相続で面積が縮小
関ファームは面積が90アール。ハウスでトマトやナス、ミズナを育てているほか、露地でジャガイモやコマツナなども栽培している。
関さんは現在42歳。実家は400年以上続く代々の農家で、関さんは17代目に当たる。高校を卒業して就農したときの面積は約1.5ヘクタール。祖父と父親が亡くなったとき、相続税を払うために畑の一部を手放した。
面積が減ったにもかかわらず、売り上げが大きく増えたのは、栽培方法と品目、販売手法を全面的に見直したことがきっかけだ。
就農したときは父親が中心になり、ニンジンやサトイモ、ホウレンソウなど地域で一般的な作物を育てていた。出荷先は市場。他の農家の作物と一緒に流通する「生産者の顔の見えない」販売にとどまっていた。
関さんが20代半ばのとき、父親がガンになったことが転機になった。「自分の農業を確立しないと未来がない」。そう覚悟を決めた。同じ時期に子どもが生まれたことも、収益性をより高める挑戦へと背中を押した。

代々の農家であることを示す蔵
ブランド名を「COCO」にした理由
売り方を改めたのは、他の農家の農産物と合わせて「清瀬産」として販売される仕組みでは、栽培努力が値段に反映されにくいと考えたからだ。関さんは「誰かが品質を下げれば、全体のイメージも落ちる」と話す。
新たな売り先に選んだのは、豊洲市場(東京都江東区)と大田市場(同大田区)の仲卸。他の農家と一緒にするのではなく、関ファームの農産物として仕入れ、スーパーなどに販売してもらうことに成功した。
販路を開拓できたことは、作物の品質を高める上で大きな励みになった。品質に問題があればクレームが入る半面、おいしければ反応が伝わってくるからだ。共同出荷では得ることが難しい営農の喜びだ。

都市農業らしさを表現したロゴマーク
ブランドを確立するため、ロゴも作製した。トラクターの背景にたくさんのビルを描いたイラストだ。都市農業らしさを前面に出した。
ブランドの名前は「COCO」に決めた。後述するように、トマトのハウス栽培でココヤシの培地を使っているのが理由のひとつ。ココ・シャネルなどを連想させることで、高級感を出す効果も狙ったという。

ブランド名の「COCO」
オランダ型のハウスで売り上げが拡大
栽培に関しては曲折もあった。空心菜やアイスプラント、サラダゴボウといった珍しい野菜を含め、約30品目を作ってみたこともあった。農地が狭くて効率化が難しい都市農業で特色を出すための少量多品目栽培だ。
あるテレビ番組を見て、オランダの農業を知ったことで大きく経営のかじを切った。「限られた面積で高い収益をあげるには、施設での養液栽培に切り替えるしかない」。経営スタイルを抜本的に変えることを決断した。
ハウスが完成したのは2014年。ちょうどその年、闘病生活を続けていた父親が亡くなった。すでに関さんが経営を担う立場になっていた。
新たに建てた施設は面積が10アール。農場にもともとあったミズナのビニールハウスとは違い、温湿度や日射量をセンサーで計測して室内の環境を制御する。ココヤシを使った培地を溶液が自動で流れる仕組みだ。
トマトにとって最適な栽培環境を追求できるようになったことで、品質の向上に弾みがついた。それが独自の販路とかみ合う好循環が生まれ、売り上げが一気に拡大。需要に応えるため、4年前にハウスを増設した。

ハウス内の様子