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国内での価格競争から一抜けし、新たな需要を求めて海外を奔走。商品の8割を輸出する阪東食品の歩み

国内での価格競争から一抜けし、新たな需要を求めて海外を奔走。商品の8割を輸出する阪東食品の歩み

安全で品質が高いと、海外でも人気を集める日本の農林水産物や食品。2023年は年間輸出額が過去最高の1兆4547億円となるなど、今後さらに伸びていくであろう販路として、農業界でも注目されています。12年前から先進的に輸出を行い、現在も約40カ国へ自社商品の約8割を販売しているのが株式会社阪東食品。いち早く農産物の輸出へ取り組んできた同社代表の阪東高英(ばんどう・たかひで)さんに、これまでの歩みや輸出を成功させた要因について伺いました。

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スダチ、ユズ、ユコウを海外展開

持続可能なまちづくり「ゼロ・ウェイスト(ごみをゼロにする活動)」といった先進的な取り組みで注目される徳島県勝浦郡上勝町。このまちで、徳島県の3大柑橘であるスダチ、ユズ、ユコウを有機栽培する株式会社阪東食品も先進的な取り組みをする企業の一つです。

同社の特徴は、2012年から先進的に始めた海外輸出。現在ほど個人による輸出が一般的ではなかった当時から、自社生産または契約農家から買い取った柑橘を果汁やぽん酢、シロップ、飲料などへ加工し、海外へ販売してきました。柑橘から生み出された30を超える商品は、現在ヨーロッパを中心とした約40カ国で流通しています。

阪東食品で作られる商品の一部

「香りユズ、酸味スダチ、味ユコウ」と呼ばれ、それぞれの特徴豊かな徳島の柑橘。中でもユズは世界各国で人気が高いといい、中国やヨーロッパなどでの引き合いが特に多いそうです。

同社の商品としては、「すだちときゅうりのシロップ」が特に人気。アメリカをはじめとする海外では「きゅうり水」と呼ばれるデトックスウォーターが定番で、日常的に飲まれることに目をつけて商品開発したことがピタリとはまったと言います。

すだちときゅうりのシロップ

このように、海外への展開を意識した商品づくりが特徴的な同社。なぜ、輸出が一般的でなかった2012年から、海外向け商品開発と輸出に取り組み始めたのでしょうか。

ライバルがいない販路を探して海外へ

1965年に阪東さんの父がはじめた柑橘栽培。阪東さんが家業を継ぐ形で農業界に足を踏み入れたのは2009年のことでした。働いていた輸入車の販売会社を40歳の時に辞め、就農後は栽培や加工に従事しながら、2年ほどかけて柑橘の勉強にいそしんできたと言います。

阪東食品の自社農場

その後は売り上げを伸ばすため、搾汁した果汁や自社で開発した加工商品の販路開拓、営業活動に当たった阪東さん。しかし、徳島県内だけでも数社ある搾汁業者。最初は国内を営業して周っていましたが、どこにいっても同業者とバッティングし、価格競争を余儀なくされたと振り返ります。

ライバルの中には大規模搾汁加工場を持つ企業もあり、価格競争となれば到底勝負できない価格帯になることもしばしばありました。それでも、売り上げを作るために無理して価格勝負を挑み続けていたといいます。

そんな中、元々輸入車販売の仕事をしていたことから海外志向があった阪東さんは、バッティングを避けるために海外の市場を模索し始めます。当時は同業他社でほとんど輸出をおこなう企業がなかったこともあり、ジェトロ(日本貿易振興機構)が開催するセミナーなどに参加して方法論を学びました。

セミナーでは県の担当者から「シャンハイで出店してみないか」といった誘いの声もあり、阪東食品は少しづつアジア圏での展示会に参加するようになっていきました。その中で、ホンコンなどの展示会にはヨーロッパ圏の人も多く参加していたことから、ユズの果汁を探している人がヨーロッパ圏に多い事を知ったといいます。

当時は、今ほど他の企業が輸出にあまり興味を示していなかった時代だったこともあり、ヨーロッパなどへの海外出展への誘いが自然と集まってきました。出展費用は県が持ってくれてはいたものの、渡航費や宿泊費などで1度に30万を超える費用が必要になることも。決して安くない出費に悩んだものの、「ここは挑戦だ」と参加を決めた阪東さん。これを契機に、同社での輸出が本格的に始まっていったのでした。

海外の展示会の様子

今では、自社商品の約8割を輸出するまでに販路を広げた阪東食品。成功の裏側にある、海外への販路開拓の取り組みについて阪東さんに話を伺いました。

海外へ加工食品を輸出するために

年間10回以上参加する海外の展示会・商談会

「毎年10回以上、海外の展示会や商談会に参加していますがほとんどが空振りですよ。それでも、参加しないと増えていくこともありませんからね」(阪東さん)

2012年から毎年10回以上、海外の展示会・商談会に参加する阪東さん。行ったはいいものの自社の商品を見てもらえるだけで商談までいかなかったり、特に次につながる人脈ができないことの方が多く、ここ何年か多く出展しているドバイでも空振りが続いていたといいます。

それでも諦めずに参加したり、どんなに少ない量でも対応をしたりとコツコツ行動してきたかいあって、少しずつ海外での売り上げの比率を伸ばしていった同社。現在では、フランス、ドイツ、スペイン、アメリカ、中国、シンガポール、オーストラリアなどといった世界40カ国で販売されています。また、阪東食品で生産されるユズ果汁の約8割が海外へ輸出されているそうです。

最初からうまくいかないのは当たり前で、信じてやり抜いてきたからこそライバルの少ない市場を開拓してこられたといえます。

パートナー探し

「まず初めに、海外でのパートナーを探すところから始まりました。展示会で立ち止まって聞かれるのが、どこで買えるんだという質問。直接販売する方法もありますが、海外に拠点を持って販売してくれるパートナーがいると商流も含めやりやすいです」(阪東さん)

展示会や商談、プロモーションなどは自分たちで行うことができますが、他国での営業に関しては自分たちですることはできません。そのため、展示会では一緒に売っていくパートナーが大切になるといいます。消費者に販売する企業や、飲食店を経営する人も展示会には参加しますが、そういった仕入れ販売をしてくれるパートナー(商社)を見つけることができるのも展示会に参加する意義の一つだあるそうです。

ヨーロッパの商社が仕入れ、そこから阪東食品でも把握できていない国に営業して販売量を伸ばしてくれる。そんな動きも多々あるといいます。

海外での一枚

海外の基準に対応できるさまざまな認証

「阪東食品では、食品の海外輸出において他のメーカーと差別化を図るため、有機JAS認証とハラル認証を取得しています。海外に売るためには、海外の基準や需要に合わせたものを提供しなければなりません」(阪東さん)

海外に輸出する上で必要となるHACCPの他、海外では日本より有機に対する認識が進んでいることもあり、求められることが多い有機JAS認証はもちろん、近年、インドなど南アジアの人口増加に伴い、需要が増加傾向にあるハラル認証を取得している同社。差別化を図る上でも認証は必要事項だといいます。

しかし、認証などにおいて、更新にかかる費用も個人としてはかなり金額が大きいといえます。また、年々、用意する書類も増えているといいます。例えば、昔はキャップのプラスチックの種類は規制がありませんでしたが、現在は規制があるので記載する必要があるそうです。

ですが、このような状況でも同社の戦略が成功している理由があるといいます。それは、販売相手を工場などの業者よりも飲食店経営者など個人をメインターゲットとしてきた点です。

海外の工場を相手に納品するとなると、工場独自の認証や民間団体の認証を取得する必要があるなど、膨大な金額がかかるようなことを要求される可能性があります。しかし、飲食店など個人レベルでは特別な認証の取得を要求してくることはほぼありません。

実際、HACCPにおいては金額が高い民間団体の認証ではなく、価格が抑えられる自治体認証と呼ばれる徳島県独自の認証で済んでいるそうです。

認証の書類の厚み

これまで海外輸出の実態についていろいろ聞いてきましたが、最後に、海外での柑橘の需要などについて聞いてみました。

日本産柑橘の果汁における海外の反応

「現状、阪東食品だけでは対応できないぐらいの需要があります。また、私が把握している以上に市場は大きくあると感じています。むしろ、受注を取りすぎないように抑えているほどです」(阪東さん)

世界からの需要が高い日本産果汁。その人気ぶりから商品が不足することも少なくないため、大きな注文を断っている場面もあるといいます。また、人口が増加しているイスラム教徒からの需要が増え過ぎないように、ハラル認証を取得していることは大々的に告知していないほどだそうです。

阪東食品の看板

知らない場所で新しい仕事を開拓することが楽しいと語る阪東さん。新しい場所での新たな活動は誰もが楽しんでできる仕事ではありません。それが好きだと感じながら走ってきたからこそ現在の立ち位置があるのだと思います。皆さんも海外の展示会に勇気をだして参加してみるとライバルの少ない新たな景色が待っているかもしれません。

取材協力

株式会社阪東食品

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