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「人手不足で困ったことはありません」。ドロップファーム流、応募が絶えず従業員が定着する職場づくりと人材育成

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「人手不足で困ったことはありません」。ドロップファーム流、応募が絶えず従業員が定着する職場づくりと人材育成

農業経営に携わる人ならば、ドロップファーム(株式会社ドロップ)と代表取締役の三浦綾佳(みうら・あやか)さんをご存知のことだろう。女性視点による経営で女性が働きやすい職場環境を整え、生産規模の拡大と6次産業化を同時に実現したミニトマト生産者だ。そんな三浦さんに創業時から実践している人材育成法と、それにより目指す将来の姿について伺った。

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一児の母、家族を伴って移住就農

ドロップファームは現在、代表取締役の三浦さん、ご主人で財務担当取締役の三浦浩(みうら・ひろし)さん、38名の従業員で1haのハウスを管理している。創業は2015年。もともと都内で会社員をしていた三浦さんだが、ご主人の実家のある水戸市の環境にほれ込み、家族と共に移住。高品質の作物を栽培しやすいことで知られるアイメック農法(※)でミニトマトを生産すべく、25aのハウスを建てて新規就農を果たした。
(※)土の代わりにナノサイズの無数の穴が開いた特殊フィルムで栽培する農法

それが今では、ハウスは1haとなり、2026年には3棟(0.75ha)を増設するという。また自社加工場で「美容トマト」を原料にした「美容トマトジュース」の生産販売を実現した上、カフェ機能を有する直売所の経営にまで事業を拡大している。

茨城県水戸市郊外を本拠地とするドロップファーム。看板商品はアイメック農法で育てたフルーツトマト「美容トマト」と自社工場で生産した「美容トマトジュース」。都内などの高級百貨店のほか、ふるさと納税やAmazonフレッシュ、自社ネットショップ、自社運営の直売所で販売している

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これほどの急拡大に成功しながら、三浦さんは「人手不足で困ったことはありません。自然と人が集まってくれますし、定着率も極めて高い状態を維持できています」と微笑む。同社のホームページ上には全従業員が掲載されているのだが、小さなお子さんを持つ母親から経験豊富な中高年の男性まで、皆が生き生きと働いている様子が伝わってくる。

「農場管理マニュアル」で作業の早期習得を促す!

パートやアルバイト従業員の育成で重要な役割を果たしているのが「農場管理マニュアル」だ。自社での生産に関する作業が詳述されており、制作した当初は数ページだったものが、今では100ページへと進化している。

「創業時から『農場管理マニュアル』を作っていますが、これは一日も早く戦力になってもらうためのものです。年を重ねるごとにスタッフの意見を反映させて、ブラッシュアップしてきました」

三浦さんは自身の就業体験を通じて、子を持つ母が働くことの難しさを痛感していた。そのため創業時から「女性が働きやすい職場」を目指してきた。このマニュアルは、女性が働きやすい職場作りとも関係している。

「子育て世代の女性を雇用しようとすると、例えば週1日の短時間勤務や急な遅刻・早退などを許容する必要があります。それでもスタッフには、可能な限り早く戦力になってもらいたい。この『農場管理マニュアル』は、それを実現してくれます」と三浦さんは説明してくれた。

マニュアルを用意することで、休みが多いスタッフが久しぶりにハウスに入っても、前回行った作業まで立ち戻ることができるようにしたのだ。

「人材育成というと、人間性を育てるというニュアンスを含みますが、当社は一日でも早く仕事をマスターしてもらうことに注力しています。面白いことに、仕事ができるようになると、スタッフは楽しみながら前向きに、何年も継続して働いてくれます。そして子育てが落ち着いたタイミングで正社員にステップアップ、という事例もあるんですよ」

多様な属性のメンバーでチームを作ることが人材育成となり、職場の持続性が高まる

第1ハウスチーフを務める「りなちゃん」(左)は農業学校卒で入社4年目。第2ハウス管理アシスタントの「きたばたけさん」は最年長ながらも気力と体力、仕事ぶりは20代と変わらない

三浦さんの言葉通り、子育て中の女性にはどうしても急な休みや遅刻・早退が付きまとう。残された従業員の負担が増え、不満が蓄積していくことも十分考えられるが同社ではこの問題を、どのように対処しているのだろうか?

「2020年から始めて効果を体感しているのが、チーム制を敷くという方法です。現在4つのハウスがあるのですが、各ハウスを1つのチームが責任を持って運営してもらっています。正社員1人をチーフとして、その下にスタッフを配置します。人員にはやや余裕を持たせてありますから、急な欠員にもチームで解決してもらっています」と三浦さん。

その上で、チームメンバーの構成に重きを置いていると言葉を続けます。「例えば、同じ小学校に通う子を持つスタッフを1つのチームに集めてしまうと、運動会の日に誰も居ない、ということが起こります(笑)。ですから、従業員の家族構成を把握して、20~50・60代がそろった二世代家族のように、多様な属性のスタッフでチームを構成するようにしています」

ここまで「女性が働きやすい職場」と記してきたが、実は同社には中高年の男女スタッフもいる。こうしたスタッフを年齢上の頂点とする家族のようにするのだという。

「古くから農業は家族単位で営まれていましたよね?それには理由があって、農業生産には助け合いの精神、言い換えると、人と人の強い絆が必要だからだと私は考えています。短期的な効率だけを気にしていては、持続可能な職場にはなりません。チーム制を敷いた当初の目的は職場の持続性を確保するためでしたが、始めてみて、それが人材育成に役立つことが分かりました。これまで関わることが少なかった属性の人と共に働くことで、新たな価値観に出会うからだと思います。当社で働くことで人間的に一回り、二回り成長して行くスタッフを見るのは、経営者としてうれしい限りです」と、三浦さんは人材育成の効果に満足気だ。

チーフとなる正社員には、社長の考えを理解して自走することを求める

第4ハウスチーフの「なおくん」(左)は入社5年目の若手。「人間力も栽培も年々レベルアップしていてこれからが楽しみ」(三浦さん)。第2ハウスチーフ兼生産部マネージャーの「ともちゃん」は農業未経験ながら抜群の栽培センスで、トマトの気持ちが分かる注目の人材だという

同社では、チームごとに生産目標を立てており、その達成度が公表されている。チームを引っ張るリーダー役であるチーフ(正社員)のやり甲斐と責任は大きい。三浦さんはこうした正社員を、どのように採用し育成しているのだろうか?

「多様な人材のまとめ役を担ってもらうので、採用の段階では人柄と社会経験を重視します。ですから、新卒の方を正社員として採用したことは一度もありません。正社員に期待するのは、主にマインドの部分です。視野が狭い人や、言われたことしかしない人は、厳しいようですが当社に向いていないと考えます。挑戦する意欲が薄い人は、あまり成長して行きません。

正社員とは定期的にミーティングを行い、『会社が目指している姿』や、『リーダー論』などをテーマに話し合いをしています。もちろん全従業員と共有したいのですが、まずは正社員から。正社員には、社長の考えをくみ取って会社を運営する柱である、という高い志を持つように指導しています」

三浦さんが創業時から推進している「女性が働きやすい職場作り」は、今では誰もが働きやすい職場作りへと進化し、それがスタッフと正社員の人材育成に直結している。

労働環境を整えて「社長抜きで自走できる」組織を作る

三浦さんは「働きやすい環境を整えるために人員に余裕を持たせている」と説明してくれたが、それで経営は苦しくならないのだろうか?

「確かに当社の経費に占める人件費率は驚くほど高いですし、労働力は常に余剰気味です(笑)でも、従業員は大切な財産ですし、余裕があるからこそ何かあった時に誰かにシワ寄せが行きにくくできるのです。人件費に頭を悩ませた時期もありましたが、今は労働環境を重視する現状が最適解だと確信しています」

その代わり従業員には「手が空いたら自分から進んで動いて欲しい」と伝えており、全員がそれを実行してくれているという。また、十分に人が居るからこそ、急激な規模拡大や事業拡大にも対応できているとも、三浦さんは説明してくれた。

最後に、人材育成の最終目標を伺った。それを本稿のまとめとしたい。

「全従業員が前向きに働いてくれていて、うれしく思っています。定着率は極めて高く、従業員からの口コミなどもあり、求人の募集をかけると、採用予定人数の何倍もの応募をいただく状況です。一方で『物足りない!』と感じる点があるのも事実です。自分で言うのもおこがましいのですが、当社はまだまだ『社長ありき』の組織でしかなく、従業員だけで会社を自走させる、というレベルには到達していないのです。もっと野心を持って、責任感を持って、仕事に向き合ってほしいと願っています。私はそれがしやすい環境に、更に進化させていきます」

取材協力・写真提供

ドロップファーム

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