くずダイコンやカラシナに含まれていた窒素分が、微生物の働きでゆっくり加給態窒素となり、緩効性肥料として働いたお陰で生育が良くなったのでは」と話します。簡易土壌診断でも、高温時に無機化しがちな窒素が一定量存在していることが分かりました。

夏場の草取り削減、負担小へ

紹介した消毒方法は、深さ5cm程度までの土壌中にある雑草の種を殺しています。イネ科やカヤツリグザ科の雑草や、イヌビユ、スベリヒユなどの夏の雑草には高い効果を発揮します。ハコベなど春のうち種を作り、休眠している雑草は生き延びやすいです。スベリヒユのように発芽に光が必要な雑草は、地中深くで生き残っている種を掘り出さないよう、前述のように注意して耕転しましょう。

「基本的に必要な有効積算温度を満たせば、ハウス栽培でも露地栽培でも、またどんな野菜にも使えます。ただし、土質によっては向かない圃場もあります。例えば、水はけが悪い畑では畝を高くしてあげるなどの対策が必要ですし、砂地では水はけが良すぎて効果が不十分になる場合があります」

また、病原菌は表層近くで活動する物と深層で活動する物とに分かれ、深い所にいるものに対しては紹介した太陽熱消毒、土壌還元消毒、生物的土壌消毒の効果は弱いといえます。トマトなどに発生する青枯病の病原菌は、地中35センチメートルに高密度で生息するため、熱水や蒸気を利用した土壌消毒法(※)も推奨しています。

参考)熱利用による土壌消毒法(pdfデータ)

伊藤さんは、「夏場の草取りが一回減るだけで、農家さんの労力は格段に減ります。少しでもコストを下げる技術として、ベテランから新規就農者の方々の助けになれば」と、更なる普及を期待しました。真夏の太陽を味方につけ、より良い土作りを追及してはいかがでしょうか。

【参考】
陽熱プラス実践マニュアル
※従来型の作業手順を見直し、消毒処理後の土壌混和を防ぐことで防除効果を高めた畝立後消毒を基に、病害対策はもちろんのこと、消毒効果や養分供給効果の見える化、生物相への影響評価を組み入れた圃場管理技術「陽熱プラス」の概要を紹介しています。

有機農業の栽培マニュアル
※暖地の水田二毛作体系、ホウレンソウの施設栽培体系および高冷地露地レタス栽培体系などについて、安定栽培技術を紹介しています。生物的土壌消毒については、ホウレンソウの有機栽培のページで解説されています。

写真提供:農研機構西日本農業研究センター

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