日本最大級のビアフェスで好評を博すビール
カトウファームがブルワリーを立ち上げたのは2020年のこと。
その経緯は後に触れますが、前年にクラフトビールの醸造の研修を受け、加藤さんと妻の絵美さんは自分たちだけのビールを作り始めました。
80回にもわたる試行錯誤で、味を追求し、自家栽培した大麦やホップを原料の一部に使ったビールを生み出します。23年には、月8万リットルの生産を可能とする工場を新設。24年には、さいたまスーパーアリーナで開催する日本最大級のビアフェス「けやきひろば 秋のビール祭り 」に初出店。好評を博し、現在はイベント出店への声が掛かることも多いのだとか。
「お陰で5月ごろまでは週末にイベントに出て、平日は田植えをするような状況です」と加藤さんは話します。

カトウファームが手がける飲食店にて
会社員を経て就農へ
そもそもは会社に勤めていた加藤さん。
「スポーツインストラクター、流通業、建築業……。いろいろやっていましたね」
一方で、農業はもともと加藤さんの身近にあるものでした。
「1996年の県の基盤整備事業に伴い、祖父が機械利用組合を設立しました。これがカトウファームの前身です。ただ祖父は当時、80歳にもなっていたこともあり、私が作業を行うようになったのが農業に関わり出したきっかけですね」
その後、加藤さんはその機械利用組合の組合長に就き、主体的に動き始めます。
その矢先、2011年に東日本大震災が発生します。災害による被害と、風評被害。生産・販売への弊害は多々あったと加藤さん。周囲の農家の離農も目の当たりにし、手放された農地がどんどんと加藤さんに譲られ、就農当初の3倍にも拡大しました。
加藤さんは「大きくなっていくのだから」と法人化を決め、15年に農業生産法人となりました。
「うちは福島市の北部地区で農業をやっています。当時は地域に大きな選果場はあっても、ライスセンター、カントリーエレベーターが無かった。うちでその機能を賄っていくしかないなと思い、将来を見据えて法人化しました。また周囲の高齢化や離農も理由になりましたね」

加藤晃司さん
ブランド米の生産とPRに取り組む
カトウファームでは福島県のブランド米「天のつぶ」を生産しています。
2011年にお披露目され、県によれば「粒ぞろいが良く、光沢があり、しっかりとした食感が魅力」の、天のつぶ。
加藤さんは魅力を次のように話します。
「福島の中通りで作ると、コメに風味と香りと甘みが出るんですよ。『天のつぶ』も同じ。ですけど食感が違います。パリッとしてる感じのコメ。炊飯器で保温したまま数日置いておいても、釜の内側にノリが付きにくい」
と話す加藤さんですが、生産当初は苦労もあったそう。
「どうすれば魅力を伝えられるだろうと、毎日食べながら考えて、SNSで発信していました。けれど震災の後は見向きもされませんでしたよ。コメはBtoCでは買ってもらえなかった」
その後、15年にはコメの日本一を決める「米-1グランプリ」で決勝大会入賞。冒頭のとおり、地域で最大規模のコメの生産農家となっています。

カトウファームの水田。農薬を基準値から5割減らして栽培している
「どうやったら福島を盛り上げられるか」
「私たちの根底にあるのは『地域を守る』ということです」
加藤さんは強調します。
「例えば高齢化などで、その子供が引き継ぐという話になっても、農機の更新が負担で辞めることもあります。その時に頼れるところが無いと地域として困ってしまう。そこで当社では、耕作放棄地が増えることを防いだり、地域情報の発信によって経済を活性化させたりしたいと、考えています」
あくまで地域貢献がベースにあると加藤さん。クラフトビールもその延長線上にあります。
「東日本大震災で被災した生産者復興の支援団体『東の食の会』に参加して、『どうやったら福島を盛り上げられるか』を更に考えるようになりました。そのタイミングで妻がクラフトビールというものに縁を持ったことが、ビールを作り出したきっかけです」
稲作にクラフトビール作り。更に現在は福島駅前に「天のつぶ」を使ったおむすびや、クラフトビールを楽しめるビアバーを展開。その全てを、加藤さん夫婦を中心とする数人のスタッフで切り盛りしています。
時代に対応できる農業スタイルを
「地域を守るために、もっと大きくしていきたいと思います。けれどそのためには“チーム”が必要。農業は、今年から息子が入っていて、教えているところです。ビールも人を増やして、もっと作っていきたいです。今はそのリクルート活動中ですね」
大変だと漏らす加藤さんですが、将来に描くビジョンは豊かです。
地域で水持ちの悪い田の基盤整備、ソーラーシェアリング、SAF燃料(持続可能な航空燃料)の栽培など。
「地域にとって『困っている人たちのための私たち』と位置付けられれば、この地域が守られていくのかなと思っています。その上で、時代に対応できる農業スタイルを確立したい。もちろんコメは重要だと考えていますので今後も作っていきます」