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鳥獣害対策とビジネスの両立! 農をベースに人が集まる地域づくりへ

湯川真理子

ライター:

鳥獣害対策とビジネスの両立! 農をベースに人が集まる地域づくりへ

鳥獣害は中山間地域の農業が抱える大きな問題だ。それを自分たちの手で食い止めることで解決しようと、鳥獣害対策とビジネスを両立させたのは、地域の若手農家と有志の人々だった。彼らはさらに「狩る、解体、食す」の流れを地域資源として、地元に関わる人を増やしている。多くの地域が悩むこの問題を解決に導いたキーマンに、成功の秘訣(ひけつ)と今後めざす地域農業のカタチを聞いた。

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道の駅への飛び込み営業で販路開拓

和歌山県田辺市の市街地から車で30分、山の中にある日向(ひなた)地区。温州(うんしゅう)ミカンをはじめとするかんきつ類や紀州南高梅(なんこうばい)を栽培している農村地域だ。同地区の農家、岡本農園代表の岡本和宜(おかもと・かずのり)さんは19年前、25歳のとき父親が体調を崩したのをきっかけに実家で就農。ホテル関係の仕事を辞め、28歳のときに父親が1人でやっていた岡本農園の代表を継いだ。当時、温州ミカンを主に栽培していた岡本農園は、農協を通しての市場出荷がほぼ100%であった。しかし、いいものを作ってもあまりもうからない現実に岡本さんは直面した。さらにショックだったのが「生産サイドがコストをかけているものに対して自分で値段が付けられない」ことだった。
そこで、前職のホテル業のときから人と接するのが好きで営業も得意だった岡本さんは、自分で直接販売しようと販路開拓を開始する。
「営業に行くならミカン栽培の少ない県へ行こうと考えて、滋賀県や岐阜県の全ての道の駅に飛び込み営業に行きました」
味には自信があった。「試食しておいしかったら取引をしてほしい。値段は自分で決めさせてほしい。できたら土日に対面販売をさせてほしい」。それが岡本さんが出した販売の条件だった。道の駅の規約上、地元産しか扱えないと断られたところもあったが、承諾してくれるところも多かった。対面販売も好評で、取引先はどんどん増えていった。同時にネット販売も開始し、約2年で温州ミカンの農協出荷はゼロになったそうだ。

「道の駅で僕のミカンを待ってくれるお客さんも増えてきました。当時は周りにはこんな営業をしている人はいなかったです。今もあまりいないかな。これが僕のやりたい農業だと思いました」(岡本さん)

岐阜の道の駅で温州ミカンを販売する岡本さん

岐阜県の道の駅で温州ミカンの対面販売をする岡本さん

その後岡本さんは地域の他のミカン農家にも声をかけ、一緒に道の駅で販売するようになった。岡本さんの取り組みは地域に広がった。
もう一つの主力品目であるウメも同様に直接販売するようになり、こちらも農協出荷はほとんどなくなった。そして、岡本農園全体の売り上げは就農当初に比べると2.5~3倍ほどになったという。

温州ミカンの収穫

「狩る、解体、食す」までをつなぐ狩猟チームを結成

人とのつながりが増え、自分のやりたい農業に近づいていった岡本さんだが、別の大きな問題に直面した。年々、鳥獣による農作物の被害が深刻になってきたのだ。イノシシがかんきつ類を食い荒らしたり園地を掘り起こしたり、シカがウメの葉や枝を食いちぎったりするなどの被害が発生。このままでは農業を維持できないほどの状況だった。背景には農業従事者の減少や耕作放棄地の増加、ハンターの減少もあった。この課題を乗り越えなければ、未来はない。岡本さんの呼びかけに賛同した地域の若手農家が集まり、岡本さんは狩猟チーム「チームひなた」を結成する。

「最初、農家5人で狩猟免許を取りました。地元の方に相談しながら始めたのですが、活動1年目で120頭ものイノシシやシカが捕獲できて、正直こんなに捕れると思っていなくて驚きました。そのときは食べるという発想がなく、増えた分を減らすのが目的でした」(岡本さん)

地域の人からは多くの感謝の声をもらったが、その一方で岡本さんたちは生き物の命を奪うことに悩んで葛藤し、疲弊していった。自分がやりたかった農業は、人と人とが関わり合い、畑に来てもらえる農業だったはずである。人と人とがつながり、地域に人を呼べる仕組みを作る農業がしたかったはずである。動物を殺す行為が自分たちのためなのかと。

「無駄な殺生をしないためには活用しかない。ジビエと農業で人を呼べるコンテンツを作るしかない。ただ、僕が解体技術を学ぶというのは違うのではないかと」(岡本さん)

そんなときに、運命ともいえる湯川俊之(ゆかわ・としゆき)さんとの出会いがあった。和歌山市内でジビエの卸をしていた湯川さんは、ちょうどジビエの解体施設の建設場所を探していた。

「運がよかったとしか思えません。地元の知人に紹介されたのですが、湯川さんは僕の1歳上で、最初に会ったときから意気投合しました。彼はすばらしい解体技術を持っていて、ジビエ施設があったら、協力したいと言ってくれました。ほんまうれしかったです」(岡本さん)

体制を整えるために県の畜産課に相談に行くと、厳しい現実を突きつけられた。全国に500以上のジビエ施設があるがそのほとんどが公設、公営で赤字のところが多い。まして民設、民営でやっていけますか、と言われたのだ。
そこで赤字の理由を調べてみると、捕獲数量の確保や販路開拓の難しさ、廃棄処分費用の負担、そしてストックするスペースの不足が原因だとわかった。岡本さんは、それならダメだったことを改善すればいいはずだと、まずは捕獲数量の確保に着手。地域の農協に呼びかけてもらい、80人近い農家ハンターの協力を得ることができた。なぜ、そんなに協力が得られたのだろうか。その理由は岡本さんと湯川さんの名コンビがあってこそできた提案にあった。

「農家ハンターがしんどい部分をジビエ施設がやる、これが他のジビエ施設との一番の違いです」(岡本さん)
害獣がわなにかかったら湯川さんが連絡を受けて現場に行き、捕獲した動物にとどめを刺して処理するところまでをすべて受け持つことにしたのだ。肉の鮮度を保つための血抜きも捕獲現場で行い、買い取れるものは持ち帰る。ジビエとして買い取れないものはその場で埋設までやる。「みんな喜んで協力してくれたので年間600頭を確保できました。解体技術のプロ、湯川さんがいなければできなかったことです」(岡本さん)

次のステップは販路開拓だ。岡本さんたちの積極的な営業活動で、今では取引先は県内外を含め約60カ所になった。どんどん売れるので、ストックスペースは不要だ。
岡本さんは、2018年に株式会社日向屋を設立。施設の管理・運営は湯川さんが代表となり、ジビエ解体施設「ひなたの杜(もり)」を設立した。2020年にはジビエ料理を扱う地元のフランス料理店「Caravansarai(キャラバンサライ)」の更井亮介(さらい・りょうすけ)さんも加わり、イノシシやシカの捕獲から処理・加工、調理、販売までの連続した体制を構築することができた。シェフの更井さんは、岡本さんとは実家が近所同士という仲だそう。大阪のホテルや長野県のフランス料理店などの10年間の経験を経て故郷に戻り、更井さんの祖父がウメの加工場として使用していた蔵を改装したレストランを開業した。レストランは大人気で、ジビエ料理のおいしさや安全性の理解にもつながった。「今まで臭い・硬いなどのクレームはほぼゼロです」と岡本さんはその品質に自信を見せる。
岡本さん、湯川さん、更井さんの3人は地域で切磋琢磨(せっさたくま)しながら地域の循環に貢献している。

更井、岡本、湯川

左から更井亮介さん、岡本和宜さん、湯川俊之さん

農業で地域を魅力的に。人の集まる地域づくり

現在、日向屋のスタッフはパートを含め5人、農繁期だけのスポット雇用を含めると8人である。業務内容は害獣対策から広がって、今は農業をベースに仕事は多岐にわたっている。その一つに、農作業の受託事業がある。
「剪定(せんてい)の仕事の依頼がめちゃめちゃ来ます。仕事が多いのはありがたいですが、どこも耕作放棄地予備軍です。僕らは耕作放棄地の再生もしています」と岡本さん。

ただ耕作放棄地を開拓するだけでなく、開墾した耕作放棄地を借り受け、農業研修生にその農地を任すシステムを取っている。
「日向屋で研修すれば農地を提供できます。将来的には独立就農してもらえたらと思っているので、研修期間中には商談会や対面販売にも一緒に行きます。技術も大事ですが、いくらいいものを作っても売れなかったらどうしようもないので、売り方や売る仕組みも研修生には指導します」(岡本さん)

また、地元の子どもたちにも農業を通じていろいろなことを伝えるための実践をしている。保育園児たちには、大根やトウモロコシの種を植え、収穫して食べるまでを体験してもらっている。その際に余分にできたものは地元で販売する。

「小学校では、産業用ドローンを飛ばしてみせたり、自分たちで小さいドローンを飛ばす体験をしてもらったりしました。中高生には、商品開発を考えてもらっています」(岡本さん)

地元の小学校でのドローン学習

こうして岡本さんは、地域資源の農業を生かして地域に関わる人を増やしている。

「移住促進ではハードルが上がります。なので、地元のことを地元の人間だけで考えるのではなく、地域に関わる“関係人口”を増やしています。日向屋のイベントには年間400人くらい参加してくれています。実は、次は日向地域ではなく、別の場所を活性化しようと考えています。田辺市の上野地区の活性化です」

上野地区を知ったきっかけは、岡本さんが畑で作業していたときに、見ず知らずの老人に話しかけられたことだった。その老人が言うには「自分はウメを栽培しているが、もう年齢的に続けられないので畑を借りてほしい」とのこと。さらにその後も、岡本さんが作業をしているところに何度も訪ねてきたそうだ。

「上野に行ってみたらめちゃめちゃいいところで、鳥の声と風の音しかしないんです。山の上なのに斜面は緩やかで平坦な場所も多くて。地元でもあまり知られていない場所ですが、魅力的なコンテンツがそろっていました。上野との出会いは巻き込まれた感があるんですけど、6月から本格的にプロジェクトを進めます」(岡本さん)

上野地区には眺望、ソバ畑、年末にソバ打ちをしてみんなで食べる習慣、短期滞在施設まであった。耕作放棄地の活用だけでなく、観光に活用できるものがいくらでもありそうだ。

「いろんな人に農業の魅力って何ですかって聞いてもなかなか答えが返ってきません。農業の魅力は農をベースにいろんなことができることだと思っています。農と観光でどこまで行けるか楽しみです」と岡本さん。

岡本さんの周りには常に人が集まってくる。関わる人や物事が増えていくことで、つながりがどんどん広がっている。

☆☆関係人口 上野園地 梅作業

地元以外の人が訪れている田辺市上野地区のウメ畑

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