京野菜の定義や特徴とは?
京野菜とは、京都府で生産されている野菜全般を指しますが、その中でも、伝統的な特産品を「京の伝統野菜」として、下記の定義が1958年3月に京都府により定められました。
1.明治以前に導入されたもの
2.京都府全域が対象
3.タケノコを含む
4.キノコ、シダを除く
5.栽培または保存されているもの及び絶滅した品目を含む
これらの定義に当てはまる「京の伝統野菜」は、現存するものが35品目、絶滅したものが2品目の合計37品目があります。これらとは別に、京野菜としては比較的新しく導入された「京の伝統野菜に準じるもの」が3品目あります。
京野菜は何種類?
京野菜及び京都産の農林水産物の中で、優れた品質が保証され、安心・安全と環境に配慮した生産方法(京都こだわり生産認証システム)に取り組んでいるものを「京のブランド産品」として、公益社団法人京のふるさと産品協会が認証しています。
現在は31品目が認定され、そのうち京野菜は23品目。さらに、その中の13品目が「京の伝統野菜」または「京の伝統野菜に準じるもの」です。
京の伝統野菜と京のブランド産品 | |
京の伝統野菜 | 京のブランド産品 |
現存するもの(35品目) | そのうち京野菜(23品目) |
聖護院だいこん 聖護院かぶ みず菜(京みず菜) 壬生菜(京みぶ菜) 賀茂なす 山科なす 鹿ヶ谷かぼちゃ えびいも 堀川ごぼう九条ねぎ くわい 京たけのこ | |
辛味だいこん 青味だいこん 時無だいこん 桃山だいこん 茎だいこん 佐波賀だいこん 松ヶ崎浮菜かぶ 佐波賀かぶ 大内かぶ すぐき菜 舞鶴かぶ 鶯菜 畑菜 もぎなす 伏見どうがらし 田中とうがらし 桂うり 聖護院きゅうり 京うど柊野ささげ 京みょうが 京ぜり じゅんさい |
京夏ずきん 紫ずきん 京こかぶ やまのいも 金時にんじん 丹波くり 京丹波大黒本しめじ 京都府産丹波大納言小豆 京都府産黒大豆新丹波黒 |
絶滅したもの(2品目) | |
郡だいこん 東寺かぶ | |
伝統野菜に準じる野菜(3品目) | |
鷹ケ峯とうがらし | |
花菜 万願寺甘とう(万願寺とうがらし) |
京野菜の代表的な種類とは?
京野菜の中でも、広く知られ親しまれている代表的な品目を中心に、その特徴や魅力を分かかりやすく紹介します。
水菜(京みず菜)
「京みず菜」または「千筋京みず菜」とも呼ばれる水菜は、葉が多く、細くしなやかな葉柄と白と緑の鮮やかなコントラストが特徴の京野菜です。もともとは初秋に種をまき、冬に収穫する野菜で、1株が3〜4kgにもなる大株に育てられてきました。こうした大株は煮物や漬け物などに使われ、特に鯨肉と合わせた「ハリハリ鍋」は代表的な食べ方として知られています。近年では、小ぶりの若株を年間を通じて栽培することも一般的になり、煮物や鍋料理だけでなく、浅漬け、お浸し、更にはサラダの具材としても広く親しまれています。
壬生菜(みぶな)
壬生菜(みぶな)は、水菜の一変種とされ、1800年ごろに京都・壬生(みぶ)周辺で自然交雑によって生まれたと伝えられています。葉先はヘラのように丸みを帯び、水菜よりも柔らかく、ほんのりとしたほろ苦い香りが特徴です。もともとは冬に大株で収穫され、漬け物の材料として親しまれてきました。中でも、京漬物の代表格「千枚漬け」に添えるのが古くからの習わしです。近年では、小さな若株が一年を通して出荷されるようになり、浅漬けやサラダなど幅広い料理に活用されています。旬は12月から翌年3月ごろまでです。
賀茂(かも)なす
賀茂なすは、京都・上賀茂地域で代々受け継がれてきた、大型で丸い形が特徴のナスです。直径は12〜15cmほどにもなり、黒に近い濃い紫色の美しさから「ナスの女王」とも称されています。皮は柔らかく、果肉はしっかり締まっていて、特に油との相性が抜群。加熱するととろりとした食感になり、煮崩れしにくいため、煮物や田楽、揚げ出しなどに重宝されています。また、京漬物の代表格「しば漬け」にも用いられています。出回るのは5月下旬から9月下旬に掛けてで、盛夏の祇園祭のころに最盛期を迎えます。
京山科(きょうやましな)なす
京山科なすは、ふっくらとした卵形が特徴のナスで、現在の京都市山科区を中心に栽培されてきました。果肉は緻密で柔らかく、水分をたっぷり含んでいるのが特長です。皮は非常に薄くて柔らかく、漬け物や煮物、焼き物にしても絶品の味わいを楽しめます。ただし、その繊細さゆえに劣化が早く、購入後はできるだけ早く調理するのが理想です。市場には6月上旬から9月に掛けて出回り、紫色が濃く、艶と光沢のあるもの、そしてガクが張っているものが新鮮な証しとされています。
鹿ヶ谷(ししがたに)かぼちゃ(ししがたにかぼちゃ)
鹿ヶ谷かぼちゃは、ひょうたんのようなユニークな形をした京野菜で、その姿は一目で記憶に残ります。江戸時代、東北から持ち帰られた種が、京都・大文字山の西麓にある鹿ヶ谷地区で栽培されたことからその名が付きました。突然変異により現在のような形になったといわれています。高さは20cm以上、重さは3〜4kgにもなる大型で、粘質の果肉は煮崩れしにくく、煮物や天ぷらに適しています。種は全体に分布しているのではなく、膨らみのある下部にまとまっているのも特徴のひとつです。
九条ねぎ
京都で「ねぎ」といえば、まず思い浮かぶのが九条ねぎ。京都・九条周辺で栽培されていたことに由来し、古くから親しまれてきた伝統野菜のひとつです。葉の内側にはぬめりが多く、柔らかくて甘みがあり、緑の葉から白い根元まで余すところなく味わえるのが特徴です。伝統的な栽培法では、種まきから収穫までに1年以上掛けてじっくり育てるため、太く長く育った葉は特に風味豊かになります。近年では薬味としての需要も高まり、細めの葉の段階で出荷される栽培法も広まっています。霜に当たった11月から翌2月ごろに掛けてが、最も甘みと香りが際立つ旬の時期です。
伏見とうがらし
伏見とうがらしは、京都市伏見区周辺で古くから栽培されてきた在来種で、現在、京都で最も多く栽培されているトウガラシ品種です。辛みのない「甘とうがらし」に分類され、別名「ヒモトウ」とも呼ばれるように、細長く、20cmほどまで大きく育つものもあります。煮物や焼き物、天ぷらなど、さまざまな料理に使われる他、熟して赤く色付いた実は、料理の彩りとしても重宝されます。また、実だけでなく葉も食用とされ、佃煮に加工されたものは「きごしょう」とよばれ、京都の食文化を支える一品として親しまれています。
聖護院だいこん
聖護院だいこんは、もともと尾張の国から京都に奉納されたダイコンが、京都市左京区・聖護院地区で栽培されるうちに、次第に丸い形へと変化したといわれています。丸くてずっしりとした姿が特徴で、肉質は緻密で甘みがあり、煮崩れしにくいため、煮物に最適です。皮をやや厚めにむくことで、より甘みが引き立ちます。一方で水分が多いため、大根おろしにはあまり向いていません。旬は11月中旬から翌年1月中旬ごろまでで、冬の京料理には欠かせない存在です。
聖護院かぶ
聖護院かぶは、直径15〜20cm、重さは1.5kgから大きいものでは5kg近くにもなる、国内最大級のかぶです。享保年間、近江かぶの種子が京都・聖護院地区に持ち帰られ、栽培と改良が重ねられた結果、きめ細かく滑らかな肉質を持つ大かぶが誕生しました。煮崩れしにくいため、煮物や蒸し物に最適で、京都の冬の味覚「かぶら蒸し」や、名産の千枚漬けにも欠かせない存在です。調理の際は、思い切って皮を厚めにむき、面取りをすることで、より美しく仕上がります。
万願寺とうがらし
万願寺とうがらしは、「京の伝統野菜に準じるもの」に分類される、京都を代表する夏野菜のひとつです。全長15cmほどと大ぶりながら、肉厚で柔らかく、甘みのあるトウガラシで、種が少ないため食べやすく、多くの人に親しまれています。基本的には辛みのない「甘とうがらし」ですが、まれに辛いものが混じることがあり、辛さを避けたい場合は白いワタを取り除くのがおすすめです。旬は6月中旬から8月中旬に掛けてで、夏の京料理には欠かせない存在です。
堀川ごぼう
堀川ごぼうは、長さ約50cm、直径6〜9cm、重さは1kg前後にもなる極太のごぼうです。1年以上の歳月と手間を掛けて育てられる、京都ならではの特別な伝統野菜です。肉質は柔らかく、中心には空洞があり、味が染み込みやすいのが特徴。そのため、煮物としてそのまま使う他、すり身やひき肉を詰めて煮込むのが一般的な調理法です。下ごしらえには、お湯に米ぬかを加えて半日ほど下茹でし、竹串がすっと通る程度まで柔らかくするのがポイント。ぬかの臭いを取るために、その後数時間水にさらすと、よりおいしく仕上がります。
京たけのこ
京たけのこは、中国から伝わった孟宗竹を、京都・長岡京市の寂照院に植えたのがはじまりとされています。圃(ほ)場には稲わらを敷き、その上から土をかぶせる「土入れ」とよばれる独特の手法で栽培され、白くて柔らかく、えぐみが少ないのが特徴です。その上品な風味と色合いを生かして、吸い物や木の芽和え、煮物、天ぷら、たけのこご飯など、さまざまな料理に使われています。特に鮮度の高いものは、短時間の調理で薄味に仕上げることで、香りと食感をより楽しめます。旬は3月下旬から5月上旬で、春の味覚として親しまれています。
京野菜の歴史と成り立ち
菜食が中心だった京都
京都は内陸に位置し、海から遠いため、かつては海産物の入手が難しく、野菜中心の食生活が営まれてきました。千年以上にわたり都として栄えたこの地には、全国各地から献上品としてさまざまな野菜が集まり、それらが京都特有の気候や風土、肥沃(ひよく)な土壌、豊かな水に恵まれて育まれました。さらに、農家の手によって丹念に改良が重ねられたことで、個性豊かな「京野菜」が誕生したのです。中には、数百年にわたり同じ土地で栽培が続けられている品目もあり、今もなお、地域の歴史や文化を色濃く伝える存在となっています。
京野菜の機能性
近年の研究により、京野菜には一般的な野菜にはあまり見られない、独特の味わいや香り、美しい彩りに加え、健康に役立つ機能性成分が豊富に含まれていることが明らかになってきました。こうした機能性には、抗酸化作用(活性酸素の除去)をはじめ、発がんリスクの抑制や低カロリー性などがあり、健康志向の高まりと共に注目が集まっています。
特に注目されているのが、ORAC値(オラック値)です。これは食品に含まれる抗酸化物質の力を数値化した指標で、京野菜は同じ品目の一般的な野菜に比べてORAC値が高いことが確認されています。
京のブランド産品としての野菜
京野菜の中には、「京の伝統野菜」の一部を含む「京のブランド産品」として認証されているものがあります。これは、公益社団法人京のふるさと産品協会によって認証される制度で、平成元年(1989年)に、水菜・賀茂なす・伏見とうがらし・万願寺とうがらし・えびいも・京都府産丹波大納言小豆・京都府産黒大豆新丹波黒の7品目から始まりました。2025年3月時点では、認定品目は31品目にまで増えています。
京のブランド産品に認定されるには、「京都こだわり生産認証システム」に基づき、安心・安全で環境に配慮した方法で生産されていることが条件です。また、出荷単位として適切な量を確保し、品質や規格の統一、生産地の厳選も求められます。認証された品目には、消費者に向けて「京マーク」というブランドマークが貼られて流通しています。
京のブランド産品の認証基準
京のブランド産品の認証基準は以下のとおりです。
1.イメージが京都らしい
2.1.以外のもので販売拡大を図る必要がある
3.次の要件を備えている
・出荷単位としての適正な量を確保
・品質・規格を統一
・他産地に対する優位性・独自性の要素がある
また、「京都こだわり生産認証システム」の特徴は以下のとおりです。
・農薬・化学肥料の使用を減らした環境に優しい農法(京都こだわり栽培指針)
・認証検査員による栽培状況と記帳のチェックを実施
・情報の開示により生産者の顔が見える農産物
このような過程を経て認証された京のブランド産品は、京都府内だけでなく全国で販売されています。
京野菜提供店の認定
京のふるさと産品協会では、京野菜がいつでも食べられるお店も認定しています。この店舗の認定事業は1997年に始まり、和食の店舗に限らず、フレンチ、イタリアンとさまざまなジャンルの料理店が対象とされています。
認定要件の概略は、以下のとおりです。
1.協会が指定する旬の京野菜を常時使用し、それらを使用する料理を3品以上提供する
2.上記京野菜について、市場、その他産地直送または自家栽培による確実な仕入れルートを有する
3.京野菜のイメージアップを図ることができる
4.業種別の生活衛生同業組合等に加入し、食品衛生の向上に努めている
2024年7月時点で京都府内170店、東京都特別区内で60店が認定されています。
知って味わう京野菜の魅力
京野菜は、京都の気候や風土、そして食文化と共に育まれてきた、伝統と魅力にあふれる野菜です。味や香り、彩りだけでなく、抗酸化性をはじめとした機能性の高さも近年注目され、現代の食卓にも多彩に取り入れられています。
京野菜の価値を支えているのが、京都府や市町村などが運営する公益社団法人京のふるさと産品協会の取り組みです。PRや生産者支援を通じ、「京のブランド産品」認定で京野菜の魅力を全国に発信しています。
ストーリー性や文化的背景を大切にし、検査体制やブランド戦略に一貫性をもって展開されてきたことが、京野菜の魅力をより確かなものにしています。長い歴史と豊かな背景を持つ京野菜。ぜひ一度ご自身で調理し、そのおいしさと深みを味わってみてください。