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ちまたで話題の「菌ちゃん農法」 著者が抱く未来の農業のかたち

持続可能な農業への転換が迫られている今、有機農業が注目されている。農林水産省が発表した「みどりの食料システム戦略」でも、2050年までに有機農業を農地全体の25%に拡大するという目標が盛り込まれた。株式会社菌ちゃんふぁーむの吉田俊道(よしだ・としみち)さんは、30年近く有機農業に取り組んできた農家の一人だ。有機農業を広げていくための戦略とは何か。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■プロフィール

■吉田俊道さん

株式会社菌ちゃんふぁーむ 代表取締役
1959年長崎県長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員を務める。96年に県庁を退職し有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成。著書に『完全版 生ごみ先生が教える「元気野菜づくり」超入門』(東洋経済新報社)などがある。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

動画を視聴する

https://youtu.be/9_TvEODXxzs

「腐敗と発酵」の世界

横山:菌ちゃん(吉田さん)は就農して何年目になるんですか?

吉田:28年目です。新規就農者だったから、自分の理想の農業をやりたかったんだよね。「農薬は使いたくない」「なるべく自然のものを使いたい」そんな単純な理由で有機農法を始めたんだ。野菜は小学生の頃から作ってた。貧乏だったからね、あの頃は。たまたま「コイの養殖場の海藻が肥料になるよ」って教えてもらって、畑に出てやってみたの。肥料を買うお金もなかったし。そしたらデカいカボチャがなって。農家の人からも「トシちゃん上手」って言われたよ。

横山:菌ちゃん農法が確立したのはいつごろからですか。

吉田:少しずつ完成したものだから、なんとも言いようがないね。最初は生ごみを畑に入れることから始めたんだけど、その頃から「腐敗と発酵」があるというのはわかってた。自然界は、腐敗の世界と発酵の世界で生き物が違う。有機野菜を作るんだったら完璧に土を発酵させないといけない。そこから少しずついろんなことがわかってきて、それなりに整理できるようになってきた。あるとき虫が来なくなって「これか!」って思ったんだ。ずーっと続けてきたけど、去年ぐらいから「菌ちゃん農法」が注目されるようになったね。

わかりやすくて始めやすい「菌ちゃん農法」

横山:菌ちゃん農法が適する場所、適さない場所はあるんですか。

吉田:キノコが生えているところなら大丈夫。北海道から沖縄まで、寒くても暑くても関係ない。各地でいろんな土着のキノコ菌がつくわけだから。

横山:菌ちゃん農法がうまくいかないケースはあるんですか。

吉田:ありますよ。大体は基本的なことを守っていないから。畝が低いとか、重石と重石の間隔が広すぎるとか。逆に基本的なことさえやっておけば失敗することはあんまりない。ただ、今年はあまりにも雨が少なくて、うまくいかなかったことはあったと思うよ。でも、全然育たなかったわけじゃなくて、病気になったとか、肥料が足りないとか。だから新しい対策はこまめに出してるよ。

横山:基本にのっとれば間違いないと。

吉田:そう。しかも菌ちゃん農法は、基本的なことを全て具体的に書いているんですよ。高さは45センチ、畝は1メートル作ってくださいとかね。農家だったら驚くよね、土によって変えるのが当たり前だから。でも最初から素人に「土によって高さを変えてください」と言っても、さっぱりわからないよね。だから、どんなに農業のことがわからない人でも理解できるように、あえて工業生産的に書いてる。でも土質が多少違ってもうまくいくように、ちゃんと考えてはいるんですよ。

消費者が生産者になる日も近い?

横山:今後、有機農業が広がっていくといいのかもしれませんが、大規模農園ともなると、そうはいかないところもあると思います。

吉田:どっちにしろ農業人口は減ってしまうんだから、残ってる人が慣行農法をやって、その中の一部の人たちが有機農法をやっていけばいいと思います。その流れで家庭菜園も広がっていって、農家が減っても日本全体としては、ある程度の自給率を保てるようになったらいい。そしていよいよ農地が余って農家がいなくなったときには「私にやらせて」っていう人たちが必ず出てくるだろうと考えています。今、世界情勢は本当にやばい状態。燃料や食料が安定的に供給される時代が続くかどうかはわからない。だからもっと家庭菜園を増やしたいの。

横山:「菌ちゃんのウネ作り屋さん」も始まりましたよね。

吉田:最初に高い畝を作るのが大変なのね。それで畝作りを手伝ってあげたい人向けに研修をして、今は約70人が「ウネ作り屋さん」になってくれた。電話1本で畝を作ってくれるよ。

横山:いち消費者がもっと変わっていくと、日本の農業は変わってきますよね。

吉田:やってみれば楽しいだけじゃなくて大変なこともわかるからね。本当の農業の理解者が出てくる。「よそから輸入すればいいじゃん」「安ければいいじゃん」っていうんじゃなくて、地域に一生懸命作ってる農家がいるなら、そこを買い支える。そういうことがわかるためにも、もっとたくさんの人が農業に携わらないといけないんです。家庭菜園ほどおもしろいものはないですよ。その辺の落ち葉や草で、野菜はできちゃう。草が足りなければ、綿100%のシャツや肌着でもいい。最後は土に戻せるんだから。

横山:菌ちゃんも実際にシャツや肌着を畑に入れてるんですよね。

吉田:そう、入れてるよ。特に子どもがやるとおもしろいんですよ。自分の肌着やタオル、古雑巾をゴミに出すんじゃなくて回す。地球のものは全部回ってるの。菌ちゃん野菜体験を通じて、自分は地球の子どもなんだ、自分は地球そのものなんだと感じてほしい。今は保育園との取り組みも動き出していて、これから広がっていきます。実際、デカいカボチャやキャベツができますから、ぜひ楽しみにやってみてください。

まずは小さく始めてみる

横山:では最後に現役農家の方へメッセージをお願いします。

吉田:大規模な農業経営をしている方であれば、全面的に菌ちゃん農法に切り替えない方がいいと思います。安定的に野菜を作っていくことも重要ですから。ただ、経営者のみなさんの不安は「肥料の価格高騰」ですよね。だから一部だけ、菌ちゃん農法をやってみるのが良いと思います。そしたら、いざというときに切り替えられる。私は今は家庭菜園向けに活動していますが、目標は有機農法や無肥料で農業経営ができることなんですよ。機械を使って大規模にできないかと試行錯誤し、少しずつ形になってきました。こんな時代ですから農業経営者は情報を共有しあいましょう。興味がある人はぜひうちに見学に来てみてください。

横山:今まさに農家を目指している方にも、アドバイスをお願いします。

吉田:これから農業をやりたい人の中には「有機農業をしたい」という人も多いと思います。ところが、まだ教える側は「有機ではできない」って思ってる人が多い。小さな規模でやるのはいいかもしれないけど、日本全体に食料を供給するにあたっては無理だと思ってる。だから本当に有機農業をしたいんだったら、まずは入門書などで理論を学んで、有機農業でうまくいっている人のところに直接行って、しばらく体験してみてください。1番の基本は、虫の世界は腐敗の世界で、実は弱った作物の方を食べるんですよ。それをふまえた上で、実際に勉強しに行ってみてください。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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