金時草とは
「金時草(キンジソウ)」は、葉の表が緑色、葉の裏が赤紫色という珍しい野菜です。熱帯アジア原産のキク科ギヌラ属の多年草です。正式名は水前寺菜(スイゼンジナ)と言い、かつて熊本県の水前寺地区の湧き水で栽培されたことが由来とされています。18世紀に日本へ渡来し、19世紀までには全国各地に広まったとみられています。
地域によって呼び方が変わる
金時草は国内で広く栽培されており、地域によって呼び名が異なります。石川県では「金時草(キンジソウ)」と呼び、金沢市農産物ブランド協会が「加賀野菜」に認定しています。熊本県では「水前寺菜(スイゼンジナ)」と呼び、「くまもとふるさと野菜」と「ひご野菜」に選定されています。また、鹿児島県は、「ハンダマ」の呼び名で「かごしまの伝統野菜」に選定。沖縄県でも同様の呼び方で「伝統的農産物(通称:島野菜)」に定めています。
金時草の金時(きんとき)は紅色のことで、このように呼び名にはその色や高貴な姿から着想されたものも多く、宮城県では「伊達(だて)むらさき」、群馬県では「ふじ美草」、静岡県浜松市では「すみれ葉」や「のり菜」、愛知県豊橋市では「式部草(シキブウソウ)」、京都府長岡京市では「ガラシャ菜」と呼ばれています。
夏が旬の野菜
金時草は、6月下旬から11月中旬に出回る夏野菜です。夏真っ盛りの7月から8月が旬ですが、ハウス栽培が可能で周年出荷されています。地域の直売所、道の駅、スーパーなどで入手することができます。
ゆでると「ぬめり」が出るのが特徴
葉と若い茎を食用にします。ゆでると独特のぬめりが出て、ワカメのような緑色になり、ゆで汁は赤紫に色づきます。シャキシャキとした歯ざわりになり、土の香りと少しの苦みが感じられる独特の風味があります。
栄養成分豊富な緑黄色野菜
金時草は、ビタミン・ミネラルをバランスよく含む緑黄色野菜です。特にβーカロテン、ビタミンC、鉄分が多く含まれています。葉の赤紫の色素は、ポリフェノールの一種であるアントシアニンで、抗酸化作用が期待できます。また、ぬめり成分は粘液性タンパク質の混合物で、血糖値や血中コレステロールを下げるといわれています。
ツルムラサキとの違い
金時草と似ている野菜にツルムラサキがあります。どちらも葉をゆでるとぬめりが出る夏野菜ですが、分類が異なります。ツルムラサキは、ツルムラサキ科ツルムラサキ属で、葉は緑色で茎が紫色の「赤茎種」と葉・茎ともに緑色の「緑茎種」があり、主に「緑茎種」が流通しています。
金時草の基本的な栽培方法
金時草は種子がぼぼできない栄養繁殖性作物なので、苗を購入して栽培するのが一般的です。また、野菜として販売されている金時草を挿し木して育苗することも可能です。半日陰などの日に当たる時間が限られている場所で、かつ一日の温度差が大きいほど葉の裏の赤紫色が鮮やかになります。耐暑性があり、土質は特に選ばず、管理は追肥と水やりのみで、プランターでも簡単に栽培できます。
株分け・挿し木をする
栽培している金時草を株分けする場合は、3月ごろの芽が出る前に行います。挿し木する場合は、5月から6月ごろ、少し硬くなった茎を15~20cm程度に切り、下葉を取って、容器に入れた培養土に挿しておきます。乾燥させないように日陰に置いておき、根が出たら植え付けます。
苗を植え付ける
購入または挿し木で育てた苗は、株間を30〜40cm取り一条植えします。金時草は、暑さには強いですが乾燥には弱いため、植え付け後、根付くまでは土が乾燥しないようにたっぷりと水やりをします。
追肥する
葉茎の生育を見て、追肥をします。
収穫する
7月下旬から11月が収穫時期です(地域によって異なる)。次々と葉が生えてくるので、長さ30~50cmになった若い葉茎を摘み取ります。葉が茂り過ぎたときは剪定(せんてい)すれば、葉柄の脇からまた新芽が盛んに出てきます。
金時草の食べ方
金時草は、主に葉と葉柄を食べます。葉は柔らかいので生でも食べられます。サラダ、あえもの、おひたし、炒めもの、天ぷら、酢のもの、白あえなど、幅広い調理法に適しています。
下ゆでしてぬめりを生かす
金時草は、下ゆですると独特のぬめりが出て、シャキシャキとした食感になります。また、ゆで汁が赤紫に色づくので、汁ものや雑炊の具としてもいいでしょう。
ゆで方は、水洗いした金時草を葉と茎に分け、葉のみをゆでます。沸騰したたっぷりの湯に、塩(1リットルに対して小さじ1が目安)を入れ、葉をさっと30秒ほどゆで、冷水に取り、水気を絞ります。
選び方・保存方法
野菜としての金時草を購入するときは、葉の裏の紫色が濃く、葉が大きく枚数が多いものを選びましょう。保存は、乾燥を防ぐため湿らせたキッチンペーパーに包んでビニール袋に入れ、冷蔵庫に立てておきます。
金時草をおいしく食べるレシピ5選
食材としての金時草の特徴である、鮮やかな赤紫色とぬめりを生かしたレシピを、副菜の小鉢料理から主菜、主食のご飯ものまで集めました。残った茎の活用レシピも紹介します。
金時草のおひたし
材料(2人分)
- 金時草(葉) 1/2束1
- 白だし(7倍希釈) 70ml
- かつお節 適宜
作り方
- 鍋に湯をわかし、塩ひとつまみ(分量外)を入れ、金時草の葉を30秒ほどゆでる
- 金時草を冷水に取り、水気を絞り、食べやすい大きさに切る
- 容器に2と白だしを入れ、冷蔵庫に30分ほど寝かせたら、器に盛り、かつお節をのせる
※冷蔵庫に一晩置くと白だしがより濃く鮮やかな赤紫色になる
金時草とキュウリの酢の物
キュウリの酢の物を金時草で華やかにアレンジ。葉に含まれるアントシアニン色素が酢の酸に反応して調味酢が赤紫色になります。
材料(2人分)
- 金時草(葉) 1/2束
- キュウリ 1/2本
- 酢 大さじ2
- 白だし 大さじ1
- 砂糖 大さじ1
- 白ごま 大さじ1
作り方
- 鍋に湯を沸かし、塩ひとつまみ(分量外)を入れ、金時草の葉を30秒ゆでる
- 金時草を冷水に取り、水気を絞り、食べやすい大きさに切る
- キュウリは千切りにする
- 揚キュウリは千切りにする
- ボウルに、酢、白だし、砂糖を混ぜ、金時草とキュウリ、白ごまを加えてあえる
金時草と赤タマネギのかき揚げ
天ぷらは金時草の定番の調理法。タマネギと合わせてかき揚げにすると少ない材料でボリュームのある一品になります。
材料(2人分)
- 金時草 1/2束
- 赤タマネギ 1/4個
- 天ぷら粉 1/2カップ
- 水 80ml
- 揚げ油 適宜
作り方
- 金時草は葉と茎に分け、茎は3cm程度の長さに切る
- タマネギは、薄切りにする
- ボウルに水と天ぷら粉を軽く混ぜ、金時草とタマネギを入れて混ぜ合わせる
- 揚げ油を中温(170~180℃)に熱し、3を適量ずつ入れ、色が付くまで揚げる
- 器に盛り、塩や天つゆ(いずれも分量外)でいただく
※赤タマネギは普通のタマネギでもよい
金時草ちらしずし
葉のアントシアニン色素が酢と反応してすし飯が金時色(紅色)に染まります。錦糸卵、インゲン、かにかまを散らして彩りよく。
材料(2人分)
- 金時草(葉) 1/2束
- ご飯(炊きたて) 2膳分
- 卵 1個
- かにかま 適宜
- インゲン 4本
- すし酢 大さじ2
作り方
- 鍋に湯をわかして金時草を入れ、ひと煮立ちさせて冷水に取り、1cm程度に刻んですし酢につけておく
- インゲンはゆでて細切りにし、卵は薄焼きして細切りにしておく
- 炊きあがったご飯に1のすし酢と金時草を加えて混ぜ込む
- 3のすし飯を器に盛り、インゲン、卵、かにかまをのせる
金時草の茎きんぴら
金時草の葉を取って残った茎の救済レシピ。硬い茎はシャキシャキ食感のきんぴらにして、手早くおかずもう一品のできあがり。
材料(作りやすい分量)
- 金時草(茎) 1束
- ごま油 適宜
- 唐辛子(種を取る)1本
- しょうゆ 小さじ1
- 酒 小さじ1
- 白ごま 少々
作り方
- 金時草の茎は3cmの長さに切り、硬い部分があれば取り除く
- フライパンにごま油と唐辛子を入れ弱火で熱し、香りが立ったら唐辛子を取り除く
- 1を入れて炒め、しょうゆ、砂糖を加え混ぜながら加熱し、汁気がなくなたら火を止め、白ごまを混ぜる
食べておいしく眺めて優雅、夏といえば金時草
金時草は石川県金沢市、熊本県、鹿児島県、沖縄県の伝統野菜。その他の地域でも名を変えて栽培されていますが、産地以外では珍しい野菜かもしれません。栽培面では暑さに強く、次から次へと新芽が伸びて長期にわたって収穫できることも魅力です。野菜としては、夏が旬で栄養豊富。葉裏の赤紫色が特徴で、さまざまな調理法に適し、料理に彩りを与えてくれます。金時草が一鉢あれば、葉物野菜が少ない夏場に重宝します。
姿の金時草を、庭やベランダで栽培しながら、その眺めと食を夏の風物詩にしてみてはいかがでしょう。
編集協力:一般社団法人日本伝統野菜推進協会