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飼料高騰時代の救世主?肉質向上&コスト削減&臭い対策&地域貢献の一石四鳥を実現した「笹サイレージ」とは

飼料高騰時代の救世主?肉質向上&コスト削減&臭い対策&地域貢献の一石四鳥を実現した「笹サイレージ」とは

宮崎県都城市で豚肉を生産し、その品質の高さから数々の賞を受賞している有限会社観音池ポーク。同社では、地域で問題になっている放置竹林の竹を原料に作られている「笹サイレージ」を飼料の一部に取り入れています。養豚においてどんな価値を発揮しているのか、代表の馬場康輔(ばば・こうすけ)さんに話を聞きました。

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臭いを抑え、地域に根差した養豚を

宮崎県都城市で養豚を営む4つの農家が「観音池ポーク」というブランドを立ち上げたのは1994年のこと。以来30年、消費者に安心しておいしい豚肉を食べてほしいという思いで、豚の健康と地域密着を第一に考えた養豚に取り組んできました。

「養豚はどうしても臭いの問題が避けられず、地域の方々の理解の上で成り立っています。だからこそ、臭いをできるだけ抑え、養豚を通じて地域に貢献していきたいと考えています」と、代表の馬場さんは話します。

有限会社観音池ポーク代表の馬場康輔さん(写真提供:観音池ポーク、以下同)

「人間と同じで、腸内環境が整えば臭いも抑えられるのではないか」という考えの下、腸内の善玉菌を増やす効果があるといわれるネッカリッチ(樹皮炭と木酢液を配合した自然由来の混合飼料)を餌の一部に採用。地元小学校での食育活動にも積極的に関わり、食品ロスを減らすべくエコフィード(リサイクル飼料)も早くから導入してきました。
2016年には隣接する敷地内で経営していた3農家が合併し、農事組合法人萩原養豚生産組合として法人化。豚舎も豚にストレスを極力与えないような快適な環境を整えて増設し、更なる規模拡大を進めました。

腸内環境を整えて健康に

その頃、自身の子どもが病気にかかったことが、飼料を見直すきっかけになったと言います。「少しでも体に良いものを食べさせたいという思いで日々の食事を見直す中で、食物繊維の大切さを知りました。人間の体に良ければ、豚にも良いはずだと、食物繊維が豊富な餌を探し始めたところ、市の職員から紹介されたのが笹サイレージでした」

笹サイレージは、同じ都城市で事業を展開する大和フロンティア株式会社が、竹の粉末を発酵させて作った飼料です。乳酸菌と食物繊維が豊富で、畜産試験場でも家畜に一定の効果がある事が証明されていました。

原料となる竹は、倒壊や土砂崩れを引き起こす恐れがある地域の放置竹林から同社が無償で伐採しているため、単価は1キロあたり37円と低コストだったと語ります。

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笹サイレージを2%混ぜた飼料。与え始めて1カ月で豚舎の臭いが激減した。乳酸菌と食物繊維が豊富な上、低コストだという

2%混ぜることで、豚舎の臭いが激減。肉質も向上

まずは、餌に混ぜ込む事でどの程度の効果があるのか、配合を変えて試してみることに。15棟ある豚舎を5つのグループに分け、笹サイレージの配合比率を0%、0.5%、1%、1.5%、2%に調整した餌を各グループの豚に与え様子を見ました。すると与え始めて1カ月もしないうちに効果が見え始めました。

「笹サイレージを2%配合した餌を与えている豚舎の周りだけ、明らかに臭いが減っていたのです。生後70日以降の全ての豚に2%与えるようになると、直売所に買いに来る常連のお客さんからも『おいしくなった』『脂身が甘くなった』という声が聞こえてきました。臭いがない所で育った豚は肉にも臭みがなく、繊細な脂の甘味を感じられるようになったのだと思います」

肉質の変化を証明するかのように、2016年と17年には、2年連続で宮崎県畜産共進会のグランドチャンピオンを獲得。地域が認めるブランド豚として市内外から注目される存在となりました。

笹サイレージの給餌をはじめとするさまざまな取り組みが功を奏し、肉質や親豚の出産頭数などに関する多くの賞を受賞

実は馬場さんの自宅も農場のすぐ近く。以前は天気によっては臭いが気になる日もありましたが、笹サイレージを導入してからは一切感じなくなったと言います。また、豚の世話をしていると特有の臭いが体に付き、シャワーを浴びてもなかなか取れませんでしたが、それも無くなりました。

効率良い栄養摂取でコスト削減

笹サイレージを導入した事で、臭いの問題が解決し、肉質が向上しただけでなく、コスト面でも大きなメリットがありました。通常、出荷までに170~180日程度掛かるところ、観音池ポークでは165日で目標体重である115キロに到達しています。「腸が健康なので、栄養分の吸収率が高いのだと思います」。出荷までの日数が短い分、大幅なコスト削減につながっているのです。

「ここ数年は輸入飼料が高騰していますが、かといって全て国産に切り替えるのは現実的に不可能です。ならば、できるだけ少ない餌で必要な栄養を摂取できるよう、豚の健康をサポートしていく事がコスト削減につながります。品質だけでなく、経営面でも笹サイレージの果たしている役割は大きいと実感しています。竹は2~3年で再生するといわれますから、資源としても枯れる事がありません。それで地域課題も解決できるなんて、正にサステナブルですよね」

実は「観音池ポーク」のブランド価値を高める上で、“ストーリー”も大切だと考えていたという馬場さん。「地域で問題になっている放置竹林の竹を餌に混ぜている」というのは、正にぴったりではないかと思ったそうです。「でも実際は、意外とお客さんはそういう理由で買うわけじゃないんだと分かりました(笑)。おいしいから買う、それだけなんですね」

豚肉特有の臭みがなく、脂が甘いと評判。同じ都城産の豚肉と比較してアミノ酸含有量が高めである事も分かっている

お客さんからは「子どもが『おいしい、おいしい』とたくさん食べる」「他の豚肉を食べられなくなった」などといった声もよく聞かれるそうです。
「子どもの口に入って、体が喜ぶものを」。豚と、豚を食べる人の健康を切に願いながら取り組んできた養豚は、「おいしさ」という形で確かに実を結んでいます。

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