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有機の道を歩んで50年。二代目が地域と共に実践する持続可能な農業経営の姿

sato tomoko

ライター:

有機の道を歩んで50年。二代目が地域と共に実践する持続可能な農業経営の姿

環境負荷低減や農産物の価値向上が期待できる有機農業ですが、その実践と規模拡大は容易ではありません。そうした中、茨城県日立市の樫村ふぁーむでは計6.3ヘクタールの畑で年間約60品目約150品種もの作物を生産し、そのほぼ全量を地域内で直販する経営モデルを確立しています。創業から半世紀、親子二代にわたって有機農業を実践し、経営を発展させてきた樫村智生(かしむら・ともき)さん(35)に話を聞きました。

東京出荷をやめて地域に根差した農業経営へ

樫村ふぁーむは、智生さんの父・健司(けんじ)さんが1975年に創業。日立市最北部の十王町に位置する6.3ヘクタールの畑で農薬や化学肥料を使わずに露地野菜を栽培するほか、11ヘクタールの水田も管理。地域特産のポポーの果樹園も、少しずつ拡大しようとしているところです。

智生さんと父

父・健司さんと智生さん

東京ドーム3個分を超える広大な有機農園の経営を受け継いだのが、5人兄弟の三男である智生さん(35)です。労働力は、営業・販売、直営カフェの運営などを担当する長男の健生(たけお)さん、父、母、智生さんの妻の家族5人。このほか、副業を含む13人のパート従業員が作業に当たっています。
智生さんがこの道に入ったのは17年前。その間、同園はいくつかの転換期を迎えました。そのひとつは、東京への出荷をやめて販路を地元に移したことです。就農当初の主な販路は、東京の有機食材宅配サービス会社との契約栽培でした。しかし、2011年の福島第一原発事故に伴う風評被害で出荷量が制限され、大きな打撃を受けました。その後、従来どおり出荷が再開したものの、今度は輸送コストの上昇という新たな課題に直面したと、智生さんは振り返ります。

智生さんへインタビュー

農園の経営管理を担う智生さん

樫村ふぁーむは周囲の農園と距離があり、集荷トラックのエリア外に位置していました。当初は中間配送所まで往復3時間程度運転して輸送することで対応しましたが、その後、配送経由地が県外に変更され、往復6時間以上の作業負担が発生したと言います。

「無理をしてまで東京へ出荷しなくても良いのではないか」と思ったちょうどその頃、地元スーパーの地場野菜コーナーが拡大。そこに新たな販路を見出し、地域に根ざした農業経営へとかじを切りました。現在の販路は、地元のスーパーや青果店、飲食店などへの地産地消がメインで、加えて野菜セットのネット販売も展開しています。

有機JAS認証を取らない理由と独自の販売戦略

創業以来、農薬や化学肥料を使わずに農産物を手掛けてきた樫村ふぁーむですが、「制度と私たちの中量多品目の生産がマッチしないから」と、あえて有機JAS認証の取得をしていないと語ります。

ジャガイモ畑

ジャガイモの花が咲く畑

かつては認証取得を目指したこともありました。農園の仕事を終え、子どもの世話をしながら、夜中に睡眠時間を削って書類を作成。しかし、有機JAS認証を取得したとすると、作物の規格ごとに出荷量を報告する義務がありました。「うちの野菜には決まった規格がなく、全て直販してるので、規格ごとの記録を付けるのは現実的ではありませんでした」と智生さん。

野菜セット

野菜セットは自社ECで直販

智生さんが有機JAS認証取得を見送った最大の理由は、顧客との信頼関係にありました。「お客さまは有機JAS認証だからではなく、『樫村ふぁーむの野菜だから』と選んでくださいます。この信頼を大事にしていこうと思いました」(智生さん)。認証取得と維持には相応のコストが掛かり、それが価格に反映されれば消費者の負担増にもつながります。
「生産者にも消費者にもメリットが少ないのであれば、無理して取得する必要はありません」。こうした考えのもと、独自の販路を確立していったのです。

スマホ管理でスマート化、従業員の働きがいにも波及

広大な圃場を限られた人数で管理するには、効率的な作業システムと人材の育成が不可欠です。樫村ふぁーむでは、スマート農業の導入と人材の適所配置で持続可能な農業経営を目指しています。

圃場空撮

空から見た樫村ふぁーむ

農作業管理には、農業アプリ「agmiru(アグミル)」を活用し、自らそのアンバサダーを務めています。同時に手書きのノート管理と併用し、過去のデータを活用した収穫予測や作付計画の最適化にも役立てています。
「収穫予定日も計算しやすいので従業員には管理スケジュールを早めに共有でき、圃場(ほじょう)ごとの管理や報告にも役立ちます。また、取引先に対しても記録を取ってデータに残しておくことで信頼度が増します」と智生さん。作業の効率化だけでなく、さまざまな面でメリットがあると語ってくれました。

機械作業

機械作業は計画的に分担

茨城県は人口流出率が高く、同園でも人材確保は喫緊の課題。このため、まずは従業員の定着をはかろうと、働きやすい環境づくりと人材育成を重視しています。
特徴的なのが、農作業を「初心者向け」「経験者向け」「機械運転・操作など」の3段階に分類していること。従業員の得意分野に合わせて、適材適所の作業配置を実現するためです。これにより、農作業の経験がなくとも、機械作業ができる人材が得意領域で活躍。作業は少人数のチームで行い、新人でも無理なく仕事に慣れて経験を積める仕組みを整えています。
2024年からは定期面談やチャットGPTを使用して作った自己評価シートの運用を開始。各従業員のスキルや希望を把握し、成長をサポートする体制を強化しています。家庭や副業と両立しやすいシフト制で、無理なく続けられる環境を作ることで、結果的に長く働いてもらえるという考えの下、人材の確保と育成を両立させています。

地域循環と体験の場作り、より良い形で未来へ渡す

農業経営のあり方として、地域との連携を重視しながら持続可能な農業を目指す樫村ふぁーむ。今後、圃場を更に増やすことも検討しています。
「収量を増やすためではなく畑を休ませるためです」と智生さん。緑肥を積極的に活用する方針を掲げています。緑肥は、すき込むことで連作障害を防ぐほか、雑草防除、景観維持にもなり、限られた人数でも取り組めます。「圃場に余裕を持つことで、より持続可能な栽培体系を作りたい」と智生さんは話します。

子どもたちの体験

有機畑での体験学習や食育活動にも取り組んでいる

長期的な目標として観光農園構想もあります。また、地域の特産品であるポポーは希少なフルーツであり、後継者不足により生産量が減少しています。「ポポーは生で流通させるのが難しい果物なので加工品としてお土産販売することで、新たな価値を生み出したい」と智生さん。農業体験の場作りと地域特産品のブランド化の両方を実現する構えです。
地域循環の仕組み作りにも着手しました。地域事業者から出るコーヒーかすや椎茸の廃菌床、落ち葉、麦芽かすといったものに加え、自社から出る野菜残渣や除草した雑草、もみ殻、ぬかなどを堆肥化し、その堆肥を畑に入れて、できた野菜をまた地域に販売していくというサイクルを作っています。その他、育てた野菜の外皮などを動物園に餌として提供したり、いわゆる規格外の野菜を直営カフェで使用するなど、ロスをなくす取り組みを実践。2023年度のサステナアワードでは環境大臣賞を受賞しました。

サステナアワードで表敬訪問

サステナアワード2023受賞で茨城県知事を表敬訪問

「地域循環を推進し、体験や学びの場として提供することで、未来の農業者やお客さまを育て、農業を次の世代に渡していきたい」と展望を語る智生さん。地域農業の担い手として役割を果たしながら、持続可能な農業のあり方を模索し続けています。

取材協力:株式会社樫村ふぁーむ 

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