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農家がロボを自作・開発・製品化。趣味から生まれた使える小型選別機で起業

sato tomoko

ライター:

農家がロボを自作・開発・製品化。趣味から生まれた使える小型選別機で起業

計量皿に置いた作物を1個1秒で自動選別。小さな選別機が話題を呼んでいます。開発したのは、埼玉県川越市で農業を営む塩川武彦(しおかわ・たけひこ)さん(50)。趣味で培ったラジコンとプログラミングの知識を生かし、畑仕事の合間にコツコツと開発を続けて8年。ついに「ロボせんか®」を製品化しました。農家が自分で作って使って、現場の声を聞きながら改良を重ねてきたロボ開発の道のりをたどります。

ロボ開発のきっかけは母の一言

「ロボせんか®」は、引き出しに収まるほどコンパクトな選別機。2024年の「農業Week」に初出展して注目を集めました。

開発者の塩川武彦さんは川越市で代々続く農家の4代目。農業高校卒業後に就農して32年のベテランです。生産品目は、ホウレンソウを2月から4月まで、チンゲンサイを5月から11月まで、サトイモを正月食材として12月に集中して出荷しています。そのサトイモの選別がロボ開発のきっかけになりました。

「ロボせんか®」を開発した露地野菜農家の塩川武彦さん( 株式会社イモテック代表取締役)

「良品を目視で仕分け、さらに1個ずつ重さを量って4つの規格に分けます。判断に悩むこともあり、母親がいつも『選別は頭が痛い』とこぼしていたので、選別機を自作しようと思いました」と塩川さんは話します。ひらめいたのは、量りに置いたサトイモを規格別のコンテナに自動で落とすというシンプルなアイデアでした。

「趣味のラジコンのサーボモーター(回転の位置や速度を制御する装置)を定期的に交換するので、使わなくなったものを何かに活用したいと考えていたところでした」と塩川さん。

8年前、選別機の開発に着手。キッチンスケールなどにも使われているロードセルという部品で重量を読み取り、計量皿が回転しながら該当位置で傾く動作をプログラミングしました。

「初号機は割と簡単にできたんですよ」と塩川さん。5機ほど自作して農家の仲間にも使ってもらうと想像以上に大好評。「先輩、後輩、同級生、その家族まで、みんなにこれほど感謝されるなら、もっと多くの人に届けるべき」と製品化を決意したのです。

持ち運びできる選果・選別機。高さも変えることができる

回転・傾斜動作にこだわり特許出願

それでも、製品化は一筋縄ではいきませんでした。最大の課題は、計量皿を回転させながら傾け、農作物を所定の位置に落とす動作の精度をいかに高めるか。追求したのは計量皿から作物を落とす無駄のない動作です。

重量の規格に応じて選別。規格はユーザー側で4段階の設定ができプラス最大・最小の2規格が選別できる

塩川さんは、「物理や数学はあまり詳しくないので、プログラムを何回も書き直して、実際に試しての繰り返しでした」と話します。

ロボの動きを一瞬止めた時に、作物がコロッと落ちるように、自由落下速度とサーボモーターの動作速度、停止時間とニュートラルの位置に戻るまでの時間を地道に調整。さらに計量皿の傾斜角も計算し、「横方向と縦方向の動きの時差の設定を最適化し、斜め48度の位置に落とす」設定にたどり着きました。

開発に勤しむ塩川さん

次なる課題は、計量皿の形状です。当初はアクリル板にウレタンを貼ったものでしたが、製作に手間が掛かり量産には不向きでした。見た目もよくありません。塩川さんは、埼玉県のロボット開発支援補助金の採択を受けて高速な3Dプリンタを導入しました。

計量皿は中央から外側へ15度の傾斜を設け、アバウトに作物を置いても収まり良く仕上がりました。さらに、トウモロコシやニンジンなどの長物も収まりやすいように、皿の4辺はV字ラインに設計。回転の後半に軽く速度を上げることで、遠心力で土も掃けるように工夫を持たせています。

省電力も実現。モバイルバッテリー使用時のフル充電の電気代は1.3円で丸2日間、総重量2トンが選別できる

選別は判断の連続、生産者の共感を呼ぶ

2024年、塩川さんと「ロボせんか®」の快進撃が幕を開けます。

6月に地域経済の活性化と起業家の育成を目的としたビジネスコンテスト「第2回埼玉ニュービジネス大賞」で大賞を受賞。これを機に7月、農業用ロボットの開発・販売を手掛ける株式会社イモテックを設立しました。

10月には、国内最大級の農業関連展示会「農業Week」に初出展。軽量・小型でありながら1個1秒で正確に選果するロボの実演は大きな注目を集めました。

「作業効率の向上はもちろん、神経疲労の軽減にも焦点を当てています。選別作業は判断の連続です。重さを見極めて、微妙な差で迷う、生産とは関係ないところで疲れが溜まります。そこを自動化できれば、次の日も元気に畑に立てるはず」。

塩川さんが語る神経疲労の軽減は数値化できないものの、選別に掛かる時間は従来の約半分に短縮されました。

計量皿に載せるだけで、規格別に4方向のコンテナに落としてくれる

「農業Week」での商談をきっかけに、「ロボせんか®」は北海道から九州まで各地の生産者の元へと広がりました。ジャガイモ、ピーマンなど作物はさまざま。 さらに、鮮魚、カキ、ナマコ、乾燥ホタテなど水産バージョンも開発し、稼働し始めています。
2025年2月には、「日本農業新聞社2024年営農技術アイデア大賞」を受賞。農業の 現場から生まれた「ロボせんか®」はますます注目を集めています。

ラジコン少年から三刀流の農家へ

初号機の製作から7年。「ロボせんか®」は、計量皿の試作は70回近く、ソフトウェアの更新は1000回以上を重ねて進化を続けています。

最新のバージョン3には、使い勝手を大きく向上させる新機能が付きました。そのひとつが、カウンター機能です。選別された作物の重量を積算し、5kgや10kgなどの設定値に達すると3秒間静止して知らせます。加えて、個数カウント機能も完成しました。

現場に寄り添った機能が詰まった「ロボせんか®」が、いよいよ2025年5月、正式販売を迎えます。予定販売価格は税別8万円以下と、個人農家や新規就農者が導入しやすく設定しました。農業Weekを通じて販売代理店との契約も成立し、日本各地の農家の元へ本格的に羽ばたこうとしています。

「自分で書いたプログラムが、日本全国で動くと思うと面白いですね」と目を輝かせて語る塩川さんは、かつてのラジコン少年。大人になってからはラジコン飛行機に熱中し、今では農業用ドローンで散布の請負もこなす多才な農家です。しかも、行きつけのラジコンショップの縁で、地元企業・三共木工株式会社のドローン開発事業にも参画しているというから驚きです。

DEARISEの農業用ドローンのテクニカルディレクターも務める

とはいえ、あくまでも本業は農家。畑仕事が終わった後に、作業場でロボットを製作。組み立ては1人のサポートを得ていますが、設計・開発・運営まで基本的には全て1人でこなしています。

「これからは、ロボせんかやドローンを活用できる作物も増やしたいですね」と塩川さん。農業、ロボット、ドローンの三刀流。現場目線の農家兼アントレプレナーのこれからにも注目です。

【取材協力】株式会社イモテック

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