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貨客混載の新しい物流モデル! 都市と農村をバスでつなぐ「KOBEべジバス」

湯川真理子

ライター:

貨客混載の新しい物流モデル! 都市と農村をバスでつなぐ「KOBEべジバス」

神戸市西区は、神戸市内で最も農家人口が多い農村地帯である。市街地から30分圏内であるが、小規模農家の多いこの地域から中心地である三宮(さんのみや)まで農産物の配達を行うのは人手の問題もあり、安易ではない。こうした課題の解決を目指して2024年秋に実証実験を開始した「KOBEべジバス」プロジェクトは、新鮮な野菜や果物を神戸市内の消費者に届けるサービスである。その日の朝に収穫したばかりの野菜が、乗客と共にバスに乗ってお昼には神戸の中心地に届けられる。貨客混載という新しい物流モデルである。路線バスを活用するため新たなCO2を排出しない利点もある。プロジェクトの中心となっているのが、都市型菜園と食農体験を中心に事業展開している「そらばたけ」の倉内敏章(くらうち・としあき)さんだ。彼は東洋ナッツの社員で副業として「そらばたけ」を運営している。2025年4月22日から本格スタートする「KOBEべジバス」への思いと、将来の展望を伺った。

コロナ禍で子どもと一緒に農業体験をしたのがきっかけで開始した副業

「KOBEべジバス」の運行に尽力している倉内敏章さん

神戸市内で「そらばたけ」を運営している倉内さんは、世界の木の実の製造販売を行なっている「東洋ナッツ食品株式会社」(神戸市東灘区)の社員である。研究開発室で累計6年半ナッツやドライフルーツ等の開発を担当し、その後、商品開発、広報などの幅広い業務に携わってきた。自身の提案で会社に副業制度を作ってもらい、2022年に都市型菜園やビルの屋上の菜園を始め、都市の人に食農体験をしてもらう企画などを提案する農業を軸にした「そらばたけ」を運営している。そもそも副業を始めようと思ったきっかけは何だったのだろうか。

「きっかけはコロナ禍です。一番、規制が厳しかったときは仕事がオンラインになり、保育園も閉鎖状態。外に出ることもはばかられるような状況で、エネルギーがあり余ってるわけですよ。そんな息子を見て可哀そうだなって思って、家の近くの市民菜園を借りたんです。僕もそこでパソコン仕事をしながら子どもと一緒に青空の下で菜園を始めたんです。すると、子どもは自然の中で勝手に遊びだしたんです。外なのでマスクもいらないし、のびのびした時間でした。自分で育てて収穫した野菜はおいしく食べてくれるんです。今思い出してもめっちゃ豊やって思います」

青空の下で仕事をしたときは幸せだったという倉内さん。その時の感動は倉内さんの気持ちを大きく揺り動かした。「もっと、みんなでこういった体験をした方が良いと思って、まず『神戸農村スタートアップ』に参加しました」

「神戸農村スタートアップ」とは、神戸市の農村地域(北区・西区)での起業や事業づくりに特化した、創業支援プログラムである。そこで学んだ経験を生かし、倉内さんは2022年に都市型菜園事業「そらばたけ」を立ち上げた。屋上や駐車場の隅など空いている土地に菜園を設置することに取り組み、食育イベントや野菜収穫ワークショップなどを通じて農業を生活の一部として感じてもらえるような事業である。

「神戸農村スタートアップ」の同期で農家カフェをしようと勉強していた稲垣将幸(いながき・まさゆき)さんこと通称・クリスさんとの出会いが、今回の「KOBEべジバス」への取り組みにつながった。

農家カフェ「C-farm cafe」を経営しながら農業を営んでいるクリスさん

クリスさんは、神戸市西区で農家カフェ「C-farm cafe」を経営しながら農業を営んでいる。日本人の父と、メキシコ人の母を持ち、誰もが親しみを込めて”クリス”と呼んでいる。農家になる前は独立リーグのプロ野球チームの選手だったクリスさんは、引退後にビジネスチャンスを感じた農業で起業すると決めたという。

「農家のクリスさんが居ないと、『KOBEべジバス』は成立しないんです」と倉内さんはいう。

兵庫県姫路市に本社を置く「神姫バス株式会社」の路線バスは地域の足として重要な役割を担っているが、赤字路線を抱えており、貨客混載を通じて路線バス網の維持や地域の結び付きを強化したいと考えていた。
最初は、神姫バスからクリスさんの所へ話が持ち掛けられた。しかし、農家だけで取り組むには困難なことがあった。

赤字路線のバスを有効利用!2025年4月22日から本格スタートする「KOBEべジバス」

「野菜積み込む人間が居ても、バスが都市部に着いたときに野菜を取り出す人間が必要です。クリスさんは農村側で野菜を積み込むまではできますが、一緒にバスに乗って三宮まで行くとなると、バスに野菜を乗せて運ぶ意味がないし、それならクリスさんが自分の軽トラで運んだ方が早いです。この仕組みを運営していくにはどうしても街側の人間が必要でした」

「そらばたけ」で都市型菜園をしていた倉内さんは、正に適任者だった。こうして、神戸市の農村部である西区で農家をしているクリスさんと神戸市の中心地、三宮で都市型菜園をしている倉内さんが協力し合うことになった。生産と荷物の積み込みはクリスさんが担い、都心部で荷物の卸しを担当し、加えて都心部の情報やマーケティングにも精通した倉内さんとの強力タッグが誕生した。

2人が中心となり、生産体制を整えて2024年秋に実証実験を開始。運行ルートは神戸市西区の神姫バス車庫から神戸市中央区の三宮バス停留所(阪神三宮東口BS)までである。積み込む野菜は、神戸市西区で収穫されたばかりの新鮮な化学肥料を使用していない有機の野菜。販売方法は予約販売とし、神姫バス三ノ宮東のりばツアー待合所で商品を渡すという仕組みである。

「KOBEべジバス」アイコン

実証実験では、どんな野菜が受け入れられやすいかなどの検討を重ね、2025年4月22日から本格スタートとなった。商品を受け渡す場所は、神姫バス三ノ宮東のりばツアー待合所に加え、三宮の子育て施設「PORTO」と元町の「KOBE English Academy」の3カ所に増えた。隔週に配達される野菜は10種類の季節の野菜のセットである。価格は2500円(税込み・送料込み)。決済は先に済ませるシステムで完全予約制である。野菜が無駄になることもない。今のところは15セット限定だそうだ。

「将来的には『KOBEべジバス』を通じて、神戸市西区の野菜を食べる方が増えて、農家のファンになって下さったら良いなと思っています。農家のファンになってもらえば、野菜を購入して下さった街の人たちを神姫バスに乗せて西区の農家の所へ収穫体験とかをしに連れて行こうと思っています。都市と農村で人とモノの交流が広がると良いなと思っています。野菜が来た道と逆で都市部から農村部に人を届けたいですね。僕らのモデルをどんどん真似してもらいたいです」と倉内さん。

持続可能な脱炭素流通システム「KOBEベジバス」は、野菜を届けるだけでなく、農村部と都心部の人と人もつなぐ可能性を秘めており、今後の広がりが大いに期待される。

写真提供:倉内敏章さん

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