放置竹林を無償で伐採し、畜産資材に
2005年に宮崎県都城市で創業した大和フロンティア。これまで、ガソリンスタンドの地下タンクの点検事業で業績を伸ばしてきましたが、高齢化などの波を受け、地域のガソリンスタンドは徐々に廃業。また、点検作業は補助金の関係で冬に集中することから、通年稼働できる新しいビジネスを模索していました。
宮崎県は杉の生産量日本一を誇る林業県であり、養鶏を筆頭に畜産物の生産量も上位を占めています。そこで、杉の丸太を生産する過程で大量に出る端材をおがくずにし、敷料として畜産農家に販売する事業を始めたのが、他業種参入のきかっけでした。
ところが2016年ごろから、杉のバイオマスへの利用や中国への輸出が増え、入手が不安定に。そこで杉の代替品として目を付けたのが竹でした。竹は家畜のふん尿の吸収に優れ、消臭効果もあることから、敷料に適していることがわかったのです。ちょうど、あちこちで放置竹林が増えて、問題になっているという話も聞こえてきました。
「通常、100坪ほどの竹林を伐採する場合、運搬と産廃費用含めてトータル70万~80万円ほどの費用がかかります。それを無償で引き受ければ、所有者も喜んで依頼してくれるだろうと考えました」(専務取締役・田中裕一郎さん)
背水の陣で重ねた試行錯誤
早速、繊維の多い竹用の特殊な粉砕機を導入。しかし、いざ製造を始めてみたところ、青竹は粉砕すると発酵して温度が70℃近くまで上がってしまうことが判明しました。「これでは敷料としての利用は難しい」と、構想は頓挫したといいます。
そんな折、県の畜産試験場が飼料の自給率を上げるために竹のサイレージを開発したことを聞きつけました。「これだ!」と、代表である兄の浩一郎さんは試験場に通い詰め、ノウハウを吸収。商品化に向けて動き始めます。
しかし、ここでも課題が続出しました。竹は嫌気性のためロール状にして密閉保管しないとすぐにカビが生えてしまいます。試験場で作っていたサイレージは粉砕が粗くとがっていたため、家畜が食べやすいよう、より細かく粉砕したところ、ロール状にまとめることができなくなってしまったのです。また、粉砕した生竹に乳酸菌と発酵を促す糖蜜、水を加えてかき混ぜるのですが、教えられた通りの配合で糖蜜を加えると、やはりカビが発生してしまいました。
浩一郎さんと裕一郎さんは、ロールにする機械を改良したり、糖蜜の割合を発酵が進む最小限に抑えたりするなど必死に試行錯誤を重ねました。そうして出来上がったのが、「笹(ささ)サイレージ」です。
エビデンスが販路拡大を後押し
やっとの思いで完成にこぎつけた「笹サイレージ」でしたが、今度は販売先がなかなか見つかりませんでした。笹サイレージには乳酸菌が多く含まれるため、家畜の腸内環境を改善し、栄養吸収効率を高めて肉質の向上にもつながることは畜産試験場のデータが示していました。しかし、畜産農家はそうやすやすと飼料を切り替えてはくれませんでした。
そんな中、早くから笹サイレージの可能性に期待を寄せ、導入を決めた畜産農家もいました。同じ都城市で地域密着型の養豚に取り組む、農事組合法人萩原養豚生産組合です。成果はすぐに表れました。笹サイレージを従来の飼料に2%混ぜるようにしたところ、生産している「観音寺ポーク」が2017年と18年の2年連続で宮崎県畜産共進会のグランドチャンピオンに選ばれたのです。
「腸内環境の改善により、餌の栄養吸収率が向上したんですね。導入前は、出荷まで1頭当たり330キロの餌が必要だったのが280キロで済むようになり、トータルの餌代を年間4000万円も削減することができたそうです」と浩一郎さん。輝かしい実績とともに肉質の変化に関するデータも集まり、田中さんは販路を広げていく上での確かな足がかりを得ました。
2020年には「竹が倒れてきた」「敷地を侵食してきた」「畑の日当たりが悪くなった」など、市民から放置竹林に関する苦情が多く寄せられていた都城市と包括連携協定を締結。対象となっている竹林の伐採を大和フロンティアが引き受ける仕組みが生まれました。
このほか、畜産農家に対して、笹サイレージの買い取り金額の半分を市が補助する制度もスタート。竹の仕入れが安定し、販売先も少しずつ広がっていきました。
肥育期間の長い肉牛に対しても、徐々に笹サイレージの有用性が明らかになってきました。当初、笹サイレージはビタミンAが豊富で、それがサシの入りを悪くするのではと懸念されていました。しかし、鹿児島県立鹿屋農業高校が肥育後期の3カ月間、笹サイレージを餌に混ぜたところ、サシに影響を与えることなく肉質が向上。23年の和牛甲子園で審査員特別賞を受賞しました。さらに24年度は、肥育前期から笹サイレージを1日1キロ与えている牛が最優秀賞を獲得したのです。浩一郎さんは「肥育農家さんにも自信をもってすすめられるようになりましたね」と胸を張る。
赤字の時期を支えた肥料としての需要
順調に販路を広げてきたサイレージ事業ですが、はじめの5年間は赤字続きだったといいます。「一時は、もうダメかもしれないと諦めかけていました」。そんな時、売り上げを底支えしたのが、農業用肥料としての需要でした。
竹をパウダー状にした商品は、すでに肥料や土壌改良剤として全国的に販売されていました。「当時の価格で1キロ500~1000円。原料となる竹を買い取ったり手作業で加工したりすると、そのくらいの金額になってしまうんですね。しかし弊社なら原材料費はタダ同然ですし、重機で大量に作ることができるので1キロ30円前後(当時)で販売できます。竹にはもともと乳酸菌が含まれていますが、そこにさらに乳酸菌を加えて発酵させているので、従来品に比べてより高い効果も期待できました」
知り合いの農家や、伐採を請け負った竹林所有者などに畑での試験利用を依頼すると、「根の張りがよくなり、良く育つようになった」「収穫量が増えた」「土がフカフカになった」などうれしい声が続々と聞こえてきました。中には、笹サイレージを10アール当たり100キロまいたところ、それまで18俵だった収穫量が24俵まで増えたという米農家も。程なくして、県の育苗センターや、県内有数の米どころであり「日本の米づくり100選」にも選ばれているJAえびの市でも使われるようになりました。
「飼料としての販路が広がらず苦戦している時期も、肥料としての需要が伸びていったからこそ、この事業を諦めずに続けてこられた」と、浩一郎さんは当時を振り返ります。
現在は宮崎県を中心に15の市町と包括連携協定を結び、宮崎と鹿児島に4工場を構える大和フロンティア。売り上げも昨年度より200%伸びて、福岡に新工場を計画するなど、うなぎ上りの成長を続けています。
「畜産についても農業についても全くの素人だったので、農家さんから教わりながら一歩一歩進んできました。正直、私たちもここまで伸びるとは思っていませんでした。販売先の農家さんや畜産試験場、農業改良普及センターや宮崎大学など、各方面からのエビデンスがそろい始めてからは展開が早かったですね。飼料価格高騰などにより、国内自給への動きが高まったことも追い風になりました」
最近では、北海道の酪農家から問い合わせが来たり、国内外の企業や自治体からも視察や講演、誘致やフランチャイズの依頼が絶えないといいます。
「放置竹林を減らし、農家さんのニーズに応えていくためにも、さらに規模を拡大していく必要性を感じています。ただ、発酵中の温度管理などすべての工程を機械化できるわけではありません。品質をいかに維持していくかがこれからの課題ですね」
九州、西日本を中心に広く分布する放置竹林。大和フロンティアは、そんな厄介者扱いされてきた足元の原石を宝に変えるすべをつかみ、まさに「三方良し」のビジネスを確立させました。その躍進は、眠れる地域資源の活用という点でも示唆に富んでいるのではないでしょうか。