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3年掛かりでたどり着いた半農半X。マイペース自然農の神髄は「とりあえず種をまく」の精神

連載企画:ずぼら女子の半農半X

3年掛かりでたどり着いた半農半X。マイペース自然農の神髄は「とりあえず種をまく」の精神

「就職せずに、自然豊かな場所で食べ物でも作りながら、文章を書きながら暮らしたいな」。大学3年生の冬、就職のルートから外れ、「農」と「書くこと」を組み合わせた生き方を目指すようになりました。現在は千葉県の自然豊かな地域で土に触れながら、フリーランスのWebライターとして収入を得ています。
この連載では、敷かれたレールを降りて、自分にとって納得感のある「半農半X」の生き方を実践するまでの過程をつづっています。農家になりたいわけではないけれど農に触れたい人や、無理せずマイペースに生きたい人の参考になるとうれしいです。

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教員を目指して進学するも、進路を白紙に

秋田の高校を卒業後、千葉大学に進学した私は、保健室の先生を目指して勉強に励んでいました。しかし、大学3年生の冬に進路を白紙にします。教育実習やアルバイトを通して、教育現場の忙しさや古い体質に息苦しさを感じた他、マイペースな自身の性格と合わないのではないかと不安に感じたりしたためです。

「自分のペースで働ける環境でないと、自分を保っていられないのではないか。でも、そんな働き方ができるのかな?」

働き方、もっと言えばこれからの生き方に悩んでいる時期に偶然出会ったのが、塩見直紀(しおみ・なおき)さんの著書『半農半Xという生き方』でした。

『半農半Xという生き方』塩見直紀著・ちくま文庫の書影

本書では「半農半X」という生き方について、次のように定義しています(一部抜粋)。

〝天の意に沿って小さく暮らし、天与の才を世に活かす生き方、暮らし方。これは、小さな農業で食べる分だけの食を得て、ほんとうに必要なものだけを満たす小さな暮らしをし、大好きなこと、やりたいこと、なすべきことをして積極的に社会に関わっていくことを意味する。〟

当時の私は、農業とは縁遠い、色白でひょろっとした女子大生でしたが、頭でっかちながら「これしかない」と直感しました。このように感じた背景には、小さい頃から抱えてきた食への疑問と「農」への憧れがあります。

人間としての強さ、自然な在り方に感銘

「農」を取り入れた暮らしに関心を抱いた理由の一つに、小学生の頃から感じていた「毎日食べ物を食べながら生きているのに、食べ物を作れないのは変だな」という疑問がありました。生きるためには、食べれば良い。なのに、食べるためにみんな忙しそうに仕事をしている。「食べるためにすごく遠回りなことをしているのでは?」という疑問を長い間抱えていたのです。

テレビ番組『鉄腕DASH』からも影響を受けました。人気アイドルたちが農村地域に通いながら、お米や野菜作りにいそしむ姿があまりにも楽しそうで、人間らしく、輝いて見えたのです。

半農半Xという考え方は、こうした原体験や進路へのモヤモヤを伏線回収してくれるものに思えたのです。自分たちの食べる分を自分たちで作ること。そして、違和感の無い仕事をしながらお金を稼ぐこと。「それ以外に私の生き方ってあるんだろうか?」と思うほど納得できる考え方でした。
とはいえ、農業をしている知り合いはおらず、大学に通っているだけでは農に触れる機会はやってきません。そこで大学4年時の夏休みを利用し、高知県で約1カ月間にわたる半農半X講座に参加しました。

棚田が美しい高知の風景

そこでの生活は、朝6時台から17時頃まで、週5日の農作業を行います。インドア派だった私にとって、体力的にかなり厳しいものでしたが、高知の大自然に囲まれながら汗を流し、日付が変わる前には眠る生活を通して「これが生きることだ」と深い納得感を得ました。
現地で知り合った農家さんたちの人間としての強さや自然な在り方にも感銘を受けました。
繁忙期は農業を頑張り、農閑期は仕事を休んでスノボ旅行へ行くという農家さん。東京から移住し、トマト農家をしているご夫婦–。季節に合わせた暮らしをしながら自身の趣味を楽しむ姿、夫婦で汗を流しながら農作業をこなす姿からは、「生きるために直接的なことをしている」と感じられました。
「社会人として」「大人として」「稼ぐために」というよりは、ただただ人間として自然に生きているように見え、進路に悩む大学生の心に深く刺さりました。

半農半X講座に参加して、ミニトマトを収穫する筆者

仕事の不安定さと内向的な性格により、畑にたどり着くまで3年掛かる

講座を通して「この方向で間違いはなさそうだ」と確信を得た筆者でしたが、すぐに理想的な半農半Xの暮らしができたわけではありません。実際に手に職を付け、畑を持つまでには3年以上掛かっています。

大学を卒業した私はフリーライターとして生計を立てることにしましたが、「まずは自分の仕事を確立させなければ」と焦っていたことが理由の一つ。仕事をもらうためのつながりも、ノウハウを教えてくれる上司もいません。

何とか獲得した仕事も思わぬところで受注が途切れたり、自分の関心からはほど遠い仕事ばかりで精神的に参ってしまったりと安定せず、農地探しなどに使うエネルギーが残っていなかったのです。仕事が安定しないまま農を楽しむことの罪悪感もあり、「やりたいけど踏み出せない」という期間が続きます。

内向的な私の性格も足を引っ張りました。人付き合いも苦手で、せっかく農作業のイベントに誘われても、何かと理由を付けて断ることが多かったのです。

「今は仕事が忙しいからなぁ」「行くまでの足が無いからなぁ」「もう仲間内で盛り上がっているコミュニティに参加するのは気が引けるなぁ」。農を取り入れた生活を実践している人たちを横目に見ながら、アパートの玄関脇でひっそりと、ミニトマトをプランター栽培する3年間を過ごしました。

プランターで栽培するミニトマトが心のよりどころ

夫との出会いが転機となり、半農半Xの暮らしが始まる

転機になったのは、現在の夫との出会いです。同居に伴い、夫が住んでいた家の畑を使わせてもらう形で小さな半農半Xがスタートしました。

正解が分からないので、畑をそれっぽく耕してみる

初めて取り組んだのは、カブやホウレンソウ、ミニトマト、オオバの露地栽培。もともと畑だった場所柄もあり、種をまくとみるみる成長し、ほとんど手を掛けずに収穫できました。

しかし、栽培品目を増やしていくうちに、自然農法では栽培が難しい作物があることも知りました。特にキャベツやブロッコリーは3回ほどチャレンジしましたが、虫がたくさん付き、葉がスカスカになってしまい、一度も実ったことがありません。

「たねの森」という種屋さんからさまざまな種を購入

現在、そういったものは無理に作ろうとせず、スーパーや直売所でありがたく購入させてもらっています。完全な自給自足をするわけでもなく、農薬を使った栽培方法を排除するわけでもなく、ストレスを感じない範囲で生活を楽しんでいます。

フリーライターと両立する、無理のない農的暮らし

現在はフリーライターとして生計を立てながら、畑や田んぼの活動に取り組んでいます。ライターの働き方は時間の融通が利きやすいので、農作業との両立がしやすいです。

こまめな草刈りが必要な夏は、仕事終わりの夕方に草刈りをします。9~17時頃まで在宅で仕事をした後、17時頃から草刈りし、夕食で使う野菜を収穫することも。特にオクラは成長スピードが速く、収穫が1日遅れるともう食べられないような硬さになってしまうため気に掛けています。

オクラの花が美しい

30分~1時間ほど畑で作業するだけでも汗をかきます。座りっぱなしで血行が悪くなりがちなライターにとっては、ちょうどいい運動です。

冬は草刈りがほとんど不要で、急成長する野菜もありません。夕食の材料が欲しい時に大根を引き抜きに行ったり、湯豆腐に散らすための小ねぎをもぎに行ったりする程度です。

収穫した大根

仕事に全てのエネルギーを注ぐタイプでも無く、専業で農業をやるほどのエネルギーも無い私ですが、その中途半端さも受け入れてくれるのが「半農半X」だと感じています。

野菜がたくさん収穫できる時期は食費が浮くため、物価高の時代にはかなりの節約になるところもうれしいです。

「とりあえず種をまいてみる」の精神で、実験する

栽培や病害虫の知識は、インターネットや書籍を参考にしていますが、「とりあえず種をまいてみる」という実験から始めることが多いです。「ちゃんと調べたのに上手くいかなかった」となった場合は落ち込んでしまうため、自分自身が持続可能でいるためにも、ほどほどにやることが大事だと考えています。

困ったことがあればその都度調べ、対策するという流れで自分なりに感覚をつかんでいます。失敗した時は「野菜よ、ごめん」と申し訳なく思いますが、この世から種が消えるわけではないですし、「まぁ次、頑張ってみよう」と切り替えられます。土や水など、無料の資源が多いので、失敗しても感情的にはなりません。真摯(しんし)に農と向き合っている人には怒られてしまうかもしれませんが、これも、収入源を別に持っている半農だからこそ許されるずぼらさだと思います。

収穫したミニトマト・オクラ・ツルムラサキ

「きちんと栽培しないと」と義務感を感じて疲れるよりは、このくらいの緩さで農に触れていたいです。

我が家の自給率を上げながら、農に触れる場所や機会をシェアしたい

半農半Xの生活は始まったばかりですが、この先やっていきたいことが3つあります。

まずは、自分の家の自給率を上げることです。まだまだ「自給しています」と胸を張って言えるほどではないので、土に手を掛け、作物を作れるエリアを増やしていきたいと考えています。

これから新たに開墾するエリア

次に、生活のおすそ分け。特に「土に触れたいけど、場所や機会がない」というかつての私のような人に場所や機会をシェアしていきたいと考えています。

2024年から仲間と始めた田んぼ

農業体験のイベントに参加すると、「畑を始めたいけど、場所や機会がない」「一人でやるほどの情熱はない」「市民農園を借りるのは意外と高いし、そもそも人気すぎて枠がない」という人に出会います。かつての私もそうでした。土に触れたい気持ちは確かにあるけれど、日常の忙しさや手間のことを考えると、なかなか足を踏み出せないものです。

畑に触れることで、日頃の疲労感やどんどん流れていく時間の流れを緩められると思っています。土に触れることによる前向きな感覚や手触りを、場所のシェアや普段の発信活動の中で伝えていけるとうれしいです。
3つ目が、「自給」からちょっとだけはみ出してみることです。具体的には、ハーブを栽培し、カフェに出荷する。宿を運営して、ハーブティーを提供するなどです。ライターの仕事も楽しいですが、農の時間とライターの時間がきっぱりと分かれてしまっているところには、ちょっとだけ違和感を感じています。「仕事が忙しくて、農作業をしている場合じゃない!」と思う瞬間もあり、仕事と農のバランスが崩れることも増えてきました。
暮らしと仕事の垣根を無くし、生活をおすそ分けすることが仕事になるよう、整えていきたいです。

本連載を通して、生活の中に緩く農を取り入れてみたい人や、王道ルートの中で働くことに難しさを感じる人たちとつながりながら、みんなで「それぞれの生きのび方」を探求していけたらうれしく思います。

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