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効果的な土壌消毒の方法とは? 夏・冬など季節別のやり方やメリット・デメリットを紹介

鮫島 理央

ライター:

効果的な土壌消毒の方法とは? 夏・冬など季節別のやり方やメリット・デメリットを紹介

土壌には病原菌や害虫など、目に見えない脅威が潜んでいます。繰り返し同じ場所で耕作をしていると、自然と病気や害虫発生のリスクが増加し、思わぬトラブルになってしまうことも。病害虫の被害を未然に防ぐためには土壌消毒が有効ですが、季節や目的によって実施方法が異なり、得られる効果も違います。本記事では多岐にわたる土壌消毒の方法と、その効果について解説していきます。ぜひ記事を参考に効果的な土壌消毒を行って、畑の環境をより良いものにしてください!

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農業で行う土壌消毒とは?

土壌に含まれる病原菌微生物や害虫、雑草の種子などを死滅させて除去したり無害化したりすることを、土壌消毒といいます。土壌消毒にはさまざまな方法がありますが、大きく分けると、化学物質を用いる方法と、熱を利用する方法の2種類があります。

消毒の対象となる病害は、センチュウによる根こぶ病、細菌性の青枯病、軟腐病、菌類によって起こる立枯病、根腐病などがあります。この他にも土壌に潜む害虫や雑草種子を死滅させることで、さまざまな病害虫による被害を抑えることが可能です。

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土壌消毒の主な方法とそれぞれのメリット・デメリット

土壌消毒には化学物質を用いる方法と熱を用いる方法がありますが、やり方によって六つの土壌消毒方法に分類できます。詳しいやり方やメリット・デメリットについて解説していきます。

太陽熱消毒

必要なもの ビニールフィルム(透明マルチ)、石灰窒素
適した季節 夏など高温期

はじめに、土壌消毒を行いたい範囲を十分に耕起し、畝を立てます。耕運する際、石灰窒素を全面に散布(100kg/10アール)すると、1~2℃ほどの地温上昇が期待できます。

次に、畑全体にたっぷりと潅水(かんすい)し、上からビニールフィルムをかぶせます。地中の温度が55~60℃になるよう、2~3週間ほどフィルムで覆ったまま放置しましょう。この際、フィルムの隙間(すきま)から水が入り込まないよう注意してください。

その後、ビニールフィルムを取り除き、2~4日ほど太陽光に当てて土を乾燥させたら太陽熱消毒の完了です。

太陽熱消毒は、特別な薬剤や機材が不要で、他の手法と比べると準備が簡単です。また農薬を使用しないため、住宅密集地や無農薬・減農薬栽培でも取り入れることができます。ただし、自然の気候を利用するため、夏の暑い時期にしか行えません。

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土壌還元消毒

必要なもの ビニールフィルム(透明マルチ)、米ぬか・フスマ(小麦外皮)
適した季節 夏など高温期

消毒を行う範囲を決めたら、米ぬかやフスマを1平方メートルあたり1kgを均一に散布し、耕運機などで深くすき込みます。次に、土が湿る程度に水をやります。畝を起こしたらビニールフィルムや透明マルチで全体を覆い、3~4週間放置しましょう。
フィルムを外した後は土をかき混ぜたりせず、そのまま植え付けを行ってください。

土壌還元消毒は微生物の力を利用して、土壌中の消毒を行うという消毒方法です。化学農薬を使わないため、環境に配慮した方法といえます。ただし、還元中はドブのような悪臭がするため、住宅地など人口密集地では避けたほうが良いでしょう。なお、この消毒方法は土の深いところに潜むトマトやナスの青枯病菌には効果が薄いといわれています。青枯病に悩んでいる人は他の方法も検討しましょう。

焼土

必要なもの 縦方向に半分に割ったドラム缶(鉄板でも可)、蓋(ふた)、焼き台、まきなどの木材、古い土、スコップ、フルイ
適した季節 オールシーズン。ただし火を使うため、夏は熱中症に注意

消毒したい古い土をフルイにかけてゴミなどを取り除き、ドラム缶の半分くらいの高さ(15cm前後)まで土を入れます。握ったときにぱらぱらと崩れないくらいになる程度の水を加え、蓋をした上で1時間ほど熱を加えます。

しばらく加熱すると蒸気が上がってくるので、天地返しを行ってまんべんなく土を加熱しましょう。何度か天地返しを行うと、より消毒効果が高まります。
十分に加熱が終わったら、土をドラム缶から取り出して、清潔なところで保管しましょう。

この方法は土がとても熱くなるため、病原菌や雑草の種をしっかり無害化できます。消毒効果が高いという利点がある一方、火を使う消毒方法のため、地域によって消防署の許可が必要です。また消毒できる土の量に限りがあるので、多量の土を消毒したい場合には向いていません。

熱蒸気消毒

必要なもの 蒸気土壌消毒機(ボイラーなど)
適した季節 オールシーズン。ただし極端に地温が下がる時期は余計にコストがかかる

ボイラーなど専用の設備で作った高温の水蒸気を、パイプやホースなどを通して圃場(ほじょう)に流し込むという方式です。蒸気放出用のホースを畝に設置したり、皮膜シートや重しが必要になったりするなど、大規模な設備投資が必要なため、一般家庭には不向きです。

高温の水蒸気を用いて殺菌消毒を行うため、環境に優しく毒性などもありません。殺菌消毒効果のほか、土壌のリフレッシュ効果もあるといわれており、花や果実の大型化や収量増の期待もできます。

薬剤消毒

必要なもの 土壌消毒剤(バスアミドやガスタード微粒剤、キルパー液剤など)
適した季節 冬以外のシーズン(地温10℃以上の時期)

土壌消毒剤(農薬)を用いる場合、薬剤によって使い方が異なります。使用前に使い方を確認し、正しい方法で散布するようにしましょう。

薬剤を散布する前に、土壌から作物の残滓やゴミなどを取り除きます。土はしっかりと耕し、握って割れ目ができるくらいの水分量に調整すると、薬剤の効果がより高まります。

バスアミドやガスタード微粒剤、キルパー液剤は土壌消毒剤の中でも刺激臭が少なく、センチュウをはじめさまざまな土壌病害に効果が高い薬剤です。入手もしやすく簡単に土壌を消毒できる薬剤ですが、種類によっては刺激臭がしたり、人体や動物への影響があったりすることもあるので、住宅地に畑や菜園を持っている人は薬剤選びには注意しましょう。

寒起こし

必要なもの スコップ、米ぬか
適した季節 12~2月ごろ(気温5℃以下の時期)

ゴミや雑草を取り除き、30cm前後の深さまで土を掘り、天地を返します。このとき、ゴロゴロした土の破片などは崩さずにそのままにしておきます。そうすることで、土が凍結と解凍を繰り返し、自然と柔らかなポロポロした土に変わっていきます。1カ月ほど寒空に当てれば消毒完了です。

また、天地返しをした後に米ぬかを振りかけると微生物の働きが活性化し、土壌の質が良くなります。

寒起こしは特別な薬剤や機材を使わずに消毒ができる家庭菜園向けの方法です。12~2月の農閑期に行えるのも大きなメリットといえるでしょう。
一方で寒起こしは冷たく乾燥した空気に長期間当てることが大事なので、気温5℃以下にならない地域や、降雪が多い地帯では十分な効果が現れません。

土壌消毒を行う最適な時期と方法

熱を利用する方法や農薬を使用する方法など、土壌消毒にはさまざまなやり方があります。消毒範囲や目的、季節によって向き不向きがそれぞれあるため、最適な方法を選んで実施しましょう。特に実施時期は大切で、土壌消毒の効果を最大限引き出しつつ、栽培スケジュールに沿って消毒を行うよう心がけましょう。

夏の土壌消毒は「太陽熱消毒」や「土壌還元消毒」がおすすめ

夏場は高温を利用する「太陽熱消毒」か「土壌還元消毒」が適しています。両者とも、化学薬剤などは必要なく、ビニールフィルムがあれば消毒を行えます。

どちらも手順はほとんど同じですが、土壌還元消毒では微生物の働きを助けるために米ぬかを用います。この際、独特なドブくさいにおいがするため、住宅が近くにある場合は太陽熱消毒を選んで行ったほうが近隣トラブルなどの防止にもつながるでしょう。

近頃は異常な暑さにより、真夏の野菜栽培が難しくなっています。あえて真夏に作物を作らず、土壌消毒を行って秋作に備えるというのも良いでしょう。

冬の土壌消毒は「寒起こし」がおすすめ


冬場は寒さを利用する「寒起こし」を行いましょう。寒起こしは化学薬剤など特別な道具は必要なく、またビニールフィルムやマルチで覆うこともないので、費用も労力もかかりません。

時期も12~2月と冬の寒い時期であり、特に露地では何も栽培していないことも多いのではないでしょうか。寒起こしは病害虫の殺菌だけではなく、土壌の団粒化などを促す効果もあります。春の植え付けに向けて、ぜひやってみてください。

家庭菜園や小規模な畑でも土壌消毒はできる

土壌消毒というと、大きな機械や薬剤を使った大規模なものを思い浮かべるでしょう。実際に調べてみても、施設栽培や大規模な圃場での実施例が多く、まだまだ身近な作業とはいえません。特別な機材を用意できなかったり、農薬を使いづらい環境にあったりする都市農業や家庭菜園では、なおさら土壌消毒が行いにくいのも当然です。

ですが、土壌消毒は栽培環境を保ち、より良い作物を作る助けになってくれます。太陽熱消毒や寒起こしなど、気軽に行える消毒もあります。自分の目的や環境にあった方法を選んで、土壌消毒に挑戦してみてください。特に寒起こしは冬の農閑期に行える上、土を掘り返して冷気に当てるだけという手軽さです。もちろん、病害虫による被害を抑えるためにはさまざまな防除を合わせて行う必要があります。土壌消毒と組み合わせて防除を行い、より良い環境を作っていきましょう。

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