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土地利用型農業の実態を語る 農地拡大の障壁、勝つための販売戦略とは【農家座談会】

土地利用型農業の実態を語る 農地拡大の障壁、勝つための販売戦略とは【農家座談会】

農地を拡大することで成長を目指す土地利用型農業。規模を広げるに当たっての栽培・管理・販売の苦労。コストが高まり、労働人口が減っていく日本の現状に農家はどう向き合っていくか。失敗を重ねながらも成長を積み重ねてきた4人に集まってもらいました。

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【プロフィール】(五十音順)
■井狩篤士さん

株式会社イカリファーム 代表取締役
滋賀県立大学農学部卒業。家業を継ぎ就農。2008年に法人化し、代表に就任。「自分の子どもに安心して食べさせられる」基準を大切に、滋賀県近江八幡市で減化学肥料・農薬による栽培に取り組む。コメ・ムギ・ダイズを300ヘクタール超の農地で栽培している。

■竹本彰吾さん

有限会社たけもと農場 代表取締役
石川県能美市で江戸時代から続く米農家の10代目。2006年に大学卒業と同時に就農。「農業をなりたい職業イチバンに」を使命に掲げ、全国農業青年クラブ連絡協議会の代表も務めた。55ヘクタールの農地でイタリア米、スペイン米などの品種も育てている。

■中森剛志さん

中森農産株式会社 代表取締役
東京農業大学農学部卒業。農業研修を経て2016年に就農。「食料安全保障の確保」を目標に、埼玉県加須市でコメ、ダイズ、トウモロコシなどを生産。2023年に茨城県鉾田市に農場を開き、栃木県野木町の農事組合法人をグループに加える。合計の作付面積は300ヘクタールにのぼる。

■村上和之さん

農事組合法人野菜のキセキ 理事
東日本大震災をきっかけに「野菜のキセキ」を発足。後に農事組合法人化。家業の農業を継ぐ。宮城県岩沼市の47ヘクタールの農地で米、もち米、野菜を生産。「安心して暮らせる食と農環境の創造」を目指し、次の世代に農業を継ぐべく奮闘している。

栽培品目を決めた理由

横山:今日は、土地利用型農業で最先端をいく皆さんに集まっていただきました。まず、皆さんはどのように栽培品目を決めたのでしょうか。

中森:僕は学生の頃から今まで「日本の農業に一生かける」というスローガンで活動しています。学生時代から果樹園をやったりしていたんですが、中長期で見たときに日本は水田農業がもっとも大きな課題を抱えていたのでコメを始めました。

井狩:僕は農家の3代目で、就農して20年以上経ちます。僕のおじいちゃんの頃はコメだけでしたが、国の減反政策の中で、米以外にムギ・ダイズも作るようになりました。

竹本:うちも代々の米農家で、僕が10代目と言われています。僕は代々続いている家業を「僕で絶やすわけにいかんな」という思いで継いだので、今まで頑張ってきたコメでなんとか生きてこうっていうのが基本的な方針ですね。

横山:村上さんはコメもやりながら、野菜や魚もやっていて、かなり幅広くやっていますね。

村上:私の場合、東日本大震災で被災した関係上、立ち上がりを早くするために企業と一緒にやる方針を選んで、加工用米にシフトしていったんです。その中でコメだけでは頭打ちだと感じ、加工場を買ったりして広がっていきました。

農地の拡大集約の手法と失敗談

横山:今でこそ土地利用型農業で先を行く皆さんだと思いますが、農地の拡大などで、いろんなむずかしさもあったと思います。

村上:20年ほど前ですが、ちゃんとした見識がないまま、初めて特別栽培とかに取り組んだ時は収量が激減しました。やばかったですよ(笑)。そうしたものに取り組むならやっぱり時間をかけて土づくりをしないと収量は得られないことを思い知り、勉強になりました。

竹本:失敗談は現在進行形でもたくさんあります。「こんなお米は作れないか?」という問合せに、二言目には「やりましょう」と言う。すると品種がどんどん増えてしまって。今は広げた風呂敷を畳んでいる最中です。

横山:「風呂敷を畳む」のは、どのようにジャッジするのですか?

竹本:カミさんとか周りの声のトーンを聞いて「これは違ったかな」と。

横山:ご意見番がいるのですね(笑)。

中森:僕の場合、農地拡大を最優先に進めた結果、人手が足りなくなり、管理が追いつかないという問題が生じました。いまだに改善中です。

井狩:竹本さんも言った通り、やっぱり農家って少しでも余裕があれば、いろいろなものを試しがちなんですよね。うちの場合は親父が「時間があるから冬場の仕事を作ろう」と、キャベツなどの野菜の栽培を始めたのです。野菜部門としては収益が出るのですが、逆にコメ・ムギ・ダイズが減収してしまい、会社全体として損益計算するとマイナスになっていました。労務管理などをあまり考えないで始めた結果です。

質を保つための工夫

横山:収量を上げることが大前提の土地利用型農業の場合、品質をどう上げる工夫はどうさえているのでしょうか?

村上:うちの取引先にはお餅やお菓子の有名メーカーやその関連会社が数多くあり、そうしたところは高品質のもち米を安定的に確保したいので、必然的に良い価格をつけてもらえます。もち米の品質は水管理次第ですから、こまめな水管理を実践して質も量もできる限り最良のものを提供しています。

中森:うちの場合「量か質か」というより、重視しているのは農業生産の標準化なんですよ。そのために人材育成。外部の専門人材も入れて試験と観察の精度を上げて、安定的で再現性のある農業生産をする。そこからスケールアップしていくことを目指しています。

横山:標準化が品質向上にもつながっているということですね。井狩さんは?

井狩:僕の場合は2つあって、1つは原価低減です。日本では肥料、農薬、生産資材、機械などがとても高いんですよ。だから肥料などは海外から直接輸入したりしています。2つ目は、市場を飽和させないこと。需要に対して供給を満たし続けると価格が下がってしまう。コメや穀物は1%飽和すると値段が7%ぐらい下がるって言われているんですよ。だから市場の動向にあまり左右されない商品——たとえば、米粉の原料に特化したコメを作って和菓子材料のメーカーに卸し、年間契約で安定的に利益を確保するとか、そうしたことを行っています。

竹本:僕もそうですね。他と同じ土俵で戦ったらいけないという思いが就農当時からあったので、イタリア米など、人が作らないようなコメをつくるようになりました。

機械化の可能性と障害

横山:大きな土地で農業をやろうとすると機械化、DXも進めていく必要があるのではと思います。それについての工夫点を教えてください。

中森:機械化は当然、進める必要があります。機械そのものも進化しているので、使いこなせなくて困るようなことは近年減っていますね。素人でも扱えるように自動運転・自動操舵もできるようになってきています。そうした設備投資を確実にできるよう生産性を確保することが今後の経営の課題です。

井狩:ザルビオなどの衛星診断のソリューションと可変施肥装置などはもう必須ですね。「あそこは地力がないから肥料をちょっと多めに」なんて伝えても、経験が浅い人はどれくらいの量を入れればいいのかわからない。それに対して機械化すれば、誰がやっても一定の水準のことができます。ドローンや田植え機などについても新しい技術は惜しみなく取り入れていきたいです。

竹本:これから農業従事者はどんどん減っていくので機械化の恩恵は大きいです。

村上:ただし、僕たちが収益性を高めるスピードより、機械の値上がりが早いので経営は大変です。将来的にはできるだけ広い範囲で連携し、よりしっかりした作付け形態にして、より良い販売方法を考えないと農業機械の入れ替えも難しくなっちゃうのかなと感じています。

井狩:ドローンなどは自社だけで使うのは非効率ですよね。仕事がずっとある状態がベストです。だからドローンチームを社内で編成したら作業を受託して、南から北まで産地リレーができればいいなと考えています。そうすれば、うちの設備コストが下がるし、各地の農家さんも割安でドローンを利用できます。例えば代かきを済ませたらこの時期に種を撒きに行きますよ、と作業を受託する形にすれば、苗も作らなくていいし、全体のコストも下がる。つまり海外のコントラクター(農作業受託)事業みたいなものを日本でも活用して分業化できればいいと思っています。

営業戦略・販売面での工夫

横山:販売管理費をかけずに営業戦略を作っていく工夫があれば教えてください。

村上:うちは今、汚泥肥料を作っていて、肥料にかかるコストを抑えています。

中森:農薬や肥料の価格高騰は外的要因によるものなので、自分たちでコントロールはできないですね。ですから地域の中で生産のための資源を共有して利益率を高めるという方向に持ってかなくてはいけないと思っています。

井狩:経費を下げるのは大事ですが、逆に経費をかけてそれ以上の利益を生めばいいという考え方もあります。うちの場合なら業界の困りごとの解決を請け負い、肥料や農薬を販売したり、農業系の土木技術を提供したりすればいいのでないかと思っています。

竹本:教科書的な回答になりますが、やっぱり人を育てることが一番の戦略です。作業を頼むにしても、なぜこの作業が必要なのかを理解してやってもらうと全然違った結果になります。時間はかかっても結局、人材育成が最も注力すべき施策になると思います。

農業従事者に向けたメッセージ

横山:では最後に、今後の日本の農業に対する提言と皆さん自身が将来的に目指すところ、そして農業従事者、あるいは農業志望の人たちへのメッセージをお願いできますか。

竹本:少ない人数で大きな面積の農地を使う土地利用型農業は、これまでの日本の農業とは異なるイメージがあるかもしれませんが、その可能性は今後ますます広がっていくと思います。高齢の農家さんの事業承継の問題で維持できない田畑も増えており、それらを活用するという点でも、土地利用型農業は注目すべきものではないでしょうか。

井狩:どこが損益分岐点なのか、ほとんどの人がよくわからないままやっている印象があります。「プロとして食べていくつもりならイニシャルコストをあと1億5000万円かけないと黒字にならない」と、国や我々みたいな組織がちゃんと発信するのは非常に大事になってくると思うんですね。また労働集約型なので、それぞれバラバラでやっているよりも、例えば一つのファームで1割の人が労務管理をやって、8割の人は全力集中で生産。そして残り1割ほどが営業活動や販売管理を担えば、めちゃくちゃ効率よくなる。これからグローバル市場で戦うためには、そういった「皆で達成していく」という姿勢が大事だと思うし、僕はそのようにやっていきたいと考えています。

中森:今、日本の農業は世界の中で劣後している状態ですけど、そのギャップを埋めることがビジネスにつながります。そこに取り組んでみたいと思っている若者がいたら、ぜひ連絡がほしいし、いっしょに日本の農業の未来を作っていきたいと強く思っています。


村上:なんとなくやる農業じゃなく、未来を見てしっかり考えながらやってほしい。それで行き詰まることがあれば、今ここにいる皆さんに連絡して助言してもらうといいです。僕の場合、助言をいただける農家が周りにおらず、1つ1つ勉強しながらやってきたので立ち上がりに非常に時間がかかりました。これからは立ち上げに時間をかける必要はないと思います。せっかく良き助言者が全国にいて、コミュニケーション手段も発達しているのですから、遠慮なく応援してもらってください。

井狩:これまで農業というと、ほとんどの人がいずれ独立を目指してがんばっていましたが、今後、そういう形にこだわらないほうがいいと思います。ローリスクで農業をやりたいという場合、就職型の農業は適しているのではないでしょうか。うちにも半導体の設計開発をしていたとか、医療関係にいたとか、いろいろな職歴の社員がいますが、そうした知識・技術を持ち寄ると農業のなかでも新しい可能性が広がると思っています。

横山:皆さん、様々な視点でお話いただき、ありがとうございました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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