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放置竹林問題を解決するのは「人づくり」。竹を切った先にある有効活用とその継続法

湯川真理子

ライター:

放置竹林問題を解決するのは「人づくり」。竹を切った先にある有効活用とその継続法

京都の竹は、嵐山の「竹林の小径(こみち)」や嵯峨野(さがの)の「竹林の道」などの美しい景観をつくってきた。また、京都府のタケノコの生産量は全国3位を誇る。一方で、タケノコ農家のリタイアや竹林保全の人材不足、さらに竹材の需要減から、放置竹林問題が深刻になっている。その解消を目指す有志によって立ち上げられた「NPO法人 京都発・竹・流域環境ネット」は、地域に密着して竹林の所有者と関係を構築しながら、地域の里山景観の保全を行っている。

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タケノコ生産、竹林の整備の人材育成

6月中旬のある日、筆者は取材のため、京都市西京区の大原野(おおはらの)へ最寄駅からバスで向かった。この辺りは、古くから良質なタケノコの産地で、車窓からは竹林が見える。しかし、人の手が入っていない竹林も多く、枯れて倒れてしまっている竹が多く見受けられた。中には道に竹がせり出して、倒れそうになっているところもあった。

京都市内には約660ヘクタールの竹林面積(2021年度、京都市調べ)があり、そのうち約420ヘクタールがこの西京区大原野にある。市内の竹林のうち、耕作面積は約4割、残りの約6割が管理の及ばない放置竹林だ。竹林を安全に整備・管理し良質なタケノコを栽培するためには、専門的な知識や技術を持った人材の育成が欠かせない。その人材育成に力を注いできたのが、2009年3月に設立され、大原野を拠点とする「NPO法人 京都発・竹・流域環境ネット」。タケノコ農家の人材育成のために開催されている連続講座「竹の塾」も、その取り組みのひとつである。

2024年で6期目となる連続講座「竹の塾」。この日、大原野の中村竹研(ちっけん)店で行われた第1回には20人ほどの受講生が集まった。受講生は、竹林を持っている人や将来タケノコの栽培をやってみたい人、タケノコ農家の手伝いをしたい人、放置竹林問題に関心がある人などさまざまだ。指導者は長谷川彰男(はせがわ・ふみお)さんと上田博(うえだ・ひろし)さん。大原野でタケノコを育てているベテラン農家だ。竹の塾では、初回の説明会のあと、8月から翌年3月まで6回に分けて実技研修があり、竹林で親竹の伐採からタケノコ収穫までを体験できる。ここで学ぶ栽培方法は「京都式軟化栽培法」。食用タケノコの代表品種であるモウソウチクを育てる独特の方法である。日本の数あるタケノコの産地の中でも、この地域で生まれる「京都西山の大原野のタケノコ」はひっぱりだこの人気だ。

京都西山の大原野のタケノコ。京都西山とは京都盆地の西側の山地一帯を指す

この栽培技術を身につけ、タケノコ農家が活性化すれば、手入れされずに竹やぶとなっていた里山が復活することにもつながる。受講後、収穫されたタケノコは、中村竹研店で販売されるそうだ。また、竹の塾ではこうして約1年間学んだ後も、継続してタケノコ栽培に取り組めるように受講者をフォローしている。

放置竹林問題は、竹を切るだけでは解決しない

こうした取り組みの中心となっている人物が、京都発・竹・流域環境ネット理事長の吉田博次(よしだ・ひろつぐ)さんだ。

吉田さん(写真右)。最近メンバーに加入した大学生と共に撮影に応じてくれた

吉田さんは元公務員で、そのころから自然環境問題に携わってきた。52歳のときに早期退職し、竹炭作りに取り組んだそうだ。その後、京都発・竹・流域環境ネットを立ち上げ、京都府木津川市での竹林整備、京都府宮津市の竹による発電事業などに携わり、2016年に西京区大原野に拠点を移して同地域の竹林整備を始めた。

「かつて竹林だったところは竹やぶになっていて不法投棄も多く、まるでゴミ箱のようになっていました。タケノコ農家は高齢者が多く、後継ぎがいないところが多いんです。高齢者はタケノコを掘って出荷するだけで精一杯で、竹の伐採の時期が来ても伐採できる人手がないんです」(吉田さん)

竹林整備

ここに来る途中の道にも竹が倒れそうになっているところがあったことを伝えると、「そうなんです。京都では、後継者不足で竹林の耕作放棄も進んでいます。竹は地上に芽を出して3カ月ほどで18~20メートルに成長して、5年以上たった竹は倒れやすくなるんです。1本が重さ100キロほどになる。だから地域で連携していかなければならないんです。人が入れない竹やぶになると、獣のすみかになってしまいます」と吉田さん。

そこで始めたのが、タケノコ農家が引退した竹林を同法人で一時的に預かり、次世代にバトンタッチできる状態に維持するために竹林の整備を無償で行う取り組みだ。
伐採された竹は、一般的に「使い道がなく価値がないものだ」と思われがちだ。そのような固定観念を払拭(ふっしょく)するため、吉田さんは切り出した竹材を有効活用しようと、企業と連携して竹炭・チップ・竹加工品などを製造している。また、放置竹林を再生するため、農地法に基づき同法人が借地し、環境保全と共にボランティア活動による人員育成を推し進めている。

「放置竹林問題は、竹を切るだけでは解決しません。切った竹をいかに利用するかが大事です。竹は役に立つ有用植物です。循環させながら資源を維持しなければなりません。伐採した竹をいかに利用するか、どこで生かすかは難しいですが、企業や大学と連携して竹チップを建材に有効活用するなどの取り組みを進めています。また、洛西(らくせい)地区では景観を守る竹垣・竹穂垣に利用しています」(吉田さん)

竹穂(竹の細い枝)を使った竹穂垣づくり

洛西地区の竹穂垣

竹の新たな価値の確立で、放置竹林問題の解決へ

京都発・竹・流域環境ネットでは、竹に親しんでもらうため、毎年イベントとしてミニ門松づくり体験、流しそうめんなども開催している。竹を生活に取り入れてもらうことで、より広く竹の魅力を伝えるためだ。同法人のメンバーも増えており、設立当時は10人だったが、現在は50人近くになっているそうだ。

「竹林の1カ所を整備して終わりではなく、継続していくためには収益を確保して、竹の利用法という川下づくり、それを担う人づくりという地道な活動をしなければなりません。ここ1、2年でやっと川下から川上までつながってきました。地元と一緒にやることが大切で、学生やインターン生の参加も増えてきました」(吉田さん)

また、個人や自治体、寺院などからの依頼を受け、竹林整備のための人員を有償で派遣し、放置竹林を管理竹林に変えている。依頼主からの報酬が活動資金だ。2022年12月には、京都・嵐山の「竹林の小径」の竹穂垣の設置を行い、継続して管理をしている。他にも京都市とその周辺にある約10ヘクタール分の管理を請け負っており、年間に伐採する竹は約2万本。それを価値ある竹製品として竹炭などに加工し、販売している。

「竹は2本で灯油18リットル程度の熱カロリーを持つので、バイオマスの燃料としても注目されています」と吉田さんは言う。

吉田さんは、継続的な竹林整備ができる環境づくりを大原野から発信することで、竹林問題に取り組んでいる他の団体などにこれまで築いてきたノウハウを広げている。
こうした活動の広がりによって竹林の整備や竹の活用が進み、さらにそれを継続するための人材づくりも続けていければ、放置竹林問題は解決に向かうのかもしれない。

整備をしている嵐山の小径

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