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大規模法人で学び、家業を事業承継 栽培面積5倍に拡大した経営術とは

大規模法人で学び、家業を事業承継 栽培面積5倍に拡大した経営術とは

愛知県阿久比町の農業生産法人「有限会社千姓(せんしょう)」が、このたび第54回日本農業賞 個別経営の部で大賞を受賞しました。同社では、水稲140ha、露地野菜15ha、施設野菜1haの規模で多品目を生産・販売。耕作放棄地や作業受託を積極的に受け入れ、地域農業に貢献していることや、動画マニュアルを使った人材教育などへの取り組みが評価されての受賞です。代表の都築興治(つづき こうじ)さんは、雑誌等のメディアでおなじみの農業生産法人「サラダボウル」出身。若き農業経営者の経営術をご紹介します。

13年で就農当初の5倍以上に成長

「農業は他業界と比較して遅れている面があるけど、まだまだやれることが多そうでワクワクした」。
大学時代の夏休みに初めて実家の農作業を手伝った都築さんは、そう実感したのを機に就農への意思を固めたと言います。大学卒業後、農業法人サラダボウルで3年間農業を学んだ後、2011年に実家が経営する有限会社先姓に入社し、1年後には代表に就任。当初は水稲25ha、野菜20aほどの規模でしたが、この13年で面積比5倍以上の成長を遂げました。

サラダボウルで農業を学んだ濃厚な3年間

都築さんが3年間研修生として農業のイロハを学んだサラダボウルでは、今までに多くの研修生が農業経営者として独立。その当時に学んだことが、現在の農業経営の随所に生かされているのだと言います。
「栽培技術、農業経営、人材育成など多くのことを学ばせていただきました。毎朝5時から勉強会をやって、夜も遅くまで働くという毎日でしたが、“独立したい!”という熱い思いやエネルギーを持った人たちばかりが集まっていたので、すごく濃厚で充実した3年間でしたね」。

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コスト管理の重要さを実践で学ぶ

単なる野菜の栽培ではなく、経営的に成り立つ栽培技術を学んだという都築さん。
「ちょうど私の先輩が研修生を卒業していくタイミングだったこともあり、入社半年で野菜部門のリーダーを任されて、コスト管理の重要さをしっかりと学ばせていただきました。基本的な野菜の栽培法はもちろん、例えば、10a当たりどのぐらい植えて、どのぐらいコストと作業時間を掛けるのか。販売単価いくらで、秀品率がこのぐらいだといくらの利益が出るのか。そういった観点で各数値を見える化することの重要さを実践的に学びました」。

最も役立っているのが「事業計画書」作りの勉強会

都築さんが「中でも一番勉強になった!」と話すのが事業計画書の作成です。自分の独立後の事業計画をまとめるという課題で、サラダボウルでは毎週、経営勉強会が開かれたのだそうです。
「勉強会では、ウイッシュリストとして農業でやりたいことを100項目挙げて、それをカテゴリーごとに細分化し、事業計画を作り込んでいきました。最終的には、どのような収支計算で、数十年後にどうなっているかの具体的プランや、企業理念まで盛り込んで事業計画書を作ったんです。農業だけではありませんが、事業って計画をきちんと作らないとなかなか前には進みません。それと、その事業計画を状況に応じて進化させていくのも大事。今でもこの事業計画書作りがすごく役に立っていますね」。

動画マニュアル作成など、オリジナルの社員教育でアプローチ

都築さんが有限会社先姓の代表に就任して以来、同社を卒業して独立した研修生は10人にのぼるのだとか。「農業の技術を教えて独立まで支援するのって、生産法人じゃないとできないと思うんです。自分がサラダボウル時代に独立支援してもらったので、今度は自分がそれを若い人たちにしてあげたかった」。
社員教育制度をしっかり構築することの大切さを学んだのもサラダボウル時代。有限会千姓では、社員それぞれの個性に合ったアプローチの仕方で柔軟な社員教育を実施されています。栽培技術の動画マニュアル作成も、オリジナル社員教育制度の中のプログラムの一つ。試行錯誤を重ねながら、日々人材教育の手法も進化しているようです。

20品目以上の野菜で、スーパーなどの販路を獲得

有限会社千姓では、「つづき農場」のブランドネームで農業を展開。肥料としてレンゲを圃(ほ)場にすき込む「れんげ農法」で作る特別栽培米「れんげちゃん」や、キャベツ、ハクサイ、レタス、コマツナ、ホウレンソウ、ナス、キュウリなど20品目以上の野菜を手掛けていらっしゃいます。取引先も愛知県の知多半島一円のスーパーや直売所、コンビニエンスストアなど幅広い販路を確保。その販路拡大のポイントはどこにあるのでしょうか。
「スーパーの場合、やっぱりお米だけだと売り込みが難しい。だから、多品目を栽培して商品ラインナップを増やしたんです。それで、地元のスーパーに『つづき農場』の売場を確保してもらったことをきっかけに、他のスーパーからも声が掛かるようになりました」。

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6次産業化、体験イベント、SNS戦略でファンづくり

「長期的に農業を続けていくために、地元の農業を盛り上げるファンづくりも大切」と都築さん。炊き込みごはんやお弁当の製造部門立ち上げによる6次産業化、親子向け農業体験イベント開催、インスタグラムなどSNSによる情報発信といった取り組みを通じて、「つづき農場」のファンを着々と増やし続けていらっしゃいます。
「つづき農場」では、お米、野菜に加えて、ミカンの栽培もスタート。今後は準備中のブドウに続き、イチゴ栽培の参入まで見据えているのだそうです。
更には、「道の駅のような直売所、レストラン、農業体験施設、農産物加工所が一体となった一大観光スポットを地元阿久比町に作りたい」とビジョンを語る都築さん。地域活性化に大きな期待が掛かります。

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(編集協力:佐久間厚志(ウイルパブリシティ))

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