イチジクとは?
イチジクの基本情報
イチジクは、クワ科イチジク属に属する果樹で、生で食べても加工してもおいしい果物です。原産地はアラビア南部、西アジアといわれており、原産地付近では紀元前から栽培され、旧約聖書にも記載されているほど歴史の古い果物のひとつ。日本には江戸時代に中国から伝わったとされる説と西洋から長崎へ伝わったとされる説がありますが、明治時代末期に中国から再導入されて栽培が盛んになったとされています。現在、日本では主に「桝井ドーフィン」と「蓬莱柿(早生日本種)」の2つが市場で流通しており、全国のイチジク市場のほぼ9割を占めています。
イチジクの「果実」とされる部分は花托(かたく)が肥大したもので、その内側に密生している粒々は種ではなく花です。この当てられた小さな花の集まりがイチジク特有のプチプチした食感を生んでいるのですね。またイチジクは漢字で「無花果」と書かれますが、これは花が外から見えないことによる当て字です。
イチジクは食物繊維のペクチンを多く含みます。ペクチンは大腸に働きかけておなかの調子を整える他、糖分などの体内への吸収を穏やかにするため、血糖値の急激な上昇を抑えるといわれています。また皮をむいたときに出てくる白い液は、たんぱく質分解作用がある消化酵素のフィシンで、胃腸の働きを助け、消化を促進する効果が期待できるので、食後のデザートにぴったりな果物です。
果実のサイズや形、色、味は品種ごとに異なり、栽培地や気候にも影響を受けます。特に耐寒性や収穫時期は品種ごとに差があるため、栽培地の気候に合わせた品種選びが大切です。家庭でも簡単に栽培でき、完熟の味を楽しめる魅力的な果樹です。
品種は大きく3つに分類
イチジクは国内だけでも約100種類以上の品種があるといわれており、最近では海外の品種も栽培されています。主な産地は和歌山県や愛知県、大阪府、兵庫県などです。
イチジクは年に1~2回収穫できる果実で、果実の収穫時期によって3つに分類されます。それぞれ、夏と秋に収穫できる「夏秋兼用品種」、夏の時期に収穫できる「夏果専用品種」、秋に収穫できる「秋果専用品種」とよばれています。
また、イチジクは熟すと表皮が赤くなるのが一般的と思われがちですが、これは蓬莱柿という日本で昔から流通しているイチジクのイメージが強いためで、中には熟しても表皮が黄緑色のもの(青イチジク)や、白っぽいもの(白イチジク)、黒くなるもの(黒イチジク)があります。
夏秋兼用品種
日本国内の市場で最も多く流通している枡井ドーフィンが代表的で、夏から秋に掛けて収穫が楽しめます。収穫量が多く、家庭菜園でも育てやすいことが魅力です。また、夏果と秋果の両方の季節に合わせた剪定(せんてい)が必要で、地域や農家によっては秋のみ収穫することもあります。
夏果専用品種
夏果専用種は、6月から7月に掛けての早い段階で収穫できます。収穫が早い分、夏のフルーツとして家庭で人気があります。ただ収穫時期が梅雨と重なるため、病害虫のリスクもあり、栽培初心者にはやや難易度が高いと言えるかもしれません。
秋果専用品種
秋果専用のイチジクは、8月から10月に掛けて収穫される品種で、秋の味覚として楽しむことができます。晩夏から秋に掛けて収穫期を迎えるため、涼しい地域でも育てやすいのが特徴です。
イチジクを家庭菜園する方法
イチジクは初心者でも簡単に育てられる果樹で、家庭菜園にぴったりです。植え付けの時期は12月ごろが一般的ですが、寒冷地では翌春に植え付けるのがおすすめです。
地植えの場合は、50センチの穴を掘り、堆肥や石灰、肥料を混ぜてから植え付けます。鉢植えでは、市販の花木用の土に鹿沼土を混ぜ、根をしっかり広げて植えましょう。添え木を立てて支え、苗の成長をサポートすることも大切です。
イチジクの剪定は、冬の休眠期に古い枝を短く切り、新しい枝が伸びやすくなるように整えると良いです。人気の一文字仕立ては、枝を横に広げて木を低く保つ方法で、家庭菜園にも適しています。収穫できるのは植え付けから2~3年後からで、果実に弾力が出てきた頃が収穫の合図です。
また、イチジクは水分が大切なので、夏場は特にこまめに水やりを行いましょう。簡単に育てられるイチジクで、家庭菜園を楽しんでください。
夏秋兼用品種の品種
桝井ドーフィン
桝井ドーフィンは、日本で最も多く出回っているイチジクの品種。正式な品種名は「ドーフィン」ですが、広島の桝井光次郎氏が明治42年にアメリカから持ち帰り「桝井ドーフィン」という名称で広めたため、一般的にはこの名称でよばれ、広く販売されています。大ぶりで収量も多いのが特徴です。夏果は130~220グラムと大きく、秋果も50~115グラムのサイズで果実の形はしずく型、外皮は夏果は緑を帯びた紫色に、秋果は紫褐色に色付きます。栽培のしやすさと共に裂果が少なく日持ちも良いため輸送に適しており、国内でのシェアが圧倒的に高くなっています。
果肉はピンクから赤色をしており、ねっとりした食感とほどよい甘みが特徴。ほんのり酸味も感じられ、さっぱりとした風味です。また、皮が薄く柔らかいため、生食はもちろん、ジャムやドライフルーツにも適しています。
耐寒性はやや弱いものの、四国地方や九州地方では育てやすく、完熟すると豊かな甘さが楽しめます。
ホワイトゼノア
ホワイトゼノアは、果皮が黄緑色のまま熟し、強い芳香とさっぱりとした甘さが特徴のイチジクです。
果肉がしっかりしており、果重は60~80グラムと程良いサイズで、皮が薄いため完熟すると皮ごと食べられるのも魅力の一つです。アメリカではケーキ用のイチジクとして使われることも多い品種です。
夏秋兼用品種で収穫が長く楽しめ、耐寒性が強いので北海道南部から九州まで幅広く栽培可能です。家庭栽培向きで、日当たりの良い場所で育てるのがおすすめの品種です。
バナーネ
バナーネは、フランスから導入された白イチジクの品種で、熟しても皮が赤くならず緑~黄色のままという珍しい特徴を持ちます。果肉は赤く、ねっとりした食感で、種のプチプチ感も楽しめます。夏果は約280グラムと大きく、甘さは控えめでフレッシュな味わい。一方、秋果は130グラム前後と小ぶりですが、糖度が非常に高く、23度にも達することがあるそうで、濃厚な甘さを感じられます。違った味わいの夏果と秋果を楽しめるため、長い収穫期間を楽しめる品種です。
カドタ
カドタはアメリカから入ってきた白イチジクの品種で、イタリアでよく知られるドッタート種と同じ品種です。夏秋兼用の品種で、果皮が熟しても黄緑色のままの美しい見た目が特徴です。夏果は果肉が赤紫色がやや濃く生食向き、秋果は果肉は琥珀(こはく)色で中の痩果(そうか 赤い粒々の部分)が細かく舌に残らないことからドライイチジクに最適とされており、イタリアやアメリカでは古くからドライイチジクに用いられています。酸味が少なく、甘味とコクがあり、果汁はそれほど多くなくねっとりした食感が特徴。皮が薄くそのまま食べられるため、生食はもちろん、ドライフルーツや加工にも向いています。
また、耐寒性と耐暑性があり、病気にも強く、樹勢も豊かで育てやすいため、家庭栽培にぴったりです。小粒ながら収穫量が多いのもうれしいポイントですね。
ブランズウィック
ブランズウィックはフランス原産のイチジクで、フランスでは古くから食されていたとされる歴史ある品種です。果実は夏果で120グラムと大粒で、秋果は60グラムほどになります。甘味と酸味のバランスがとれた上品な味わいが特徴。果皮は黄褐色で、果肉は淡黄白色の美しい色合いをしています。
雨に弱く、果頂部が裂けやすい特性があるため、収穫タイミングには注意が必要です。
耐寒性があるので日本でも幅広い地域で育てられ、スイーツやジャムなど加工用に最適です。
カリフォルニアブラック
カリフォルニアブラックの果皮は名前のとおり紫黒色なのが特徴ですが、完熟状態を見極めるのが難しい品種です。果皮は薄く、果肉はイチゴ色から淡い黄色でジューシーな食感と甘みとほのかな酸味が楽しめます。
果重は約40グラムと小ぶりですが、濃厚な甘さと芳醇(ほうじゅん)な香りが魅力です。
皮ごと食べられ、手軽に楽しめることから、家庭菜園でも人気の品種です。
ブラウンターキー
ブラウンターキーは、甘味が強くねっとりとした食感が特徴の小粒な黒イチジクです。夏と秋に二度の収穫が楽しめ、特に秋はたくさんの実がなります。
果汁が多く、程良い酸味と上品な甘さがあり、生食や料理、お菓子に適しています。
耐寒性があるので北海道南部から九州まで幅広く栽培が可能で、コンパクトに育てやすいため初心者にもおすすめの品種です。
ショートブリッジ
ショートブリッジは、ニュージーランド原産のイチジクです。果皮は黄緑色でうっすらと縦縞模様が入るのが特徴的とされていますが、熟度や栽培環境によって、茶色掛かった色合いを帯びることもあります。特に熟した果実や乾燥が進んだ場合、黄緑色が薄まり、茶色っぽい色合いが目立つことがあるため、見た目が茶色っぽく感じられる場合もあるようです。
果肉は淡い茶色で、あっさりとした甘さが特徴。果実の大きさは約50グラムと小ぶりで、皮が薄いため、皮ごと食べることができます。
秋果の収穫量が多く、完熟果の甘さは格別です。水切れに注意し、日当たりと水はけの良い場所で栽培しましょう。
ブリジャソットグリース
ブリジャソットグリースは、スペインなどの南ヨーロッパ原産のイチジク品種で、やや白っぽく灰色掛かったものから濃い紫や黒に近い果皮のものがあり、外観は美しいとは言えませんが、割ってみると淡黄白から鮮やかな赤色の果肉が特徴です。夏秋兼用品種ですが、収穫量の違いから、主に秋果を収穫します。
果重は約50〜70グラムで、ベリーの風味があり、酸味と甘味のバランスが良い上に非常に甘く食べ応えがあります。また日持ちが良く、ジャムしてもおいしい品種です。
耐寒性も強く、コンパクトな樹形から家庭菜園やコンテナ栽培にも適しており、秋果の収穫が特に豊富です。
アーティナ
アーティナは、糖度が高く香りも豊かで、家庭栽培に適したイチジクです。果重は約40グラムの小ぶりなサイズですが、たくさんの実を付けて収穫期が長く、庭植えや鉢植えでも簡単に育てられます。裂果も少ない品種です。
果皮は淡い黄緑色で、皮が薄いため皮ごと食べることができ、果肉はとろけるような甘さが特徴です。
日当たりと水はけの良い場所で育て、夏には水切れに注意しましょう。冬は寒冷地では室内管理や防寒が必要です。
夏果専用品種の品種
ビオレドーフィン
ビオレドーフィンはフランス原産の夏果専用品種で、ドーフィンとは異なる珍しいイチジクです。
果皮は紫赤色で、果重は100~150グラムと大きめ。多汁で甘みが強く、濃厚な風味が楽しめます。皮が薄く、皮ごとそのまま食べられるのも魅力です。
大きな実を付けるので収量は少なめですが、裂果しにくい特徴があり、虫や菌の影響を受けにくい点も家庭栽培に適しています。
ザ・キング
ザ・キングは、夏果専用の高品質イチジクで、黄緑色の果皮で裂果しにくいことが特徴です。果肉は柔らかく滑らかで舌触りがよく、ピンク~赤色に色付き、酸味と甘みが絶妙に調和した味わいを楽しめます。果実は大きいもので180グラムほどで糖度は14~19度ほどといわれ、甘さも十分です。
冷やして食べると一層おいしく、生食だけでなく、ドライフルーツ用としても人気があります。
秋果専用品種の品種
蓬莱柿(早生日本種)
蓬莱柿(早生日本種)は、400年ほど前に中国から伝わったとされる品種で、日本に定着して長いため、早生日本種ともいわれています。主に西日本で長く親しまれているイチジクです。果重は50~100グラム、果皮は黄緑掛がかった赤紫色で、果肉は甘さと酸味のバランスが絶妙です。糖度は16~20度と高く、冷やして食べるとおいしいです。生食の他、ジャム、シロップ煮もおすすめです。
耐寒性や耐乾性が強く、全国で育てやすいため家庭菜園にも最適な品種です。
ヌアール・ド・カロン
ヌアール・ド・カロン(別名:ヌアールK、スイートカロン、フランソワ)は、フランス原産の黒イチジクで、その糖度の高さと濃厚な風味が魅力の秋果専用品種です。果皮は黒に近い濃い紫色、果肉は赤み掛かった琥珀色で、ねっとりとした食感が特徴。糖度は驚きの30度以上にもなることがあると言われており、甘さとベリー系の香りが絶妙に調和します。
果実のサイズは25〜70グラムと小ぶりですが、裂果しにくく、雨にも強い優れた品種です。ただし着果量は少なく市場流通はほぼなく、家庭菜園や観光農園での楽しみが主となります。
ビオレソリエス
ビオレソリエスは原産国のフランスでは昔から有名な品種ですが、日本では流通が少ないことから幻の黒イチジクとも称される希少品種で、濃い紫色の皮と、真紅の果肉が特徴です。果実は50~80グラムとやや小ぶりで、扁平(へんぺい)な形をしています。
果肉は緻密でしっかりしている上に柔らかくねっとりしており、口いっぱいに広がる濃厚な甘さとフルーティな香りが魅力。秋果専用品種で、8月下旬から11月中旬まで収穫でき、裂果しにくいのも特徴です。
耐寒性はやや弱いですが、たくさんの実を付けます。
ゼブラスイート
ゼブラスイートは、緑に黄色の縦縞模様が美しい個性的なイチジクです。熟すと模様が薄まるのが食べごろのサイン。糖度の高い濃厚な甘さと程良い酸味が調和し、風味豊かです。
果肉は薄い紅色から濃い赤色で、シロップのような食感が楽しめます。見た目の美しさから観賞用としても人気です。
原産国はフランスで、耐寒性も強く、北関東から九州まで広く栽培可能です。
セレスト
セレストは、一口サイズのイチジクで、果重は15~25グラムと小ぶりながら濃厚な甘さが特徴です。果皮は赤紫から紫褐色で果肉はピンクから赤色、皮ごと食べられるほど果皮が薄くて柔らかいです。
糖度が高く、ねっとりとした食感があり、生食だけでなくドライイチジクやケーキにも最適です。
また、雨や湿気に強く、耐寒性も優れているので、日本の多くの地域で栽培が可能です。
ドリーミースイート
ドリーミースイートは、濃厚な甘さと強い香りが特徴のイチジクで、皮が薄いため皮ごと食べられる便利な品種です。果皮は艶があり、鮮やかな黄緑色で美しく、果肉は白からうすいピンク色。奇麗な星形に裂果するのが特徴で、甘さと酸味のバランスが絶妙です。
秋果専用品種で、耐寒性が高く、多くの実をならせます。栽培しやすさから家庭菜園でも人気がある品種です。剪定によって樹高を調整できるため、鉢植えやコンテナ栽培でもコンパクトに育てられます。
まとめ
家庭菜園で育てられるイチジクは、品種ごとに異なる風味を楽しめます。収穫時期が異なる品種を育てれば、長期間イチジクを楽しむことも可能です。イチジクはデリケートで輸送に向いていないこともあり、市場に出回る品種が限られています。また、完熟のおいしさを味わえるのも家庭菜園ならではの楽しみですね。本記事で紹介した18品種の中から、お住まいの地域や好みに合ったものを選んで栽培してみましょう。特に、耐寒性や収穫期は品種選びの重要なポイントです。また、剪定や水やりなどの管理も工夫すれば、より甘くておいしいイチジクが育てられます。
【監修】
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■宮地 香子(みやじ・きょうこ) 横浜市在住。教育出版社勤務の後、野菜ソムリエプロに。アスリートフードマイスター2級、冷凍生活アドバイザー、受験フードマイスターの知識も生かして、子供からご高齢の方々まで広い世代に野菜の魅力を伝えます。 【保有資格】 野菜ソムリエプロ アスリートフードマイスター2級、冷凍生活アドバイザー、受験フードマイスター、メンタルフードマイスター2級 野菜の知識を深める資格の取得|日本野菜ソムリエ協会 野菜ソムリエカンパニー |
<参考文献・参考URL>
「野菜と果物の品目ガイド 野菜ソムリエEDITION」(農経新聞社)
「からだにおいしいフルーツの便利帳」(高橋書店)
・文部科学省「食品成分データベース」
・果物ナビ「イチジク」
・フーズリンク「旬の野菜百科」イチジク
・世界のイチジク
・いちじく畑(いちじく好きのためのいちじく専門サイト)
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