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ミカン農家がなぜドローンスクール運営を? 他県からも受講生がやってくる理由は

sato tomoko

ライター:

ミカン農家がなぜドローンスクール運営を?	 他県からも受講生がやってくる理由は

肥料や薬剤の散布に活用が進む農業用ドローン。愛媛県八幡浜市では、ミカン農家によるドローン教習所が注目を集めています。農業法人がドローン教習所を開くのは全国初。自園でドローンを運用して蓄積したノウハウをもとに、その技術を伝授する実践的なスクールに県内外から受講生が集まっています。教習所を運営する株式会社ミヤモトオレンジガーデン代表取締役の宮本泰邦(みやもと・やすくに)さんに、スクール開校の思い、柑橘栽培でのドローンの可能性を伺いました。

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ミカン農家による実践的なドローンスクール

愛媛県西部の八幡浜市は、国内屈指のミカンの産地。海に面した山の斜面の段々畑に、温州ミカンをはじめ、いよかん、せとか、まどんな、甘平(かんぺい)、不知火(デコポン)など、たくさんの柑橘類が実ります。その八幡浜市に、2024年2月、農業生産法人株式会社ミヤモトオレンジガーデンが運営する「スマート農業ドローンスクール」が開校しました。

ドローン操縦スタッフ

ドローンを操縦するミヤモトオレンジガーデンのスタッフ

農業用ドローンは、水稲や小麦・大豆などの土地利用型作物で活用が進み、各地に教習所がありますが、ミカン農家による柑橘に特化したスクールは全国初です。柑橘栽培でのドローン実用化の事例はまだ少ない中で、実際に園地でドローン散布をしているスタッフから教習を受け、同法人が管理する園地で高スペックのドローンを使って飛行実習ができることが魅力です。

県内外から受講生が集まり、柑橘生産者、就農希望者のほか、柑橘防除への参入を視野に入れた異業種からの参加もあります。

経営を継いで取り組む、持続可能な柑橘生産

「スマート農業ドローンスクール」を運営するミヤモトオレンジガーデンは、八幡浜市で100年続く柑橘農家。4.5ヘクタールの園地でミカンをはじめ多品種の柑橘類を栽培しています。代表取締役の宮本泰邦さんで3代目になります。いつかは農園を継ぐつもりで、首都圏の企業2社で営業や経営管理の職に就いていた宮本さんに、その時は想定していたよりも早く訪れました。自身が30歳のときに父が他界。それから約7年間は地元の知人に農園の管理を委ね、宮本さんは10年前に故郷の八幡浜市へ帰ってきました。

みかんを担ぐ宮本さん

ミヤモトオレンジガーデン代表取締役の宮本泰邦さん

経営を継いだ宮本さんは、持続可能な柑橘産地を目指して「農業の産業化」に向けた取り組みを推進してきました。そのひとつは6次産業化です。収穫時期でなくても柑橘のおいしさを届けられる通年商品の「寒天ゼリー」シリーズ、摘果ミカンを使ったオリジナルの調味料「塩みかん」などを開発し、個人やスーパーを中心に販路開拓にも乗り出しました。

ミヤモトオレンジガーデンの加工品集合

6次産業化でオリジナル商品を開発

もう1つは、安全管理の国際基準であるグローバルGAP認証です。2014年に審査を受け、翌年1月に柑橘農園では国内初の認証を取得しました。国内外の流通業界でGAP認証が調達基準となりつつありますが、宮本さんは「企業経営として農業を行うに当たって業務を標準化するために取り組みました」と話します。柑橘の持続可能性への取り組みの延長線上で実現したのが、ドローンスクールの開校です。その背景には、地域課題であるミカンの耕作放棄地を無くして、ブランド産地を守るという宮本さんの決意がありました。

中山間地農業の課題をドローンが解決

おいしいミカンができる土地は、温暖で、日当たりが良く、水はけの良さが条件です。これらを満たすのが、中山間地の斜面。八幡浜市などの西宇和地区の段々畑はミカン栽培に絶好の環境です。しかし、傾斜地での作業は重労働。「近年は高齢化と人手不足が進行して管理の手が回らない畑も増えてきました」と宮本さんは産地の衰退を懸念します。

八幡浜市の果樹園

傾斜地一面に柑橘の段々畑が連なる八幡浜市の風景

柑橘は収穫の大変さが知られていますが、次に労力を要するのが、薬剤や肥料の散布です。その回数は、畑の条件によって差はありますが、年間10〜20回に上ります。西宇和地区は、50年前にいち早くスプリンクラー防除を導入した産地ですが、このシステムで網羅されない場所もあり、また老朽化した設備を更新できないなどの理由で、噴霧器で手散布している畑もあります。そうした畑から順に耕作放棄地になり始めています。

「ドローンを使えば管理の手が届くのではないか」と考えた宮本さん。しかし、果樹畑は水稲などと違って、起伏があり、木の高低差もあり、薬剤を散布しても葉裏に届かないので、ドローン散布は適さないというのが大方の見方でした。

3年半前から導入に向けた法令や機材の調査を始め、社内にドローン専任者を置き、実際の畑で飛行方法を試しながら運用を進めてきました。手探りのスタートから試行錯誤を重ね、傾斜地の畑には自動飛行が有効であることが分かり、その技術を蓄積してきました。

ドローン作業をするスタッフ

ミカン畑でドローンの準備をするスタッフ

ドローン散布により、手作業で丸1日掛かっていた防除が50分程度に短縮できたことは大きな成果です。それに加えて、耕作放棄された畑を元に戻す中でドローンによる薬剤散布のテスト飛行を繰り返したところ、ミカンを全て加工に回していた畑で品質の向上が見られ、生果として通常出荷ができるレベルに回復したと言います。

「ドローンで防除の手が届けば、荒れた畑を通常の畑に戻せる」という手応えを得た宮本さん。ドローンの運用で栽培面積の拡大や品質の向上を図り、その技術とノウハウを広めることで産地の衰退を食い止めたいという思いから、ドローンスクールの開校に至りました。

日本随一のブランド産地から、スマート農業を広げていく

ミヤモトオレンジガーデンの「スマート農業ドローンスクール」は、ドローン操縦の座学・実技4日間に加えて、柑橘類の農薬散布全般を学ぶ講習が、生産者は1日、非生産者は2日、設けられています。これらを修了すると、農業用ドローンの飛行の資格が得られ、柑橘農園での薬剤散布の農薬散布ができるようになります。

ドローン教習

ドローンスクールの座学講習

農業法人によるスクールというだけあって、教習内容は実践的。同社が現場で検証してきた自動飛行の技術と柑橘防除の知識が伝授され、傾斜地の柑橘畑で散布飛行の実習をします。教習は少人数制で随時開講。自園でのドローン運用、散布請負など、受講生のニーズに応じたプログラムで、水稲などと比べて遅れている柑橘生産でのスマート農業の実装を目指しています。
「受講生は熱心な方が多いというのが率直な感想です。資格を取って終わりではなく、修了生が実際にドローンを活用するまでが、私たちが達成すべきゴールです」と宮本さん。ドローン購入のための情報提供、メンテナンスの支援、農業用ドローンを仕事にしたいという人へのビジネスマッチングまでを手掛けていく構え。ドローン散布を請け負うプロとして、土木建築などの異業種からの参入もウェルカムです。

地元農家へのデモ散布

地域の生産者が見守る中でのデモ散布飛行

八幡浜市のミカン生産者の平均年齢は70歳代が中心。これまでのやり方では産地を維持できない状態に近づいています。
「ドローンを使っておいしいミカンを作り、ドローンを操縦する人材も輩出することで産地を元気にして、おいしいミカンがずっと食べられるように貢献していきたい」と話す宮本さん。地域の生産者へのデモ散布や講習会を行うなど、日本随一のブランド産地でのスマート農業の普及に尽力しています。

高校への支援

高校でのスマート農業支援にも取り組む

GAPの講義や6次化の取り組みで若い世代と交流することも多いという宮本さん。「高校生や大学生のドローンへの関心が高いことを知って勇気付けられました。ミカン畑を飛行するドローンを見ると未来の農業の可能性を感じてワクワクします」と言葉を続けます。

ミカン農家による実践的なドローンスクールの開校で、八幡浜市から全国の中山間地へスマート農業を広げる軌道が見えてきました。

木に実ったみかん

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