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規格外野菜はタダ同然⁉ ご当地グルメという名の落とし穴【転生レベル18】

平松 ケン

ライター:

連載企画:就農≒異世界転生?

規格外野菜はタダ同然⁉ ご当地グルメという名の落とし穴【転生レベル18】

新たに始めたナスの栽培に苦戦し、直売所での販売も難しそうな大量の規格外品を出してしまった僕・平松ケン。このナスで作ったナスジャムが新聞で取り上げられたのをきっかけに、地元の商工会を通じて飲食店からコラボの申し出が! ところがふたを開けてみると、飲食店側の思惑はこちらの思いとは大きくずれていたのだった。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった方々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

農村という“異世界”のルールにうまく適応しながら、少しずつ栽培面積を拡大してきた僕・平松ケン。「異世界ハック」にはそれなりに成功してきたつもりだった。ところがさらなる収入アップを目指して新たに始めたナスの栽培で、大量の規格外品を出す羽目に。そこで目を付けたのが「6次産業化」。地元の加工業者に促されるまま、全てお任せでジャムを作ることになったのだが……。

前回の記事
6次化のワナとは? 業者任せの安易な加工品づくりにご用心!【転生レベル17】
6次化のワナとは? 業者任せの安易な加工品づくりにご用心!【転生レベル17】
新規就農して着実に畑の面積を増やしているものの、肝心の栽培はなかなか思い通りにいかない僕・平松ケン。直売所向けに生産していた夏場の露地ナスも、キズものを大量に出してしまった。そこで目を付けたのが「6次産業化」。地元の加工…

できあがってきたナスのジャムは、思っていたものとはかけ離れた仕上がりに。ラベルなどもどこかで見たような地味なもので、案の定、直売所で販売してもほとんど売れず、大量に廃棄処分することに……。門外漢が安易に加工品を作ると失敗するのは、異世界も都会も同じなのだと思い知ったのだった。

ナスジャムの新聞記事だけは好評?

さて、話は時をさかのぼって、ナスジャムを直売所で発売した数日後の朝。僕はとてもウキウキしていた。僕が作った(正確には加工業者が作ったのだが)ナスジャムが朝刊に載っていたからだ。以前知り合った地元紙の新聞記者さんにこの話をしたところ、「規格外野菜の有効活用とはいいですね!」と取材をしてくれたのだ。期待していたより小さな記事ではあったが、宣伝効果は十分だ。
実はこの時点で、ナスジャムはまだ一つも売れていなかった。それはみんなが商品の存在を知らないからなのだ、と僕は思っていた。しかしこの記事で僕のナスジャムは皆の知るところとなった。
「今日から爆発的に売れるぞ! どうしよう、追加発注するべきかな」
僕はニヤニヤが止まらなかった。

しかし、ナスジャムは新聞に出てから数日でたった2個売れただけ。思ったような効果はなかった。
代わりに思わぬ影響が。このナスジャムの存在を知った業者から営業電話が盛んにかかってくるようになったのだ。「加工をうちに任せませんか」とか「ECサイトの立ち上げをお手伝いしますよ」とか、さまざまな提案があったが、ジャムの売れ行きが芳しくない中ではとても聞く気にはなれなかった。

発売して1週間余りで僕はすでに「もうダメかもしれない」と気弱になってしまっていた。農作業をしながら考え込んでいると、スマホが鳴った。見慣れない番号からの着信である。

農家スマホ

画像はイメージ

「また営業か?」と少し警戒しながら電話に出た。

「もしもし。平松ですが?」
すると、男性が丁寧な口調でしゃべり始めた。
「突然のお電話ですみません。商工会の三好と申します」

僕は以前商工会が主催する起業のための勉強会に参加したことがあったので、何かの連絡かなと思いながら応対した。
しかし電話の向こうの三好さんは、少し意外な提案をしてきた。
「先日の新聞記事を見て、お電話させていただきました。実は規格外のナスが大量に出るという話に、商工会員の飲食店さんが興味を持たれたみたいで。『せっかくだからご当地グルメを作ってみてはどうか?』と話しているんですよ」
 
ご当地グルメにうちのナスを使うのか。うまくいけば、販路拡大につながるし、悪い話じゃなさそうだ。
「そうですか。もしよかったらお話を聞かせてもらえますか?」

こうして僕は、後日、商工会を訪ねて詳しい話を聞かせてもらうことになった。

商工会でトントン拍子に話は進み……

「ジャムは失敗かもしれないけど、新聞記事をきっかけに新しい話が舞い込んでくるとは。世の中、悪いことばかりじゃないな」

しばらく落ち込んでいたことはすっかり忘れ、意気揚々と商工会を訪ねた僕は、先日連絡をくれた三好さんを受付で呼んでもらった。

「今日はわざわざすみません」と言いながら現れた三好さんは、「どうぞこちらへ」と僕を応接室に招き入れた。おそらく年齢は40代後半くらい。落ち着いた濃紺のスーツを身に着け、いかにもビジネスマンといった風貌である。

三好さんイメージ

画像はイメージ

応接室に入り、席に座る。目の前のテーブルには、いくつか資料が置かれていた。

「先日、お電話でも少し話した件なんですが……」と説明を始めた三好さん。どうやら商工会のなかに、地元の飲食店や商店が参加する「食品部会」というグループがあり、そこのメンバーから「地元の農産物とコラボしてはどうか?」という話が持ち上がったらしい。テーブルには「食品部会」を紹介するチラシなどが置かれていた。

「先日の部会で平松さんの新聞記事が話題に上って、『このナスを使ってはどうか?』という話が出てきたわけなんです」
「そうでしたか。僕が作ったナスを使ってもらえるならありがたいです」

そして1週間後の午後2時、地元の商店街にある「ファンタジー食堂」という飲食店を訪ねることになった。

お店に届けて欲しいと言われたものの…

商工会の三好さんとともにファンタジー食堂を訪ねると、いかにも料理人といった風情のかっぷくのいい大柄の男性が厨房(ちゅうぼう)から小走りで出てきた。
「おう、三好さんか! ちょっと待ってもらえる?」
年齢は50歳を超えたくらいか。店内を見渡すと、まだランチ客が残っていたらしい。
「お忙しいところすみません、松永さん。こちらは大丈夫ですので!」
三好さんがそう言い終わらないうちに、松永さんと呼ばれたその男性はすぐさま厨房に戻った。

空いていたテーブルに座り、従業員の女性が出してくれた水を飲みながら待つこと15分。その間、三好さんはこの店が長く続く人気の洋食店であることや、松永さんが地元の飲食店のリーダー的存在であることなどを教えてくれた。
最後のランチ客が店を出ると、汗をぬぐいながら松永さんが僕たちが座っていたテーブルにやって来た。
「待たせちゃって悪いね、三好さん。それでこの方が、例のナスの?」

松永さんイメージ

画像はイメージ

三好さんはさっと椅子から立ち上がって、
「こちらこそすみません、松永さん。はい、農家の平松さんをお連れしました」
と僕を紹介した。その様子に僕も慌てて立ち上がり
「はじめまして。平松です」
と頭を下げた。

「ナスを作っている農家さんなんだよね。規格外品がたくさん出て困っているんだって?」
松永さんは椅子にどっかりと腰掛けると、初対面にもかかわらずとてもフレンドリーに話しかけてきた。ふくよかな見た目も相まって、おおらかな人柄が伝わってくる。なんだかすごく頼りがいのある雰囲気に安心した僕は、すぐに心を開いてしまった。

「そうなんです。先日もジャムにしてみたんだけど、なかなか売れなくて」
僕は、地元の加工業者に頼んでジャムを作ったこと、直売所で売ろうとしているが売れ行きが良くないことなどを手短に説明した。

「そうか。それは平松さんも困っちゃうね。もし今後も規格外が出るようなら、うちに届けてよ。地元の野菜を安く使えるなら大歓迎だし。三好さんとも話していたけど、ご当地グルメみたいにして売り出すのも面白いよね」
松永さんは満面の笑みでそう言った。地元で人気の飲食店なら、ナスをおいしく料理してくれるに違いない。

「そうですか! ありがとうございます」

規格外品が大量に出て困っていた僕にとって、願ってもない話である。ところが、僕が喜んだのは、ここまでだった……。

提示された金額では完全な赤字!

「で、いくらで持ってきてくれる? もちろん安くしてくれるよね?」
松永さんは、肝心のナスの価格について尋ねてきた。
「そうですよね。規格外品ですもんね……」

もちろん廃棄するよりは、少しでも売れた方が助かる。けれど、あんまり安いのも……と考えあぐねていると、松永さんは重い腰を上げてレジの横に置いてあった電卓をとり、いろいろ考えながら計算を始めた。

「1㎏でこれくらいの金額でどうかなぁ。ランチの原価率を考えると、これ以上じゃムリなんだよね」
松永さんはそう言いながら、電卓の数字を僕に見せた。
「えっ?」
あまりに安い金額に、僕は絶句した。

「いやぁ、うちもなかなか厳しくて……」と、松永さんは苦笑いを浮かべる。

松永さんからの要求は、さらに続いた。
「うちで使うのは、今のところ一日せいぜい10本くらいになりそうだから、週に2~3回、数キロ位で届けてくれるとありがたいんだけど」

正直、この金額では、店までの運搬にかかる燃料代、ダンボールなどの資材代、そして何より自分の人件費を考えると、取り引きしない方がマシである。

「ちょっと考えさせてください……」
そう言って店を後にした僕は、後日、商工会の三好さんを通じて断りの連絡を入れてもらうことにしたのだった。

その後も、市役所や商工会を通じて「ナスを使ってみたい」という話がいくつか舞い込んだのだが、「格安で譲って欲しい」「フードバンクに寄付を」「地元の高校生に無償提供を」といった話ばかり。

規格外野菜の寄付のイメージ

画像はイメージ

「もちろん声を掛けてもらえるのはありがたいけど、『とにかく安くして欲しい』とか、『無償で提供して欲しい』という話ばっかりじゃないか……」

ジャムづくりで痛い失敗を経験した僕は、地域の商工業者と連携する難しさを、改めて痛感するのであった。

レベル18の獲得スキル「業者は安値で仕入れたいという前提を忘れるな!」

規格外品を活用し、ご当地グルメにしたり、特産品を開発したりして成功を収める事例もあるが、それは圧倒的に少数派。地元の飲食店や加工業者からすれば、「できるだけ安い価格で食材を仕入れたい」わけで、自身の農作物にきちんとブランド力が備わっていなければ、安く仕入れられる業者の一つとして、単に買いたたかれて終わるのが関の山である。

飲食店との直接取引は、農協などへの出荷に比べ、小ロットでの販売になることが多い。店までの運搬などを考慮すると割に合わないケースも少なくないため、本格的に取り組むのであれば、しっかりと経営戦略を練っておくことが肝要だ。

また、地元の商工会や市役所からのお誘いには、社会貢献の色彩が強いものが多い。この手の社会貢献に熱を上げ、経営をおろそかにしないように注意することも大事だ。地元の商工業者とコラボし、この地域を盛り上げたい――。過疎が進む″異世界”に迷い込む人の中には、こうした意気込みを持った移住者が少なくないはず。農業を通じて地域を活性化させるのは素晴らしいことだが、まずは自身の農業経営をきちんと軌道に乗せること。これが大前提であることを決して忘れてはいけない。

ジャムづくりの失敗に続き、地域の飲食店とのコラボも思わぬ結果に終わった。が、これまでも幾多の困難を乗り越えてきた僕は、こんなことで諦めるはずがなかった。むしろメラメラと闘志が湧いてきた僕は、「直売所にものを並べるだけの待ちの姿勢ではダメだ」とイベント出店を決意! ところが、ここでも思いがけないトラブルが待っているのだった……。【つづく】

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