そもそも飼料ってどんなものがあるの?
「飼料用イネ」についてご紹介する前に、まず皆さんは、「飼料」とはどういったものか、ご存じでしょうか。
「家畜に与えるエサ」ということはご存じの方も多いかと思いますが、一口に飼料といっても様々な種類があります。それぞれ特徴があるだけでなく、原料になるものも多岐に渡っています。
飼料は、その原料に基づき、「粗飼料」と「濃厚飼料」に大別されます。
粗飼料とは
「粗飼料」とは、一般的に繊維質を多く含む飼料のことで、植物のままの状態で利用する生草や乾かして利用する乾草、そしてモミなどの子実も含め植物の茎や葉などすべてを混合して原料とするサイレージなどが該当します。このサイレージとは、私たちが口にするお漬物のようなもので、トウモロコシや牧草を乳酸発酵させ、保存できるようにしたエサです。
そのうち、乳牛や肉用牛のエサとしてイメージされる「乾草」は粗飼料に含まれており、日本各地で生産されているため、皆さんが一般的にイメージする飼料と言えるでしょう。
粗飼料は、草食動物であるウシにとって貴重な栄養源となるだけでなく、消化機能を安定させる効果も期待できる飼料です。
一方、よりたくさんのミルクや肉を生産するようになった家畜にとって、粗飼料に含まれるエネルギーやタンパク質だけでは養分量が足りないため、より栄養価の高い飼料を給与する必要が生まれました。
そこで重要となる、もう一つの飼料「濃厚飼料」についても紹介いたします。
濃厚飼料とは
「濃厚飼料」は、トウモロコシの子実部分や飼料米、麦類などの穀類や大豆油かすなどの豆類、糠(ぬか)などが該当します。
これらは粗飼料とは異なり、デンプンなどの炭水化物、タンパク質、脂質の含量が豊富な飼料になります。
「濃厚飼料」は子実部分を主とするため、作物全体を利用する「粗飼料」に比べ、同一量を得るためには、畑にも大きな負荷をかけることになります。例えば、トウモロコシでは、植物体全体を利用するホールクロップサイレージ(WCS)と、最近よく耳にする子実部分のみを利用する子実サイレージがあります。後者は「濃厚飼料」となり、畑から得られる量は、ホールクロップサイレージの約1/2~1/3の量になります。
この「濃厚飼料」は、その大半を輸入にたよっていることから、国産の「粗飼料」よりも国際的な動静の影響を受けやすく、昨今の原料の高騰によって、畜産農家の経営がひっ迫する要因の一つとなっています。
飼料米とWCS用イネの違いとは?
粗飼料と濃厚飼料に関して簡単に紹介をしましたが、では、飼料用イネに戻りましょう。飼料用イネと一口に称して、「飼料米」と「WCS用イネ(※)」を混同してしまうことがあります。
※ ホールクロップサイレージの略。稲発酵粗飼料ともいう。稲穂と茎葉部を混合して乳酸発酵させたサイレージ用のイネを指す。
両者の違いは『給与する際にどの部位をメインにエサとして利用するか』によります。
先述したように、濃厚飼料は子実部を、粗飼料は茎葉部を主とする飼料なので、同じ飼料用イネでも穀物生産を目的として栽培する「飼料米」と茎葉生産を目的として栽培する「WCS用イネ」に分けられます。
●イネの子実部のみを与える ➡ 飼料米 = 濃厚飼料
●イネの茎葉部(子実部も含める)を与える ➡ WCS用イネ = 粗飼料
飼料用イネは、もともと食用米の品種を素材として、家畜への給与目的に合わせて飼料効率を高めるための品種改良が進められてきました。
飼料米なら食味はさておきモミの生産量を高めることを、一方、WCS用イネなら牛の胃で消化されないモミの着粒量を極力少なくし、その分茎や葉に栄養をため込むことを目標とした品種改良です。
飼料米なら鶏や豚などに、WCS用イネなら牛へと、摂取効率の観点から、それぞれの畜種へ給与されています。
品種改良の進められたWCS用イネは、牧草と同じようにロール状で収穫、フィルムでラップをして保存されます。そして、フィルム内でイネ内の糖分が発酵し、嗜好性が良く貯蔵性や栄養価の高い発酵粗飼料となるのです。
そして、今回紹介する飼料用イネのうち、近年その利用に広がりを見せているWCS用イネは、飼料としてのメリットだけでなく、栽培することのメリットも多くあり、畜産農家だけでなく稲作農家にも注目されています。
そこで次章では、WCS用イネ、その中でも、新たに誕生した「極短穂茎葉型」WCS用イネについて詳しくご紹介いたします。
畜産農家と米農家を救う「極短穂茎葉型WCS用イネ」のメリットとは?
新しく誕生した「極短穂茎葉型WCS用イネ」は、「飼料」として用いることを前提に品種改良された茎葉多収タイプのイネを指します。
そこで、「極短穂茎葉型WCS用イネ」は、どのようなメリットがあるか、畜産農家と稲作農家に分けてご紹介いたします。
畜産農家における「極短穂茎葉型WCS用イネ」のメリット
飼料用イネのうち「極短穂茎葉型WCS用イネ」の給与による畜産農家のメリットは、主に以下の3点があげられます。
1.費用が抑えられる
2.消化率が高く、栄養価も豊富なため飼料に適している
3.家畜であるウシが良く食べる
まず初めに、「極短穂茎葉型WCS用イネ」は輸入牧草と比較して国内で生産していることから輸送費なども含め安い価格で流通しています。
輸入飼料は海外情勢などの外的要因によって価格変動が起きますが、「極短穂茎葉型WCS用イネ」は収量が安定しており、国内での生産量も増加傾向にあり、価格が安定していることも特徴です。
さらに、これまで栽培されていた従来品種の子実多収型の飼料用イネに対して、家畜の生産性を高めるために育種され、モミ(子実)が極端に少ない「極短穂茎葉型WCS用イネ」は収量も非常に多く消化率・栄養価が共に高いことがメリットとして挙げられます。
従来品種はでんぷんを多く含む子実部分を増やそうとした結果、稲穂が重くなり、その重い頭を支えるために茎の繊維が強くなりがちです。このような茎の繊維は、家畜にとって消化しにくくなります。また、一番栄養素が含まれている子実部分(モミ)も、飼料を多く摂取する搾乳牛では50%以上が不消化で排出されてしまい、栄養分の大きな損失となっていました。
一方、現在注目されている極短穂茎葉型のWCS用イネは、モミ(籾)重が従来品種の3分の1以下になっているため、茎の繊維はさほど強くなくても自重を支えられます。また、モミ(籾)に廻っていた栄養分のうち、その大半を茎葉部に糖分として多く蓄えることができます。従来品種の糖含量が2~5%ほどなのに対して、極短穂茎葉型WCS用イネの「たちすずか」は8~15%と非常に高くなります。更に、柔らかな茎葉であることで、消化率も1.2倍ほど向上しています。このように、極短穂茎葉型のWCS用イネは従来品種よりも消化吸収が良く、栄養価の高い飼料であり、家畜のミルクや肉生産を増加する効果が最大のメリットです。
また、極短穂茎葉型のWCS用はイネ糖含量が高いことで、収穫後の乳酸発酵が従来品種より効率良く行われます。結果、良質のサイレージとなり、嗜好性が高く食い残しの少ない飼料となります。さらに、夏季の食欲不足対策にもなるなど、多くのメリットがあるのです。
上記の理由により、飼料用イネの中でも極短穂茎葉型のWCS用イネは、多くの畜産農家に注目されています。
稲作米農家における極短穂茎葉型WCS用イネ栽培のメリット
続いて、普段私たちが食べる食用米を栽培している稲作農家が極短穂茎葉型WCS用イネを栽培した場合のメリットを紹介します。
1.水田の利用度を高める(休耕田にしない)
2.水田の地力維持が果たせる
3.食用米と同じ技術や機械体系で管理できるので、栽培に移行しやすい
4.作業期間の平準化が適う
例えば広島県の事例では、稲作農家と畜産農家が協力連携して栽培や収穫作業などを行う地域全体を巻き込んだ「耕畜連携」が行われ、積極的な「極短穂茎葉型WCS用イネ」栽培の推進により畜産農家だけでなく、稲作農家の利益向上が実現しています。
輸入飼料の高騰が続く以上、今後も需要は高い状態を維持するとみられます。
また、耕畜連携の一環として、畜産物生産の過程で産出された家畜糞尿を完熟堆肥として、再び、水田に肥料還元できる循環型農業の構築に寄与できます。昨今の化学肥料の高騰に対して、コスト低減ができる取り組みができます。
また、前述したように極短穂茎葉型のWCS用イネは稲穂が少ないため、イネの重心が上部ではなく、根に近い部分にあります。そして、茎葉内の糖含量が高いことで茎が健全な状態で保たれているため、耐倒伏性に優れている点も大きなメリットです。
これにより、収穫適期が従来品種よりも長いため、収穫タイミングをずらして作業を分散することも可能であり、台風等による被害や倒伏による収穫ロスも避けられます。
このように極短穂茎葉型のWCS用イネは、畜産農家に限らず米農家にも注目されており、それぞれの農家にとって現状を打開する新しい活路と言える品種として期待が寄せられています。
飼料用イネの持つ可能性に、参加者も興味津々。18品種が集う研修会をレポート
ここまでご紹介してきた飼料用イネですが、栽培地域や使用目的によって最適な品種が異なるため、これから栽培してみたい方にとっては「どの品種を栽培すれば良いか」わからない方も多くいらっしゃいます。
そんな農家の方々を対象に、2024年8月22日(木)、独立行政法人家畜改良センター熊本牧場主催の「飼料用イネ現地研修会」が開催されました。当研修会は、地域における「飼料増産」と「耕畜連携」の推進のための一助となることを願い、平成29年度より毎年開催しています。今回は、展示圃場において飼料用イネ18品種が栽培され、生育具合などを見たり実際に触って比較できるとあって、熊本県をはじめ九州内外の60名以上の農業従事者が参加しました。
研修会のプログラムは、前半の講演会と後半の展示圃場の見学に分かれ、講演会では「飼料用イネとはなにか。どんな品種があるか」という基礎知識からスタートし、飼料用イネの特長と可能性、具体的な活用方法などについて、レクチャーが実施されました。
展示圃場の見学では、イネの重要病害である縞葉枯病に抵抗性を持つ極短穂茎葉型WCS用イネの新品種4品種「つきはやか(早生)」「つきあやか(中生)」「つきすずか(晩生)」「つきことか(極晩生)」にも注目が集まり、参加者のみなさんは撮影したり、実際に触れてみたりと、興味津々の様子。その他の品種にも関心が寄せられ、飼料用イネ全体に注目が集まっていることがうかがえる研修会となりました。
なお、今回の研修会で公開された飼料用イネの圃場については、2024年10月下旬頃まで展示を継続しています。ご興味のある方は、家畜改良センター熊本牧場までお問合せください。
また、家畜改良センター熊本牧場のホームページでも、展示圃場における飼料用イネの生育状況を、動画と写真で紹介しておりますので、こちらも是非ご覧ください。
持続可能な営農を「飼料用イネ」で実現しませんか?
生産コストの上昇や円安、輸入飼料の高騰など、畜産農家に限らず先行きが不透明ないまこそ、外的要因に影響されない飼料用イネの栽培をはじめてみてはいかがでしょうか。
日本草地畜産種子協会では、多様な飼料用イネの種子販売も行っていますので、少しでも興味のある方はお問い合わせください。
取材協力
独立行政法人家畜改良センター熊本牧場
〒865-0073 熊本県玉名市横島町共栄37
Tel:0968-84-3660
Fax:0968-84-3708
飼料用イネに関してのお問合せ
一般社団法人日本草地畜産種子協会
東京都千代田区神田紺屋町8 NCO神田紺屋町ビル4F
TEL:03-3251-6501
FAX:03-3251-6507