飼料用米の活用にいち早く挑む
養鶏農家の3代目である中村さん。アメリカで農業研修を受けられる派米事業に参加し、現地の畜産について見聞きしたことで、日本の採卵養鶏のあり方に疑問を持つようになった。日本ではほとんどの養鶏農家が欧米から輸入してきた種鶏を使い、米国産のダイズやコーンといったエサを与えている。それで国産と言っていいのだろうかと感じたからだ。
先代から国産鶏「もみじ」(冒頭写真)と「さくら」を飼養していたので、次に「やるならエサもできるだけ国産にしたい」(中村さん)と考えた。今から20年近く前のことだ。当時は飼料用米の栽培に対する補助制度も始まっておらず、国産の飼料はなかなか手に入らなかった。
中村さんがエサの国産化に取り組みたいと考えていたのと同じ時期、地元の稲作農家もまた課題を感じていた。「この辺りでは転作用のムギやダイズの収量がとれなくて、減反する水田で何も作らないことが常態化していました。そこで『何か作る作物はないか?』と聞かれたんです」(中村さん)
中村さんはエサとしての稲作栽培を提案し、作ってもらうことにした。飼料用米の先行事例はあったものの、ごく小規模な取り組みであった。まずは、エサにどの程度使うことができるか試していった。結果、全量をトウモロコシの代替として使えることが分かったが、エサに混ぜる割合は2割までが現実的との感触を得た。
理由は、それ以上高めると、黄身が白っぽくなってしまうから。写真の卵は、左が飼料用米を2割混ぜたもので、右が6割近いもの。黄身が白い卵であっても、理由を理解したうえで選んで買う消費者はいる。一方で、普通の卵を買いたいと思っている消費者には向かない。
「今の流行は黄身の色を濃くする方向に進んでいて、飼料用米を与えた卵はそういう世の流れと逆。だから、飼料用米は2割までにして、あとはやっぱりコーンしかないとなった」と中村さん。黄身を黄色く保つには、コーンが欠かせないからだ。
耕種農家と意気投合し子実コーン栽培へ
中村さんは、年間250トンのコーンを使う。自身の持つ水田や周りの地域だけで生産していては間に合わない。多くの農家を巻き込まなければ、コーンの国産化は到底不可能だ。
子実コーンは北海道といった先進地で栽培が始まっていて、中村さんはその動向に注目していた。2021年に岐阜県で栽培技術の実演会が開かれるというので参加してみると、その場に知り合いで滋賀県東部の愛荘(あいしょう)町の耕種農家・久保田九(くぼた・ひさし)さんがいた。エサの地産地消をしたいね、と意気投合して2022年4月に滋賀県子実コーン組合を設立。その直前にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、「世界のコーンの相場が動くから、今やらないかん」との思いを強くしたと中村さんは振り返る。
組合の参加者のほとんどは耕種農家で、子実コーンに省力化の点で期待している。
「今の農家は『100町農家』で、100ヘクタールを預かるくらい面積が大きい。離農が進んでいて、一つの経営体が少ない人数で広い面積を回していかないといけない。そうなると、作業の分散のためにもさまざまな作物を作らないといけない。しかもコーンは面積当たりの作業時間がコメのおよそ20分の1で、手がかからない」(中村さん)
組合の生産量は年間50~60トン程度。反収の目標は500キロで、700キロ以上を収穫する農家もいる。いずれ組合の生産量を300トンに引き上げるのが目標だ。
子実コーンのメリット、デメリット
省力化以外の子実コーンの利点は、輪作するダイズやムギの収量が上がり得ること。実だけを収穫し、あとは圃場(ほじょう)にすき込むこともあって、地力が上がる。根張りが良いため、その後の圃場の排水性も高まる。
デメリットは、収穫が稲の刈り取りで一般的に使われる自脱型コンバインではできないこと。汎用コンバインを用意する必要がある。
中村さんは販路の半分を直売所へ、残り半分を生協へ出荷。消費者に国産のエサの割合を高める取り組みを理解してもらったうえで卵を手に取ってもらいたいと考えている。
「ちょっと高くてもいいものが欲しいというお客さんが多い。そういう要望に応える商品を作りたい」。人懐っこい笑顔で、中村さんはそんなふうに未来への思いを語ってくれた。