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輸入飼料への依存度の高い本州の酪農経営。自給飼料生産増のカギは?

sato tomoko

ライター:

輸入飼料への依存度の高い本州の酪農経営。自給飼料生産増のカギは?

干ばつなどの異常気象や長引く円安、燃油や資材費の高騰で、乳牛の餌となる輸入牧草の価格は高止まりが続いています。国産飼料への切り替えや自給飼料の増産が視野に入る中、岡山県の蒜山(ひるぜん)地区では、酪農家3戸による苗代ロールベーラー組合が牧草の一種であるチモシーの共同生産に取り組んでいます。第1次オイルショックに見舞われた1970年代、先代らによって組織されたことがルーツの同組合。50年余後のいま、どう機能しているのか。組合代表に運営体制や自給飼料を共同で生産していくことの強みを取材しました。

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若手に引き継がれた、牧草の共同生産

冷涼な気候と豊かな自然に恵まれ、酪農が盛んな蒜山高原。その北部に位置する苗代地区に、苗代ロールベーラー組合の前身となる任意団体が発足したのは、第1次オイルショック下の1970年代。牧草などの粗飼料の増産と生産効率化のため、2戸の酪農家が飼料生産用の機械を共同利用する形で始まりました。

一時は組合員数が10戸まで増え、その後は離農などもあり、現在は3戸ながら牧場経営を継いだ2代目や第三者承継予定の若手酪農家による活気のある団体です。世界的な気候変動や社会情勢不安に加え、昨今の円高による輸入飼料の不足・高騰を、牧草の共同生産によって乗り越えようと結束を強めています。

現在、苗代ロールベーラー組合(以下、組合)の代表を務めるのは、有限会社長恒牧場の長恒泰裕(ながつね・やすひろ)さん(38)です。酪農大学を卒業した後、1年間アメリカでの研修を経て、2009年に父が経営する牧場に就農して15年。6年前に牧場の経営を継ぎました。

乳牛の世話をする長恒泰裕さん(長恒牧場)

牛の世話をする長恒泰裕さん

その翌年、DX事業でつなぎ牛舎を新築して今年で6年目。ホルスタイン種の経産牛118頭(うち搾乳牛100頭)、育成牛75頭を飼育し、長恒さんのほか、両親、妻、従業員2人が従事しています。生乳生産は年間約1320トンと経営規模は組合では最大。岡山県内約150戸の牧場のなかでも10本の指に入ります。

牧草の生産性を高める、機械共同化と作業分担

酪農・畜産では飼料費が経営コストの4~5割を占めますが、国内の飼料自給率は、飼料全体で26%、牧草などの粗飼料で78%、穀類などの濃厚飼料では13%にとどまっています(令和4年度概算)。

「酪農家として飼料の生産もして自給の比率を高めたい」と長恒さん。父の代から牧草作りに力を入れてきました。

組合では、全体で約90ヘクタールの牧草地でチモシーを栽培しています。他の品種と比べて栄養価が高く、牛が好んで食べるそうです。チモシーは冷涼な気候で育つため東北以北が適地とされ、長恒さんによると西日本で生産しているのは蒜山地区のみ。生産工程のうち、牧草地の土づくり、種まき、防除、刈り取り、刈った牧草を乾かす反転までを個人が行い、その後の集草、結束、運搬、ラップ(こんぽう)を共同で実施しています。

牧草生産の共同作業

牧草生産の共同作業

チモシーは永年牧草で、1度の種まきで4~5年にわたり年3回、1番草から3番まで収穫できます。
「例えば、今回は全部で30町を刈ると決めたら、天気予報を見て刈り取り日を決めて足並みをそろえ、各自が好きな畑を10町ずつ、一斉に刈り始め、反転まで終わったら、共同作業で一気にロールを作っていきます」と長恒さんが共同作業の流れを教えてくれました。

組合で保有する機械は、集草のためのシングルレーキ1台とツインレーキ1台、ロールベーラー2台、運搬用のダンプ3台、ラッピングマシーン1台です。これらの工程にアルバイト1人とドライバー1人を雇って行っています。

「牧草作りには多くの機械が必要です。大量に処理するので機械の寿命が短くなることを差し引いても、個人よりも共同で保有するほうが導入コストが下がり、作業を分担できて効率的です」と長恒さん。会計面では、牧草1ロール(平均800kg)あたり2300円を組合に支払い、それを組合の経費や運営費にあてているということです。

高栄養価のチモシー、栽培にもこだわり

共同生産したチモシーの総飼料に占める割合は、各戸によって異なりますが、長恒牧場では新牛舎にして以降、粗飼料の約半量を自給飼料で賄っています。年3回刈るうちの最も栄養価の高い1番草を搾乳牛に通年で与え、足りない分を代替の乾草で補っているそうです。乾乳牛や育成牛に与えている2番草、3番草についても同様の考え方です。

チモシーが育つロールベーラー組合の牧草地

チモシーを栽培する牧草地

「チモシーの栽培面積と収量をもっと増やしたい」と長恒さん。その一方で、近年はチモシーの夏枯れも目立ち、比較的暑さに強いイタリアングラスに転換することも議題に上がりましたが、栄養価が高く牛が好んで食べるチモシーをできる限り作っていくと決めました。

夏枯れ対策として年間7〜8町をめどに牧草を更新し、チモシーがしっかり生えた草地を作ります。また、更新時期を1年でも長くするために管理も怠りません。チモシーは雑草に負けやすい品種のため噴霧器を背負って防除しますが、更新年度の若い牧草地から行うなど、優先順位をつけてあたることで効率化し、土づくりには牧場の堆肥(たいひ)を還元して牧草地の維持に努めています。

自給飼料があっての経営チャンス

「穀類も乾草も海外に依存しているので、それらが入ってこなくなると成り立たなくなるのが日本の酪農の弱さです」(長恒さん)

自給飼料の割合を増やすことは、日本の畜産・酪農業界の急務です。その手段として、苗代ロールベーラー組合の共同生産の取り組みは、牧草生産のコスト削減と効率化の参考になるでしょう。しかし、今後、組合の構成員が増えることはないと言います。なぜなら、新規参入しにくいため地区内に酪農家が増える見込みはなく、広域で組織するのは移動距離を考えると非効率になるためです。現時点で最も遠い牧草地は10km離れているため、その範囲内で土地を集積していく構えです。

長恒さんが、かつてアメリカ研修でお世話になった家族経営の牧場では、個体管理を丁寧にしていることが印象的だったそうです。新築した牛舎では搾乳牛100頭をIoT・ICTで個体管理しながら、自給飼料を中心に品質が良く栄養価の高い飼料を与えて、1頭1頭の泌乳量を確保する方式をとっています。その際、給餌方式を分離給与からTMR(完全混合)に変え、生産性を重視して同じ飼料の内容でより乳量が安定するホルスタインに牛種を統一しましたが、「蒜山で酪農をするからにはまたジャージーを飼いたい」という思いも捨てていません。

.固体管理に取り組む長恒さん

牛の個体管理に注力する長恒さん

「牛の飼育もしながら牧草の生産もする。これが私が目指す酪農家。新牛舎の建設など新しいチャレンジができたのも自給飼料があるからこそです」と長恒さん。その言葉に誇りが感じられます。

業界の底上げに向けても、「酪農家が牧草も育てていることや、牛乳ができるまでの過程を理解してもらい、安心で栄養価の高い牛乳を一人でも多くの人に飲んでもらえたら」と語り、取材を締めくくりました。

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