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【農業界はおかしい】売上16億のやり手経営者が儲かる戦略を大公開!【岩佐と紐解く戦略的農業#09】

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)とマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は長野県でスマート農業に取り組む、トップリバー代表の嶋﨑隼人(しまざき・はやと)さんを訪問し、生産性を高めるための努力や、契約を必ず守るための工夫について聞いた。

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■嶋﨑隼人さん

有限会社トップリバー代表取締役社長
大学卒業後、農産物の販売を学ぶべく北海道の農業法人に就職。翌年帰郷しトップリバーへ入社する。2023年に現職に就任。高原野菜を中心としたスマート農業を推進する傍ら、新規就農者・経営者の人財育成に取り組んでいる。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

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欠品がないように25%のバッファを確保

岩佐:トップリバーさんのこれまでの歴史を教えてください。

嶋﨑:弊社は今年で25年目の会社です。創業者は私の父ですが、祖父は産地の農家から荷物を集めて市場などに送り届ける卸業をしていました。父が祖父と一緒に仕事をする中で、「自分たちも農作物を作らないといけない」と思ったことがきっかけだったそうです。弊社の特徴は、契約生産・契約販売。お客さんが求める時期に、求める量を求める品質で届けることが1番の付加価値だと考えています。それを達成するために自社農場を持ち、自分たちでも生産できるようにしたのが始まりでした。

岩佐:今、自社生産の比率はどれくらいですか。

嶋﨑:大体3分の1です。あとの3分の1は、弊社から独立した人から卸してもらっていて、残りは創業期からつながりがある契約農家から仕入れています。自社生産、独立者、契約農家でそれぞれ3分の1ずつですね。

岩佐:販売先はどこが多いですか。

嶋﨑:メインは大手の外食企業や加工業者が多いです。基本的に直接取引をしていて、割合としては75%ほどです。残りの25%はスーパーや量販店に持って行っています。先ほどの75%は確実に守りますが、やはり作物は天候に左右されるので、この25%の中である程度調整できるようにしています。

岩佐:25%の部分はもしかすると契約栽培よりも単価が安くなる可能性もあるけれど、納品責任を果たすためのバッファとして押さえているわけですね。

収穫した作物は真空冷却機で一気に冷やす。流通過程で鮮度を保つためだ

「6次化をやりたくない」意外な理由

岩佐:トップリバーさんのブランド名が付いた野菜はあるんでしょうか。

嶋﨑:一切無いです。弊社はサプライチェーンの中の「生産」に特化してやっています。もちろん自社ブランドを作ることは考えてはいますが、弊社が大規模生産しているレタスやキャベツは採算が合わなくて。でも今後、多品目展開はどんどん進めていく予定です。今年もトウモロコシやトマト、ズッキーニなどの新品目に取り組んでいて、それらはECサイトやトップリバーブランドで売る計画を立てています。ただ、正直なところを言うと6次化はあまりやりたくない(笑)。

岩佐:そこをぜひ聞かせてください。

嶋﨑:正直、餅は餅屋だと思うんです。例えば自分たちでカット野菜の工場を持っても、競争力がなくて勝てないと思います。あとは工場をやってしまうと365日働かなくちゃいけないじゃないですか。私としては、どちらかというと夏場の150日か200日ぐらいで最低でも1年分の収入を稼げる農業をまず目指したいと思っています。

岩佐:ライフスタイルって大事ですよね。

嶋﨑:トップリバーは1度、静岡に進出したことがあったんです。でも今は独立した人たちに全て渡しちゃって、うまく回してもらっています。気候も違う中で1年中農作業を回すのは、物理的なことも含めてやっぱり難しかったです。トップリバーは冬場の間、何やってるのってよく聞かれるんですけど、意外とその時間が重要なんですよ。次のシーズンに向けての計画をまとめたり、分析したりする時間なので。農作業に時間を取られて、その時間が確保できないのは、弊社にとっては難しかったですね。

育てたいのは、農業界を牽引する経営者

岩佐:先ほどの自社生産や販売先の割合に戻りますが、極めて戦略的ですごいなと思いました。

嶋﨑:ありがとうございます。もちろん流通のところはきっちり契約を守りますし、あとは生産の方も、生産性を上げる努力を常にしています。私たちがやっている葉物は生産性がまだまだ低くて、機械化できてないところもいっぱいあります。なので、ドローンを導入したり、今年は全国初でレタスの収穫機を導入しました。レタスで1番時間が掛かるのは収穫作業ですから、そこに対するコストを一気に減らすためのチャレンジをしています。

横山:今の売上と、今後の目標を教えてください。

嶋﨑:2023年で約15億5000万円で、2024年は16億円ぐらいになると思います。2030年までには30億円に持っていこうと取り組んでいます。これは売上を上げることが目標なのではなく、生産性や機械の最大効率などを踏まえて逆算した数字です。

岩佐:トップリバーさんは新規就農者の育成にも相当力を入れていますよね。更に所得もこれぐらい上げようと、かなり高い数字を設定しています。

嶋﨑:農家を育てることはある程度できるようになってきましたが、私が一番足りてないと思うのは、地域を引っ張ったり、農業界を牽引したりできるような農業経営者です。そういう人材をいろんなところで育てて、一緒にやっていきたいなと思っています。

岩佐:経営感覚を持っているということは、自分のビジネスを戦略的に育てることができるということですね。

嶋﨑:でも勘違いしてほしくないのは、農業者の幸せはビジネス的な成功だけではないということです。所得が少なくても幸せな農業のスタイルはあると思うので、どのスタイルも否定しているわけではありません。

地域の名士を雇用する

岩佐:新規就農者は最初、地域の人たちとの関係作りに悩む人が多いと思います。嶋﨑さんはどうやって地元との距離を縮めているのでしょうか。

嶋﨑:具体的にいうと、出払い(実施する共同作業)や地域のイベント、会合に積極的に参加して、まずは認知度を上げることです。そしてみんなでコミュニケーションを取るようにしています。1番効果があったなと思うのは、地元の名士を雇うことです。

岩佐:戦略というよりは戦術ですね。顔役の人を大事にすると。

嶋﨑:最近は富士見町役場とJA、トップリバーでコンソーシアムを組み、レタスの産地育成と、新規就農・生産者育成を目的として「富士見みらいプロジェクト」 をスタートさせました。このように、JAの有力者や地域の有力者と一緒にやることが重要だと思います。

岩佐:島崎さんは本当の戦略農業者ですね。

まとめ

岩佐:トップリバーさんは想像以上に素晴らしい会社でしたね。嶋﨑さんの経営者としてのすごさも改めて感じました。トップリバーの農業戦略のポイントは、次の三つです。

 

トップリバーの農業戦略のポイント
やらないことを決め、やることに集中する やらないと決めたことは捨て、やると決めたことに徹底的に投資する。それによって独自のポジションを築くことができる。
契約を必ず守り、売上を安定的に確保する 欠品が出ない工夫を徹底し、契約を遵守する。それにより安定的に売上を確保でき、さらに取引先との信頼関係構築や設備投資、採用にも生かせる。
地域の人たちとの関係を築く 地元の名士に会社に参画してもらいサポートを受けるなどして、地元の人たちと連携する。

 

岩佐:戦略的、契約遵守、そして地元との連携もばっちり。もう3拍子そろっていますよね。農業生産法人のお手本のような会社でした。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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