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CO2を杉の育苗に活用。住友大阪セメント、業界初のBECCS(ベックス)による苗木栽培へ、実証実験を開始

CO<sub>2</sub>を杉の育苗に活用。住友大阪セメント、業界初のBECCS(ベックス)による苗木栽培へ、実証実験を開始

セメント製造大手の住友大阪セメント株式会社と、農林業用環境制御盤の開発、製造、販売などを手掛ける株式会社オムニア・コンチェルトは8月28日、住友大阪セメント栃木工場内にあるバイオマス発電所から排出されるCO2を杉の苗木促成栽培に活用する実証実験を、2025年3月ごろにも開始すると発表した。環境制御システムを搭載した育苗ハウスを発電所内に設置し、苗木の最適な成長環境を模索するとともに、特定波長のLEDを活用した長日処理、休眠阻害を施す促成栽培も行うとしている。

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セメント事業領域にとどまらない多様な分野で、持続可能な社会の形成に貢献している環境解決企業住友大阪セメント。近年では災害時に発生した廃棄物の優先処理などを盛り込んだ包括連携協定を多くの県や市町村と結んでおり、大規模災害時に発生した廃棄物を再利用したセメント製造などによって、環境保全に貢献している。

同社が2020年に栃木県と締結した協定の一環として進めるのが、バイオマス発電と二酸化炭素の回収・貯留技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせたBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)による少花粉杉の苗木を育てる取り組みだ。バイオマス発電所からの排ガスを浄化してCO2源として利用し、グリーン電力による特定波長のLEDで長日処理と休眠阻害を行う促成栽培を実施。カーボンニュートラルかつ効率的な苗木生産システムの構築を目指していくという。同社によると、セメント工場内設備から出たCO2を生産物の栽培に利用するのはセメント業界では初めての試み。

取り組みの概要(引用:住友大阪セメント

木質バイオマス発電所は環境への負荷が少ない再生可能エネルギーの一つだが、バイオマスを燃焼することで排出されるCO2を浄化し、農業用ハウスでの苗木栽培に利用することで脱炭素化を超えたNETs(Negative Emission Technologies)の実現を目指す。このほど、同社栃木工場のバイオマス発電所内に環境制御システムを搭載した木製の農業用ハウスを設置。2025年3月ごろをめどに、CO2の施用効果を検証する実証実験を約1年間実施するとしている。実証試験で効果が確認できた暁には、育てた苗木の植林試験も予定している。

同社常務執行役員の小堺規行さんは「国内には1000カ所以上のバイオマス発電所があるものの、原料となる木が足りない現状があり、今後ますます問題視されてくる。セメント会社ではあるものの、バイオマス発電所を生かして再造林や木材供給に取り組もうと考えた」と実証実験に踏み切った背景を説明する。

事業内容を説明する小堺さん

バイオマス発電所内には、株式会社オムニア・コンチェルトの環境統合制御機器『コンチェルト:OECS-1000』、遠隔監視制御システム『Sfumato』を搭載した木製ハウスを設置。温度、湿度、CO2濃度、照度を見ながら統合環境制御を行うことができ、回収したCO2を最適なタイミング、適切な濃度で自動的に施用できるよう設計されている。


バイオマス発電所での実証実験の様子(提供:オムニア・コンチェルト)

CO2濃度や温湿度などの数値やハウス内設備の動きを3D画面でリアルタイムに確認できることも大きな特徴だ。オムニア・コンチェルト代表取締役の藤原慶太さんは「あたかもゲームのごとく、(PCやタブレットなどの)画面上からすべてをコントロールできるほか、現場の木製ハウスに設置されているスリッド型太陽光パネル遮光システムにおけるリアルタイム発電量や日射量を見える化している」と説明。続いて、システムを手掛けた同社取締役の潘博文さんが木製ハウスのデモ機を使って、LED照射の仕組みなどを解説した。「運用者の立場で、操作しやすくわかりやすいシステムを開発してきた。こうしたAIを活用し、栽培をより効率的にできるよう取り組んでいきたい」と、効果検証に向けて力を込めた。

報道陣に説明する藤原さん(左)と潘さん

実証実験で栽培するのは、国が利用率の引き上げを進める少花粉杉の苗。ゆくゆくは、バイオマス発電所を基点とした先進的な苗木生産システムの普及展開を通して、更なる脱炭素への貢献を図りたい考えだ。

「バイオマス発電所を核とした、多様な経済的価値、サーキュラーエコノミーをシステマチックに作って行きたい」と小堺さん。CO2の活用による経済的価値の創出と、資源の効率的かつ循環的な利用による付加価値の最大化を目指すとともに、林業振興や雇用の創出といった地域振興も見据えている。

排出削減のみならず、大気中のCO2を直接減らし、かつそれらを経済的価値の創出などに結びつけるこの画期的な取り組みには、今後もあらゆる分野から熱視線が注がれることだろう。

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