<お話をお伺いした方々>
練馬区商工観光課 永井氏・會沢氏
同 都市農業課 諸岡氏・馬場氏
減りゆく農地を維持するために。練馬区内の農家の現状とは
──練馬区の農業経営実態調査を拝見すると、農業従事者の半数以上は61歳以上の年齢層です。そして圧倒的に第2種兼業農家(農業収入が全収入の0〜49%の農家)が多いですね。
馬場:練馬区全体の農業従事者の高齢化は進んでいます。また農業以外の仕事を持ちながら、農業を続けている方も多いです。
──練馬区内の耕地面積は、例えば昭和時代に比べるとだいぶ減っていますが、それでも農業をお続けになるのは後継者がいらっしゃるとか、相続税の関係などがあるからでしょうか。
馬場:はい。都心に近い住宅地の中で農業を続けているので相続のタイミングで農地を手放さざるを得ない方もおり、耕地面積は徐々に減っています。その状況で、どう農業を継続するかを皆さん模索しています。
諸岡:耕地面積は右肩下がりで、それは都内で農業を行っている他の区も同じ事だと思います。都市での耕地面積を維持する事が難しい中、減るスピードを緩やかにしていければと思っています。
──例えばですが、さらに都心に行くとビルの屋上などを活用する農業もあるようですが、そんな取り組みを考えている人はいらっしゃいますか。
諸岡:今のところ、区内では聞かないですね。
馬場:農家の皆さんは先祖伝来の農地を守っていくために日々取り組んでいます。区としてはその取り組みを支援しています。
農業を続ける、農業経営を成り立たせるための生産戦略
──「練馬といえば練馬大根」というくらい有名な練馬大根ですが、今は以前ほどは作ってはいないのでしょうか。
諸岡:練馬大根の栽培は江戸時代に始まったといわれており、明治・大正期に主に沢庵(たくあん)用として生産のピークを迎えました。昭和期に病害虫の影響で徐々に生産が減少し、戦後は食生活の変化で沢庵需要が激減した事もあり、ほとんど作られなくなりました。1m近い長さがあり、しかも一番太い部分が土中にあるため、なかなか抜けず、収穫に大変な労力を要する事も衰退の一因です。区では現在、練馬大根を栽培している農業者への支援を行っています。練馬大根に代わって区内の主要な生産物になったのは、キャベツです。
馬場:キャベツの生産量は練馬区が都内一です。練馬は江戸時代から練馬大根の大生産地としてありましたが、戦後に食の洋風化が進む中で、生産の主体がキャベツなどの他の品目に移っていきました。その後都市化が進み農地が減り、どうやって農業経営を続けるかを考えたとき、練馬では「消費者が周辺に多い」都市農業の特徴を生かして少量多品目、スーパーのような品揃えで作物を作り、近隣に直売する事で、農業経営を成り立たせてきました。
都市農業の理解を深めたい。練馬区から広がる取り組みの輪
──2019年に「世界都市農業サミット」、2023年にも「全国都市農業フェスティバル」を練馬区で行っておられますが、どのような内容だったのでしょうか。
諸岡:都市農業を推進している練馬区として、同じく積極的な取組を行っている世界の5都市、ニューヨーク、ロンドン、ジャカルタ、ソウル、トロントから農業者や研究者、行政担当者を招聘(しょうへい)して、2019年に「世界都市農業サミット」を行いました。
馬場:「世界都市農業サミット」では国際会議を行い、海外の参加者には練馬区内の農家を視察していただきました。都市農業の意義と可能性を確認し、サミットの成果として「世界都市農業サミット宣言」を発表しました。
諸岡:そしてこのサミットを機に日本国内にも目を向けようと、2023年に「全国都市農業フェスティバル」を企画しました。1日のみの開催でしたが、日本各地で都市農業振興に取り組む24自治体が参加し、約36,000人の来場者がありました。各地からの農産物・特産品の販売やワークショップ実施、トークライブも行い、各地の都市農業の活気を練馬区内外の皆さまへお伝えできたイベントでした。
──サミット、フェスティバル、そしてツアー実施など、今の時代に練馬区の農業を広めるための取り組みが充実している事が伝わってきました。今後の練馬区内の農業に関しての展望・展開はいかがでしょうか。
諸岡:都市部で農業を続け維持していく事が厳しい状況の中、区としては頑張っている農家を支援していきたい。その意味で「ようこそ練馬ぶらり旅」は練馬の農業促進に寄与していただきありがたい限りです。今後も区の魅力発信と同時に、農業支援の一端を担う存在として継続していただき、練馬の農業を大いに盛り上げていただきたいですね。
永井:「ようこそ練馬ぶらり旅」は練馬区の魅力発信のためのツアーのため、その1つとして今後も収穫体験をできるツアーを実施していきたいと思います。他にも自然豊かな公園や美術館など、区内の様々なスポットをご紹介しながら区の魅力を発信していきたいです。
編集後記
今回のインタビューを通じて、限られた条件の中で都市農業の支援をしたいという自治体の苦労が伝わってきた。都市部で農業を続ける農家と地域とを様々な手段で結びつけて、都市部でも身近に農がある事をPRする事により、農の大切さを身を以て感じる機会が増える事を願っている。