柿には甘柿と渋柿がある
柿には大きく分けて甘柿と渋柿があります。熟すと渋みがなくなるのが甘柿です。熟しても渋みが残る渋柿は、アルコールや炭酸ガスを使って渋抜き処理をしてから出荷されます。柿の渋みのもとは可溶性タンニンです。これが口の中に広がって強い渋みを感じますが、渋抜き処理をするとタンニンが不溶性に変化するため渋みが感じられなくなります。
甘柿はさらに完全甘柿と不完全甘柿に分けられます。完全甘柿は、種子の有無にかかわらず自然に渋が抜けるものです。不完全甘柿は、種子が多くできると果肉が黒くなって渋が抜けるものです。
渋柿にも不完全渋柿と完全渋柿があります。不完全渋柿は種の周辺だけ渋みが抜けるもので、完全渋柿は種が入っても渋いままのものです。いずれも渋抜き処理をすれば甘くなり、干し柿にしても渋みが抜けます。
現在、品種登録されているのは70種類ほどですが、各地に古木も多く残っており、地方品種は1000以上あるともいわれています。甘柿では「富有」「次郎」「西村早生(わせ)」「伊豆」が、渋柿では「平核無(ひらたねなし)」「刀根早生」が多く栽培されています。
完全甘柿
種子の有無にかかわらず渋みが抜けるもので、甘みが強いのが特徴です。渋みが抜けるためには夏秋の気温が高いことが条件となるため、温暖な地域が主な産地となっています。
太秋(たいしゅう)
1995年に登録された比較的新しい品種で、主な産地は熊本県、福岡県、愛媛県など。栽培が難しいなどの理由で収量が安定しないため、ほかの品種と比べて生産量が限られています。果実は重さ320gほどの大玉で、大きなものは500gを超えます。腰高な扁円形、果皮は鮮やかな橙色(だいだいいろ)です。糖度は通常17度、高いものでは20度以上と甘く、果汁たっぷりでみずみずしい味わいが魅力。シャキシャキとした歯ざわりで他の柿にはない食感が楽しめます。また、完熟果でもやや青みがかっていて、果頂部に「条紋」と呼ばれる細かい筋が生じやすいのが特徴。条紋の周りは糖度が特に高いとされ、その発生が甘く熟している証となります。10月中旬 から11月上旬に収穫され、スーパーや青果店、産地の直売所や産直通販などさまざまな場所で購入できます。
大磯の太秋柿は、柿嫌いでも食べられるみずみずしさと上質な甘さが魅力
人気品種の一つである「太秋」の産地は南日本が多いものの、近年はさまざまな地域で栽培されています。中でも、神奈川県大磯町で生産される「太秋」の大玉柿は、農家の庭先販売でしか手に入らないという希少な大玉柿です。一般的な柿が約200gであるのに対し、大玉柿は350g以上と圧巻の大きさ。大胆な剪定(せんてい)と摘蕾(てきらい)・摘果で残した実に養分を集め、堂々とした美しい外見とみずみずしい果実味が特徴です。
湘南の温暖な気候と太陽の光、海風を受けて育った大磯の大玉柿は、柿のイメージを覆すシャキシャキとした食感と上質な甘さが魅力。柿特有のねっとり感が苦手という柿嫌いにもおすすめの一品です。これを手はじめに、いろいろな柿品種を味わってみてください。大玉柿は「食べチョク」などのECサイトで購入できるほか、大磯町のセレクトショップなどでも販売されます。
富有(ふゆう)
岐阜県原産。同県瑞穂市が発祥とされる甘柿の代表品種で、北海道・東北を除くほぼ全国で栽培され、国内で一番生産量が多い柿品種です。果実は重さ230〜280gほどの扁円形で、果皮は橙紅色(とうこうしょく)。糖度は15度~18度と甘く、食感は熟度に応じてサクサクからしっとりへ変わります。11月から12月上旬が出回り時期で、貯蔵性にも優れているため長期出荷されます。江戸時代に栽培が始まり、明治時代に富有と命名されました。
次郎(じろう)
静岡県原産。愛知県、静岡県、三重県が主な産地です。果実は重さ250〜300gほどの平たい四角形で4本の溝があり、果皮は橙色。糖度は16度~18度で、肉質は硬めでカリッと歯応えのある食感です。国内では富有の次に多く栽培されている品種で、日持ちのよさも特長。10月下旬から11月ごろが出回り時期で、スーパーや青果店、産地の直売所、産直通販などで購入できます。
伊豆(いず)
静岡県原産。主な産地は、福岡県、島根県、香川県など。果実は重さ300gほどの大玉で四角い扁円形で橙紅色。糖度は14度~15度で、果汁が比較的多く、果肉はやわらかいのが特徴です。10月上旬に熟す早生品種で、こちらもスーパーや産地の直売所、産直通販などさまざまな場所で購入できます。富有と興津1号の交雑で1955年に誕生しました。
輝太郎(きたろう)
島根県原産。島根県のオリジナル品種で、同出身の漫画家、水木しげる氏の代表作にちなんで命名。2010年に品種登録されました。果実は平均300gの大玉で厚みのある円形で、果皮はつやのある濃い橙色。糖度は20度以上に達することもあり、果肉はジューシーでなめらかな舌ざわりが特徴。9月下旬から収穫できる早生の甘柿です。
ねおスイート
岐阜県が原産地。2015年に品種登録された岐阜県のオリジナル品種です。高糖度系の新秋(しんしゅう)とサクサク食感の太秋を交配して10年かけて育成されました。果実は中玉で腰高な扁円形、果皮は橙色で条紋(ひび割れ)が入る。平均糖度は20度以上と極めて高く、サクサクとした食感が特徴。富有柿より早く10月に収穫される中生(なかて)品種。生産数は限られていますが、岐阜県内のJA直売所、産直通販で購入できます。また、糖度20度以上で300g以上の大玉サイズの秀品は、高級ブランド「天下富舞(てんかふぶ)」として出荷されています。
紀州てまり(きしゅうてまり)
和歌山原産。2019年に品種登録された同県のオリジナル品種。2008年に和歌山県果樹試験場かき・もも研究所で「早秋」と「太秋」を交配して得られた実生群の中から選抜育成されました。果実は重さ300g以上の大果で腰高な扁円形、果皮は薄い橙色。糖度は16度~17度で果汁たっぷりでシャキッとした食感が特徴です。10月下旬に収穫が始まり、生産数は限られていますが、産直通販、同県ふるさと納税返礼品などで入手できます。
不完全甘柿
甘柿の中でも種子ができると渋みが抜ける品種です。種子ができると果肉にタンニンが凝固してできた黒褐色の斑点(ゴマ)が多量に生じます。種子の少ないものはゴマが少なく、渋みが抜けきらないことがあります。
禅寺丸(ぜんじまる)
神奈川県原産。鎌倉時代に王禅寺(現・川崎市麻生区)で発見され、日本最古の甘柿とされています。江戸時代に王禅寺かいわいで栽培が始まり、明治時代に最盛期を迎え、新品種の登場や都市化で市場から姿を消しましたが、「柿生禅寺丸保存会」が結成され地域品種として保護されています。果実は丸く小ぶりで濃い紅橙色。糖度15度ほどで果肉は硬め、種が大きいことが特徴です。市場には出回らず、9月下旬から10月上旬の収穫期に、区内の農産物直売所に入荷することがあります。また、毎年10月に開催される「王禅柿まつり」では保存会の直売で購入することができます。
西村早生(にしむらわせ)
滋賀県が原産地。主な産地は、福岡県、岐阜県、鹿児島県など。富有と赤柿が自然交雑して生まれたとされ、1960年代に園主の名にちなんで「西村早生」と名付けられました。種が多くなるにつれて果肉に黒い斑点ができ、甘みを増します。果実は重さ200gほど。糖度は15度ほどで、果肉は粘りけがあり、カリカリした食感とさっぱりとした味が特徴。果肉には褐色の斑点(ゴマ)がぎっちり入っています。9月上旬から10月下旬に収穫される早生品種です。
筆柿(ふでがき)
愛知県原産。同県幸田町は全国1位の生産量を誇ります。筆の形に似ていることから、この名がつきました。また、その独特の形から「珍宝柿(ちんぽうがき)」の愛称があります。果実は100gほどで丸かじりできるほど果皮が薄く歯応えがあるのが特徴。糖度は平均17度で高いものでは25度になることもあります。9月中旬から10月上旬にかけて収穫され、スーパー、青果店、産地の直売所、産直通販などで購入できます。
不完全渋柿
渋柿の中でも、種子ができるとその周辺にゴマが生じて部分的に渋が抜ける品種です。全体的に渋みが残るため、渋抜きをして食べます。
平核無(ひらたねなし)
新潟県原産。佐渡では「おけさ柿」、山形県では「庄内柿(しょうないがき)」と呼ばれています。種なしの渋柿品種の代表格で、全国的に栽培されています。果実は扁平で丸みを帯びた四角形で、重さ180~200g。糖度は14度から16度で、果肉は緻密でやわらかく果汁が多いのが特徴です。渋抜きが比較的しやすく、干し柿にも向いています。スーパー、青果店、産地の直売所、産直通販などで購入できます。
刀根早生(とねわせ)
奈良県原産。主な産地は、和歌山県、奈良県、新潟県、山形県など。1955年に接ぎ木した平核無の枝変わりで生じ、1980年に品種登録されました。天理市の育成者の名にちなんで命名されました。大果で品質がよく、平核無柿より10日~15日ほど早く、9月下旬から10月上旬に収穫され、ハウス栽培では8月の盆の時期に出荷されています。果重は150~200gで糖度は18度~20度で果汁が多いのが特徴。扁平で四角い。
甲州百目(こうしゅうひゃくめ)
原産地は不明ですが、古くから主に山梨県の甲府盆地で栽培されていたことから名付けられました。主な産地は、福島県、宮城県、山梨県など。日本各地で栽培されている品種で、蜂谷(はちや)、富士(ふじ)、渋百目(しぶひゃくめ)とも呼ばれます。通常350~400g、大きいものは500gになり、百匁(ひゃくもんめ=約375g)にちなんでその名がつけられました。果実はつりがね形で赤橙色(せきとうしょく)、果汁が多く果肉はやわらかめ、渋抜き後の糖度は20度以上になります。11月ごろに収穫され、多くはあんぽ柿やころ柿(干し柿)に使われます。生果実は産直通販などで購入できます。あんぽ柿・ころ柿はスーパー、青果店、産地の直売所や物産店にも出回ります。
太天(たいてん)
広島県原産。主な産地は愛媛県。黒熊と富有を交配して育成された晩生(おくて)の渋柿品種です。2009年に品種登録されました。果実は扁平で大きく、平均490gになります。肉質はやわらかく、適熟果は「太秋」のようにサクサクで、熟度が進むと緻密でなめらかになります。糖度は17度ほどで甘く、果汁が多いのが特徴です。11月中旬に収穫され、スーパー、青果店、産地の直売所や産直通販で購入できます。
突核無(とつたねなし)/ベビーパーシモン
新潟県原産。佐渡島で発見された平核無の突然変異で、果実は非常に小さくピンポン玉大。皮が薄く、種がないので、渋抜きしたものは丸ごと食べることができます。糖度は20度以上と高く、シャキシャキとした食感が特徴です。品種登録はされておらず、ベビーパーシモンの登録商標があり、新潟県産、岐阜県産がその商標で出荷されています。出荷時期は9月下旬から10月上旬。産地の直売所や通販などで購入できます。また、その苗木は「さど乙女」という登録商標で流通しています。
みしらず柿
福島県原産。福島県会津地方で古くから栽培され、毎年皇室へも献上されています。漢字では「身不知柿」と書き、名前の由来は枝が折れるほど多く実をつける身の程知らずであること、将軍に「いまだこのようなおいしい柿は知らず」と絶賛されたこと、あまりにおいしいので身の程知らずに食べ過ぎることなど諸説あります。扁平で腰高のつりがね形。250g程度。渋抜きするとねっとりとした食感になります。10月下旬から11月下旬まで出荷され、主に県内の直売所、スーパーのほか、ネット通販、首都圏の一部の店舗で購入できます。
完全渋柿
渋柿の中で種が入っても渋いままのものをいいます。渋抜きをして食べます。
愛宕(あたご)
愛媛県原産。同県のほか、徳島県、香川県、岡山県などが主な産地です。230g前後で大きいものは300gを超える大果もあり、つりがねのように縦長で先が細くなっています。1910年にはすでに栽培されていました。糖度は15度~18度のほどよい甘さでパリッとした食感。干し柿にも用いられます。晩生品種で11月中旬から12月中旬に収穫され、産地の直売所、産直通販などで購入できます。
市田柿(いちだがき)
長野県原産。南信州の飯田市・下伊那郡および上伊那郡の一部で栽培される渋柿品種で、ブランド干し柿の「市田柿」の原料です。成熟時は100~120gの大きさで糖度18度以上になり、干し柿として乾燥させると25gほどで糖度は最大60度〜70度に凝縮されます。表面は白い粉をまとい、身はあめ色でようかんのようにもっちりとした食感。2016年に地理的表示(GI)保護制度に登録された特産品です。干し柿として11月下旬から翌年2月ごろまで出荷され、スーパー、青果店、直売所や物産展、産直通販などで購入できます。
西条(さいじょう)
広島県産。中国地方特有の品種で、島根県、鳥取県、広島県が主な産地。縦長のずんどうで表面に4本の溝があるのが特徴。肉質はきめ細かくやわらかで、糖度は18度以上で上品な甘み。生果実は10月中旬から11月中旬、10月下旬から年末にかけてはあんぽ柿や干し柿が出荷されます。スーパー、青果店、産地の直売所、産直通販などで購入できます。
やわらかい柿が好きな人におすすめの品種
柿の食感は、硬めでコリコリ、水分が多くシャキシャキ、やわらかくなめらかなど、品種によってさまざまです。やわらかくなめらかなものは、「輝太郎」「刀根早生」「甲州百目」「西条」「みしらず柿」「伊豆」「平核無」など。「富有」や「太天」のような水分が多くシャキシャキした柿にも、追熟することでやわらかくなる品種もあります。
追熟が進んだ柿は、皮をむかずに半分に切ってスプーンで食べたり、凍らせてシャーベットにすると、また違った味わいが楽しめます。
水分に富んだシャキシャキ食感が好きな人におすすめの品種
反対に、やわらかくなめらかな食感が苦手な方やシャキシャキした食べ応えのある柿が好きな方には、水分に富んだ「太秋」や硬めな歯ざわりの「次郎」がおすすめ。特に、「太秋」の大玉果の生産に力を入れている大磯うみのかぜファームでは有機質肥料を使い、樹の上でじっくり熟成させる方法でさっぱりとした甘さのみずみずしい柿を育てており、「柿嫌いでも食べやすい」と評判を集めています。
とにかく甘い柿が好きな人におすすめの品種
柿は全般的に糖度が高く甘い果物です。その中でも特に甘いのが、甘柿の「太秋」「ねおスイート」「輝太郎」、渋抜きした「筆柿」「刀根早生」「甲州百目」など。柿は酸味が少ないので、より糖度が高いリンゴやぶどうより甘く感じられるかもしれません。
自分で干し柿を作りたい人におすすめの品種
干し柿は渋柿で作られるのが一般的です。渋柿は糖度が高いものが多く、干し柿にすると渋みが抜けて和菓子のように上品な甘さになります。干すことで水分が抜けて実が凝縮されるので、大玉の柿が向いています。具体的には、完全渋柿の「西条」「市田柿」、不完全渋柿の「平核無」「甲州百目」などです。
いろいろ試して柿の魅力を再発見
柿は東アジア特有の果樹で、日本でも古くから秋の味覚として楽しまれてきました。おなじみの果物ですが、品種が多く、個々の特徴はあまり知られていないかもしれません。
柿は甘柿と渋柿に大きく分けられますが、渋柿は人の手で渋抜きして出荷されます。栽培面積が最も多い「富有」は甘柿品種、次いで多い平核無や刀根早生は渋柿品種です。
早生品種は8月のお盆ごろから出荷が始まり、晩生品種は12月ごろまで収穫され、年明けには貯蔵柿が出回り、干し柿は春まで店頭に並びます。残暑が厳しい9月、10月にはシャキッとみずみずしい柿、晩秋にはしっとり濃厚な柿など、その時々のおいしさも発見してみてはいかがでしょう。