大学時代に小学校が廃校に!農業でふるさとを活性化したい
森畠さんの実家は、祖父と父親が兼業農家として田んぼで米を栽培していた。
「高校まで能勢で過ごしたんですが、当時は周りの農家のほとんどが兼業農家で、私の知る限りでは30代、40代で農業をしている人は少なかったです」。森畠さんが、農家になろうと考えたのは大学3年生のときだった。
「就職活動を始めた大学3年生のときに、私が通っていた小学校が廃校になったんです。どんどん人が減っている能勢を何とかしたい。どうせなら地元に貢献できることをやってみたい、それなら農業だって思ったんです。でもいきなり農家になるのは冒険し過ぎかなと。卒業後は、名古屋で果物を扱う仲卸業者に就職しました。そこでは国産メロンの販売、営業担当でした」
25歳くらいで地元に戻って農家になろうと考えていた森畠さんだったが、会社では規模の大きい農家との取引を担当していた。
「規模が大きくてもあまりもうかっている印象を受けなかったんです。それに比べたら能勢はかなり小規模ですし、能勢に戻って農業をするのは無謀に思えて、なかなか農家になる決心がつきませんでした。そのため、能勢に戻ってからも商社に勤めていました」と森畠さんは当時を振り返る。
しかし、森畠さんが能勢を離れていた10年ほどの間に、他府県から新規就農する農家も増えており、30代、40代の若い農家も居た。森畠さんは、知人に野菜セットを定期宅配をメインにいろんな加工もしている「べじたぶるぱーく」を紹介された。夫婦で能勢に移住し、農業を始めた新規就農者だ。
森畠さんは2020年5月、この「べじたぶるぱーく」で2年間研修し、農業や販売方法などを学んだ。2年後の2022年5月に独立し「森畠農園」を開いた。現在の経営面積は米3反、畑9反、栗2反で、畑では露地とハウスの両方で年間40種類くらいの野菜を栽培している。主な販売先は野菜セットを個人宅に販売している会社である。
店に並ぶ野菜は他県のものが多い!生産者の作物をまとめて販売することで安定した供給
販路を広げるために小売店への営業をしたり、野菜の配達をするたびに森畠さんが感じたのは、1人の生産量では足りない野菜も出てくるため安定した供給が難しいことだった。栽培の効率の関係から森畠さんは根菜類は栽培しておらず、端境期もあり、出荷できないときもある。
「店には九州から仕入れている野菜とかが多くて、せっかく地元の野菜があるのにもったいないなと思っていました」
そこで、小規模農家が多い能勢でもまとまって販売できれば安定した供給が可能になるのではないか。販路も広げることができるのではないかと考えたのだ。
「地元の生産者の作物をまとめて販売すれば、安定した供給ができ、販路を広げることができます。仲卸のときのキャリアも生かせるんじゃないかと思いました」
能勢は有機農家が多い。特産品がほとんどないので品目を絞って栽培している農家が多く、ニンジンがメインの人、トマトがメインの人、葉物野菜がメインの人など、それぞれに品目を絞って栽培している農家が多い。
森畠さんは、生産効率面からニンジンやサツマイモ等の根菜類は栽培していないが、近隣農家には根菜類に力を入れている農家もある。自分が栽培していないものを仕入れることができれば多くの品種をそろえることができ、農家にとっても生産を分業できるため生産効率が上がる。森畠さんは、地域の農家がどんな野菜を栽培しているのかをほとんど把握している。農家側の気持ちと前職の経験から販売先の気持ちも理解でき、仕入れから販売までをすることも可能だ。
「まとまって販売できれば、新な販路を探して広げられるので能勢全体も盛り上がると思ったんです」
こうして根菜類を2人の農家から仕入れ、小売店に販売する農家発信の物流システムを2023年の1月にスタートさせた。販売先は森畠さんが開拓した能勢から比較的近い、大阪府箕面(みのお)市、吹田(すいた)市の有機野菜を取り扱っている店だ。現在、6、7店舗と取引している。3月中旬くらいから4月の端境期以外は、安定して供給できているという。
まだ始まったばかりではあるが、やったかいはあると森畠さんは言う。今後は利益率を上げていくため、大阪市内の飲食店などに販路を広げていこうと考えているそうだ。飲食店へは森畠さんが農産物をまとめて配達するのではなく、宅配便で配送できるようにしていきたいという。

近隣農家の農産物を集約
「近隣農家のモノを集めることができるのが強みです。せっかく大阪で農業をしているので、飲食店の多い大阪市内に販路を広げて都市型農業の強みを生かしたいと思っています。細かい取引のやり取りをするのは得意ではない農家が多いですが、私はむしろ得意なんで、草刈りより楽しいです。まだまだ能勢にはいろんな可能性があると思っています」
地元に貢献できることをしてみたい、”それなら農業だ”と思った大学生のときの気持ちは今も変わりはない。仲卸の会社で培った物流と営業の知識を生かし、農家だからこそできる物流の取り組みがどのように発展していくのか今後が楽しみである。