・協議会長:ヘンタ製茶有限会社 邉田 孝一さん
・場所:鹿児島県
・輸出先:アメリカ、EU(フランス、ドイツ)
鹿児島オーガニックティー協議会について
鹿児島オーガニックティー協議会設立の背景

ヘンタ製茶の商品
ヘンタ製茶有限会社では、お茶の生産から煎茶、抹茶の原料になるてん茶の加工、販売まで一貫した体制で取り組んでいます。二代目の邉田孝一さんは1983年に就農して以来、有機栽培への転換や海外への輸出にもいち早く取り組んできました。
飲料用のお茶だけでなく、お茶をふりかけやお菓子の原料として使用し加工品を製造したり、直売店をオープンしたり、お茶を身近に楽しんでもらうための方法を模索しています。2022年には茶畑と霧島連山を望むテラスでお茶とお茶菓子を楽しめる「霧茶床」のサービスを始めました。景色を眺めながら貸し切りのプライベート空間でゆったり過ごせるサービスは、国内だけでなく海外観光客からも人気を集めています。
邉田さんが協議会を立ち上げたきっかけは、日本国内でのお茶農家を取り巻く環境が厳しくなってきたことにあります。総務省家計調査「一世帯あたりのリーフ茶消費量の推移」によると、家庭におけるリーフ茶の消費量は2007年から2023年までの16年間で約35%も減少しています。ペットボトル茶などの茶飲料での需要はあるものの、資材や燃料費の高騰もあり、市場取引価格は頭打ちの状況です。「継いでも苦労するだけだから」と子どもに継がせずに廃業する農家も増えています。
鹿児島オーガニックティー協議会では地域の関係者で協力し合い、さらには外部パートナーの助力を得て、輸出体制を強化・組織化していく計画です。具体的には農林水産省の「大規模輸出産地モデル形成等支援事業」(以下、本事業)の事業予算を活用して、販路開拓、輸出における課題の洗い出しとその解決法の模索、輸出効率化やロス削減を目指した物流体制の構築などを計画に織り込みました。大規模輸出産地形成に向けた取組を2023年~2025年の3年間にわたり段階的に取り組んでいます。初年度(2023年)は、本取り組みにより輸出量が40%増加しました。
さらに、有機栽培への転換に関わる諸費用にも本事業予算を活用。茶畑の残留農薬検査や専門家を交えた勉強会、その勉強会参加の旅費・宿泊費、効果検討などを行ってきました。 協議会に加入するお茶農家は、種子島や屋久島など離島エリアも含まれており、離島においては輸出や補助事業に関する情報も入りにくく、移動の旅費負担もかかってきます。事業予算を活用することで、生産者同士勉強会で会い、交流を深め、しっかり連携していく機会を持つことができました。
有機栽培における残留農薬基準は一番厳しいEUに照準を合わせて、アメリカやアジアなど、他の地域にも輸出できる体制を本事業を通して目指しています。

ヘンタ製茶の抹茶
鹿児島オーガニックティー協議会の取組内容
農家が直接売る時代に
有機栽培でお茶の単価を上げることに加えて、これから重要になってくるのが販路開拓だと邉田さんは力説します。一昔前は問屋を通して売るのが主流であり、お茶の市場価格が高く、お茶業界が盛り上がっていた時代はこれで十分成り立っていました。しかし、国内消費が低迷して市場価格が下がっている今は、問屋に出すのではなく、生産者が直接販売をする仕組みを作っていかないと手元に利益が残りません。さらに、海外にも販路を広げる必要があります。
生産者が自ら売る体制を整えるために、鹿児島オーガニックティー協議会では本事業の予算を活用して、海外展示会への参加や、輸送に関わる船便の輸送試験を行いました。
2024年12月にフランスの商談会を訪れた協議会のメンバーは「日本であれこれ考えるよりも、現地に行ってお茶を見せて飲んでもらうことによってやる気が出た」と、ビジネスの機会だけでなく、意欲向上にもつながっている様子です。2025年もドイツのオーガニック食品見本市「BIOFACH2025」 への参加手続きを完了しており、生産者自身も足を運び現地の雰囲気や顧客と触れ合うことで理解を深めていく狙いです。
生産者が出ていくことで、色んな人との縁は広がります。まさに、ひとつの縁が大きな商談につながった例もあります。世界最大級の食品見本市に参加した際は、カフェを開くためにお茶を仕入れたいというフィンランド人女性の方との出会いがありました。

海外に出荷する商品
さらに、生産者自らが海外に向けて売るには、輸送体制を整えることも重要です。そこで本事業を通して、株式会社上組、ハレノヒ株式会社と提携し、船舶や航空での輸送の効率化を図り、品質管理やコスト削減物流体制の強化・構築に取り組んでいます。特に、輸送に時間のかかる船便において茶葉の品質が劣化しないかどうかは重要な要素であるため、本事業予算を活用し、船便の輸送試験を行った上で、保管状況も提携先の協力を得ながら定期的にチェックしています。

鹿児島オーガニックティー協議会
「顔の見える生産者」として応援してもらう
現地視察で知り合ったニューヨークの日本茶カフェオーナーも、生産者が直接来て急須でお茶を入れると、お客さんにすごく喜ばれて売上にもつながると話していたそう。「顔の見える生産者」とはよく言いますが、作られている背景や環境を知り、生産者と触れ合う機会を持つことで、消費者は安心感や信頼感を持ち、応援したくなる関係性を築くことができます。本事業を通して海外に行き、出会った人々との人脈は今後のビジネスを拡大するにあたって大変貴重なものとなりました。
鹿児島オーガニックティー協議会の今後の展望
「大規模輸出産地モデル形成等支援事業」を活用することで、鹿児島オーガニックティー協議会では、海外需要の高い有機への転換や、海外展示会への参加、輸出における輸送体系の強化などを推し進めてきました。
次年度の輸出に関しては、輸出向けのお茶の栽培面積は1,400a、輸出額は9,000万円を目標にしています。取引価格を上げるために、単価の高い玉露にも注力していく予定。
「協議会の母体をもう少し大きくすることが目標」と話す邉田さんですが、鹿児島のみならず、静岡県などほかの茶産地からの視察も快く受け入れ、いかにして輸出や有機栽培に取り組んできたかの情報を惜しみなく伝えています。本事業で得た学びを他の地域・他の生産者にも知っていただき日本全体の輸出拡大に繋げていこうとしています。