石灰窒素で稲わらなど作物残渣の腐熟を促進
国産石灰窒素は、その製法が開発されて百年以上、肥料、農薬、土づくりに利用されてきた。近年では環境保全型農業の推進で、その緩効性肥効が施肥量や追肥回数の削減につながる環境にやさしい肥料・農薬として評価されている。
「今、石灰窒素の利用法で特に注目したいのが、作物残渣のすき込みや堆肥生産での施用です」と技術顧問である𠮷田吉明さんは話す。石灰窒素には有機物の分解(腐熟)を促進させる働きがある。同時に主成分のシアナミドが土壌・堆肥中の大腸菌などの有害菌、雑草、ジャンボタニシなどの病害虫を抑制するため、化学農薬を削減できる。水田では収穫後の土壌にすき込んだ稲わらの腐熟を促進し、春先の浮きわらや藻などによる稲の初期生育障害を回避すると同時に、地力増強にも役立ち、更に増収も期待できる。農林水産省では有機物の腐熟促進のみを目的とした場合、石灰窒素は化学肥料の窒素成分量としてカウントの必要はないとしており、特別栽培米などの土づくりで使い勝手がいいこともメリットだ。
秋耕とあわせて水田のメタン削減 茶園・畑作ではN2O の生成を抑制し、施肥量の削減効果も
みどりの食料システム戦略では、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を目標に掲げている。温室効果ガスの中でも水田から発生するメタン(CH4)は、二酸化炭素の約25倍の温室効果があるという。日本国温室効果ガスインベントリ報告書2023年によると、稲作からのメタンの発生量は47・8万t(CO2換算1194・2万t)にのぼり、農業全体の44%を占め、最も多い。
これを踏まえ、日本石灰窒素工業会は、秋耕での石灰窒素施用の普及に努めている。秋耕の際、稲わらすき込みに石灰窒素を施用すると、より多くのメタンを削減できることが実証されている。福島県農業試験場では、秋すき込みに石灰窒素を施用した場合で、無施用と比べて47%、春すき込みとの比較では69%のメタンが削減された。山形県農業総合研究センターでは、石灰窒素を秋に表面施用した春すき込みで、無施用との比較で31%のメタン削減効果があった。
農地からの温室効果ガス発生を抑制する取り組みで、環境保全型農業直接支払交付金の対象活動の中では、有機農業、堆肥の施用、カバークロップ、リビングマルチなどによりそれぞれ1haあたり年間約1t〜3tのCO2が削減されるが、秋耕は8・99tと削減量が断トツに多い。
茶園・畑作では、石灰窒素の施用がN2O(一酸化二窒素、温室効果はCO2の約300倍)の発生を抑制し、J -クレジットの方法論(メニュー)の一つとなっている。今後、水田の秋耕もJクレジットの方法論になることが予想され、石灰窒素の施用でメタン発生量の削減を最大化しない手はない。
太陽熱・石灰窒素法で病害虫抑制、化学農薬を減らして地力高める
石灰窒素を利用して化学農薬の使用量を減らすことも可能だ。その技術の一つが、ハウス栽培の「太陽熱・石灰窒素法」による土壌消毒である。石灰窒素の有機物の腐熟促進による発酵熱、太陽熱、湛水・密閉による土壌還元を組み合わせた防除法で、夏の高温時、土壌に稲わらや米ぬかなどの有機物、基肥、石灰窒素を一緒にすき込み、畝立てして表面を古いマルチフィルムで被覆し、畝間潅水をしてハウスを密閉する。ネコブセンチュウ、トマトの萎凋病などの難病害虫防除と同時に土づくりができる。
環境対策プラス地力強化で作物の増収につながる石灰窒素。「私はこれを古くて新しい機能性の肥料と呼んでいます」と𠮷田さん。農業の持続可能性を前進させる資材は身近にあった。
商品名
『国産石灰窒素』
問い合わせ先
日本石灰窒素工業会
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